決意の物語6
「なぁ、智気、大智。お前ら今日の道徳どうやった?」
席につくや否やそいつら、智気と大智に質問する。
「どうやった。って、感想を聞きたいのかお前は。」
智気は絶対分かってる癖にわざわざ俺に確認を取る。
「そうそう。お前分かってて聞いたろ。」
「まぁまぁ、そう言うなって。それで?何の為にわざわざ俺達に聞きに来たわけ?」
「あんま、いじらずに答えてやろうぜ。智気。」
智気が俺の真意を聞きただそうとしたところで大智のストップが入った。智気はつまらなそうな顔をしたが大智は素直に感想を述べ始める。
「僕は授業中に禎流が言ってたような感じだ。悪い奴に悪いと言う事自体は正しいと思う。でも悪いと言う事をエスカレートさせてそれを悪口にしたら駄目だと思う。」
すると笑いながら智気が
「何を言ってんだお前。ちゃんと文を読んでみろ。どこにも悪口を言ったなんて書いてねぇよ。」
「うん。書いてないけど、自殺するくらいだったんだから、ただ悪いって言っただけじゃなく、エスカレートして悪口を言い始めたんじゃないかなって読み取ったんだ。」
大智はきっといい文豪になりそうだ。成る程そんな読み取り方があったのか。
「だから、僕としては悪いと言うまでなら正しいことだけどこの後のことをちゃんと責任を持って考えた上でやっていかないといけない。そういう風に考えたよ。共感できるかって言われると、半分はできて半分はできない。ってことになるね。あと、悪いことをした人をそのまま悪い扱いするんじゃなくてその人が反省したのなら仲間として彼らを支えていく必要もあるんだと思った。」
想像以上の答えだった。俺と同様に智気も驚いた様子だ。
「それで、智気はどうなんだ?」
智気は大智の感想を越えれる気がしないのかウジウジしながら答えて始める。
「言っとくけど俺の感想はあくまで教科書に書いてあったことをそのまま読み取ってるからな。書いてないことを独自に解釈してるわけじゃないから反論する場合はそこんとこ履き違えんなよ。」
必死に大智の感想に負けないように前置きで自分の意見に正当性をもたせてやがる。
「中立の俺から言わせてもらうとあの状況下で悪いのはあの3人の方だ。何故か。理由は至極単純。比率だな。3人で1人をいじめた場合1人あたりの比率はおよそ0.34だな。そして作中のクラス全員はイラストの人数を数えたところ30人。すると30人で3人をいじめたことになるから1人あたりの比率は0.3。したがってどちらがいじめた人数が多いかとなると不等号は3人の方に開く。また、いじめた数が多いと言う事は常識的に考えて悪い事だとすることができる。よって今回は悪いのは3人で1人をいじめた方である。Q.E.D」
こいつはきっと数学博士になるだろう。小学生が理解できるわけないことを坦々と得意気に述べてやがる。しかし俺には分かることが1つだけある。
「お前何を証明してんだ?俺は何も命題なんて出してねぇぞ。俺は感想が聞きたいんだ。」
そう。最後のQ.E.Dは証明終了を意味する言葉だ。てっきりクラス内では俺しか知らないと思ってたのだが知ってるやつがいたとは。
「お前なんで言葉の意味分かってんだよ!」
智気も俺と同じことを思ってたらしい。因みに俺は図書館で何かの数学の本を読んでたら出てきて、カッコ良かったから覚えたわけだが、
「てっきりパソコン持ってる俺だけが知ってる言葉かなって思ってたけど意外と禎流も物知りなんだな。」
この、糞マウント野郎め。本来なら俺が自慢できるところを糞マウントで自慢できなくしてやがる。
「お前達さっきから何を話てんだよ。分かるように説明してくれ。」
大智はかなり悲しくなったのかどうしても話しの輪に入りたいらしい。
「まぁ、俺の話が理解できないのは無理もない。ただ3人で1人をいじめたら1人あたり約0.34人いじめてて、それが全員で3人をいじめるのより多いから3人で1人をいじめた方が悪いってことを言いたかったんだ。」
大智はいまいち納得出来てない様子。俺も最初の説明だと理解できないか今のなら少しは分かった。でも俺が聞きたいのはこの先。
「お前の説明は感覚的に分かるやつにしか分からないから置いとくとして結局お前は共感することはできるのか?」
「共感か。うん。全体的にできるな。てか、中立の立場で考えるならどちらかの立場片方のみ共感できるってのは変だと思うから全体的にできるか、できないかで考えるしかないんだけどな。」
「お前もしぐれと同じなのか。」
「あいつもか。まぁ、考えれば当然の結果か。あいつなら全部共感しそうだもんな。俺の理由としてはどちらも理由がちゃんとしていたし人間としてこうなっちゃうのは仕方ないことだから共感できるってわけだ。」
大智は困ったような顔をして
「人間として仕方がないことっていうなら、人をいじめるのは人間が本来とる行動だって言いたいのか。お前は。」
と問いかける。確かに、智気の言ってることが本当ならいじめは人間の本能と言っているようなものだ。
「そんな考え方もあるってことだ、大智。いじめであってもそれはいじめてる側にとっては自己防衛みたいなもんだからな。」
大智が遂に本気で混乱し始めた。
「いじめが自己防衛?」
それは確かに。いじめって自分を守るというより他人を攻撃してるから防衛よりは攻撃だよな?
「そう思うのも仕方ない。そもそもいじめって人の負の感情がもたらすものだろ。でもさ、人が負の感情を抱くのって仕方無いことなんだ。人間は日頃ストレスを抱えて生きている。ストレスってのは人間を死に至らせるぐらいヤバいやつなんだぜ。それを発散する為にいじめを起こすんだ。これって言い方を変えればストレスを発散して生きようとしている意思表示にならないか?」
確かにその通りだ。しかし智気の言っていることは無理矢理いじめを美化しているだけなんじゃないだろうか。その疑問を俺は智気に問う。
「あぁお前の言いたいことは分かる。でもストレス発散の為にいじめを起こすってのは生きようと自分を守ってるんじゃなくてただ他人をけなして陥れてるだけだよな?」
すると智気は頷いて、
「まぁ、お前にとってはいじめを美化してあたかも正しいことのように語ってるって言えるな。確かにストレス発散の方法は何も人をいじめるってことだけじゃない。でもそれをする為には自分が目の前の奴をいじめたいって欲を我慢する必要がある。つまりさらにストレスを抱える必要があるんだ。それは死に近づいていることを意味する。また、自分の信じていたストレスの発散方法で思ったより発散した量が少ない、発散する時間が無い。こういったことが起きた場合何故あの時ストレスを発散したなかったんだと思うかもしれない。すると必然的に過去の反省として今度はこうなってもいいようにストレスを発散しておこうとなる筈だ。こう考える奴が一定数集まれば必然的にいじめは起きる。自分がストレスを抱える危険性を低くするためにな。」
と説明した。今度は大智も納得したのか
「成る程。自分を守る為にいじめるってのは分かった。お前が言う通り死の危険から自分を遠ざけることは悪くなんかないことだろう。この理由でお前はいじめを是認するのか?」
少しイラッときているのか、大智はやや不機嫌そうに言う。
「是認するも否認するもない。お前は大きな自然災害で人が亡くなるのを是認したり、否認したりするのか?」
大智は勿論といった顔つきで
「あぁ、当然否認する。たとえ仕方のないことでも人が死ぬのは認めたくない。」
きっぱりと言い切った。これを聞いて智気は
「お前はすげぇよ。仕方のないことでもことでも認めないんだな。お前みたいなやつが世界の大多数だったら世界からは戦争が消えて完全な平和が訪れるかもしれないな。」
と目を泣くように抑えながら言った。それに大智は驚いたのか
「か、感動する程のことだったのか?」
と純粋に自分の発言が相手を感動させたのだと思っている。ここでけなされてると考えないのが実に大智らしい。
「あぁ、そりゃあもう。俺じゃあどう考えても出てこない答えだった。お前は俺がさっき話した人間からかけ離れてるぜ。自分の欲が他人の幸福。根本は同じだが考え方が違う。相当理性が強いんだ。」
大智は急に困惑して
「理性?」
と問いかける。
「そうだ。人間の欲は基本理性ってやつで制御される。お前は理性が強すぎて自分の欲そのものが他人の幸福になっちまったんだ。」
大智はやや腑に落ちない様子だ。
「えぇと、つまりお前は俺が人外であるとでもいいたいのか?」
「違ぇよ。お前は人間の中でも特殊で、いわば例外ってやつなんだって言いたいんだ。英雄とか聖人に近い。」
聖人だ。大智は紛れもなく聖人だ。これは覆せない事実であると思ってる。この意見は俺も後押しをせねばなるまい。
「そうだぞ、大智。お前は紛れもない聖人そのものだ。自分よりも他人を優先するし、他人の不利益を自分の責任にして他人になるべく自分のせいだって思わせないようにしている。これを聖人と言わずしてなんと言えるだろうか。」
大智は嬉しそうでありながらも照れ臭そうに
「そ、それは言い過ぎだ。聖人なんてなぁ、と、とても柄じゃない…。」
俺と智気は笑顔で大智のはにかむ姿を見ていた。絶品じゃねぇか。
「コラ!禎流!何をほっつき歩いてるの!周り見なさい!皆座ってるよ!」
まずい。つい気を取られていた。急いで席につく。隣ではしぐれが必死に笑いをこらえている。しかし急に真面目な顔になり、何かに備えるような様子になった。
「はい!では帰りの会始めます。挨拶!」
「起立、気を付け、礼」
「「お願いします!」」
「はい。こういう日に限ってね、皆事故とか事件とか起こしがちになります。なのでちゃんと気をつけて帰ること。寄り道とかはもってのほかだからね。後は…明日は通常通り6時間授業です。以上です。他、何か伝えることがある人はいる?」
ふぅ、とうとう終わりだ。勿論誰も手を挙げない。
「じゃあ、終わります。挨拶。」
「起立、気を付け、礼。」
「「ありがとうございました。さようなら。」」
「うん。さようなら。みんな気をつけてね。」
といつも通りに帰りの会は終わったが、
「え?あなた、どちら様?」
教室の入口に見知らぬ男性が立っていた。




