第三層 episode.1
「僕は……この層の住人…ダミアン!」
「どうして俺たちの名前を知っている?」
「それは君たちのことをエレベーターの中の監視カメラで見させてもらったからだよ!」
狂気に満ちた目を片手で押さえ、天を仰ぐダミアンという男。明かに常人とは違う何かを持っていた。
「それで…何の用ですか?私達急いでるのですけど」
やや威圧的な声でダミアンに視線を送るエル。その右手はいつでもポケットの拳銃が握れる位置にあった。どうやら警戒はしているみたいだ。
俺も警戒のためライフルに初弾を込め、トリガーに指をかける。
「いいね〜その声…聞いているだけでゾクゾクしてくるよ…」
「目的は何だ?用がないなら早く行かせてくれ」
すると先程まで顔にあった手を退け、エルを指差す。
「僕の目的はね……君だよ、エル」
「どういうことですか?」
「エル………僕は君が欲しい……僕の妻にしたい
「あんな人知りません。多分すれ違ったこともないです」
「その通り!僕は君をあのエレベーターの監視カメラで初めて見た!…一目惚れだったよ……君の冷徹な目を見ていると君が欲しくてたまらなくなった……ああ…自分のものにしたい……僕に服従させたいってね!」
そう言い放った瞬間ダミアンは懐から拳銃を取り出した。
すかさず俺とエルのライフルと拳銃を構える。だが、ほんの一瞬だけダミアンの方が早かった。
「君は邪魔なんだ!」
ダガンッ!
「ぐっ!」
「ショウマさん!」
その弾丸は俺の左腕に被弾した。詳しくは被弾というよりかすっただけなのだが、上着のパーカーを削っていった。俺はお返しにと1発ライフルを撃ったがダミアンの脚をかすっただけだった。ダミアンが悪態を吐き何かを叫んだかと思うと腕が……腕が伸びた。
「ひっ!?」
それを見て驚いたしたエルが一瞬その身体を硬直させた。その隙を狙っていたのかダミアンの腕はエルの身体に巻きついていた。
「あっ!」
「させるか!」
そのまま腕が短くなり、エルを連れて行こうとしたのでそれを阻止するべくダミアンのそれに飛びついた。
それを見たダミアンがちっと舌打ちをし、反対の手の握られていた拳銃でまた俺を撃った。
次は腹部に被弾。大きな衝撃が腹部に走り、それに耐えられず俺の腕はダミアンの腕から時離れていた。
「お゛……痛っ……」
「ショウマさん!いやっ!離してください!」
にぃと歪めた口は笑っているように見えるが目には未だ狂気が満ちた目を残したダミアンは
「やっと手に入れたんだ……離す訳ないじゃないか!」
と叫び、俺にまた拳銃を発砲した。今度は右肩に被弾。血が噴き出た。もう間に合わない。
自分の血液に身を汚しながら肩に担がれて連れ去られるエルに手を伸ばした。だが、届かなかった。何かエルが叫んんでいるみたいだがぼやけててよく聞こえない。
せっかくゾンビからも治ってエルとの約束を守れると思ったのに。守れなかった。
それから俺の意識は暗闇の放り込まれた。
「…………………」
「きゅっ!」
「………?」
「きゅきゅっ!」
「………な…なにが…?」
意識が復活した。したのはいいのだがおかしい。いや良くなかった。まあそれはともかくさっき確実に致死量の出血をしたはず。そう思ってコンクリートの歩道から起き上がり傷を確認する。
「……ない。傷が……ないっ!?」
そこには傷ひとつな自分の肌が破れた服から見えていた。服が破れていると言うことは確実に弾丸を食らったという意味だと思うのだが……
しかも現に今俺の周りには血溜まりができているし、服も血に塗れている。
「なんで……っていうかお前……何?」
「きゅっ?」
さっきからきゅっきゅ鳴いているもふもふの………ハムスター……?いや。ハムスターにしては小さい気がする。
「……もしかしてだけどさ……この傷…お前が治してくれたのか?」
そんな訳ないと思いつつ聞いてみたらなんと「きゅっ!」と鳴いて頷いたではないか。ありえない。
「……なんじゃそりゃ…そういえばアグレッサーはありえない現象を起こせるんだったっけか……」
1層でエルに聞いた言葉を思い出す。アグレッサーはありえない現象を起こす。つまり、もう治らない傷さえも治すことができるということであっているのだろうか?
「きゅっ!」
ゆっくり立ち上がるとその謎の生き物はトコトコと何処かへと走っていってしまった。
人外にしたって命を救われたかもしれない生き物にお礼一つできないのはなんだか悪い気がしたので俺も走ってついて行くことにした。
しかし、俺は早くエルを救出しなければならないのだが……
「きゅっ!」
その生き物は近くにあった建物の残骸の角で止まっていた。どうしたのかとその生き物の近くに寄ってみるとそこには血痕があった。それはその先の道にも続いていた。
おそらく俺が撃ったライフルの弾が掠ったことによりダミアンが負傷した際の血だろう。
「これを追えばもしかしたら……」
「きゅっ!」
「お前……もしかして教えてくれたのか?」
するとその謎の生き物はこくんと頷いた。なるほどこいつはどうやら人間の言葉を理解できるらしい。しかし、俺を助けてくれる意味がわからない。だが、助けてくれたことは事実なので礼を言う。
「マジかよ……ありがとな!」
「きゅっ!」
するとその謎の生き物は俺の足から肩まで登ってきた。首元にいるので首が毛がふさふさしていてくすぐったい。
「……一緒にきたいのか?」
「きゅっ!」
「……わかった。じゃあ行こう」
「きゅっ!」
「エル…待っとけ。絶対に助け出してやるからな…」
こうして俺達……俺と一匹はエルの救出に乗り出した。




