第六層 episode.1
大変遅くなって申し訳ないです……え?いつも遅すぎる?申し訳なさすぎる…です。
episode.32
「………もう朝か」
更衣室のロッカーの上にある窓から少しずつ光が入ってきている。
エルを起こさない様にゆっくりと出ようとすると、彼女は俺に寄りかかって寝ていた様で俺が立つと倒れてしまいそうだったので出るのをやめる。
「……そんなに疲れてたのか…」
そう言ってエルの頭を撫でる。サラサラの金髪が指にかかることなく指と指の間をスルスルと抜けて行く。
あまりにも無防備な格好で眠るエルから思わず目を逸らす。
ふと、逸らした視線の先の更衣室の扉を見つめる。もしかしたら扉の前に着ぐるみがいるかもしれない。何か聞こえないかと耳を澄ませる。特に足音等は聞こえず、一定のリズムで繰り返すエルの呼吸しか聞こえない。
「……大丈夫そうだな」
「起きろ。朝だぞ」と声をかけ、エルの肩をぽんぽんと叩く。
すると「ん…ぅ…」と猫撫で声の様な声をあげ、ゆっくりと目を開ける。
「……おはよう」
「…おはようございます」
「そろそろ準備して行こう。もうこの層は懲り懲りだ」
「…そうですね」
簡単に荷物をまとめてパーカーもちゃんと着る。
荷物といっても前に一度全て流されてしまったのでほんの少しの食料と医薬品。あとは弾薬が少々。
「………このパーカー…もう無理か」
「…流石に無理かもしれませんね……」
自分のパーカーを見下ろす。斬られた後や刺された後やらでボロボロだ。中のTシャツも斬られている。しかも大量の血痕のおまけ付きだ。
「次の層でいい服があればいいんだが…」
「その時はまた私が見繕ってあげます」
「………じゃあ…頼む」
前に見繕ってくれた時は完全に変態の格好をさせられたので心配だが…他者からの好意を無下にする事もできないので断れなかった。
でも、やっぱり少しは自分で選ぼうと思った。
「さて、もう身体も動くし行くか」
「もう無茶だけはしちゃダメですよ?」
「分かってる」
外に出ると使われなくなって少し寂れていた観覧車のフレームの間から朝日が差し込んできていた。
その他の乗り物達にも光が当たり、光り輝いていた。
「丁度着ぐるみたちも居ないから早く行くぞ」
「そうですね。急ぎましょう」
出来るだけ足音を立てないようにして塔を目指して進む。
特に着ぐるみたちにも見つかることなくあっさりと塔にたどり着く事ができた。
「なんだ。拍子抜けじゃないか」
「そうですねぇ……でも、ショウマさんが怪我しなくてよかったです」
「そこまで心配される覚えはない」
「身体中滅多刺しにされたのに何を言っているのですか?」
そう言われた瞬間、周辺の空気の温度が急に下がったような気がした。
氷より冷たいエルの眼差しに思わず身体を震わせた。
「……すまん」
「……何もそこまで怒っているわけではないのですよ?」
俺の少し怯えた表情を読み取ったのか先程までの氷点下まで下がった空気がじんわりと元に戻る。
それとともに申し訳なさそうな顔をするので別にいいと手をひらひらして伝える。
「強く言ってすみません……でも…ショウマさんが悪いです。いつもいつも怪我ばかり……」
「……ああ、俺が悪い。悪かったな」
「分かってくださいましたか」
「ああ、もう無理はしないよ」
「そのセリフ何回も聞いた気がするのですが………今は触れないでおきますね」
確かにその通りだ。自分でももうこのセリフを何回言ったかよく覚えていない。
申し訳なさ……いや、自分の有言実行のしなさすぎに若干呆れつつ反省する。
「……そうしてくれると助かる」
「わかりました。でも、次は気をつけてください」
「おう」
それから塔の入り口から中に入る。中はいつも通り真っ白な壁に囲まれており、お店の残骸やらが散らばっていた。
いつもの如く要りそうなものや必要なもの。弾薬や食料を集めていく。
実は、先程からなのだがとても喉が渇いている。昨日大量に血液を失ってしまったからに違いないのだが。しかも多少貧血気味なので結構フラフラする。
いくら造血剤を打ったとて完全には元には戻らないようだ。
しゃがんで物資あさりをして急に立ち上がると目の前が一瞬真っ暗になってふわりと身体が浮く様な感覚がした後、またすぐに戻った。
「……どうされましたか?」
そんな声が後ろから飛んできた。すぐさま「大丈夫だ」と言おうとしたがそれすら出来ないほど気分が悪く、返答が出来なかった。
そんな俺のことを変に思ったのかパタパタとこちらに駆け寄ってきた。
「……いや、なんでも。それよりそろそろエレベーターに乗るか」
「……大丈夫ですか?やはり…少し顔色が悪いような……」
俺の顔を心配と不安の入り混じった表情をして覗き込んでくる。
「大丈夫?」と聞かれたら手放しに「大丈夫」だと言えるほど大丈夫ではない。
「…心配するな。これぐらいだったら別に大丈夫だから」
「……少し心配ですが…何かあったら言ってください。なんでもしますから」
「ああ…ありがとう」
すっと俺の顔の前から視線をはずし、エレベーターのボタンを押しに行ったエルの背中をゆっくりと身体が許す限りのスピードで追いかける。
「来ましたね。ショウマさん?」
俺がなかなかエレベーターに乗らないので待ち兼ねたのかエルがこちらをくるりと向く。
「すまん、今乗る」
少しもたつきながらエレベーターに乗り込む。
そのままエレベーターの壁に背を預けけ、床に座り込む。
「本当に大丈夫なんですよね?」
「大丈夫だって言ったろ……気にしなくていい」
「……少し次の層で休みましょうか?」
「……いや、ゆっくり行けば別に問題ない」
「ショウマさん!」
「なんだ……?」
俯いていた顔をゆっくりとあげるとエルが今にも泣き出しそうな顔をしていた。
どうしてそんな顔を……するんだよ…別に俺は…大丈夫…なのに
「ショウマさんは前私に言いました。『お前のことは俺には分からないからちゃんと言え』って。なのに…ショウマさんは私には……言ってくださらないのですか……?」
「……そんなこともあったな」
2層でエルに向かって言った言葉だがどうやら今この状況、完全に俺に当てはまる。
「……少しキツいから待ってもらっていいか?」
「はい、そうしてください」
基本無表情の顔が少し緩んだ。
エレベーターが上の層へと到着したのかガコンと音を立てて止まった。
エレベーターの扉が開く。
真っ白な塔の壁面が見えたが、入口も開いていたため外もよく見ることができた。
「住宅街か……」
「3層と似た階層型の市街地ですね」
エルの言った通り3層とそっくりな外見だ。
ダミアンみたいなサイコパスが住んでいなければいいが……どうにもそうは行かないらしい。
外に出ようとすると入り口近くで足音が聞こえ始めた。
「エル、少し隠れるぞ」
「え?で、でも隠れる場所なんか何処にも……」
「じゃあ後ろに隠れてろ」
拳銃を取り出し、入り口に構える。
さて、何が来るか……足音的に二足歩行のようだ。
数は2つ。チャラチャラと金属と金属が触れ合う音も聞こえる。
そしてそれらはゆっくりと塔の入り口へと足を踏み入れた。
「あれ、さっき生存者いなかったっけ?エレベーターのカメラに金髪の子と隊長みたいな人が一緒にエレベーターに乗ってたよな?」
「よく見なさい、横にいるでしょ?バカね」
「バカとはなんだ!」
警戒していたのでなんだか拍子抜けだが、黒い髪に金色の瞳をした少年と長い茶髪をした少女がバカ話をしながら入ってきた。
「お前らは……誰だ?」
拳銃はそのままにその2人に問う。
特に2人とも敵意は感じられない。ただ、敵意がないからと言って味方である保証は何処にもない。
警戒は続けるべきだろう。
「まあまあそんなに警戒しなくても危害は加え……な…」
俺の顔を見て急に言葉を詰まらせる黒髪の少年。
なんだか昔見たことがあるような気がしたが…気のせいだと思考を止める。
すると2人は顔を見合わせ、驚いた表情でこちらを向く。
「「もしかして……」」
2人が何か幽霊を見たときのような顔で声を合わせて言った。
「「隊長?」」
「隊長………?俺が…?」
しばらく更新無くなるかもです。受験ってやつです。
あとepisode.28めっちゃ書き換えたのでそちらもお願いします〜




