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パーティシペイター  作者: 後出しジャンケン
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失意の物語

間違ったことを嫌う少年、天種禎流はパーティシペイターとなり、正義を次々と執行したがその正義は自分にとっては紛れもない悪であったことを知り絶望する。

それでも彼は自分が悪人であることを認め、この世界の為、さらに罪を重ね、その結果として贖罪を果たすと決める。

今、小学6年生よる罪の償いが始まる!


※この作品には不愉快な表現等が含まれます。

第4話

失意の物語


 景色は暗転し知らない場所へ出る。

周りを確認しここが薄暗いどこかの一本道であることを知る。薄暗いのは道が建物に挟まれており、もう夜が近いからであろう。

視覚を凝らしながら道を進むとそこには見覚えのある人影が有り得ないことをしていた。

「おい…な、何やってんだよ。友美(ともみ)!」

友美は人を殺していた。カッターナイフを使って大動脈を切り裂いていた。それだけでなく首と胴体を切り離そうとし始めた。

「や、やめろって!」

俺は咄嗟に友美の肩を引く。

その力が強かった為、友美は転がりながら後方へ倒れた。

しかし、2分後くらいにはよろよろと友美は立ち上がった。

「誰?いや、禎流(さだる)君だよね。間違った私を罰しに来たんだ。」

友美はふらふらとしながら俺の方へ向かってくる。

「見えてんのか。お前。」

友美の言ってることをやりにきた。その通りだ。だが、友美にも事情がある。こいつは大事な人を全員()に殺された。だから、もうこれ以上他の大事な人が殺されないように先に原因となる奴らを殺し回っているんだろう。

「お前がやってることは……間違いだ。間違いなんだ。」

友美は俺をすり抜けて空を見上げながら

「殺してよ。いつもみたいに私を間違ってるって言って、正しい道を教えてよ!」

悲痛の叫びを木霊させた。

「私はどうしたらいいの!?どうしたらよかったの!?誰かを守る為に人を殺すのが間違ってるんなら、どうやって守ってあげればいいの!?」

これまでこんな友美は見たことがない。いつも静かな友美がここまで大声で叫び取り乱している。

俺は確かに友美が間違ったことをしていたらいつも注意をした。そしてこうするのが正しいと教えてきた。その度に愛妹(いとめ)から面倒くさいと言われ、色々とからかわれたものだ。だが、いつだったか、一度愛妹に友美の件で注意を受けたことがある。内容は友美のお父さんのことだった。友美のお父さんは通り魔に殺されており、そのことを知っているのは愛妹、愛妹家族と友美だけで、友美のお母さんは知らないのだ。こうなっている理由は友美のお父さんのことはメディアで紹介されていたが、友美のお母さんはメディアと殆ど関わりが無くこのことを知れなかったこと。友美のお父さんの名前を知っているのは愛妹の家族だけであること。これが主で、愛妹が黙っているのに耐えれず友美に話してしまったこと、そこで友美がお母さんには言わないでと言ったことでこの状況が成立してしまった。だが、俺はこれを聞いても間違ったことをしていい理由にならないと愛妹の意見を一蹴したのだ。

「……正しい道…。死ぬことが正しいって俺は言うのか?」

これまでやってこれた。間違いを正してこれた。今はできない、わけじゃない筈だ。

「やらねぇと。さっき言ったばかりじゃねぇか!」

俺はゆっくりと友美の背中に近づく。俺のことが見えているなら振り向く筈だが、その様子はない。それどころか、また空を向いて話し始めた。

「私は禎流君の言う悪い奴なのかな?誰かを守ろうと必死だったのに悪い奴になっちゃうのかな?」

涙を流しながら疑問を口に出し続ける。

「お前は悪者だ…。だけど……それ以上に俺が悪者なんだ!だから、お前を悪いということはできても、俺みたいな悪い奴がお前に正しい道を示すことはできない……。」 

これが友美に対する回答だ。とても無責任で傲慢な回答。今の俺にはそんなことしか答えることができない。

気付けば友美の背中は目の前にあった。寒気と震えが止まらない。

「一瞬だ。一瞬で、苦しまないように、一瞬で!」

震える手を友美の首にあてる。その感覚に友美はビクッとなり、後ろを振り向こうとしたが、途中で(あきら)め頭をそっと下へ向けた。

「…ッぁぁぁぁぁぁあ…ッ!」

一気に友美の首を()めた。その瞬間に黒い(もや)が発生し強制的に転移させられる。

締めたとだけ思っていた友美の頭が胴体と分離されているのを見る事なしに。


 真っ先に目に映ったのは車だった。車が俺を貫通して次から次へと去っていく。

震えを抑えつつ状況の確認を始める。

「強制だから、スレット戦ってことだよな。」

だとしたら、車が行き交うこの道路で戦うとたくさんの被害者が出るかもしれない。

「さっきのことを引きずってられねぇ。早くスレット見つけてなんとかしねぇと。」

行き交う車を抜けながらスレットを探す。前回と異なり視界を遮るものがあるため、すぐに発見して、戦闘を行うとはならず、探すだけでも手間がかかる。

「何処にいやがる…。」

辺りを見渡しながら歩いていると、突如、目の前の車がぺちゃんこになった。さらに、そこから目を上げると四角形で人型のものが構成されている。今、完成に近づいているのだ。 

いきなり、俺の身体は地面に叩きつけられた。そのまま何かに押さえつけられているようである。首に力を入れて先程の人型の方を見る。

「動いてやがる……。」

おそらく完成したのだろう。人で言えば手にあたる部位が開いて閉じてを繰り返いている。そして両腕を広げると、周りの車が次から次にぺちゃんこになっていく。

「やめろ!中には人がいるんだぞ!」 

押さえつけている力に無理矢理抵抗して立ち上がる。だが押さえつけている力も俺が立ち上がろうとするにつれ強くなっていき俺の足が地面に埋まり始める。なんとか立ち上がって周りを見ると想像を絶する光景が広がっていた。

「あ…………。」

言葉も出なかった。大量の押し潰された車。場の混乱のせいで交通事故を起こし無惨に大破した車。そういった車の中から人の部位がはみ出ている。つまり、たくさんの人がこの場で死んでいるのだ。

瞬時に学校での出来事が頭を巡る。目の前で起きる大量虐殺。これで二度目だ。あの時、俺はもう二度とこんなことは起こさないと決意した。

でも、この光景はなんだ?何も変わってないじゃないか。

「クソ!自己嫌悪に陥ってる場合か!」

何も変わってないわけじゃなかった。変化している状況が1つだけある。

まだ、スレットが生きてる。

こいつをなんとかしないとさらに被害者が増える。これだけはさせてはならない。

「手段は選んでられねぇ。もうやるしかない!」

これ以上犠牲を出さない為に俺の中にある人の魂を犠牲にする。やってることはほぼ変わらないが俺にはこれしか取る手段がない。

「ヴィクティム!」

黒い霧が俺の周りを纏う。それとともに押さえつけていた力が消えた。しかし今回は以前と違って俺の身体が存在している。驚いたがすぐに思考を切り替えスレットの方へ駆ける。

ほんの数秒で俺の間合いにスレットを捉え、攻撃しようとすると、急にスレットが大きくなり、自分に攻撃をするなと言わんばかりの圧力をかけてきた。

「そんなもんが通用すんなら、俺は人なんか殺さねぇよ!」

これまで自分で悪いと思ってきたことをたった1つのことのためにやってきてんだ。圧力ごときじゃ俺は止まるわけない。止まっていいわけない!

俺の拳がスレットに炸裂する。その反動でスレットは少しよろけた。そこに膝蹴りをかまし、流れるようにスレットの頭に蹴りを入れ、頭を地面に叩きつける。スレットに攻撃の隙を与えないために頻繁にひるませていく。しかし、これだけでは火力が足りない。全く致命打を与えきれてない。

黒い霧が俺の腕と足に纏わり始める。同時に打撃としか成り得ていない攻撃が貫通へと強化されていく。そのおかげでスレットの身体には穴が空き攻撃自体は効いているように見える。ただ、その穴は時間が少し経っただけで塞がってしまうためやはり、一撃で仕留めれる程の火力が必要のようだ。

「さらに、犠牲を……。」

ここで躊躇してしまい、スレットに行動の隙を与えてしまった。まだ、車は通っている。

「マズい……。ッ、させるかぁ!」

スレットが何かをする前に急いで攻撃に転じる。しかし、スレットはこの2、3秒の間に両手を広げていた。

「やめろぉぉッ!」

スレットの左腕を掴み、胴体から引っこ抜く。黒い液体が胴体から勢いよく溢れ出した。

しかし、右腕の方に近かった車数台がぺちゃんこになる。

その刹那車に乗っていた人が俺の方を向き、助けを求めているように見えた。ただの思い込みだが、俺に罪悪感を植え付けるには充分な光景だった。

「クソぉぉぉぉぉ!」

罪悪感から来る自分への嫌悪感から勢いに任せて右腕も引っこ抜く。その瞬間でさえ、左腕は再生を始めていた。

「これで……2人目だぁぁあ!」

これの、何処が正義の執行なんだろうな。

「サクリファイスヴィクティムッ!」

黒い霧がスレットと俺を隠す。

再生を許さない一撃必殺を行う為に。

霧が晴れるとスレットの身体が膨張を開始する。そこに俺の姿はない。スレットにとっては理解が及ばない膨張だろう。体内を満たしている液体が膨張し、結合し、()()()()()()()()()()()()()

そして、不要になった皮は破裂し、存在ごと消える。

そこにいるのは俺。

再生し続ける殆ど不死身みたいな奴がいるなら、そいつに自分を上書きしたらいい。よくできた発想だ。本当に神様のでたらめな力なんだと実感する。

「はじめから1人犠牲にしてこうしておけばよかったのか。それが正しい決断だって言えるのかよ……。」

事実そうしていれば犠牲は少なく済んだだろう。俺がやったことより正しいことであると言えるだろう。俺の出来もしない希望がこの結果を生んだ。いつまでたっても人を殺すことに慣れない。そんな俺の甘えが希望を形作っていく。

「出る犠牲は少数にすべきだ……。次からは……もう、躊躇わない……。」

この惨状から目を背け、場所を移す。

日が昇って来たため警察やマスコミが集まって交通規制などが敷かれ始める。

「どう報道されるんだろうな。殺人グループってことじゃ済まないだろうし。」

できるものなら、自首して逮捕されたい。俺みたいな自分で作った惨状の後始末もしないで逃げようとしている悪人は早く牢屋に入って終身刑、あるいは

「……これまであんだけ人を殺してんだ。死刑言い渡されても文句言えねぇだろ。」

そんなことを思いながら赤い点を押して別の場所へと移った。


 「さあ、さよならをしよう。」

眠っている赤ちゃんを抱えた男性が目下の棺に向かって告げる。

「君の子はとっても元気に生まれたよ。今も、幸せそうに眠ってる。君と愛妹(いとめ)が願ってくれたおかげだ。」

男性は堪えきれなくなり、涙が溢れ始める。

「絶対に……ッ…。絶対に!幸せにしてみせる……ッ、君達がッ、君達がッ!生きれなかった分までこの子のことを幸せにする!だから…!だからッ、見守って欲しい!この子のことを!この子がどんな運命を歩んでいくのかッ……。私とともに、お父さんといっしょに見届けて欲しい………。」

愛妹、妹出来てたのか。同じクラスの俺達にまで隠してたってことは、単に俺達が信用できなかったのか、隠したいぐらい大切に思ってた、俺達に狙われることを恐れていた?のかもしれない。

「この仕打ちはあんまりじゃねぇか…。」

赤ちゃんが生まれてて、母親が亡くなっている。つまり、出産中になんらかのことがあって、赤ちゃんの方が優先された、または、家族でもしもの時は赤ちゃんを優先するように言ったということになるだろう。

「それで、赤ちゃんを悪者認定ってか……。理不尽にも程があるだろ。」

あまりにも理不尽だと思う。確かに赤ちゃんが母体を殺す原因になったと考えることはできる。それでもあくまで原因であって、実際に手を下したのは赤ちゃんとは言えないのではないか。ここで言う赤ちゃんはナイフの役割の果たしただけだ。決して赤ちゃん本人の意思で殺したわけじゃない。

「だけど……殺さないと、他の皆が犠牲になるかもしれない。」

ふと、愛妹(いとめ)の家でお泊り会をしたことを思い出す。迷いが出るから1番思い出したくない記憶が何故か今、頭の中を巡る。まるで思い出さなければならないと脳内を勝手に操作されるように。


去年の冬休みだった。宿題の絵日記を終わらせる為の思い出作りという名目で愛妹の家に俺と、しぐれ、大智、智気(としき)、友美で泊まらせてもらった。永理久(えりく)はサッカーの習い事で来れなかった。それでも、この面子だと朝から騒がしかった。特に俺としぐれと智気がぺちゃくちゃとおしゃべりをするわ、わけのわからないことをいいながらじゃんけんをするわで、愛妹と友美を困らせていた。そんなことをしていると、愛妹のお父さんから俺に話かけられた。

禎流(さだる)君、そのビニール袋は?」

俺が道に散らかっているゴミを拾う為に持ち歩いているビニール袋について聞かれた。

俺が答えようとする前に愛妹が先に答える。

「パパ、これ、いつも言ってるやつだよ。ゴミ袋をいつも持ってるの!ほんと、よくそんなことできるよねぇ!ここ!人の家なのにさー。」

確かにその通りだと思い、ごめんと謝り、外に捨ててこようとすると、愛妹のお父さんに止められる。

「いいよ。わざわざ外に捨てようとしなくても。禎流君がやってることは正しいことなんだから、誰からも非難される筋合いはない。そこにゴミ箱あるから、捨てるといいよ。」

ありがとうと感謝を述べ、言われた通りゴミ箱に捨てさせてもらう。

「パパ、禎流君に甘くない?常識的に人の家にゴミ持ち込むとか有り得ないでしょ!不衛生よ!」

「私は別にいいんだけどね。不衛生なら、掃除や換気をしたらいいだけだし。それよりも誰もしないような正しいことをした禎流君を優遇してあげたいと思うね。」

急に愛妹のお父さんはパンと手を叩き

「さて、もう行くけど準備できてるかい?」

皆にそう問いかけた。勿論皆は肯定し愛妹と友美は愛妹のお母さんのもとへ行った。

実は俺達は遊園地に連れていってもらう約束をしていた。そんな頻繁に行ける場所ではない為、俺としてはテンション爆上がりだ。意気揚々と荷物を持ち愛妹のお父さんの車に乗せてもらう。

「あいつら、何してんだろ?」

しぐれが口を開く。愛妹のお父さんの車はとても広く最大で10人まで乗せることができる。その車の中で俺としぐれ、智気(としき)が3人並んでいる為、会話のきっかけはすぐに見つかる。

「なんか、愛妹のお母さんの所行ってたよな。」

しぐれの疑問に俺が回答する。

「おっ、来たみたいだぜ。お待ちかねの遊園地だな。禎流(さだる)。」

「は?天草お前まだ遊園地とかでわくわくすんのか?小学生か?」

「小学生だよ!悪ぃな!まだ2,3回しか行ったことがないんだよ!」

「それ、言い訳になってねぇよ。天草。」

そんな言い争いをしていると愛妹、友美、愛妹のお母さんの3人が乗り込み準備が完了した。因みに大智は孤立している。まぁ、俺達の後ろだからすぐに話そうと思えば話せる。そんな配置で車は出発した。

愛妹のお父さんに聞いたところ、遊園地までは高速でだいたい1時間ちょいらしい、だから途中途中でトイレの為にパーキングエリアに寄るだろうからもっと時間かかるんじゃないかと話された。だとすると車の中でずっと無言ってわけにはいかないし、取り敢えず大智に話しかける。

「お前って遊園地何回目?」

「修学旅行で行ったのが初めてかな。だから今回合わせて2回ってことになるね。」

意外だった。それにしてはあまり喜んでないように見える。

「まぁ、大智君とこって1人だし、親も厳しいそうだからね〜。」

急に愛妹が口を挟んできた。

「どうかな。僕が頼みこめば、行かせてくれるとは思うけど。なんというか、遊園地に行くなんて考えたこともなかったし、連れて行ってなんてことも言ったことないからお母さんやお父さんは連れて行こうとしなかっただけじゃないかな。」

小学生なのに遊園地のことを考えていないだと!?やっぱり大智だ。きっと自分より他人のことばかり気にするからそうなるんだろう。

    ―そんな大智を殺したのは俺である。で、あれば―


脱線した思考は冬休みの記憶へと戻る。


その後も俺達や愛妹のお父さんやお母さんを交えた会話で何度か盛り上がりながら遊園地へと到着した。気付けばもうお昼だ。昼食はもう済ましている為、思う存分遊ぶことができる。

「なぁしぐれ、何からやる?」

遊びたくてうずうずしている俺は早速しぐれに何処から始めるか聞く。こいつなら面白いことをいいそうだ。

「ジェットコ―スタ―に決まってんだろ!」

予想のはるか上をいかれた。嫌いなわけではないが初っ端からとなるとやや手を出そうとは思えない。 

「おいおいしぐれお前、少しは順序ってのを考えろって、ジェットコ―スターを最初にするか?普通?」

智気(としき)がすかさず待ったをかけた。だが、悲しいかな。しぐれに続く狂人が現れた。

「えっ、しぐれ君たちジェットコ―スター乗るの?一緒行かない?私達も乗ろうとしてたんだ。」

愛妹である。その後ろで震えながら友美が付いてきている。

「愛妹ちゃん…止めようよ…。」

どうやら友美もジェットコースターは苦手のようだ。

「なぁに言ってるの!ジェットコースターは遊園地の醍醐味じゃない!さぁ、さぁ、張り切って行くわよ!友美も震えてないでピシッとしなさい!」

この女……もう歯止めが効かなくなっている。なんとかしなければマジで1番目がジェットコースターになってしまう。

「おい、天草。お前今、なんとかしないとって考えてるだろ。無駄だからな。そもそもお前が我に聞いたんだろ?だったら従うのが筋だよなぁ?」

クソ…。反論できない……。俺が聞かなければこうはならなかったというのか…!

「お、おい、智気(としき)これは中立の立場で考えたら…ア、アウトだよなぁ?」

多分無理だろうと思いながら智気に聞いてみる。

「筋かどうかはともかく、禎流(さだる)はあくまで聞いただけだ。その通りにするとは言ってない。選択肢を増やしただけなんだよ。その選択肢を選ぶ権利があるのは間違いなく禎流だ。」

おぉ、ダメ元だったが流石、智気だ。まさか、しぐれの意見を押しのけるとは。

「ねぇ、そんな小難しい話ばっかしてないで早く行こう?」

愛妹はそういうが、これは俺と智気としぐれの心理戦だ。どちらの意見に従うか、それを決める大事な

「おっ、そうだな。行くぞお前ら。大智も早くしろ。」

俺達と距離を置いていた大智はビクッと身体を震わせ仕方なさそうについて行く。

「なぁ、智気、これって完全に…。」

「あぁ、皆まで言うな。分ってる。……それでも俺の熱論をこうまで無視されると……、涙が出、出ますよ…。」

その通りだ全く。こんな論を全て無視したやり込めってあっていいのかよ!俺達の論争は気分1つで終了する甘いものだったのか!?クソォォ!

俺と智気はやるせない気持ちで肩を取り合って皆の後を追った。

そんな風景を愛妹の親は微笑ましい様子だと見ていたのであった。


     ーん?愛妹の親?こんな風景俺は見たことがー


記憶にノイズが走ったが、すぐさま元の風景に変えられる。


結局、俺達は遊園地に来て初めに遊んだのがジェットコースターだった。しぐれと愛妹(いとめ)は楽しそうに騒いでいたが、俺と大智と智気は怖くて騒げる度胸はなかった。特に大智に至っては降りた後、足がぶるぶる震えており、涙ぐんでいた。これでも充分驚くべきことだが、愛妹やしぐれを含む俺達が最も驚いた表情を見せたのはなんと友美だった。普段静かな友美が甲高い悲鳴を上げたのに驚いたのは勿論、終盤辺りになると、狂ったように笑い始めたのだ。これが最も驚愕したことだった。驚きも感じたがどこか、何かしらの恐怖を感じざるを得なかった。ジェットコースターを降りた後は普段の友美に戻り赤面して、暫く俺達と距離を置いた。それを愛妹が止めようとしていたがしぐれに「そっとしてやろう。」と宥められ俺達と愛妹はその後も行動を共にし、様々なアトラクションで遊ぶことができた。後半は友美も一緒になったし、なんやかんや楽しかった。

日も下がってきて愛妹のお父さんに「帰ろうか。」と言われ、遊園地の出口付近に来た時に俺は1人でキョロキョロと周りを見渡している小さい子供を見つけた。迷子の可能性があると思って、咄嗟にその子供のもとに駆けた。

「大丈夫か?お父さんとお母さんは何処にいるか分かるか?」

次々に質問を続けていると、子供はとうとう泣きべそをかきはじめた。

「泣いてても分からないぞ。落ち着いて、ゆっくりと答えるんだ。」

宥めてはみるが、中々泣くのをやめようとしない。困惑しながら質問をしていると、突然肩を掴まれ後ろに倒された。

「怖かったね。もう大丈夫よ。あの、うるさいお兄ちゃんは私が倒したから。」

顔を子供の方に向けると愛妹(いとめ)が子供を抱き寄せて頭を撫でている。

「さっ。一緒にお父さんとお母さん探そう。」

そう言って遊園地の中へ入って行った。

「お、おい、今から入るのか?」

きっと親は外にいる。俺はそう思い愛妹を止めようとすると、また肩を掴まれた。しぐれである。

「お前は止めるんじゃなくて、遊園地の外で親らしい人物探せよ。我達は中探してくるから。」

確かに俺達の人数を考えると割と多いし、そっちの方が効率がいいのかもしれない。

「その通りだ。じゃ、任せたぞ。」

俺は外を走り回った。しかし、ほんの数分後には遊園地の方から迷子のお知らせを知らすアナウンスが聞こえた。

成る程。愛妹はアナウンスしてもらう為に園内に入って行ったのか。完全に予想を外された。その後暫くして、俺達は合流した。

「ありがとう。愛妹。助かった。」

「あんた、ちょっとこっち来なさい。」

愛妹は、急に俺の腕を引っ張り、皆の目の届かない所に連れてきた。そして、

バシッ!

俺の頬に激痛が走る。

「痛ェ!テメェ―!何してんだァ!」

気付くと俺は襟首を持たれ顔をギリギリまで近づけられていた。愛妹は舌打ちをした後俺を思っきり突き放した。

「あんたねぇ!子供を泣かせるって、どういうつもりなの!?最ッッッ低!あんたがあんな態度とってたら子供は泣くに決まってるでしょ!」

罵倒が始まった。あぁ、そうだった。こいつは自分より年下の子供には人一倍の狂気ののうな愛情を持って接するんだ。そんな子供を流してしまった。これは……修羅場になりそうである。

「大変……申し訳ない……。」

頭を深々と下げる。 

「謝る相手が違うでしょ!あの子に謝りなさい!あの子がどれだけ怖い思いをしたか、あんたに分かる!?あんたにその気はなくても、あの子は高圧的なあんたを恐怖の対象として見るの!同じ人間だからって、私達と同じように接していいわけがないじゃない!」

説教はおよそ5分程続いた。その間俺は口を開くことすら許されなかった。それにしてもだ、怒らせてはいけない人とうさいうのは本当に怒らせてはいけないのだと改めて思った。

再び皆と合流すると大智を除く子供組がクスクスと笑っている。

「触らぬ神に祟り無しって言葉知ってるか?天草?」

この野郎完全に煽ってきてやがる。

「知ってるよ!それでも触らすにはいられねぇんだよ!」

そう反論すると、しぐれは腹を抱えて笑い出す。何か言ってやろうと思ったが、何を言っても馬鹿にされそうだったから、何も言わずに、愛妹のお父さんの車に乗り込んだ。

帰りは皆疲れてたみたいで、俺と愛妹のお父さん以外殆ど寝ていた。

「誰か、起きてる人いるかい?」

愛妹のお父さんは運転中である為、俺を除く人達が寝ていることを知らない。

「俺だけ、起きてる。」

愛妹のお父さんは苦笑し、

「皆、寝ちゃったのか。まぁ、あれだけ遊んだら疲れもするよね。」

そう言って、パ―キングエリアに車を停めた。

「私、トイレに行ってくるよ。もし、誰かが起きたらそのように伝えてくれるかい?」

「分かった。」

任されたからにはやらないといけない。あまり眠くはないが、ふとした時にストンと眠りに落ちることがあるかもしれない。そうならない為に気をしっかり保っておく。そんな状態を5分ほどキ―プしておくと、愛妹のお父さんが帰ってきた。

「ごめん。お待たせ。流石に誰か起きた?」

ハッ!?気を張ることを意識しすぎて、周りに気を配れていなかった。しかし、愛妹のお父さんの言葉に誰も反応しないということは、

「誰も起きてないみたいですね。」

多分確定だろう。実際、俺の発言の後にも反応はない。

「ハハハ。誰もか……。それだけ疲れてるのか…。家ついたら、起こすの大変そうだなぁ。」

「俺も手伝うよ。」

愛妹のお父さんは喜んだ様子になって、車を発進させた。

禎流(さだる)君は眠くないの?」

「うん。あんまり眠くない。」

愛妹のお父さんは少し申し訳なさそうに

「やっぱり、愛妹に怒られて、なんか、精神的に来ちゃった?」

俺の精神状態を心配してくれた。とても有難いことだが、別にそれはあまり気にしてない。普通にまだ、俺の興奮状態が冷めてないだけだろう。

「いやいや、愛妹のやつは関係ないよ。まだ遊園地気分なだけだよ。」

「そう。あんまり、気、使わなくていいからね。でも、愛妹に怒られてるとき、イラッと来なかった?何で良かれと思ってやったことをここまで言われないといけないんだ!みたいな感じの。」

来なかったと言えば嘘になる。確かにそう思った。とはいえ、愛妹が怒った理由は明白に分かってる。

「思いはするけど、反論して言いたくなるほどじゃないよ。そもそも俺が愛妹の大切なものを泣かせた、つまり、傷つけたのが原因なんだし。」

すると愛妹のお父さんは笑って

「いやぁ、やっぱり禎流君はすごいね!私なら、絶対反論するよ。大人でもそんな考え方が出来る人が少ないのに、小学生の禎流君は平然とやってのけちゃうのか。やっぱり、お父さんの影響?」

それは勿論ある。俺の今の考え方を作ってくれたのは殆どお父さんだ。お父さんは正直者の政治家というだけあって、結構、間違っていることにうるさい。悪戯で他の子供の筆箱を隠した時なんか、こっ酷く叱られた。

「そうだと思う。お父さんが正しいことを貫き通してるのを見て、ああなりたいって思ったのがきっかけみたいなもんだし。」

「お父さんの背中を追う子供か。それでも、ここまで大人にも出来ないことを貫き通してる禎流君も私から見るとお父さんに並んでるようなものだけどね。」

「そんなこと無いよ。俺にはお父さんみたいに皆を正しい方へ引っ張っていける力がまだ足りてない気がする。」

愛妹のお父さんは、そうかなぁと疑問に思いながら、まだ、並べたかどうかは分からないのかもしれない。と自分なりに納得していた。

日もすっかり暮れて、真っ暗になって、数十分後に愛妹の家へ着いた。

「ねぇ、禎流君。1つ聞きたいことがあるんだけど。禎流君は大人になってもこれまで通りに正しいことを貫いていけると思うかい?」

「あぁ、勿論。貫くよ。どんなことがあったとしても。」


 ーじゃあ、この体たらくはなんだ?大人になる以前にたったの数ヶ月で、貫き通せてないじゃないかー

 

徐々に記憶にノイズが残り始めた。この記憶がそろそろ終盤に差し掛かっている証拠なのだろうか。

「そんな禎流君だから私は尊敬できたのかもしれないなぁ。」

急に愛妹のお父さんの声が届いた。

「禎流君なら、きっとやっていける。だって、お父さんがやってこれたんだから。私達のような大人が出来ないことを禎流君はずっと貫いていくんだ。」

「当たり前だよ。でも、どうして、愛妹のお父さんは自分が悪いことをしてきた、みたいなことを言ってるのさ。愛妹のお父さんだって、正しいことを貫いてるんじゃないか?」

愛妹のお父さんは顔を下げ、

「いいや。私は正しいことなんて貫いたことがない。そんなことしてたら、いつか自分が損をするかもしれないんだ。だから、誰かに損をさせようと必死になる。自分が損をしないように誰かを犠牲にするんだ。でも禎流君はこれに負けない。きっと禎流君なら皆に得をさせることができる。」

自分を責めるように話していたが、最後の方は俺を真剣に見つめて話した。


  ーそんな期待を俺は裏切った。そして、これからも、なんなら、もうすぐに裏切らないといけないー


ノイズが激しくなってくる。

記憶は知らない所に飛んだ。

布団が敷かれ、そこに愛妹のお母さんがいる。

「お腹の子は名前もうあるんですか?」

ノイズのせいで誰の声かは分からない。ただ、文をなす音だけが聞こえる。

「そうねぇ、明るい希望と書いて明希(あき)とか、幸せな未来と書いて幸来(さき)とか、まぁ、考えてるのはたくさんあるわ。でも、やっぱり1番良いのは。」

「え!何々?教えてよ!」

また、別の音が聞こえる。これも誰かは分からない。でも、だいたい予想はついた。この記憶を見せた理由。そして今、この記憶、俺の中に存在しない記憶を見せている理由。


  ー愛妹、お前なんだろ。お前が俺の中にいるのは分ってる。だったら、自分の大切な妹に生きてもらう為に俺を止めたいんだろ。……悪いが俺はもう、止まれないとこまで来てんだ。今更、引き返せない。それに、酷なことだが、お前の妹はここで死ななくともいづれ、デザスターが殺すと思う。どの道死ぬしかないんだ。俺はお前の妹を殺してこの世界を守ってやらないといけない。これ以上、犠牲を出さない為に今、ここで、お前の妹を殺さないといけないんだー


最早、記憶には映像と呼べるものが映っておらず、ノイズだらけになっている。

「皆を愛して、皆に愛されてとっても幸せに生きて、皆を幸せにしてくれる。それって、この世界を精一杯幸せに生きてるってことよね。」

「その意味を名前に持たせたいってことですか?」

「さっすがぁ!ともちゃん分かってるねぇ。……」


ノイズがひどくなり、声すらも聞こえなくなる。記憶は遠ざかり、現実へと戻される。

とはいっても身体が動こうとしない。きっと愛妹が身体の自由を奪っているのだ。

限られた視線で周りを見渡すと愛妹のお父さんと赤ちゃんはもういなかった。内心ほっとしたが、同時に焦りを感じる。殺さなければ、という焦りだ。殺すことがこの数日間日常化していた俺は人を殺すことを使命のように考えていたのである。そんな自分に恐怖しながらも、また別のことを考える。もしかすると、この場所から愛妹の赤ちゃんが離れてくれれば俺は殺さなくて済むのではないか?

でも、本当にそれでいいのか?これまで殺してきた人達に失礼じゃないか。俺がここで見逃したら、これまでの人達は俺の無知故に、決めつけで殺したことになる。それに、さっき愛妹に対して引き返せないと言ったばっかりではないか。甘えた考えは捨てるべきだ。俺はこれまで甘えたことばかり考えていたから、無駄な犠牲を生んできた。

ならば、やらないと、また、無駄な犠牲を生むことになるのではないか。そもそもここで愛妹の赤ちゃんを見逃したとして、結局、他の誰かを殺さないといけない。そんなことが許されていいのか?人の生死を私情で決めて良いのか?

良い訳がない。そう、良い訳がないのだ。だから、俺は動かなければならない。

しかし、身体は微動だにしない。声すらもあげれない。そんな中、俺はもう1つ視点があることに気付いた。見ている光景が同じだったから、気付かなかったようだ。しかし、俺が動こうとしていた時に視点が少しズレた為、気付くことができた。

もう1つの視点は身体の自由が効くようだ。おそらく、愛妹はこの視点の存在に気付けていない。

今の内に動かなければと思い行動を開始すると、落下する感覚を覚えた。言葉は話せないようで、落下の時にびっくりして、声が出るかと思ったがそういうことはなかった。

そして視点は低い位置へと移動している。これはつまり、俺の身体が、小さくなっていることを意味する。気になって後ろを向くと元々の俺の身体があり、そこから分離したのが今の身体のようだ。

俺が記憶と向き合ってる間に俺の中の誰かがこのような仕組みを組んだのだろうか?

それよりも、愛妹のお父さんだ。どれくらい記憶と向き合っていたのかは定かではないが、もしかするともう病院を出ているかもしれない。

急いで窓の外を覗くと、案の定、愛妹のお父さんが既に道路の方へ歩いていた。窓枠を踏み台にして、思っいっきり愛妹のお父さん目掛けて跳ぶ。2階から跳ぶわけだから、どちらかというと愛妹のお父さん目掛けて落下していく形だ。

こうしていると、ジェットコースターでの落下が思い出される。このタイミングで脳内はまた記憶に染まろうとし始める。愛妹が気付いたのだろう。

ただ、もう手遅れだ。俺は既に愛妹のお父さんの隣にいる。落下速度は相当速く1秒経ったかどうかぐらいで、この位置に着いた。俺は赤ちゃんに視点を向けた。

なんと、赤ちゃんは起きていた。そして俺の方を不思議そうに見ている。そんな赤ちゃんに俺は伸びるかどうか分からない腕を伸ばす。伸びたのは黒く太い糸のようなものだった。それを赤ちゃんは興味深そうに見つめ握った。確かに俺は握られた感覚があった。この姿になって初めて感じる人の温もり。赤ちゃんは本当に俺のことが見えているのだ。でも俺を恐怖の対象として見ていない。

そんな無邪気な赤ちゃんを俺は……。やるんだ。俺は。

握ってくれた手を俺はグルグルと縛り走ってくるトラックへと




    投げつけた。


 

その瞬間に記憶が舞い戻る。

はっきりとノイズのない鮮明な声で。

「この子の名前は豊愛(とあ)豊かな愛って書くの。そして永遠って意味の『とわ』って言葉と掛けたの。後は、」

「私の名前に入ってる漢字だよね!」

「そう!入れたかったの。愛妹の名前。あとは、ちょっと雑かもだけどともちゃんの頭文字の『と』も入ってるの。ともちゃんは愛妹が認めた唯一のお姉ちゃんだからね。入れないわけにはいかないわ。それでそんな2人の名前を掛け合わせると『とわ』って言葉に近くなるから、この子にとっての永遠はあなたたちもいることだし、豊かな愛に溢れたものになってくれればいいなぁ、ってことでこの名前が1番いいかなぁって思ってる。」

友美は嬉しさのあまり、号泣し、そんな友美を愛妹が慰めている。しかし、愛妹も少し涙ぐんでおり、豊愛(とあ)という名前がどれだけ彼女達にとって嬉しいものだったか容易に想像できる。


  ーそんな豊愛から、俺は愛を奪った。豊愛にとっての永遠を死から始めさせたー



愛妹も諦めたのか、記憶が霧散するように消えた。さらに、豊愛をはねたトラックの運転手を無意識に殺していた。

「あぁ……。ああああああああああああああああああぁぁ!」

発狂が轟く。

血だらけの我が子を抱いて、叫んでいる。そして、叫びながら病院へと走り出した。

狂ったように走り出した。

ただ、一直線に病院を目掛けて走っていく。問題は我が子の死で発狂して、まともに走れていないのだ。


  ー誰のせいだよ。俺が全て失わせたんだろうが。何もかも俺がやったんだろ!何を考えてんだよ!あれだけ信頼してもらってたのに、裏切ってるんだぞ!何だよ!甘い考え捨てたら人殺していいのか?俺は、本気でそんなこと考えてんのかよー


裏切りと人から大切なものを奪った感覚が身近に感じすぎて、自己嫌悪が止まらない。

豊愛(とあ)も、豊愛も奪うのか!私から、何もかも奪うのか!私が、私がいつやった!私がこれだけ大切なものを奪われなければならないことをいつやったというのだ!」

やってない。愛妹のお父さんはそんなことしてない。にも関わらず世界を守る為という俺の目的のせいで、奪われた。いや、俺が奪った。

愛妹のお父さんは何度もこけて、傷だらけになっている。それでも立ち上がる。そして叫ぶのだ。

「返せよ!返してくれよ!私の大事な家族を!誰にも奪う権利なんて無い筈だろ!絶対に!絶対に奪ってやる!貴様からどんな幸せでも!生きてる価値さえも奪ってやる!」 

愛妹のお父さんは空を見上げて叫んでいるから、俺のことは見えてない。

それでもこれまで感じたことのない罪悪感が俺を蝕む。謝ること、罪を償うことでさえ罪だと認識せざるを得ない程の罪の意識。  

俺はその場から逃げることしか出来なかった。ただ、逃げて自分の身体に戻る。その途端に身体の一部がパラパラと崩れた。まずいと思ってなんとか身体を崩れないようにイメージする。そうするとどうにか、崩れがおさまった。とはいえ、ずっとイメージしておかないと身体は崩れ始めてしまう。それは、おそらく、俺の精神面が限界を迎え始めた証だと思われる。

「なんで、俺が壊れる……。俺みたいな人殺しが病んでんだ…。俺は壊す方じゃないか。」

自分自身をこれ程までに情けないと思ったことはあっただろうか…。罪の意識が重すぎて、償う方法も分からなくてそれで病んでる。そんな自分勝手なことがあるか。そもそも償う方法はもう決めただろ。世界を救う。その為に罪を犯すんだ。それを信じられなくなってどうする。()()()()()()()()()。犠牲になった皆も、世界さえ救われれば戻ってくるに違いない。だってそうじゃないと、救われたことにならないじゃないか。救いっていうのは皆が幸せになることだ。だから皆戻って来る。俺がデザスターを倒しさえすれば。

???

彼は摩耗していく精神をなんとか保っている状態だ。それ故に救いという単語を誤って解釈していたようだ。さらには災害(デザスター)の討伐による世界救済も目指していたようだけど、はっきり言って何を言っているのか分からない。災害(デザスター)が世界を滅ぼす場合というのは日本が討伐に失敗し、世界に進出し、世界のパーティーシペイターですら、討伐が不可能だった場合だ。そんな状況は殆ど有り得ない。だから世界は崩壊しないんだ。あと、救いは誰かが復活することじゃない。今生きている人達が生き残ることを指したつもりだったんだけどね。どうも皆が幸せになることだと勘違いをしていたようだ。

それでも彼は立ち向かっていく。紛い物の希望を信じて。だからこそ、あの日本での結末は受け入れられない。彼は有り体に言ってしまえば、騙された愚か者だ、でも言い方を変えると騙されながら日本の未来、世界の未来を掴み取った英雄と言うことができる。

え?世界は救えないって言ったよねって?う〜ん、伝え方が難しいな。災害(デザスター)の討伐じゃ救えないけど彼自身がプラスαの要素を保持していたからね。最早今や……。彼…。もうそろそろ、彼の日本での物語は終わりを迎える。これはすぐ未来の話しだからね……。いつの日か、すぐに分かる筈だよ。彼がどのように救済を果たしたのか。


 俺は世界を救う希望に縋って地図の赤い点を押した。多分今、何を考えても失意のどん底に落ちるだけだ。それならたった1つの希望を追いかける方が建設的だろう。

「皆を助けるんだ。助ける為に犠牲を出す。で、でも、その犠牲もデザスターを倒したら皆戻ってくる。」

とても不思議な感覚だ。何かが重みに耐えれずプチンと切れたかのようだ。

そうこう考えている内にワープは完了していた。完了して、2、3分くらいは1人でブツブツと独り言を言ったり、何かを考えたりしていたせいでいつ、ワープしていたのか気付かなかった。

「ここは…?」

知りもしない少し開けた場所に出た。ゴミの放置が少しだけ目立つ程度で他に特徴はない気がする。あまり関係ない所のように思えたので、ここを離れて別の場所を散策した。すると、いくつか見覚えのあるものがチラホラあった。2年ほど前にお父さんに連れてきてもらった時にチラッと見ただけのものだ。そして大通りに出ると、どうやら通りを渡ってさらに向こう側で誰かが演説をしているようだ。流石にパーティーシペイターの視力でも離れすぎると

正確に認識できないらしい。とはいえ、演説ということは誰かの不満を買い、何かの拍子で誰かが演説者を殺すといった状況があってもおかしくない。

「殺人だけが、悪というわけでもないからな。演説者自身が嘘をばら撒いている可能性だってある。」

通りを渡って演説の様子を確認しに行くと、驚くべき人が演説を行っていた。

「これまで、殺人グループというものが物騒な事件を起こしていたとされてきましたが、あれは全て大嘘です!」

そう豪語するのは天種吉継(あまぐさよしつぎ)、俺のお父さんだ。選挙があってるわけでは無いのに演説をしているということは余程言いたいことがあったのだろう。

「今朝のS県での事件もそうだ!殺人グループなんて関与してないし、そもそも存在すらしていない!」

あまりにも根拠がない発言に周りの市民からは猛反発を受けた。

「根拠ならある。この一連の殺人事件が大きな力を持った何者かに操作されているという根拠を掴んでいる。まず、この事件の被害者は1人も検死を受けていない。それどころか、私の息子に関しては死体すら見つかっていない!しかしながら、書類は偽装され、検死をしたということになっている。そして全てが他殺だ!」

お父さんはこれまでの殺人事件は何者かに仕組まれており、殺人グループはその為の仕掛けだと言っているのだろう。この時点で嘘が確定だ。

殺人グループは存在しないかもしれないが、殺人事件自体は仕組まれていない。俺が殺していってるだけだ。だから俺はお父さんを殺さないといけない。

「大丈夫だ。お父さんも戻ってくる。だからこれは、あくまで一時的な、一時的なものなんだ。」

お父さんの背中に迫り、腕を太い針の様な形状へ変化させ心臓を貫く。

しかし、手応えは無かった。お父さんはまだ生きていて、演説を続けている。

これはつまり

「………仕組まれてたってのか…。俺の殺人は。」

驚きよりも、呆れよりも、何よりも先に落胆を感じた。そうは思っても身体をなんとか保たなければいけないため、身体を維持する方にも思考を()かなければならない。

「一体誰に仕組まれてるっていうんだ。クリエイター?大いに有り得るが、何のために仕組む?別の観点から考えればいいのか……?」

クリエイターを保留にし、他の人物がいないかどうか考える。すると1人の人物、なのかどうか分からないやつが頭に浮かんだ。

「あの方ってやつがいなかったか?何が悪なのかを決めてるってやつ…。正体は不明だが常に周りにいるような空気みたいなやつだって、あいつが言ってたような気がする。」

これまではあの方の正体について考える必要は特別無かった。だが、仕組まれているとなると話は別だ。あの方は正体がバレていないのをいいことにこの一連のことを仕組んでいる可能性が出てくる。そもそも悪の定義がおかしい時点で気付くべきだった。

「あの方ってやつは、まさか俺が人を殺していくことを楽しんでるんじゃねぇよな…。」

最悪の結論が頭の中に浮かんだ。もし、そうだったらあの方を今すぐにでも見つけ出して捻り潰すぐらいの気持ちはある。それが出来ないという立場に立っていることが、いかにも仕組んでる臭いのだ。

逆にクリエイターの場合は直接聞けるし、あいつは俺の殺人を見て楽しむなんてことはしない。あいつにとって、殆どのことは些事だ。だから、最初のパーティーシペイターの説明も順序を考えず、適当だったし、あいつに攻撃を仕掛けて色々言った時も自分が何故そうされているのかすら分かっていない、つまりは俺の気持ちなんてどうでもよかった訳だ。そんなやつが俺の殺人を楽しむ為にわざわざ仕組むだろうか?有り得ないとは言い切れないが何処かやらなそうな節はある。

したがって必然的に怪しくなるのはあの方という訳だ。

「だが、だとしたらここに何の問題があるんだ?」

不思議に思って何となく他の赤い点を押す。

『UNKNOWN』

俺の眼前にはそう表記されるだけだった。意味は分からないがターゲットの文字が出ていないことから、まだ誰も悪事を働いていないことが分かる。だから、ここからは様子見をしていくしかない。

俺の思考が纏まってくるとお父さんの言葉が耳に入り始めた。どうやら様々な根拠を挙げ、持ち前の説得力で周りの人々に信じ込ませているようだ。

「これが、最後の根拠になる。私が話してきた通りこれまでの事件のいくつかは他殺に見せかけた自殺である可能性が非常に高い。そしてどうしてこういった状況を作り出す必要があったのか。それを考察を交え、証拠から導き出された答えを元に結論づけたい。」

お父さんは一度、間を取り呼吸をする。

「まず必要性に関してはもう、薄々分かっているでしょう。政府は何かを隠したがっている!例えば、精神を異常な状態へと変化させ、自殺をしてしまうといった病気、或いは寄生虫。それらを政府がつくっており、少し漏洩してしまった。だから、その証拠を隠す為に殺人グループをつくり、他殺と見せかけなければならなかった。そもそも被害にあった数名は誰とも面会していない。防犯カメラがそれを物語っている。それにも関わらず他殺という結果を使いたいという風に見えます。それは自殺だと何かがまずいから。そう考えるのが妥当でしょう。」

話を聞いていると、政府が全て仕組んでいるというように聞こえる。有り得はいないだろうが、確かに他殺に拘っているのは何か企んでいるのかもしれない。

「そして、もう1つの例。これは小耳に挟んだ程度だが、地球外生命や人間とは違う異次元の存在による殺害。これを隠す為に殺人グループをつくり、それによる他殺を演出する必要があった。実際に私が聞いた名は……ッ!?」

お父さんが名を明かそうとした時、地面が破裂した。あまりにもいきなりだった。地下の下水管も破裂した様で水が地面から溢れ出している。そして

「……お父さん……。だけじゃない……。ここにいた人達、全員……。」

地面の破裂に巻き込まれて死んでしまった。いや、これは

「偶然じゃない。誰かがお父さんの演説を止める為に、やったのか…。それってつまり……。」

仕組んだ本人じゃないのか、これをやったのは。

「殺せる……。今なら殺せる!」

地図に出ている赤い点を押し、何処にターゲットがいるかを示してもらう。すると近くの家の中にターゲットがいることが判明した。

急いでその家へ駆け込む。

「見つけたぞ…。」

そう言って、ターゲットの方を向くとそこには2人の日本人よりの外国人がいた。

「は?」

思考が追いつかない。

「全く神官様も面倒事が好きでいらっしゃる。」 

「右に同じだよ。パーシペ浸透してないのに、わざわざ、日本にもこういう体制敷くあたりほんと、面倒見がいいというか、そうじゃないというか。」

「だよなぁ。ほっとけば、日本の政府があれこれ対策して俺達の出番なんか無いかもなのにな〜。」

こいつらがあの方なのか?それとも、こいつらの言う神官があの方なのか?それともパーシペというのがあの方なのか?情報が整理出来ない。

「ここもこれで終わりかね?」

「そうじゃねぇの。イリちゃん派遣されて、皆無くなるさ。」

「えっ、イリちゃん来んの?会いてぇなぁ。凛々しさが俺の男心をくすぐるんだぁ。」

そう談笑しながら何かをノートに書いていく。何を書いているかは分からないが、外国人達の話をその後も聞いていると、そのイリちゃんに見せるレポートみたいである。

「それで?日本のパーシペさんよ。いつまでそうしてんの?」

何を言われたのか分からかった。しかし、俺の方を指差し、お前だよ、呟いていた為なんとか俺に対して発言しているのだということを理解できた。が、何でこいつらは俺のことが見えているのだろうか?

「何か言ったどうだ?まぁ、何にせよ、あんたは俺達を殺さなきゃいけん訳だ。」

「どうして、お前達は俺のことが見える……?」

すると外国人達は2人で笑って、

「やっぱ日本だわ。パーシペ本人がこれじゃ、俺達無しで政府はどう動くことができるんだろうな?ビビって小便垂らしてる姿が目に浮かぶぜ。ハハハ。笑える。」

日本を馬鹿にするようなことを言ってきた。だがこの言い方はまるで日本以外は既に

「あのな、もう既にパーシペと一部の人間は共存してんだって。日本(ここ)だけだぜ、パーシペとスカウターだけでやってんの。」

つまり、パーティーシペイターは昔から世界中にあって日本が特別遅れているだけ。そういうことになる。

「まぁ、いいや。俺達は捨て駒として、日本(こっち)に派遣されてきた。でもなぁ、俺達だって命は惜しいんだ。そこでさ、お前、ここで死ぬか、()退()()()()()()()()?」

こいつらは何を、いや辞退ってまるで俺がゲームのプレイヤーになってるみたいじゃないか。俺はそんな生半可な気持ちでパーティーシペイターをやっていない。

「悪いが、お前達はさっき人をあれだけ殺した。だからどんな理由があれ、生かすわけにはいかない。」

そう言うと外国人達は吹き出し、派手に笑い合った。

「どの口で言ってんの?犯罪者の分際で他の犯罪者を裁きます?何お前?正義の味方なの?ブーメランになるけど、あれだけ人を殺しておいて?お前の理論じゃ、仮に俺達を殺したとして、お前も死ななきゃならねぇんだぜ。そんなのただ命の無駄じゃん。なら、両方が生き残る選択をしようや。坊っちゃん。」

そんなことは分ってる。本来、大罪人の俺が生きてるのはおかしい。だから、全て終わらせた後に死んでしまおうと思っている。でも俺が死ぬことで悲しむ人がいるかもだから、そこはやるせない気持ちになる。

「毛頭、生き残る気なんてない。皆を救った後は俺が死ぬ。だから俺と同じ殺人を起こしたお前達も生かしておけない。」

外国人達はもう呆れているようである。

「皆を救う?仮に災害(デザスター)を倒したとして、皆が生き……ッ!?」

それ以上聞いてはいけない気がした。こいつらと話していると人間と話している気がしない。故に拳で顔面を貫いた。途端に黒い(もや)が出て、死亡が確定する。

「ウッソだろお前、精神状態おかしいよ。」

もう1人の外国人が笑いながらそう発言する。

「誰のせいだと思ってんだ!」

俺の中で何かが壊れた。外国人の襟首を掴み、頭を殴る。

否、威力が高すぎるせいで頭は粉砕した。勿論、黒い靄は発生し、死亡が確定する。

それでも俺は攻撃を続けた。

「お前等がパーティーシペイターをつくったからだろ!デザスターとかスレットをつくったからじゃねぇのか!あぁ!?」

支離滅裂なことを言いながら攻撃を続けていると、強制転移が始まった。そのお陰で俺のさっきまでの怒りは収まり、責任を押し付けて、根拠の無い理由で人を殴り続けた俺自身に怒りが湧いてきた。

「俺は……!……俺は!どうしたらいい……!どうしたら全てが丸く収まってくれんだよ…!」

さっき、地図を何度か押した分の転移が起こり、何度か風景が移り変わる。

転移先の地面に怒りをぶつけ、頭を上げると、そこには

不可解な形をしたスレットが立っていた。 

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