第三層 episode.5
「早くここから出よう。鍵が何処にあるかわかるか?」
「確か……その方が持っていた様な気がします」
そう聞き俺はダミアンのポケットに手を突っ込む。するとチャリという音が鳴った。どうやら複数の鍵が束になっているみたいだ。
「あった。どれか分かるか?」
「すいません…そこまでは……」
すまなそうにこちらから目を背けるエル。別にお前が悪いわけでもないのだからそんな顔をしなくてもいいのにと思う。
「別にいい。片っ端から試すぞ」
「はい。お願いします」
それから20個程付いた鍵を一つ一つ試して行った。すると最後ら辺で手錠の鍵に当たった。
カチリという音を立ててエルの手から手錠が外れる。
「やっと見つけた。さあ、急ぐぞ。ダミアンに起きられても面倒だしな」
「分かりました」
その部屋の扉を開き、外に出ようとした。その時だ。
ダガンッ!
「ぐぁっ!?」
俺の右肩に鋭い衝撃と激痛が走る。息を飲む様な激痛だった。何事かと後ろを振り向くとダミアンが拳銃をこちらへ向けていた。あれはおそらくエルの拳銃だ。
「ショウマさん……?」
「いい!当たってない!先に行け!」
とっさに嘘を吐き、エルの安全を危惧して先へと急かす。
「まだ起きてたか……ダミアン」
するとダミアンは腹の底から絞り出す様な声を出す。
「行かせ……ないっ!」
「悪いが………行かせてもらう」
「………っ!」
ダミアンの身体から力が抜け、人形の様に地面に突っ伏した。さっきの頭部への打撃によるダメージが残っているのであろう。
その人形の様になったダミアンから拳銃を指を一本一本外して取る。
それからフラフラとトランス状態になった人間の様になりつつも立ち上がり、歩き始める。
「……急ごう…」
血が大量に出たために自分の体温が少しずつ下がっていっていることが分かった。しかも視界も少しずつだけど暗くなったり白くなったりを繰り返している。このままじゃ……死ぬ。でも…なんだか不思議と怖くなかった。
もう……上に無理に行く必要なんてないじゃないかと思ってしまった。
「……きゅっ!」
「……お前か…」
「きゅきゅっ!」
ここに来る前に出会ったちっさい奴が俺の足元に居た。そいつは俺の血を見るや否や靴から負傷した肩へとちょこまかと登って来た。
ゾワァという感触が服の上から来たがすぐに肩の痛みが「忘れるな」と言わんばかりに主張を鼓動に合わせ繰り返して来た。
「きゅっ!」
それからなんだかくすぐったい感触が患部を襲った。しばらくそれに耐えていると先ほどまでの痛みが完全に消えていた。
「また世話になったな。ありがとう」
「きゅぅ………」
心配そうな表情で肩からこちらの顔色を伺ってくるがその仕草がまた小動物特有の愛らしさを増幅させ、それが俺を安心させる。
「……悪かった。もう諦めたりしない」
「きゅっ!」
「そう言えば……仲間はどうした?」
「きゅっきゅっ!」
「………もしかして一緒に来たいのか?」
「きゅっ!」
大きくうなずくその小さな生き物。
……一緒に来たいのなら…連れて行ってもいいかもしれない。でも仲間たちはどうしたのだろうか…
「……仲間は?」
「きゅっ………きゅ!」
「そうか」
なんとなく分かった。コイツは仲間より俺を選んでくれたのだ。もしかしたらよく怪我するやつだしほっとけないとでも思ったのだろうか。
「じゃあ……行くか。仲間にお別れはしたか?」
「きゅっ!」
「そうか」
それからビルを降りるためのエレベーターの前までやってきた。そこにはエルがウロウロしながら俺たちを待っていた。
「……ショウマさんっ!?その血はどうしたんですかっ!?」
「あー。怪我はしてないぞ。コイツのおかげでな」
「きゅっ!」
そう言って俺は肩に乗っている小さくてかわいいやつを見せる。ついてくるのだしそろそろ名前をつけてやらないとな。
「……かわっ………なんでもないです。それよりも大丈夫ですか…?傷の方は」
「大丈夫だけど……今かわいいって言おうとしたろ」
「…してません」
無愛想にこちらからふいっと背けぶすっと否定している。すると先ほどのくるっとこちらに振り向く。
「それよりも……今ショウマさん服びしょ濡れですし……おまけに血塗れ、穴もたくさん開いてしまってますよ?」
「これは今まで色々あったからな……変えようにも服がどこかで手に入ればいいけどな」
「また手に入るところがあれば手に入れときましょう。それでこれからどうされますか?」
「とりあえず今は早くここから出よう。またあいつに起きられると面倒なことになる」
「わかりました。でも暗くなってきているのであんまり移動はできないかと……」
「分かった。行こう」
それからエレベーターでビルの一階まで降りて外に出た。もう夕陽が階層と階層の間から差し込んできている。
「さて、これからどこに行けばいいのか分からない。教えてくれ」
「まず上への階段を見つけるべきですね。ついてきてください」
それから1時間ぐらい歩いただろうか。完全に陽が落ち辺りが真っ暗になってしまった。
「何も見えない……ってお?」
暗くなったと思いきや急に辺りが明るくなった。明るくなったと言ってもほんのり明かりがついただけだが。
「ここの電気は生きてたんだな」
「そうみたいですね……少し肌寒いです」
「これ被って……って…あっ………」
「そういえばショウマさんいつもの鞄は………?」
すっかり忘れていた。奴にビルの屋上から落とされた時流されてしまったのだった。
「……言っても怒らないか?」
「………あの落とされた時ですか?」
「……ご名答だ」
「いえ……別にそこまで落ち込ませる気はなかったのですが……申し訳ありません。別に大丈夫ですから」
「でも薬も包帯も食料も水も何もかも入れた鞄を無くすって……はぁ………」
「無い物ねだりしても仕方ありませんよ?」
「分かってる。さあ寝床を探そう」
「はい」
それから辺りを探したら平家の建物があったので入ってみたら意外と中は寝ることができそうだった。しかもベット付きだ。だけど今気がついた。
「ベット一個しかないんだが……」
「そうみたいですね……」
「エル。お前が寝ろ」
「……ショウマさんは?」
「床で寝るから心配するな」
「………」
そう言って俺はライフルを肩から外し、床に寝そべる。自分で言っておいてだが床は硬いし冷たいしで眠れなさそうだ。前に手に入れたカーテンでもあればよかったのだがもうそれは川の彼方へと流されてしまった。
それからエルもベットに横たわったのだが。やっぱり眠れない。何よりこの頭の後ろに枕の代わりにと置いてみた近くにあった本棚の本を積み重ねてみたが余計に睡眠を邪魔しているような気がする。
「………眠れない」
「ショウマさん…まだ起きてますか?」
「起きてるがどうした?」
「……眠れませんよね?床じゃ………」
「気にするな」
「気にします。だからその……ベットで寝ていいですよ?」
「いや……お前が寝とけ。多分俺はこういうのに慣れていたんだと思う」
そんな事は全く持って覚えがないが適当な嘘でエルがベットで寝てくれるのならばそんな嘘も許されてもいいはずだ。
「………じゃあっ…じゃあ…一緒に寝ましょう」
「………何言ってるんだ。冗談はよせ」
「冗談でこんな事言いません」
「……エル。自分が何言ってるか分かるか?」
「分かってます。だから…」
反論し続けたらエルの目にほんのり涙が浮かんできた。どうやらあちらも羞恥心ゼロというわけではなさそうだ。
「………分かった。一応言っとくが何をする気もないからな」
「ショウマさん、私が横で寝てたこと何回もありましたよね?もう今更です」
「………そうか」
それから俺はエルが布団をまくったところに潜り込んだ。エルが入っていたからか床なんかよりもずっと暖かかった。
しかも女子特有の柔らかないい匂いがする。
これは……別の意味でなかなか眠れなさそうだ。
「おやすみなさい。ショウマさん」
「ああ、おやすみ。エル」
ゆっくりと目を閉じ、俺は突如襲ってきて睡魔に身を任せて意識を眠りへ沈めた。




