第三層 episode.3
「……なんだよやっぱり一階分しか上がれないのか」
そんな空虚な独り言は暗いオフィスの中に溶けて消えていった。
1番上のエルのところまで一気に行けるかと思ったが次の階段はなく、先程と同じ様なオフィスが広がっていた。
「テロ対策好き過ぎだろ」という愚痴を漏らしつつ暗い中を歩き出した。
むやみやたらに歩き回るのも良くない。何かヒントは無いだろうか……
まず一番近いデスクの下に滑り込む。ロボットに見つからない様にそっとデスクの下から顔を出す。
(いないみたいだな)
それから辺りを見回す。しかし、そこには暗闇が広がっているだけだった。しかし…俺は見えてしまった。
「……あるじゃねえかこの状況を打開するいいものが……」
そこにはエレベーターがあった。しかも電気までついている。さあ早く乗りなさいと言わんばかりに。
(…罠かもしれない……でも…それでも)
俺は勇気を振り絞ってエレベータに足を踏み入れた。
エレベーターのボタンは6階が最上階だった。おそらくここにダミアンがいるのだろう。
「ふぅ……よし」
まずナイフでエレベーターの中の監視カメラを壁から引き剥がす。これで中を監視されては困る。
「…待ってろ。エル」
そう呟くと俺はエレベーターのボタンを押した。ガコンという音たててドアが閉まるとエレベーターは上へと上昇し始めた。
それから先程まであったエレベーター特有の浮遊感が消え、扉が開いた。
「なんだこのケージ…」
階段が屋上へ繋がっているのか光が差し込むその部屋にはハムスターなどを飼う時に使うケージが置いてあった。
「きゅっ!」
「おい!」
そのケージを見るや否やちっこい生き物が肩から飛び降りてケージに飛びついた。どうやらケージを開けて貰いたいらしい。
「分かったけど一体何が……なるほどね」
そこには身を寄せ合って眠っているちっこいやつと同じ生き物が数匹いた。どうしてここまで一緒に来てくれたのかと思ったがどうやら仲間を助けてもらうために案内してくれていたらしい。
俺はケージに近寄り上の方についている出入り口を開けて中にいる仲間を外に出した。
「これでいいか?」
「きゅっ!きゅっ!」
「…どういたしまして」
ありがとうと言った気がした。なんだかこいつらと会話できるようになった気がする。和んできてしまったところだがまだやるべきことが残ってる。
「さて…この奥か。お前らはもう捕まったりするなよ…じゃあな!」
手を振って屋上への階段を駆け上がる。先ほどまで暗い中を進んでいたので目が暗闇に慣れてしまっていて外の光が眩しい。その光とともに風も強く吹いていた。
「…よぉ……やっと会えた」
「遅かったねショウマくん。でも…よくロボットに殺されなかったね…」
そこには自分の右手首に縄を結びもう片方をエルの両手首につけ、屋上の端の方に立ってるダミアンの姿があった。
エルの口にはガムテープが貼られており、どうやら会話はできないみたいだ。
なるほど。俺がアイツを撃てば一緒にエルも落ちるって寸法か。
残念な事に今の俺にはナイフしかない。
「……返してくれるんじゃなかったのか?」
「ただで帰すなんて言ってないよ」
「だったら…奪い取るまでだ」
俺はナイフを取り出して逆手に持つ。そしてゆっくりと体勢を下げる。これでいつでもダミアンに攻撃できる。
「おっといいのかな?それ以上近づいたら僕はここから飛び降りるよ…?」
「………っ…」
少し俺の体勢が高くなった時だった。
ダミアンのあの伸びる腕が飛んできた。
「………っ!」
それをギリギリでかわす。パーカーの二の腕の部分が少し破ける。
あの腕は見た目以上に火力がある。最初にやられた時みたいにされたら確実に俺は殺されてしまうだろう。
「だけど…腕は腕」
俺はナイフをダミアンの腕に突き立てる。
血が突き刺したところから溢れてきた。これでダミアンの腕を封じた。
「と…思った?」
「………っ!」
ダミアンはその伸ばした腕を一気に縮めた。
俺はその手に突き立てたナイフから手を離そうと思ったが、遅かった。
「うおっ!」
そのまま俺はダミアンの後方へ投げ出された。
「えっ………!」
そしてその下はもちろん崖だ。それも相当高い。下は川だがこの高さから落ちたら確実に待っているのは……死。
「うわっ……マジかよ…」
空中で悪態をつき、そのまま重力の赴くまま落ちていった。
腸が身体の中央に寄ってくるような気持ちの悪い感触に襲われた。
そのまま落ちて、落ちて、落ちて…着水。コンクリートの床に叩きつけられたかのような衝撃で俺の身体はスイッチを切った機械のように動かなくなった。
落ちていったショウマさんをなす術もなく見る事しか出来なかった。私がもっとちゃんとしていればこんな事には……
そんなことを思ったら口からガムテープが外された。
「ショウマさんっ!いやぁっ!嘘……ショウマさん!ショウマさんっ!」
「さて……これで君たちのつまらない約束も無くなった……そして…君は…君は僕のものに!」
頭に手を当て奇妙な声で笑い始めるダミアン。
ショウマさん……どうして……いつも私だけ置いていってしまって………
「………どうして…?」
「さあ…こっちにくるんだエル…君には約束なんてものはないんだ…君は……僕のモノだ……!」
「………いやです」
反論した瞬間私は顔を無理やりダミアンの方へと向けさせられた。
「………残念だけど君には拒否権はないよ…それがたとえ普通にこの世に生まれてきた人間だったらまだしも…『作られたニンゲン』だとしたら尚更……ね?」
「………どうしてそれを…」
「……おや…?ビンゴかな?」
そうダミアンは言うとおもむろに私のTシャツの襟を強く引っ張った。私のうなじより少し下をダミアンは覗き込む。
「……っ!やめてください!」
「………3726……そんなに古くはないけどまあ…新しいとは言い難いな」
「………っ!?」
…………確かに私は『造られたニンゲン』だ。しかもダミアンの言う通り私はそんなに新しくない。元はと言えば…私は…廃棄されたはずの人造人間。『ヒューマノイド』なのだ。




