第五層 episode.1
投稿遅れてすいません。定期テストでした。
「エル!逃げるぞ!」
「は、はい!」
俺たちは今第5層の遊園地にいる。だが、その遊園地は皆の知る楽しい娯楽施設なんかじゃなくなっていた。
そこには寂れた遊園地だ。クマやウサギの着ぐるみが全力疾走で俺たちを追いかけてくる恐ろしい遊園地だった。
第5層に入った途端入り口のスピーカーが「ようこそ!夢の国へ!」と大音量で流してくれたお陰で今のような状況になっている。
俺はエルの手を掴み、引っ張りながらながら奴らの手を逃れるべく全力で逃げていた。
「クッソなんだこいつら!なんで追いかけてくるんだ!?」
「わかりません!もしかしたらアグレッサーですかね」
「そうかもな!とにかく捕まったらアウトだ!このまま逃げつつ次の塔に急ぐぞ!」
「はい!」
それからというものの行くところ行くところに着ぐるみが大量にいて休む事なく走り続けた。
もうパーカーの中のTシャツが汗で凄いことになっている。
肺に空気を入れようとするがうまく入ってこない。
「大丈夫か?エル?」
「だ…大丈夫ですので……お構い……なく……はぁ…はぁ……」
エルも長い金髪が乱れ、大粒の汗をかいていた。息も乱れて息苦しそうに呼吸をする。
これ以上エルを走らせるのは厳しいかもしれない。
そう思い俺はエルの手を引っ張りその小さな身体を持ち上げ小脇に抱えた
「えっ?えぇ!?ショウマさん!?」
「エルより俺がエルを抱えて走ったほうが速い!悪いが少しの間我慢してもらうぞ!」
「は……はいっ!」
そのまま走り続けた。途中で右手が疲れたので左に持ち替えたりしたりしながら走っているとよくサーカスで使うようなテントが見えて来た。
「エル!あそこに逃げ込むぞ!」
「分かりました」
エルを横抱きにしてスライディングしてテントに中に入った。テントの中にはサーカスに使う小道具が色々置いてあった。
「取り敢えず隠れるぞ、そこのトランポリンの下に隠れててくれ」
「ショウマさん?ショウマさんも一緒に隠れるんじゃないんですか?」
小首を傾げてこちらを見つめるエルの頭を撫でる。そのまま肩に手を置き、エルの目を見つめる。
「俺は………全員やっつけるから」
「え……?全員をですか!?」
「まあな。さてと……悪い、エル。拳銃を貸してくれ」
「あ……はい……いや…無理です!あんな数相手に1人じゃ……」
「心配するな。相手は丸腰だから。俺ナイフ持ってるし」
そう言うとエルは渋々拳銃を俺に差し出して来た。
拳銃の初弾が入っているか確認してマガジンを抜き、残弾を確認する。
「残り13発か……なんとかなりそうだ」
「……絶対に死なないでください」
「大丈夫だ。エルはちゃんと隠れているんだぞ、俺がいいって言うまで出てくるなよ」
鞄をエルに渡す。ついでにパーカーも脱いで渡してTシャツになる。こっちの方が動きやすい。
「……分かりました」
俺はテントの入り口付近にナイフを右手に、拳銃を左手に持つ。入ってきた瞬間ナイフで急襲。ハンドガンで増援を処理といったところか。
そう思った矢先だった。
テントの入り口から入ってきた着ぐるみをナイフで首を掻き切り、次の目標に発砲。
すぐさま、また入り口から入ってくるであろう着ぐるみを撃とうとした時だった。
先程倒したはずの着ぐるみが立ち上がり、先程は持っていなかった包丁を持ち、俺に襲いかかった。
避けきれずに背中を刺された。幸い肺も脊椎にも損傷はなく、致命傷は免れたものの痛みのせいで呼吸がし辛くなる。
「え……あ……」
白いTシャツが真っ赤な液体で白から真紅へと塗り替えられていく。
激痛と熱と金属特有の冷たさが同時にそいかかってきた。
「クッソッ!」
起き上がった着ぐるみにもう一度発砲。
だが、その時にはもうすでに十数体の着ぐるみが俺を取り囲んでいた。
「しまっ……」
声を上げることも許されずに着ぐるみたちは包丁を構えて俺へ走り出していた。
身体中に包丁を突き立てらる。先程とは比べ物にならないほどの激痛が全身を襲った。
着ぐるみたちが勢いよく俺の身体から包丁を抜き去る。その瞬間、何か大事なものまで身体から抜け去ってしまったような虚脱感とともに大量の血液が床に飛び散った。
「いった……マジ…かよ……」
あまりの激痛に耐えることが出来ずに俺は床へ倒れ込んだ。
もうダメだ。出血が酷くてもう目の前が暗い。
しかも、あいつらわざと急所を外して刺してきやがった。
そのおかげで一瞬で死ぬ事なくゆっくりと身体から大事なものが無くなっていく感触が身体を支配していく。
それから少しして着ぐるみたちが居なくなったのか、トランポリンの下から出て走ってきた。
「ショウマさん!ショウマさん………」
「おぉ………エル…無事か……?」
「ショウマさん……いや…そんな…いやですよ…」
涙を目に溢れるほど溜めて泣くのを我慢しながらエルは俺の頭を自分の膝に乗せた。
すると、カバンのポシェットからおもちがひょこりと顔を出してこちらへ駆け寄ってきた。
「きゅっきゅ!」
「おもちさん?……助けてくれるのですか?」
「きゅっ!」
おもちは俺のおでこに乗り、いつもの治療を始めた。
いつもの部位的な治療と違って今回は全身を少しずつ治療するものだった。
治療の時はいつもくすぐったい感触が来るのだが、今回はそれが全身にかけてあるのでくすぐったさに少し悶える結果となった。
「あり……がとう…おもち…」
「きゅぅ……」
おでこから降りて俺の顔を心配そうに覗き込む。
別に大丈夫だと言い、顔をあげようとすると横腹に強い痛みが走った。
「おう」という変な声が無意識に出て横腹を手で抑える。
そしてよく見るとその部位から血がまた出てきて俺のTシャツを赤く濡らした。
「いっつ………治ってなかったのか…」
「ショウマさん!じっとしててください」
「きゅぅ………」
どうやらおもちは今は治療が出来ないらしく、心配そうに俺の腹の上をちょこまかと走っていた。
それもそうか。全身を治療する事は大きな代償が必要なのだろう。
「お前は悪くないから心配するな……」
横腹を押さえると鋭い痛みが走り、鮮血が傷口から溢れ出る。
先ほどの出血も含め、大量の血液を失ったためもう視界が暗い。
「あの!私すぐお薬取ってきます!」
「やめ……ろ。お前も…同じ目に会うぞ…」
「でも…でも……」
蒼色の目に今にも溢れてしまいそうな大きな涙の滴が溜まる。
その涙を俺は指で拭き取る。それでもまだ止まることはなかった。
「……じゃあ…さっき走ってる時に医務室みたいなところが見えたから…そこから薬を取ってきてくれ…ほれ、これを持っていけ」
そう言って俺はエルの手にナイフと拳銃を載せる。
ついでにおもちもエルの肩に乗せる。
「何かあったらお前がエルを守るんだぞ…」
「きゅっ!」
「いい返事だ。エル、くれぐれも気をつけてくれ。まだあいつらも近くにいるかもしれない。見つかったらすぐに逃げろ。いいな?」
「はい……じゃあ取ってきます!」
入り口へと駆け出してテントを出て行くエルの背中を見ながら急に強烈な眠気に襲われた俺は静かに目を閉じた。




