第一層 episode.5
「……」
無言で腕にカーテンを巻きつける。少し地面につくが仕方がない。多分こいつらがエルを襲った奴らだ。一匹の方の牙に血が付いている。さて取り敢えず作戦は思いついたがこの作戦は相手が攻撃して来なければ意味がない。
カーテンを片手に巻きつけ待ち続けていると狼の一匹が痺れを切らしたのか飛びかかってきた。
「チャンス!」
そのまま狼に飛びかかってカーテンで覆った腕に思いっきり噛みつかせた。牙がカーテンを貫通し、腕に突き刺さる。
「いった………くない!噛みつきやがったなこのバカが!」
そのまま腕を下に振り落とし狼を地面に叩き落とす。それでも狼は離さない。じわじわと血が出てくる。しかも少しずつ腕に食い込んでくる。
「いっ……!くそっ!死ね!」
思いっきり反対の腕を狼の頭に向かって振り下ろした。グシャという嫌な音を立てて狼はのけぞった。当たりどころが良かったのか狼はクゥンと鳴くと倒れてしまった。
「どうだ!………いって……」
ここで油断してしまったのがいけなかった。もう一匹がこちらに飛んできたのだ。俺はなすすべなく肩を噛まれ地面に押し倒された。
「ワオォォォォォン!!」
それから今度は腹を噛んだ。血が吹き出る。
ああ……これで終わりか。もうだめだ。この出血じゃもう間に合わない。死ぬ。死ぬ?激痛がまたも反対の肩に走る。足も噛まれたみたいだ………そのまま意識が遠く……。そう諦めた。その瞬間だった。
「ショウマさんを離して!」
ゆっくりと目を開けると拳銃を持ったエルがそこには立っていた。いつもの目じゃ無い。冷たい目だ。まるで生きながらに死んでいるような目………
「離して」
そう冷酷に言い放つと拳銃のトリガを引いた。弾丸が銃口から放たれる。その弾は俺の上に乗っている狼の腹部に着弾した。そのまま狼は一度弱々しく吠えるとばったり倒れてしまった。
「大丈夫ですか!?ショウマさん!」
「あ…あ。大丈……夫……それより…どうしてここに…」
「喋らないでください!出血が激しくなります!今薬を持ってきますから待っててください!」
遠くに足跡が消える。それから程なくしてまた足音がしてきた。近づいてくる。
「持ってきました!これで傷を……」
かなりの量の止血剤を傷口に塗りつけた。それから鎮痛剤を打ち、包帯で傷口をそれなりにきつく巻きつけた。
「すみませんズボンあげますよ」
「あ…あ」
息が苦しい。相当出血したらしい。頭もぼーっとする。なんか……前にもこんなことが……こんなことが?………思い出せない。同じようなことが前あったような気がするが………
「あとは……ショウマさん立てますか?」
「あたり……前だろ」
全然当たり前じゃないし足に力入んない。正直立つのも精一杯だ。だがさっきのところまで戻らないと……また襲われるかもしれない……
「本当に大丈夫ですか?歩けますか?」
「バカにするな……ヨユーだって……安心しろ」
「………」
そんなに心配するような顔をするな。そんなに簡単の死んだりしない……多分。
「さあ……さっきの所に……戻るぞ」
「はい………肩貸しますよ?」
「………要らん。あー鎮痛剤効いてきた。全然痛くね〜」
嘘をついた。本当はやはり痛みはある。さっきより大分マシになったがそれでも痛い。
「………大丈夫だって、だからそんな顔をするな。本当に大丈夫だから…」
そう言って俺はエルの金髪をぐしゃぐしゃと撫でた。さっきの死んでいる目と比べて今は心配の感情が目に浮かんでいる。
「でも……わかりました。じゃあゆっくり行きましょう」
それからかなりゆっくりなスピードでさっきの場所まで歩いてきた。特に変わったことはなさそうで安心した。
「こっちでは何にもなかったか?」
「特に何もなかったですけど……あなたの叫ぶ声が聞こえて……それで目が覚めたんです」
「そうか……ありがとな…来てくれて、来てくれなかったら死んでた」
「………お役に立てて良かったです。あと、パーカーありがとうございます…」
「おう…」
「なんでこんなことをしてくれたのですか?」
キョトンとした顔で小首を傾げるエル。別にこれといった理由はないが………
「そりゃあ寒そうだったから……」
「………ショウマさんは優しいですね…」
「そんなこと……ないっ……て………」
ついに足が限界を越したか膝から崩れ落ちてしまった。もう立つこともできない。眠い………
まぶたが急に重くなり、そのまま俺は寝てしまった。
「ショウマさん!?」
……よかった、息はある。寝てしまっただけみたいだ………
「よかった………」
ひどく安心した声を吐露した。もうダメかと思った。あの量の出血をしたのにも関わらずあの人。ショウマさんは死ななかった。少し不思議だがそれでも生きていてくれて嬉しい。
「………おやすみなさいショウマさん……」
彼の頭を優しく撫でる。これだけ身長の差があってもまだ2つしか年の差はないのだ。
「………」
なんだかいつもは大人っぽい表情をしているが寝顔はまだまだあどけなさが抜けてない。
「なんだか私も眠く………」
そうして私も疲れからか深い眠りに落ちてしまったのであった。
……………
「ぉぃ……おい……起きろ」
「ん……?」
まどろみから少しずつ意識を覚醒する。視界がはっきりしてきた。そこには昨日と変わらない表情で立っている彼の姿があった。
「朝だ。もう行動しないといつ上の階層に行けるかわからないぞ」
「ショウマさん………」
「なんだ……その…昨日はありがとな」
「もう動いても痛くないんですか?」
「さっき鎮痛剤打ったから全く痛くないね」
「………休んでてください。痛くないのは鎮痛剤のおかげであなたの体はおそらく悲鳴をあげています」
呆れた声音で私が言うとショウマさんは拗ねた表情になった。
「別にいいって。それより早く………」
「ダメです今日1日はここにいてください。私もいますから」
「えぇ……それよりも早k」
「ダメです」
彼の言葉を途中で遮る。このまま行かせたら本当に死んでしまいそうだ。自分の体も少しは労ってほしい。
「とにかく今日は休んでください。ショウマさんの怪我を早く治すためです」
「う………わかった……今日は移動しない。でも、ここにいるのもなんだから他にちゃんとした休める場所を探そう。それならいいだろ?」
まるで小さい子供が親に許しを請う姿にそっくりだ。少々子供っぽい所もあるんだなと思いつつその提案を許諾した。
「………そうですねできればベッドがある所を見つけたいです」
「俺もちゃんとしたところで寝たい…コンクリートは腰が痛くなる」
「そうですね」
それから2人で駅の外に出た。朝日が眩しい。新鮮な空気が肺の中を満たす。
「………」
「………」
なんだか昨日はエルに世話になってしまったらしい。なんだか申し訳ない気分になるが結構エルは頑固なところがある。ま、いいけど。しかしどうしようにも今日は上の階層は目指せない。
「さて探すか」
「そうですね」
休める場所か……まあ駅の近くには大体ホテルがあるものだし、辺りを探してみるか………
それから1時間ほど2人で探したらホテルを見つけた。
「やっと見つけた………ここでいいか?」
「………」
「どうした………エル?」
「あ、あの……ここはやめましょう!」
珍しく焦っているような声音で言うエルに珍妙さを感じつつ俺は疑問符を浮かべた。
「………なんで?」
「なんでもです」
「顔赤いぞ、熱でもあるんじゃないか?」
「違います。このホテルはその……いえなんでもありません」
「気になるじゃん。教えてくれよ」
「教えません」
「………なんだよ急に…」
そこのホテルという時にしか目が行かなかったがその前にラブという字が書いてあったことを俺は知る由もなかった。
「じゃあここはどうだ?」
「ここならいいです。普通のホテルです」
「………?いいから入るぞ…」
それから中に入り、カウンターまで行った。
「………鍵どこにする?」
目の前の鍵には番号がそれぞれ振ってある。そしてマスターキーもあった………白骨死体の胸ポケットに。
「マスターキーでいいと思います。一番近いとこにしましょう。死体があったら別ですが」
「そうだな」
それからエレベーターが止まっているので階段で二階に登った。
「着きましたね」
「おー」
それから201の部屋を見つけ入ってみた。どうやら死体もなく綺麗な部屋のままだった。
「1発でビンゴを当てるとはラッキーガールだな」
「そうですか」
「ふい〜ちょっと疲れた。寝る」
「わかりました。おやすみなさい」
「おー」
俺はベットに横たわると先程まで寝ていたのにまた眠ってしまった。




