第四層 episode.1
間違えて「絶海の美術館」の方へとep23を出してました。申し訳ない………
結局いつもとそんなに大差ない服装になった。替わったといえばGパンが普通の長ズボンになったことくらいだろうか?
灰色のパーカーはエルに縫ってもらって直した。なんだか捨ててはいけないような気がしたのだ。しかし、血は何度も洗ったが取れなかったので諦めた。でも血の匂いはしない。
そのほかにも適当な鞄とその他もろもろの日用品を鞄に放り込む。
「さて食料も鞄もよし、弾は無いけどナイフはある……」
「準備できましたか?」
「出来た。じゃあ行こうか」
「はい」
「きゅっ!」
それから取り敢えずエレベーターに乗り込んだ。エレベーターの中は相変わらずの質素さで上行きのボタンしか無い。
「さて……これでようやく5層か…まだまだ上には辿り着けそうにないな」
「そうですね…そういえばショウマさんは何か昔の事は思い出せましたか?」
「………そうだな…特に何も」
「そうですか…」
「おう」
それから暫くの沈黙。エレベーターの上に上がる音だけが室内に流れる。その沈黙をエルが破った。
「………ショウマさん」
「なんだ?」
そう言うとエルは自分から声をかけたのにも関わらず何も言い出さなかった。一体どうしたのかとエルの方を向くとエルは俺の目線から逃げるように反対側を向いた。
「………私が…ヒューマノイドだって聞いてどう思いましたか……?」
「はっ?別に……ただの人間と一緒だと思ったけど…違ったのか?」
「………私は造られた人間ですから違うと言えば違いますね」
「まあ似たようなもんだろ。そんな細かいこと俺は気にしてねーよ」
「………そうですか」
俺の言葉にエルの硬かった表情は少しだけ柔らかくなっていた。
「さてもうすぐ着きそうなもんだが……」
ガコンッ!という音を立ててエレベーターは止まった。ゆっくりと扉が開く。するとそこには区画分けされたプールが向こう側へと何個も連なっていた。
「水産施設だったなそう言えば」
「そうです。今回も案内するのでついてきて下さい」
「分かった」
それからエルの後ろに着き、歩いて行く。何かいないかとプールを覗き込んでみたが、特になにも見えなかった。
「水産ってことは魚とか養殖してたんだろ?」
「そうですね。いろんな魚介類を養殖してましたよ。でも、今はアグレッサーが住み着いてたりするので気をつけて下さいね」
「分かった。気をつける」
少し歩くと先ほどの四角いプールとは打って変わって丸くて大きなプールがあった。
やたら深いプールだ。まるで吸い込まれるような濃い青。
「………なんか居そうだよな。ここ…」
「そうですか?別に何も居なさそうですけど……?」
そう言ってエルはプールの水面を覗き込んだ。するとプールから急に腕が伸びて来た。
「きゃっ!?」
「エル!」
その手はエルの腕を掴み水中に引き摺り込んだ。エルはなす術なく水中へとダイブした。
「マジかよ!」
悪態を吐き、俺は鞄、ライフル。あとpもちを地面に置いてプールに飛び込んだ。
(暗いな……エルは何処だ?)
水中に泡が浮いていた。多分エルが引き摺り込まれた時の泡だろう。これを追っていけばエルの所に行けるはず。
それからしばらく水中を潜っていくとエルを発見した。
(居た!)
エルは気を失っているようで目を閉じていた。
力無い細腕を掴み、水面と浮上する。
「ぷはっ!エル!エル!?」
反応がない。首はぐったりと項垂れ、動く事はなかった。
「エル!目を開けてくれ!くそっ」
急いで岸まで引っ張り上げる。まだ意識がない。
「いったいどうすれば………」
「きゅぅ……」
おもち?おもちは傷や外傷などにはいつも対処してくれるが今回は治療ができないのかただ慌てふためいてエルの周りをウロウロしている。
「私が手伝ってあげようか?」
いきなり鈴の鳴るような少女の声が背後からした。
艶やかなピンクの髪を腰まで伸ばし、海と同じ蒼色をしている大きな目。整った容姿はまさにこの世に存在しないはずの人魚にしか持てない美貌を誇っていた。
一瞬その美貌に見惚れてしまったがすぐに現在が緊急事態だと言うことを思い出した。
「………誰だ…?」
「んー…私?私は…人魚だよ」
「………人魚…」
「そんな事よりもその女の子、すぐにどうにかしないと死んじゃうよ?」
「そ、そうだ!なんとかできるのか!?」
「出来るよう。でも……条件があるよ」
「俺にできる事ならなんでもする!だから頼む!」
「その言葉…忘れないでね!」
すると人魚はプールサイドからこちらまで上がって来た。
本来人間にあるべき足はなく、ヒレがあった。
「………本当に人魚だ」
「そう言ったじゃない」
「とにかく早く頼む」
「うん、じゃあ……」
エルの顔を優しく両手で自分の顔に引き寄せると………
「なっ!?」
単純に言うとキスをした。しかもおそらく舌を入れた深いキスだった。
「………んぅ…?むぅっ!?」
気がついたまではよかったがどうやら自分が今キスされていることに気づいたようだ。
エルが目を覚ましたのを人魚は確認するとそっと口を離した。
エルはキスされた唇に手を当てて何が起こったのか理解できない表情をしていた。
「………??」
「エル…気持ちはわかるが一旦整理しようか……」
それからエルに先程あったことを事細かく全て喋った。
その話をエルは羞恥で顔を赤くしながら聞いていて終いには俯いてしまった。
「すいません…私がもっと気をつけていたら………こんなことにはならなかったのに…」
「気にするな。大体俺が何か居そうだなって言ったのが悪かったんだし」
羞恥でこちらに見せれるような顔ではないのか、まだ顔は俯いたままである。
しかしあれだ。服が水に濡れて若干だが透けてしまっている。そのおかげで下着が見えてしまうのは大変目に毒だった。
別にエルの身体云々の話ではなく女性の下着はそう見てはならないものだからであり、決してエルの身体に欲情などをしているわけでは無い………と思いたい。
「何処見てるんですか?」
俯いたまま恨めしそうにこちらを上目遣いで睨んでくる。その目には若干の涙が浮かんでいた。赤く染まった頬も合い重なってなんだかいたたまれない気分になった。
「……いや別になんでもない。でも……気持ちは分かるが………勝手なことをして本当に悪かった」
「ショウマさんは悪く無いですよ………」
「それで……私の願い事を聞いてもらおうかな?」
「分かった。約束だからな。できる事ならなんでもする」
そう俺が言うと人魚の瞳は水面が日光を反射するようにキラキラさせてその願いを口にした。
その内容は俺が思っていた内容と正反対な事だった。
「………友達になってほしい?」
「うん!」
もっと利益のある要求をされると思っていたので拍子抜けだ。
「………別に構わないけど本当にそんなことでいいのか?」
「そんな事だなんて失礼な人ね……いいの、私の願い事叶えてくれるんじゃなかったの?」
「………まああんたがいいならいいんだがエルも別に嫌って事はないだろ?」
「はい。でもひとつだけ聴いてもよろしいですか?人魚さん」
「ん?なぁに?なんでも聴いて!もう私たちお友達なんだから!」
「じゃ、じゃあ私の腕を掴んで水中に引き込んだのがなんなのでしょうか?」
「ああ……あれはね……海のお化けだよ」
「海のお化け………?」
「私たちの世界で結構いろんな人を水の中にああやって引き込んでは溺死させてその身体を食べちゃう怖いお化けだったんだけど………
今回はそこのショウマくん?がいてくれたからあっちも驚いて逃げてくれたんだよ!」
「そうですか……ありがとうございます。そういえば時期紹介をしていませんでしたね。私はエルです。こっちはショウマさんです」
「よろしく。で、こっちは相棒のおもちだ」
「おもち……?その子の名前?」
「そうだ」
「きゅっ!」
「わぁっ!かわいい!可愛すぎるよぉ!」
「触ってみるか?ほれおもち」
手のひらに乗せて人魚の手に優しく乗せる。
「きゅっ!」
「かわいいよぉ〜もちもちだぁ……!あぁ癒されるなぁ!」
「お気に召したようで何よりだよ」
「私はセルフィー。普通の人魚だよ!って言っても2人にはあんまり馴染みがないのかな?」
「まあな。さて………そろそろ行くか」
「そうですね」
「何処か行くの?」
「そうだな。俺たちは上層を目指して下層から来たんだ」
「そうなんだ……じゃあここからはすぐいなくなっちゃうんだね……」
先ほどまでキラキラと輝かせていた瞳が急に暗くなった。
「……ショウマさん…」
何かをお願いするような目線をこちらに向けるエル。なんとなく言いたい事はわかる。俺も別に急いでいる訳ではないのでやぶさかではない。
「心配するな。しばらくはここに居るから」
「本当!?」
「はい。もう少しだけお話ししていただけますか?」
「うん!もちろんだよ!」
もう先ほどまでの暗い目はしておらず、また綺麗な瞳を輝かせて俺たちの話に耳を傾けた。
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