第八層 episode.6
お待たせいたしました。今回の過去編が大体終わりです。
気がつくと自分は地面に転がっていた。目の前には四肢が裂かれ、胴体が二つに強引に千切られた遺体が二つあった。見覚えがある。墨汁をこぼしたような血の水溜まりに浸かった茶色の髪。黒髪の遺体の顔の横に転がった黒い瞳の眼球。
「……一体何が…?」
『意識回復を確認。現状把握開始……身体損傷率28%。デルタ、チャーリーのシグナル停止を確認。舞台損耗率50%。撤退を推奨します」
「……何が起こった?」
痛みを感じる神経からの電気信号を遮断しているため、痛みはない。COMからの情報によると左腕はすでに動く状態ではなかった。
チャーリー…ツムギ…。デルタ…マサキ…。
『14:32 敵性人型アグレッサーと戦闘を開始。
14:37 デルタ、シグナルロスト。
14:42 チャーリー、シグナルロスト。
14:50 ベータ、頭部への打撃により一時的に意戦闘不能。』
「……アルファは?」
「現在東北東ここから約120mで戦闘中。身体損傷率40%。急ぎ援護が必要と判断します」
「……ナビゲートを頼む」
「ナビゲート開始」
視界に道順が矢印で追加された。この通りに進んでいけば辿り着くはずだ。
「ベータ!よかった。意識が戻ったのね。現在アルファが人型アグレッサーと戦闘中。急いで援護に向かって」
「…了解」
今は戦闘中だ。何も考えず、敵を撃破する。それだけだ。二つの遺体に一瞥してからナビゲートに従い始めた。
近づくと、弱々しい銃声と爆発音が交互に聞こえてきた。到着と同時に戦闘音は消えた。
「……ユカリ」
「ぐ……ショ…ウ…マ。ご…めん…ね」
黒い鎧を着て人間には持てる大きさではない大剣を片手で携えた騎士に彼女は首を掴まれ、身体は宙に浮いていた。彼女は片脚が既に無く、身体中を自分の血で濡らしていた。
一瞬その大剣が手から消えた。それと同時にユカリの首と身体は離れていた。
黒い鎧の人型はぎこちない動きでこちらをゆっくりと見つめる。
「………敵を確認。排除を開始する」
「……みんなの仇。アンタに任せるわ。アイツをぶっ飛ばして」
怒りや哀しみを含み、震えるサヤカの声が音質の悪い無線機越しからでも聞こえた。
「…了解」
四人がかりでも倒せなかった相手だ。タイマンで勝てるとは思えない。撤退するべきだ。
『警告。撤退を推奨。戦力が不足しています』
COMは現状に則した事しか提言できない。自分も冷静じゃないのが分かる。怒りなのか、哀しみなのか、無力感なのかよく分からない感情が心で渦巻く。頭がクラクラする。視界が揺れてボヤけるが、敵だけは怨嗟の目で睨みつける。
『警告、撤退を推奨。戦力が不足しています』
「うるさい」
COMをオフにする。現状を指し示すデータだけが視界に映る。これでいい。何も考えず、目の前の敵だけを排除する。考えるな、考えるな。
「戦闘開始」
黒い騎士は鎧の中からくぐもった笑い声を上げながら飛びかかってきた。速い、さっき戦った時にも感じたが、鎧を着ているとは思えない速さだ。脚部の出力を一気に上げ、回避する。
急激な動いたため、受け身が取れずに転倒する。勢いを殺さずに転がって立ち上がる。
「遅いな小僧。まあ雑魚どもの中ではマシだが、まだまだ足りない」
「……っ!」
大剣が目の前を通り過ぎる。危うく首を持っていかれるところだった。首を刈り取ろうとする人型アグレッサー「デュラハン」どんな強者であってもデュラハンと戦闘した後には首のない死体が一面に散らばっているらしい。
あまりにも被害が多く出たために強化人間打撃群に排除要請が出た戦闘特化の人型アグレッサー。
「……やるなぁ!!クビナシにするのが惜しい思うほどだ!!小僧!」
高らかに笑いながら大剣を振り回す。それらを必死にスレスレで躱すが、躱すのに必死で反撃が全く出来ない。このままだとバッテリー切れで負ける。
「避けるばっかりじゃ勝てないぞ小僧!!兎みてぇに逃げてばっかりじゃよぉ!!」
大剣を投擲して来た。左手が使えないため、右手で逆手に持ったナイフでなんとか軌道を逸らす。しかし、あまりの重さ故にナイフは半ばから折れ、折れた部分が何処かへ飛んでいった。
「肉弾戦と行こうじゃないか!!」
デュラハンは鎧のままファイティングポーズをとって拳を振るう。破裂音に似た、拳が空気を裂く音が耳の真横でなり続ける。たった一つのミスで全てが台無しになる。そんな恐怖が心を支配しかける。 アドレナリンが多く出ているため、なんとか心だけは負けずにいられている。
あんなに重そうな鎧を着込んでいるのに大剣を持っている時より動きが早い。
残りバッテリーは34%。さっきから通常の出力以上を出して戦闘しているため、バッテリーの消費が激しい上に四肢に負担がかかり、少しずつ動きが悪くなっている。
「動きが鈍くなってんぞ」
使い物にならなかった左腕から感覚が消えた。
視界に映る自分の状態を映す人型のマークから左腕が消えた。恐らく左腕はもうない。出血もしているみたいだが、自動で出血を抑える機能が出血を直ぐに止めた。
「次は右腕だ」
削り殺される。恐怖が心の底から湧き上がる。少し動きが鈍った状態で四肢を持っていかれるほどの重さとスピード。こんな化け物相手に自分は勝てない。分かっていた。3人をものの十数分で屠った敵に一人じゃ勝てないことくらい。
「分かってたよ。勝てないことくらい。だから勝つ気もない」
「おお?諦めたのか?つまんねぇ男だな。ようやく楽しくなって来たところだったのによぉ」
「でも、負ける気もない」
無謀な突撃をする。勿論迎撃されて折れたナイフを握っていた右腕は消し飛んだ。右脇腹に穴が開く。それでもヤツに近づき、跳躍。首に足をかけ、全力で締め付けた。相手の背中を取った。鎧を着ているため、腕が後ろに回せないようだ。
脚の出力を出し過ぎたせいで足から破裂音が聞こえる。骨が幾度も折れて、悲鳴を上げた。しかし、そのおかげでヤツの怪力に引き剥がされることなくしがみつけている。
「じゃあな」
『警告。自爆シーケンスに入ります。3、2、1…』
爆音と共に戦場のオーケストラは静かに終幕した。
これからはもっと頻度を……上げたいですが、多分早くはならないかもしれないです。いつも楽しみに読んでいただいてる方達には本当に申し訳ないです…




