絶望の物語
※この作品は文章の稚拙さや表現の都合上、読者様を不愉快にさせる演出がございます。
お読みになる際はご注意してお読み下さいませ。
第3話
絶望の物語
俺の目の前には知らない場所でありながらも知っている人影があった。
「なんで、大智がこんなとこに?」
大智が目に入って数秒間、大智に釘付けだった俺の視線は次第に周りの風景も映し始める。
そこには又もや目を疑う光景があった。
「大智のお母さんと俺のお母さんまで……一体何が起きてやがる。」
場所はおそらく喫茶店だろう。それも人気が殆どない場所だ。そんな中この3人は机を囲み母親2人は互いに睨み合いを行っているように見える。
「ねぇ。どうしてあなたの所の息子は亡くなってないんですか?」
この睨み合いの中最初に口を開いたのは俺のお母さんだった。身体も痩せこけて俺にいってらっしゃいを言ってくれたお母さんは見る影もない。
「そんなこと言われても私達は理由なんて分からないですよ。」
大智のお母さんは俺のお母さんに対して真剣に答えている。
「嘘でしょ。それ。」
そんな答えにも俺のお母さんは聞く耳を持たない。俺はこんなお母さんをもう見ていられなかった。そもそもお母さんは勘違いをしている。
「俺はまだ生きてる。お母さん、落ち着いてくれよ。」
呼びかけたが意味は何もなかった。
2人はまた沈黙を続け始める。
その沈黙を破ったのは
「スパゲッティです。」
喫茶店の店員だった。店員は机の3人に手際よくスパゲッティを渡し
「ごゆっくりどうぞ。」
そういって去っていった。
俺のお母さんはスパゲッティを食べる為かフォークを誰よりも早くとった。
「ねぇ、大智君は今回の件。禎流が死んだ件。何か責任を感じてる?」
大智のお母さんは慌てて
「ちょっと子供に何を言ってるんですか!?」
そう呼びかけるが俺のお母さんではなく大智の方が口を開いてしまった。
「はい。禎流が死んでしまったことには僕も責任を感じています。あの時、僕が無力だったばかりに人を死なせてしまった。僕はこの件のことをそのように捉えています。」
この答えを聞いた俺のお母さんは持っていたフォークをスパゲッティから大智の方へ向け始める。
「そうよね。責任感じてるんなら、ちゃんと償わないと気持ちもスッキリしないわよねぇ。仕方がないことよ。」
その後、誰にも聞こえない声で
「責任を感じてる時点で間違ってるのはあなただから……。」
そう続け勢いよく大智のお母さんを目掛けてフォークを突き出した。
そのフォークは大智の手によって大智のお母さんに届くことを阻止された。
「キャー。け、警察、警察を呼びます!」
目の前にフォークがあることに気付いた大智のお母さんは動揺し警察を呼ぼうと慌てて携帯を操作する。
「えっ。圏外……そんな………。」
人気の無い喫茶店を選んだ理由。成る程こうなることを事前に予測していたわけだ。ならばどうやってこの喫茶店は外部と連絡をとっているのだろうか、そんなことを思いながらレジや厨房を見るとそこには誰もいなかった。つまり
「私以外にも子供を失ってあなたのことを間違ってるって考えてる親がたくさんいるの。銃撃事件で未だに不明な点が多いのもあなたが仕組んだんでしょう!だから私達はあなたと子供に正義の鉄槌をくだしてやるのよ!」
大智と乱闘をしている俺のお母さんは興奮しており声を荒げながらも今度は大智にフォークを向けている。さらには店員役をしていたお母さんまでナイフを持って大智のお母さんに迫る。
「おい、あれって永理久のお母さんじゃねぇか!?」
店員役のお母さん。それはまさかの永理久のお母さんだった。相当大智のお母さんに恨みがあるのだろう。大智のお母さんの評判が親の中で悪いというのは聞いたことがある。しかしここまで酷いとは思ってもいなかった。
俺はこの理不尽な状況を打倒すべくスレットの時に出していた剣を俺のお母さんの心臓部へ向ける。
「間違ってるのはお母さん達の方だ!」
正気に戻って欲しい。ただその一心で俺のお母さん心臓を貫く。
より先に大智が俺のお母さんの首をフォークで突き刺していた。
首から大量に血を噴き出しながら俺のお母さんは地面へ倒れる。俺がその光景に目を取られている間に大智は自分のお母さんを殺そうとしている永理久のお母さんを仕留めようと動いていた。そんな大智を目に止めず大智のお母さんを殺そうとナイフを振り下ろそうとする。
その永理久のお母さんの横腹に大智の蹴りが当たる。
「うグッ!?」
永理久のお母さんはのけ反り少し後退するがナイフは離していない。運動神経が良い永理久を産んだ人というだけあって体力や筋力、バランス等もおそらく子供よりは上だろう。
「永理久のお母さん。聞きたいことがあるんですけど。」
急に大智が質問する。永理久のお母さんは初めはびっくりしていたがほんの数秒後に
「えぇ。何?」
と質問に答える気を見せた。
「どうして僕ではなく、お母さんを狙ったんですか。」
言われてみればそうだ。俺のお母さんと永理久のお母さんは大智ではなく大智のお母さんを殺そうとしていた。
「大智君が責任を感じてる以上、大智君には責任を取る義務がある。それは分かる?」
「はい。元よりそのつもりです。」
「私達は大切なものを失った。それと同様にあなたも大切なものを失う。これでお互い様ってことになって責任を取ったってことに私達はしたいの。」
なんだよそれ。そんなの大智に取らせる責任じゃない。そもそも大智は責任者ですらない。本人がそう言っても実際は俺が見た現実が否定している。
「だから、こんなことは間違ってる。もう、止めにしよう。」
俺はここでやるべきことをしなければならない。
大智達はまだ会話を続けている。この隙をついて現実に干渉できる武器を創り出す。なんだっていい、干渉さえできればどんな武器でも。
『ERROR』
突如、俺の脳内はその言葉で溢れ返った。視覚や聴覚すらもその言葉で支配される。そのせいで考えることができず仕方なく思考を放棄する。するとやや言葉の支配は収まり視覚のみ回復した。
回復した俺の視覚はそこに大智が永理久のお母さんの喉を踏み続けている映像を映した。
「………、これは、仕方の無いことなのか?」
こうしなくてはならない理由があるのは分かってる。たとえ大智であっても大人を無力化することは難しいだろう。だから殺すしかなかった。自分のお母さんを守る為に。
「でも、なんたって大智がやってることじゃねぇか。これが間違ってるわけないよな。」
自分にそう言い聞かせる。俺がこれまで見てきた中で大智が間違ったことは一度も無い。これでいい。俺はそう思い早く次の場所へ移動しようと赤い点を押す。
『IMPOSSIBLE』
意味が分からず赤い点を押し続けるが変わらずこの文字が表記され、ワープが行われることはない。
「なんでだよ。もう悪い奴はいないじゃないか。」
俺がそう言った瞬間、俺の視覚は矢印が指され『TARGET』と書かれたものを映した。
「なんだよ、ティ、エーアールジーイーティって。待てよ、最後のジーイーティは見たことあるぞ。確かゲットって読むんだよな。最初のティエーアールってなんだ?ローマ字か?だとするとターゲッ……ト……。」
俺は即座にその言葉を否定した。ターゲットな訳がない。ターゲットの意味なら知ってる。だからこそ否定する。大智は自分のお母さんを守る為に戦った。それは正しいことじゃないか。どうして、大智がターゲットになるんだ!
「お母さん。帰ろう。まぁ、僕は殺人犯だから警察に行くんだけどね。」
大智のお母さんは涙を流しながら大智を抱き締める。
「いいや、あなたは行かなくていい!あなたはお母さんを守ったの!これは正当防衛よ!私達が生き残る為の正当防衛なの!だから一緒に帰れる!帰りましょう大智!」
大智はその言葉を聞いても顔色1つ変えないで
「僕にこれしか取れる手段がなかったとしてもやったことは紛れもなく人殺しだ。だからどんな理由であれ僕は罰を受けなくちゃならないんだ。」
大智のお母さんに対して言い放つ。大智のお母さんはそんなことないと言いながら抱き締め続ける。
でも俺には分かる。大智はこの抱擁を振りほどいて1人で警察に自首するのだと。そんなことはさせてはならない。大智が自首する必要なんて何処にもない。
「もし、大智が罪の意識でこんなことを言ってるっていうんなら、俺がやることはたった1つだろ。」
パーティシペイターは人の悪意を祓う。大智が人を殺したことを悪いことだと思っているなら俺がそれを祓うことでもうこんなことは言わないでよくなるはずだ。
剣を大智の方へ向ける。
「お前は悪くなんてない!あんま、気負いすぎんなよ!」
ターゲットになる条件。なんか多少分かった気がする。悪意を抱いた奴だけじゃない、自分が悪いって思った奴もターゲットになるんだ。だからそいつらから俺は悪意を祓う。これが俺の役割だって言うのなら果してみせる。それがみんなの幸福の為だから。
俺は大智を突き刺した。なるべくすぐに悪意が晴れるように多分、心が存在している心臓を真っ直ぐ貫いた。その瞬間に黒い靄が発生し俺は大智のその後を見ることなくワープした。
景色が暗転し、知らない場所に出る。しかし今回はいつもとは違って数回ほど景色が暗転を繰り返した。とはいえ最終的に出た場所は最初に見た場所と同じだ。
「俺が赤い点を押し続けてた時のデータが残ってたってことか?」
『IMPOSSIBLE』と腕輪に表記された時に何度も同じ点を連打したことが原因であるのかもしれない。そうすると疑問が1つ残る。
「さっきの様子じゃあターゲットから黒い靄を出さないとワープって出来ないんだよな?」
つまり今起きたことはワープではない何かであるか、同じ場所であればワープは適応されるということか、またはそのどちらでもないかという理由が推測できる。
「今考えても分からないものは分からないよな。先にターゲットを探す方が得策になるか。」
そう考えターゲットを探す為に周りを見渡す。場所は何処にでもありそうな住宅街で、何人かの小学校低学年生と思わしき人達が遊んでいる。よく見ると石を蹴って遊んでいるようだ。
「何が問題なんだ?この状況。」
確かに平日の昼間に小学校低学年生がこんな所で遊んでいるのは問題と言えないことはないがもしかすると何らかの理由があったのかもしれないと考えることができないことはない為100%問題とは言いにくい。そんなことを考えていると黒い高そうな車が住宅街の中に入ってきた。その車は家の前に止まり運転手は中々降りてこようとしない。まさか盗撮か?と思い車内を覗き込むが運転手はどうやら電話をしているようだ。つまりこの運転手も何の問題もない。本当に意味が分からず俺の頭が混乱を極めていた所、携帯を見ながら自転車をこいできた男が黒い高そうな車に衝突してしまった。車の運転手は電話を切って一度背後を振り向き苛ついた様子で車から降りてきた。そして自転車の運転手の手を掴み強引に近くの家へ入っていった。
「ながら運転はする方が悪いしな……。キレられても文句は言えねぇよ。」
小学校低学年生達を心配し振り返ると彼等はまだ石を蹴って遊んでいた。しかしさっきとは違い結構熱が入っているようで派手な蹴り合いが始まっている。
「これ……大丈夫なのか…?」
パリンッ
俺がそう言った矢先に彼等が蹴っていた石が黒い高そうな車の窓を割ってしまった。彼等の中の1人はやべぇよやべぇよと呟いている。そんな中、1人の生徒はいいから逃げるぞと言って全員に退散を勧め一目散に逃げていった。
「………………いやいや謝れよ!逃げちゃ駄目だろおお!」
流石にこれは見逃せない。そう思って追いかけているとさっきの生徒が
「やったぜ。やってやったぜ。俺さ、なんか高そうな車みるとイライラするんだよ。なんか快感だ!」
等とひねくれたことを言い始めた。
これはマジで反省させてやると、俺は決心し剣をさっきの生徒に向ける。そして小学生達に追いつくと同時に背中から剣を突き刺した。
「お前等には反省が必要だ!」
そう怒鳴り、剣を引き抜く。剣を引き抜かれた生徒は口と腹から血を噴き出し黒い靄を出しながら倒れた。それを見た他の小学生は悲鳴を上げ一目散に逃げていく。
「急に仲間が倒れたら、逃げもするよなぁ。」
そうは言っても他の生徒も俺が刺した生徒から何か悪いことを吹き込まれている可能性がある。だから追いかけて他の生徒も剣で刺した。先の生徒と同様に血を噴き出し黒い靄を出しながらながら倒れる。
このまま放置したら車に轢かれてしまいそうなので全員をまとめて道の端に置いた。
「まぁ、こんなもんでしょ。こいつらって本当に生き返るのかなぁ?」
クリエイターが言うには俺がその場を立ち退いた時から復活が始まるというから俺がこいつらの復活を見る方法は基本的にない。
「今頃、俺が最初に悪意を祓ったあいつらは人をいじめることなく学校生活やってんだろうなぁ。」
そんなことをふと思いながら別の赤い点を押した。
次からは簡単なことばかりだった。1人目は万引き犯で店から出たところを剣で刺した。2人目は道路に寝転がって叫ぶ変人だった。そこは割と都会のほうで、こいつのせいで交通渋滞が起きていた為うるさい口を剣で刺して誰にも迷惑にならない店と店の間にある小さな道に置いた。3人目は不法投棄をしている人だった。正確には人達でだいたい10人ぐらいだった。そんな人達が山の中で車から捨てるものを取り出し傾斜にどんどん捨てていく。殆どが大型の物で、そんなものが大量に捨てていかれると流石に自然環境が壊れてしまう。
「でもなぁ、こいつらから悪意祓った後はどうすりゃいいんだ?」
悪意を祓うとこいつらは動かなくなる。だからこいつらを車に入れて山の麓に降ろす必要がありそうだ。とはいえ車なんて運転したこともない。さらには車の量も3台。
「車、持つことできねぇかなぁ…。」
試しに1台、下から抱えると普通に持ち上がってしまった。それも片手で。バレたらマズそうと思いゆっくりと音が立たないように降ろす。そして急いで周囲を見渡すが全員気づいている様子は無かった。
「これでやり方が決まったかもしれねぇ。」
何であれまずは不法投棄している奴らの悪意を払わないことには話は始まらない。そんなわけで1人ずつ黒い靄を出していく。次はこいつらを車に入れる。車の種類は6人乗りが1台と軽トラが2台。つまり6人、2人、2人でちょうど車に入りきる。
「後は……」
こいつらが捨てていったゴミを全て車に戻していく。この作業が大変で日が暮れるまでやり続けた。どうにかこうにか終わったはいいものの軽トラの荷台がパンパンで運んでる途中で物がボロボロ落ちていきそうだ。
「先に6人乗りの車から降ろすか。」
取り敢えず山の麓まで6人乗りの車を降ろし始める。麓まで降りると田んぼ等が広がっており割と田舎であることが分かる。もう日も落ちて暗くなっており人影もない為、誰もいない敷地に車を置いた。
「1日経つのがはえぇなぁ。」
そんなことを考えながら残り2つの軽トラを慎重に山から降ろしていった。案の定ゴミが途中で落ちていったため軽トラを降ろした後、一通りゴミを回収し軽トラの荷台に押し込んだ。
ふぅ、とため息をつくが実際には身体は全く疲れていない。しかし人間離れして約2日。どうもこの感覚に慣れず精神的に疲れたのかもしれない。
「はぁ。でも今日はなんか正義をやったって感じだったな。」
思い返してみると朝は気分が悪くなることだったがその後は何かと本当に悪者を退治している気分だった。クリエイターが言うようにパーティシペイターは正義の執行者で正しい。
「明日も頑張っていくぞー!」
明日への気合を入れ、俺は人間がいない草むらで夜空を見ながら夜を過ごした。
夜が明け始まると雨がポツポツと降ってきた。始めは小雨だったのだが約30分くらいでどしゃ降りになった。しかし不思議なことに俺の身体は全く濡れていない。それどころか雨が俺を貫通しているように見える。
「マジで現実と違う世界にいるんだな。俺。」
そんなことを思いながら今日初の赤い点を押した。
目の前が暗転し知らない場所が目の前に映る。
「こんな雨の中誰が悪事を働こうって思うんだよ。」
苦笑しながら周りを見渡す。するとカッパを着た怪しい人影がフェンスを登っていた。フェンスの先には家がある。
「帰宅にしては怪しすぎないか?」
怪しいと思い人影を追う。そうするとフェンスが俺の行く手を阻もうとする。一瞬戸惑ったが雨が俺を貫通したのを思い出し、フェンスに向かって走り出す。
「やっぱりか。」
思った通り俺はフェンスを貫通する。しかしこのことに気を取られていたせいで怪しい人影を見失ってしまった。
取り敢えず、家の中に入り人影を探す。
人影はすぐに見つかった。玄関の近くにある部屋で色々と物を散らかしていたのだ。さらに高そうな物を手に抱えている。
「金品目的ってわけか。てことはこれは空き巣だな。」
状況を見るにこの家の住人は今はいない。なぜならこの家は玄関の近くに部屋が1つあり、トイレと風呂があるだけの小さい家だからだ。
そう考えるとこの空き巣犯は小さい家に何を求めたのだろうか?
「あった!見つけた!見つけたぞ!」
空き巣犯は目当ての物を見つけたらしくとても喜んでいる。
何を見つけたのか疑問になって見てみるが俺にはよく分からないものだった。ただ、1枚のカードと手帳のような物だ。
「よく分かんねぇけど、人の物を盗むのは良くねぇ。」
こいつが本当に悪者なら俺の攻撃が届く筈だ。ひとまず剣を空き巣犯に振るう。
空き巣犯の身体は斜めに肩から腰にかけて切れた。その後すぐに黒い靄が出た。
「やっぱりこいつは間違ってやがったか。まぁ、何事もなく落ち着いて良かったよ。」
興味本位で空き巣犯が取ろうとした手帳を拾って中を見ると銀行と書いてあった。どうやら空き巣犯は銀行からこの家の主のお金を引き出すつもりだったのだろう。そのお金で何をする気なのかは知らないが悪いことだということだけ分かる。それを食い止めれた為、俺は間違いなく正義を執行したのだ。
「今日は朝から気分が悪くなることじゃなくて良かったな。」
そう言った瞬間雷が落ちるあまりにも大きい音がした。
「近いのか?なんか今まで聞いてきた中で一番大きい気がするんだが。」
気になって雷が落ちたと思われる場所を見ようと外へ顔を出す。
雨は止んで、静かだった。
ただそんな中で俺の目に留まるものがあった。
それは見覚えのある顔で黒い服を着ており建物へと入っていっている。見覚えのある人物は2人程いたがその2人がいるなら確実にもう1人いなければならない人物がいない。そして最も印象が強かったのは先の人達が列をなして皆黒い服を着て建物へ入っていることだった。全員が入った後、着物の様な服を来た人物が入っていった。
「おい………これって……。」
俺も結構昔に一度体験したことがあることだと思う。その状況にとても似ている。
「葬式………だよな…………。」
急いでその場所まで行くと立て看板がありそこには軌条大智と書いてあった。勿論他の文字も書いてあったが俺の視覚には映らなかった。
「いや、そんな、馬鹿な。そもそも俺がやってることは殺しじゃなくて悪意を祓ってるだけの筈だ。だからこんなこと有り得ない………。」
有り得ない。有り得ない筈だ。大智がなんで死んだ扱いになってやがる。他の奴らは全員生き返……。
「生き返って……。いいや俺に確かめようがないだけで生き返ってるんだ。何よりクリエイターが俺にそう言ったじゃないか。」
きっと何かの間違いだ。それが今から証明される。大智は今頃生き返ってる筈なんだ。そう思いながら式場に入る。
そして認められない事実を目の当たりにする。
泣き崩れ取り乱している大智のお母さん。何かを我慢している他の皆。その中には大智のお父さんも含まれる。
しかしそれよりも俺の視覚は棺の上にある大智の写真の方を大きく映した。
「嘘だ。嘘だ。嘘だ!し、死んでなんかない!」
動揺して棺の前まで走る。そこには目を閉じている大智の顔があった。
「大智!しっかりしろ!おい大智!」
必死に呼びかけるが誰にも届かない。俺が呼びかけている間に着物を着た人が何かを読み始める。俺はこの時読み出された言葉を呪いとしか考えられなかった。
「こいつだ。こいつが大智を殺そうとしてるんだ!」
着物を着た人に剣を振るう。しかし俺の剣はすり抜けるだけであった。
「なんでだよ!なんでだよ!こいつはッ!こいつはッ!」
切れないのが分かっていても俺は夢中で剣を振るってみるものの結局は切れないということを理解し剣を降ろす。なんとなくで周りを見渡すと俺が経験したことのある葬式の様子を思い出されるくらい雰囲気が似ていた。
「あの時は………。」
俺の場合はお爺さんの老死だ。その時はちょうど小学1年生の時で俺はそもそも老死がなんなのか分かっておらず、お母さんに老死とは何かを聞いた。するとお母さんは年をとって死ぬことだと教えてくれた。その後式場に行き皆何かを我慢してそこに居続けた。俺は死ぬために年をとるなんて間違ってると思いなかまらその場に望んでいた。だからこそ分かる。皆と同じ様に悲しみに暮れずに違うことを考えていた俺は自分だけ違う場所にいる気がした。それは今の状況も然りだ。俺1人だけ違う場所にいる気がする。つまりこれは
「本当の葬式だってのかよ………。」
本能的に認めざるを得なかった。根拠は雰囲気という曖昧なものだが、今の俺にはたったこれだけのことでさえ納得できてしまうのではないかという考えが動揺しているせいで強くなっている。
「それでもまだ、まだ決まったわけじゃない……。」
認めてしまいそうな今の状況を俺は無理矢理否定する。本能に抗う。
俺が自分の整理をしているだけでも周りの状況は変化していく。気付いた頃には何かを読んでいた人は退出し、今は大智の入っている棺が車に乗せられ、その車は出発しようとしている。
「……待ってくれ!まだ大智は生きてる筈なんだ!」
俺が慌てて大智の入った棺を追い始めた時には既に車は出発していた。
急いで車を追いかける。パーティシペイターの力を以てすれば車に追い付くぐらいなら割と簡単にできる。しかし今回はどうも足が重かった。そのせいで上手く走ることができず何度もこけながら走ることになり、車が別の建物に着くのと同時に俺も車に追いつくことができた。
「大智は……」
車を見ると機械に棺が乗り建物へと運ばれている。
「大智を返せ!」
そう叫び建物へ急いで入る。
「大智!どこだ!」
聞こえないのは分かっているがどうしても言いたくなる。
だって、大智はまだ………。
建物内で大智の入った棺は数人の手によってどこかへ運ばれている。
「待てよぉぉぉ!」
大智をどこかへ連れて行こうとしている数人を斬りつける。しかし俺の剣は今回もすり抜けるだけ。俺はただ大智が連れていかれるのを見ることしかできなかった。
そしてとうとうその時が来る。
一度葬式は経験してるし、その後の収骨すらもその時にやったことがある。そう、この後大智は焼かれる。そうなれば俺が殺した訳じゃなくなるはずだ。そうすると大智は本当に生き返らなくなってしまう。
大智の入った棺は火葬するところに入れられた。
合掌を終えた後、大智のお母さんは泣き崩れ、点火のボタンを押すことはできない。そんな状況である為大智のお父さんが点火のボタンの前に立った。
「いや、違う……。待ってくれ…。まだ、まだ大智は!」
「ありがとう。」
俺が叫んでいる中、大智のお父さんはただそれだけを言い点火のボタンを押した。すると大智のお父さんの目から我慢していた涙がボロボロと溢れてきた。
「ありがとう……ありがとう。大智が…私達の子供でいてくれて……。」
その言葉を聞いた周りの皆は連鎖的に泣き崩れていく。我慢していたものが溢れ出したように。その光景を見て俺は罪悪感を覚えてしまった。さらには一部の人が大智の過去の話をし始めた為俺も釣られるように大智との生活を思い出してしまう。
それは俺が葬式を終えた後の日に学校へ行った時の思い出だ。俺は大智に死ぬために年をとるなんて間違ってると思わないかと言った。大智は少し考えてから
「確かにおかしな話ではあるよね。でもさ、終わりがないのも何か間違ってると思わないか?」
そうかなぁ?
俺はその時大智の言ってる意味があまり分かっておらず、終わりがないことを正しいことだと思っていた。
「終わりがないとさ、生きる実感って湧かないと思うんだ。それっていいこととは思わないだろう?」
確かにその通りだ。終わりがないと生きてる実感なんて湧かない。生きてる実感がどこまで俺達に影響を与えてるのかは分からないが少なくともそれなしでは生きていけない気はする。
じゃあ、老死って、間違ってないことなんだな。俺はそう呟いた。
「どうだろうね。僕としては死ぬことに正しいも間違いも無いと思うけど。」
へぇ~、新しい価値観だな。でもその通りだ。今考えてみると確かに死ぬことが間違いなんてことは言えない。正しいとも言えないな。死ぬことってのは難しいことなんだな。
俺はそこまで考えると1つのことに思い当たった。
待てよ。間違ってる死に方ってのは存在するよな。例えば薬物を乱用して死ぬこととかさ。
「おぉ。確かにそうだ。あぁ僕も人に殺されるのは嫌だな。僕の中じゃ間違ってる死に方になるね。」
この言葉が今の俺に突き刺さる。俺はその後理由を聞いた。
「人に殺されるってことはさ誰かの恨みを買ったってことだろう。僕は皆に信頼して欲しい。だから僕は人に殺されたくなんかない、もしそうなるとしたら僕は僕じゃなくなってると思う。」
俺は……この考え方を聞いてやっぱり大智は凄いと思った。
そっか。やっぱ大智は大智だ。ありがとな。相談に乗ってくれて。まぁ安心しとけよ。
俺は本当にそう思ってた。何の嘘もない。俺が後に続けた言葉も本音だった。そう。本音だったんだよ!
少なくとも俺は、大智に関わってるこの学校の皆は誰も知らないお前を殺さないさ。
特に俺は。絶対にな!
俺の目の前には棺が燃やされ黒くなった身体を見せる大智の姿があった。そしてその腹にはまだ俺が剣で刺した跡が残っている。大智の無事を確認したいが為に火葬される場所に入ったものの俺が確認できたのは俺が大智を殺したとしか言いようのない証拠だけだった。
あれだけ大智を信用させておきながら俺は大智を平然と裏切っている。
「だ…大智…こ…これだけは、これだけは信じてくれ。お、俺はお前を…お前を恨んでなんかないんだ。……頼む。頼む大智。信じてくれ。大智ぃ。」
俺は罪悪感に負け、大智に恨んでないことを跪いて伝えることしかできない。
しかし俺の中にはまだ悪くないと思っているところがあり、本当はどっちなのかが分からず思考がぐちゃぐちゃしている。なんか、まるで、俺の中にまだ他の人間がいるみたいに。
気付いた頃には大智は骨だけになっていた。その骨にすら俺が貫いた跡が残っている。
「ごめん大智。俺さ行かなきゃいけないんだ。」
俺はぐちゃぐちゃした思考のままここを離れることを選んだ。最低な考えだということは分かってる。でも俺にはやらなくてはいけないことが見つかった。
大智を俺が殺したというのであれば俺がこれまで悪意を祓ってきた奴ら全員俺が殺したということになる。しかしその証拠が出なければ俺は大智を殺しておらず大智との約束は守られたということになり俺の罪悪感が消えるはずだ。
「何考えてんだ俺……。」
全くその気は無かったのだがさっきから俺は大智ではなく自分のことばかり考えている。自分の身の潔白を証明するために。今いる場所は火葬場から相当離れており、今から大智のもとへ帰ろうにも多分大智の近親者は既に帰っているだろう。
「そういう問題なのか……?」
もう自分の考えが分からない。色んな考えが浮かぶがどれもこれも正しいこととは思えない。
「どうしたら良いんだよ…。」
どうしたら良いのか分からないまま俺は今やってることの続きを始める。
もし俺が殺しをしたというならテレビや新聞なんかで殺人事件の報道をやっている筈だ。その為家屋に入りテレビを確認するかポストに入ってる新聞を確認する必要がある。しかし新聞は俺が現実に干渉できない以上誰かが見ているのを見るしかない。テレビも同じ様に家屋に侵入し誰かが見ているのを見るという方法以外確認の手段は無い。
「テレビの方が取り上げてるチャンネルが多いよな……。」
物心ついた時からテレビが身近にあった俺としてはテレビの方が信用がおける。
「だとしたら不法侵入やらないといけないのか…。」
でも俺の正しさを証明する為に必要なことなんだ。仕方がない。そう割り切っていいものか判断し難いものではあるが、もう考えてもキリがない。
「やるしか……ないなら、やるしかないんだ。」
喝を入れ、目についた家屋に侵入する。侵入した家屋はちょうど家主がテレビをつけた所だった。そのテレビに映ったのは
『速報です。P県Q市にて車に入った死体が発見されました。』
何を言っているのか分からない。
『4月25日の14頃近隣住民が腐食臭のする車を発見し、中を覗くと10人もの死体が遺棄されていたとのことです。現在
、警察は捜査を開始しておりますが原因はおそらく殺人グループの一員によるものかとされています。』
殺人グループ?なんだそれは?
「うわぁ、またか。このグループ、一体何が目的なんだぁ?」
家主は恐ろしやと言いながらも同じチャンネルを見続ける。
『殺人グループはX県Y市Z小学校で大量殺人を行い、a県b市のアパートにて立て篭もり爆破を起こし、またもやX県Y市のOスーパーで強盗を行い、2人の被害者を出しました。これが4月23日の行動です。4月24日は殺人グループの挑発と思わしき道路の破壊がM県N市にて行われ、G県R市では小学生3人の殺害、K県J市では万引き犯1人の殺害、H県I市では道路で寝ていた男性の殺害、さらに同所にて殺人グループを名乗る複数の男性による迷惑行為がなさています。そして本日4月25日今回の殺害を起こしています。』
始めは身に覚えのあることだと思った。でもすぐに俺は否定した。殺人グループが本当に存在しているのだ。そう考えた。
テレビでは専門家が殺人グループの行動目的について語っている。
『おそらく彼等は政府への挑発或いは快楽殺人を目的としている可能性が大いにあります。その証拠に被害者の中に万引き犯のような犯罪者が含まれています。これは悪人を殺害することで自分を正義だと思い込み快楽を得る為の行為だと考えることができます。』
「うわぁ、そんな…自己満の為に人を殺してんのか…やべー連中だぁ。」
そんなことを言っている家主に俺は剣を振っていた。勿論剣は空振りする。俺は腹を立てていることに気付いた。殺人グループのせいだ、と言い聞かせたのにやったこともない奴等に言われるとどうしても我慢できない。
『と言ってもです、彼等のやってることは犯罪に他ならない。小学生を大量虐殺しようと万引き犯を殺害しようとやってることは何も変わらない。全く同じ快楽目的の殺害をやっているにすぎません。』
「お前に何が分かるってんだよ!」
テレビに向かい剣を投げつける。
「俺だってやりたくてやったんじゃない!それが正義だって言われたからやったんだ!」
『結論、自分可愛さで動いてる為、目的という目的は無いと言えるでしょう。』
専門家はそう結論づけ、周りはそれに賛同する。その光景を直視できなかった。認めてしまったのだ。俺がやってきたことを自己満だと馬鹿にされそれにキレてしまった時、無意識の内に自分自身の行動だと自分で認めてしまっていたのだ。
つまりそれは俺が人殺しであることを認めたということになる。
「あぁぁぁ………。なんで…どうしてこうなるんだ……。何が、何が正義だ…。俺は、間違ったことを………?」
それは本当か?間違っているのは俺なのか?そもそも、そもそもこれが正義だって言い出したのは誰だ?それは俺じゃない。
「そうだ。そうだよ。間違ってるのはあいつだ。あいつじゃないか。あいつのせいで俺が人をたくさん殺すことになったんだ。」
俺は間違ってなんかないじゃないか。俺は騙されただけ。だから、だから!
「直接確かめてやる。俺を騙したってことを!」
自分の責任から逃げるように場所を変えクリエイターを呼ぶボタンを押す。無我夢中でボタンを押し続ける。
「どうしたんだい?そんなにボタンばっか押して。」
クリエイターは何も分からなず俺に問いかける。
「単刀直入に聞くぞ。お前なんで俺を騙した。」
何を言っているのか分からないという様子のクリエイター。
「騙したって何が?」
知らぬ顔で平然と疑問を口に出すクリエイター。その様子に俺は怒りを抑え切れなくなりそうだ。
「お前は俺に人の悪意を祓うだけだって言った筈だ。さらには俺が悪意を祓った人は生き返るとも言った。なのに誰一人として生き返ってない!なんなら火葬までされたんだぞ!」
怒りをどうにか抑えつつ騙された内容を伝える。それを聞いたクリエイターは
「あぁ。そのことか。僕としては騙したつもりなんてなかったんだけどね。まぁそんな風に受け止めたのなら気分を害してしまったかもしれないね。」
まるで自分は何もしていないと言わんばかりの返答をした。
「騙したつもりがない?だと?」
どう考えても騙したつもりがないは言い訳にも程がある。
「あぁ。全くないよ。適当に思いついた言葉を選んで言ったまでさ。どのみち君は僕がなんと言おうと人殺し以外の選択肢は無いだろうしね。」
思いついた言葉を選んだ?なんたよ、それ。つまり、こいつの気分ってことじゃないか。そのせいでたくさんの人が死んだってのか!
「この野郎ぉぉぉ!」
剣を振り上げクリエイターの首を狙う。これぐらいされないとこの無自覚な悪者は自分が間違ってるということすら分からない。
クリエイターは俺の剣をすらりと避け
「急に襲ってきて、君、何がしたいんだい?」
俺の怒りを完全の爆発させた。
「避けんなぁ!お前が悪いんだろうが!だったら、だったらお前みたいな奴は死なねぇといけねぇんだよ!」
そうだ。俺はこいつに正義の鉄槌を下さないといけない。この悪者を排除して正義を執行しなくてはならない。俺の中でそういった思考のみがよぎり始める。
「ははは。それじゃあまるで君のお母さんと一緒だね。悪者は死ぬべきなんて考え、やっぱり家族だ。」
本人にはその気がないのかもしれないが俺には煽りにしかきこえない。そう考え始めると剣を振る腕に力が入り振る速度が上昇していく。
「なんでこうなったか分からないけど、良い機会だし戦闘の訓練でもしてみようか。」
クリエイターは俺の攻撃すべてを避けながら状況に合わないふざけたことを言い始める。
「君はそもそも基礎がなってないね。パーティシペイターやスカウター、スレットなんかを相手取る時は常に相手の考えを読んで行動しないといけないんだ。」
唐突に俺が剣を振っている腕をクリエイターは思い切り殴った。
「あとは何処に力を入れるのか、それもイメージしないとね。」
そう言って俺の足を蹴り、転倒させた。それでも俺は諦めず立ち上がろうとしたがクリエイターに踏まれており、立ち上がれない。
「クソッ!足を離せ!間違ってんのはお前だろうが!クソッ!なんでこんな結果になるッ!こんな!こんなことが!なんで!」
この状態は本来おかしいことだ。善を為そうとする者が地面に倒れ悪を為すものがそれを踏み台にする。俺はこの状況が認めきれない。しかし立ち上がろうと腕に力を入れても腹から下が動こうとしない。
「だから、力の入れ方だよ。イメージさ。実際僕みたいに足を山だ、とイメージするとこんな状況が出来上がる。君は山に乗られているんだ。腕だけで持ち上がるわけないじゃないか。」
クリエイターは本気で訓練をし始めたのだとこの時気付いた。俺の怒りを気にも留めず、ただ俺に訓練をしているのだ。それが俺を余計苛立たせる。
「ふざけんじゃねぇ!俺は真剣にやってんだ!真剣にお前を排除するんだ!」
それを聞いたクリエイターは苦笑し
「それに何の意味があるのさ。」
俺を呆然とさせた。
「は?」
「意味なんてないんじゃないのかい?ただの自己満足だよね?僕を排除して愉悦に浸った後はどうするのさ?どうもしないだろう?罪の意識に苛まれて、また絶望し始めるんだ。」
クリエイターは足をのけ俺を蹴り上げ首を掴む。
「あぁ、さっきの一部訂正するよ。さっきは自己満足だと言ったけど君のは最早、結果的に自己満足ですらない。だって折角、愉悦に浸れたのに結局絶望するんだ。これの何処に意味があるんだい?」
俺はクリエイターが首を掴んでる腕に剣を振り下げた。
「それが、お前を殺さない理由になるかッ!」
腕に当たると剣はパリンと割れた。それを確認するとクリエイターは俺の首から手を離した。俺は力なく崩れ落ち顔を上げてクリエイターを睨む。こいつに表情は見えないだろうが。
「ふと、思ったんだけど僕がさっきした首絞めさ、君が最初に殺した人達にもやってなかったっけ?きっと君と同じ気持ちを味わったんだろうね。どうでもいいけど。」
許せない、許せない。だがこいつがさっき言った、殺した後はどうするか、それは何も反論できない。きっと俺はこいつが言った通りの行動をする。
「だからって!だからって!」
折れた剣を持ち直しクリエイターを目掛けて突き刺す。
「サクリファイス!」
『ERROR』
まただ。文字が脳内を埋め尽くす。昨日もそうだったが、なんなんだこれは!仕方なく考えるのをやめて前をみる。
俺の目の前にはクリエイターの顔があった。さらに顎を掴まれている。
「離しやがれ!」
「へぇ、君、縛られてるんだね。珍しいね。本来パーティシペイターは基本的に縛られなくてね、君がやろうとしていた現実に干渉する武器もつくれるんだよ。」
俺が特別だと?さらにはどうして俺がその武器を創ろうとしていたことが分かる?
「監視してたってのか?俺を?」
拍手を始めるクリエイター。
「よく分かったね。君初心者だからね、変な所でやられてもらったら困るんだ。」
監視までしてて、それでこの反応なのか?どうしてこんな反応ができる?
「お前は……何者なんだよ……。」
こいつが怖くなった。到底人とは思えない価値観を持ち、人とは思えない言動をとる。こいつはたとえ俺が殺しても反省なんてしないだろう。なんなら生き返ってくるかもしれない。
「前から言ってるけど僕は創造者だよ。君たちを雇って世界から悪を消そうとしてる者さ。そう考えると目的は君と変わりないね。」
「ふざけるなッ!誰が、誰がお前なんかと一緒だ!お前のは、お前のは完全なる悪だ!」
クリエイターは俺の顎から手を離した。俺は全身に力を入れどうにか跪くことを拒んだ。
「おぉ。出来てきてるじゃないか。これなら君も僕を戦闘不能にすることができるかもしれないよ。」
クリエイターの言葉を否定する。その一心で全身に入れている力を強める。
「ヴィクティム!」
黒い霧が全身を包む。視界を奪われ不利になったと思ったが、意外とそうではなかった。視界は黒い霧の中でも正常で、逆にクリエイターの方が周りが見えてないようである。こっそりと進もうと意識すると身体がなくなるような感覚を味わう。その感覚がやけにリアルだった為、腕を見ると実際に俺自身が黒い霧になっていた。驚きはしたが、これはアドバンテージになるのではという考えがすぐに浮かんだ。霧のままクリエイターの背後に近づく。
「サクリファイスヴィクティム!」
俺の視界が高速でクリエイターの背中を貫いた。周囲はもとの景色に戻っており黒い霧は無数の針となってクリエイターを突き刺している。勿論その針の中には俺自身が霧から針へ変化したものも含まれる。5秒程で全ての針は消え俺は人間体に戻った。
クリエイターは白くドロドロとした粘性のある液体を刺された穴から噴射しながら立っている。立っているだけで動いてはいない。
「倒した。俺の勝ちだクリエイター。これでいい。これでいいんだ。」
拍手をしながらクリエイターは俺の方へと歩き出した。
その光景をみて俺はもはや声すら出ない。
「さすが2つ名持ちだね。格が違う。さらにはサクリファイスヴィクティムの名を冠しているからかな、君の能力には全て規格外な処置がなされているみたいだ。」
「なんだよ、なんなんだよお前は!」
これには恐怖しか感じなかった。不気味な液体を出しながら言葉を話す道化。そんなものが存在するというだけでもホラーだ。
「犠牲っていうのはさ、宗教的には捧げられることで神様と繋がりを生むことが出来るんだ。だから君は基本の部分がなってなくても犠牲を捧げることで神様の力を使い無双することが可能なんだ。」
「お前、その単語の意味知らないって言ってたよな…、あと、なんだよ犠牲って俺は何を犠牲に捧げてるってんだ!」
正直クリエイターの言ってることはあまり理解できていない。しかし俺の単語の意味が犠牲ということと俺が何かを捧げていたということは分かる。こいつに聞いても適当なことしか言わないだろうが、もしかすると気まぐれで重要なことを話す可能性もあるかもしれない。
「分からないことは調べるのが普通だろう?君に見せたタブレット、あれには検索機能も搭載されてるんだ。犠牲に関しては君も気付いてるんじゃないのかい?」
こいつは何を言っているんだ。知らないから聞いているというのに。
「君、一度感じただろう。自分の中に誰かがいるような感覚を。」
俺を監視しながら頭の中まで覗かれている恐怖をここで味わった。
「一般的にさ人って死んだら天国か地獄に行くものだと思うよね。でも君が犠牲の名を冠しているから死んだ人達の魂は犠牲となって君に貯蓄されるんだ。少なくとも死んだ人達は何かしらの犠牲になった人達だからね、自然と君に貯蓄されるのは道理といえば道理だね。」
こいつが言ってることが本当であるのなら俺はこれまで…
「魂を消費して技を使ってたってことなのか……。」
「技だけじゃない。武器を創ったり、生き返ったりするのにも魂を消費してるよ。」
それはおかしくないか?だって武器を創ることはこいつの能力の筈で、俺の力ではない。
「ああ、言い忘れてたね。僕の能力は不完全な能力になってて、本来は犠牲なしで色々創れるんだけど、今は何らかの犠牲がないと何も創ることはできないんだ。」
「どうしてだよ!お前はタブレットを俺の前で創り出せたじゃないか!」
クリエイターは原型を留めてない顔を横に振って
「あれはその場で創った訳じゃないよ。元々創ってた物を取り出しただけさ。能力が完全な時に空間を貯蔵庫にする装置を創ってたんだ。」
話がますますややこしくなる。こいつは元々能力が完全だったが今は不完全になっているということなのか?こいつが本当のことを言っていればの話だが。
「お前の能力が不完全なのは原因があるってか?」
「あるよ。」
「じゃあその原因を取り除けば魂を消費せずに武器やらを創れるってことになるんだよな!」
「考え方はいいんだけど、僕のは取り除けるものじゃないからねぇ。」
クリエイターは顔を少し背け不気味な液体を体内へ戻しながら言葉を続ける。
「君の前のパーティシペイターをさ、災害戦で助力しちゃってね、それが違反だったみたいで、今の状態に至ってるわけさ。」
こいつが人助けをしたというのか?馬鹿馬鹿しいにも程がある。こんなクズみたいな奴には人を思いやる心もないだろう。
「嘘つけよ。お前がそんなことをするとは思えないぞ。」
「まぁ、君からするとそう思えるかもね。やっぱり息子だったからなのかなぁ。僕もよく分かってないよ。」
息子だと?こいつに家族なんていたのか。到底考えられないことだ。
「やっぱり君もそう思うかい?そう。彼女は僕もよく分からない人だった。死期が近いから僕と一緒に過ごしたいっていう理由で僕と結婚してくれて子供まで産んでくれたんだけど、僕にはその本心が分からない。」
クリエイターは俺の考えを勝手に読んで、それに答えた。ただ珍しく最後の方のテンションがやや低かった。
「なんだよ。お前も人の心ってのがあるのか?」
クリエイターは元に戻った首をかしげながら
「どうだろうね。君から見てそれが無いって思えるなら無いってことでいいんじゃないかな?」
想定外の答えを返してきた。どうしてもため息が出てしまう。俺が聞きたいのはそういうことじゃないんだなぁ。
「いや、もういいや。お前に聞いた俺が馬鹿だったみたいだ。それで?お前、今、奥さんはどうしてんだよ?ちゃんと顔見せてやれてんのか?流石にそれは難しいか。」
5秒程、沈黙。
何を意味するのか分からない沈黙だったが言葉を出すのが難しいくらい厳かな雰囲気だった。
「死んだよ。言っただろう。彼女は死期が近かった。子供を産んで3年くらいで死んだよ。これでも長生きしてたみたいだよ。」
沈黙の後に出された言葉。あの沈黙に込められたのは怒りか心の整理か、はっきりとはしないがいつものクリエイターとは違う雰囲気が出てたことは確かだ。
「悪いな。傷を抉るようなことを言ったみたいで。」
クリエイターは少し笑って
「ははは。さっきまで悪だって言ってた僕に謝るのかい?つくづく君の思考は変わってるね。」
そう答えた。謝ったのが少し馬鹿らしく感じたがこいつの過去の話の方が壮絶に思えてあまり気にはならなかった。
「気は済んでいるのかい?さっきから気になってたんだけど君は悪と対話をしている。それも殺そうとしていたやつとだ。そう簡単に気持ちを変えれるものじゃないだろう?」
「お前死なないからどうしようもねぇんだよ。それに俺は一度決意を決めてるし、今更引こうたって、これまで殺してきた人達のことを考えるとできそうもない。俺はもう罪人だ。ならどっかで責任を取らねぇといけねぇ。そうだ。一つだけ聞かせてくれ。」
「なんだい?」
「俺がこのまま人を殺し続けたらデザスターが出る。このデザスターを倒さないと日本は終わる。これは本当なんだな。」
「そうさ。災害は放置してたら日本たけじゃなく、下手すると世界そのものが危ないかもしれない。僕のことは信じきれないかもしれないけど、いざその時が来たら君はそう思う筈だ。嫌でもね。」
だったら出す結論は1つしかないじゃないか。
「俺は世界を守る。それを贖罪にする為に、さらに罪を重ねる。言ってることは目茶苦茶だが、罪人の俺にはこれしか選択肢はないんだ。」
もう、やるしかない。騙したこいつも悪いが後先を考えず、その場の状況で選んだ俺にも非はある。それが原因で俺は罪人に成り下がった。正しいことをしてたつもりが、犯罪行為に手を染めているだけだった。もう、このことに言い訳はしない。
「君の思考はころころ変わっていくね。まるで君の中に何か他の人の意思があるようにね。」
他の人の意思。薄々感じてはいた。だが実際どうなのかは分からない。どちらにせよ誰の意思があろうと俺の考えは変わらない。これからも罪を重ね、責任を果たす。
「かもしれねぇな。でもやることは変わらない。俺はもう後戻りは出来ないんだ。」
たくさんの人の未来を奪った。だったらせめて奪われる筈のなかった未来を幸せなものにするしかない。それが俺の出来る正しいことってやつだ。
「…覚悟は、決まった。…付き合わせてしまったな。悪ぃなとは言わねぇからな。」
「ははは。別に頼んでないよ。君自身、満足する答えを得たみたいだし話は以上かな?」
「あぁ。俺はもう行くよ。」
気付いたらクリエイターは完全に元の状態に戻っていた。そのことに呆れつつ、腕の赤い点を押した。
「さぁ、気合入れて行くぞッ!」
「結局、善悪の考え方は変わらないか。僕のことを異常者みたいに思ってたみたいだけどこれだけのことがありながら考え方の根底が変わらない君も大概なものだと僕は思うよ。」
道化の独り言。嘲りから来たのか、心配から来たのか。その真意は問うまでもない。
ただの発言に意味などないのだから。