第七層 episode.2
ピエロの名前がピーニャからペドロになりました
俺は拳銃とナイフを取り出して臨戦体制に入った。
一方、ペドロは……なんと宙に浮き始めた。
ありえない。翼もないのに一体どうやって飛んでいるのか。エルが飛べるのはまだわかる。翼があるからだ。でもこいつには飛ぶための器官はどこにも見当たらない。
手始めに拳銃で威嚇射撃をする。
すると彼はアグレッサーのよく使う障壁を何もない場所から展開して銃弾を防いだ。
この時点で遠距離戦では勝ち目がないことを悟って俺は威嚇射撃を繰り返しながら瓦礫に隠れた。
「そんな豆鉄砲でどうやって僕を倒そうってのかい?ショウマくん」
「……何で名前を知ってる?」
隠れた戦車の残骸越しに問う。別に知られていたからどうということではないのだが今は考える時間が欲しい。やつは空を飛ぶ上に拳銃は障壁によって阻まれる。
どうやってこちらの近接攻撃を当てるかが肝だ。
「知ってるさぁ!君はこちらの世界と僕たちの世界を繋ぐゲートを1人で破壊した人間だからね!それくらいは知っておかないとねぇ?」
「お前さんの仲間のヴァルグスとやらは俺のこと知らなかったぞ」
考えろ、今近くにあるものは拳銃、ナイフ、六層でもらった高貫通弾と手榴弾。戦車の残骸、土嚢、石ころ、もうちょっと遠くまで行けばビルの残骸にも入ることができそうだ。これだけでこの状況を突破する方法……。
高貫通弾で攻撃する?これは一発打って防がれたら諦めよう。それに拳銃の距離による威力減衰は大きい。今の距離だと本来の火力の3分の2程度しか出せないだろう。撃ち込むには至近距離での攻撃が必要となる。となると、やはりビルに入って室内戦が最適解の様に思える。
しかし、ビルに入れたところで奴が俺の始末を諦めてエルの確保に向かった場合、それに気づく術はこちらにはない。もしエルの方に行ったらその時点で負けは決定的になる。
「あいつはすぐに戦った相手を忘れるんだよ。まあ、戦ったやつのほとんどはすぐ死ぬからね」
「ほぉ、お前は頭がいいと?」
「失礼だな、あんなバカと僕を一緒にしないでくれる?単体での戦闘力はピカイチだけどそれしかできない単細胞と僕は違う」
「そうか。じゃあ自分のことを頭のいい奴だと思って後ろで駒を操る卑怯者ってことか。単体での戦闘力は雑魚以下ってことか?」
「貴様口の聞き方に気をつけろよ。僕が本気になればお前なんて一瞬で消し炭にできるんだぞ」
「できるならなぜそうしない?とっとと消し炭にしてエルを追ったらどうだ。できないんだろ、単体じゃ雑魚だもんな。ほら、『誰か僕の手足になってあの人間を僕の代わりに殺してヨォ』って情けなく仲間に助けでも呼んだらどうだ?」
「貴様っ!」
引っかかった。こんな見え見えの挑発に引っかかるとは驚きだ。
ペドロの気配がどんどん近づいてくる。あと10数メートルだろうか。
今だ。俺は戦車の瓦礫から飛び出した。先ほど話をしている最中に拳銃のマガジンを高貫通弾に換えていた。
これなら不意をつければ障壁を貫通できるかもしれない。できなかったらビルまで瓦礫を使って隠れながらビルまで逃げる。又はナイフでそのまま近接戦闘だ。
飛び出た瞬間目と鼻の先にペドロはいた。
今なら高貫通弾……いや、ナイフでも十分やれそうだ。
拳銃を撃つ構えを解く時間すら惜しい。撃つ姿勢のままもう片方の手に握っているナイフをペドロの喉笛が飛んでくる位置に構えて横に振る。ナイフの軌道を見せぬ様に逆手で持ち、腕でナイフを隠す。これなら躱すのは難しいはずだ。
そのナイフは見事にペドロの喉笛を掻っ切ったはずだった。その筈だったのに、ナイフの先は自分の横腹に突き刺さっていた。
「痛っ…何で……」
意図しない部位からの痛みに思わず膝をついてしまった。
おかしい。単なるミスでナイフが自分に刺さることなんてあるだろうか?いや、今まで何度もナイフを振るってきたがそんな初歩的すぎるミスはしたことはなかった。
それに、腕の痛みも気になる。痛む右腕のパーカーの裾を捲ると注射の後の様な何か細いものに突き刺されたような傷跡があった。
「針…か?」
一瞬のことすぎてよく分からなかったが、針の様なものを刺された故にナイフを正確に振れなかったというふうには考えられる。
だからといってこの針の傷の痛みによって引き起こされたミスとは思えないほどのミスではある。
「ははははっ!残念でしたぁ!それは分身。君が僕に近づいてきてほしいってのはわかってたよ。だけどこっちが近づかない限り君はこちらに姿を見せてくれないと思ったんだ。それで君をその戦車の残骸から引っ張り出すために分身を近くまで行かせたんだ。君のあんな見え見えの挑発に僕は乗らないよ」
「くそ…全部お見通しだったってわけか」
幸運にもビルまでの距離は近いし、ペドロは少し遠くからこちらにふわふわと浮きながら近づいてきている。この距離なら全力で走ればビルまでなら何とか入れなくもない。
思い立ったら即行動。横腹と腕の痛みによって動きが鈍い身体に鞭を打ってビルまで走る。もしかしたら追ってきてそのままビルに入ってくれるかと期待したが、室内戦を嫌ったか、室内に入ってくることはなかった。
バッグに入ってる止血剤を横腹の傷口に垂らしつつ次の手を考える。
ここでウジウジしていたら見つかるかエルを追いかけられてしまう。
何かないかとまたまた周りを見るが石灰の入った袋はコンクリートの塊などしか見当たらない。状況を打開できるものは無さそうだ。
「手詰まりかなぁ?それじゃあいいことを教えてあげよう。今のは僕の得意技さ。相手に糸が付いた針を突き刺してその身体の主導権を僕に変えることができるんだ。それで僕はさっき君の腕の主導権を奪って君の腹を切り裂いたのさ!」
ピーニャはこちらに手傷を負わせたことからの優越感か自分が圧倒的有利だということを知ってか、自分の能力を自ら曝け出した。
その油断と傲慢さが敗北へと繋がることを教えたいが、現在こちらが圧倒的に不利なのは確かな上に反撃も難しい。
「……どうする。やるだけやってみるか」
俺は唯一思い付いた方法を試してみることにした。
その内容は決して勝率の高いものではない。ゴリ押しもゴリ押し、煙幕で敵に近づいて近接攻撃といったものだった。
先程の石灰の袋の表面にナイフで切れ込みを何本か入れる。これで粉が飛び散りやすくなる。その中に六層でもらった手榴弾を入れてビルの2階から投げる。そして、起爆したところで浮いているペドロにビルの2階から割れている窓から飛んでペドリに組みつき、地面に叩き落として攻撃だ。
こんな方法で勝てるわけがない。でもやらねば勝てぬ戦いだ。
「よし」
俺は早速石灰の入った袋を持って2階へ向かった。
ペドロは外から何かこちらに呼びかけているがビルの中にいるのでくぐもってよく聞こえない。詳しくは分からないが大体の位置はわかる。
2階は何かのオフィスだったようで倒れたオフィスデスクやチェアが散乱していた。何かの書類なども散らばっていて歩きづらかった。それでも何とかペドロのいた道路に面したガラス張りの壁にたどり着いた。ガラスは殆どが粉々に飛び散っていた。枠にまだ少し尖ったガラスが残っている所を避け、残ったガラスが少ない所を選ぶ。
「………」
匍匐の状態で窓からペドロの位置を確認する。彼は道路の真ん中からこのビルを上から下まで観察していた。おそらく出てきたその瞬間を刈り取るつもりなのだろう。だが、逆に言えば、何が出てきても彼は何かしらの反応を示すということだ。つまり、先に投げる石灰の袋に反応するだろう。それが炸裂したら怯むに違いない。
バッグから手榴弾を取り出す。この手榴弾は炸裂まで約6秒かかる時限式手榴弾だ。これをタイミング良く外に投げた瞬間炸裂するようにする。
といってもその手榴弾に自分が巻き込まれたら元も子もないので倒れた机を窓付近に持ってきてすぐ隠れられるようにした。
彼はまだビルを観察している。これならいつ仕掛けても問題はなさそうだ。
大きく深呼吸をする。大丈夫、きっと勝てる。いや、勝つ。勝たなきゃ進めない。
覚悟を決めて手榴弾のピンを抜いた。
ピーニャはポケモンと被ってることに気づいてあいつはこんなことしない!!って思って直しました




