第二層 episode.5
「………?」
生きてる。どこにも痛みはなく、ただ先ほどまでの熱と食欲だけが残っていた。
「すいません後ろの扉からゾンビが入ってきそうになっていたので……」
それを聞き、後ろを向いてみると白衣を着ているゾンビが床に突っ伏していた。
「そうか。じゃあもう一回頼む…」
「……はい」
「待った。エル、もうショウマを殺す必要は無くなったみたいだぞ」
「……?」
「どう言うことだ……ブレンダ?」
「見ろ、今倒したゾンビを。腰に鍵がついてるだろ。多分冷蔵庫の鍵だ」
「マジか……」
「……じゃあショウマさんは!」
「幸運というか残念な事なのか……まだ死ねないみたいだな……エル。俺を撃つのはまた今度になるみたいだ」
「もうこんなことはしたくありません」
「……すいません」
それからブレンダが冷蔵庫を開け、中のワクチンの中身とナイフで自分の血液をビーカーに入れグラス棒で混ぜ始めた。2〜3分混ぜていると色がピンクに変わった。それを袋に入っていた注射器で取る。
「おら、ズボンまくれ太腿に打つぞ」
「分かった」
俺はズボンの裾を……上がらない。どうやらGパンだからかスネらへんで止まってしまった。
「早くしろよ」
「脱げと言うのか」
「なんでもいいから早くしろ。てめえのパンツ見たところで何にも感じやしねえよ」
「そうか。じゃあエル、向こうを向いていてくれ」
「……あ、はい」
それからズボンを脱ぐ。久しぶりに自分の脚を見た気がするが…地味に筋肉質だ……記憶はないがもしかしたら何かスポーツでもしていたのかもしれない。
「終わったぞ。さっさと履け」
「悪いな」
「気にすんな」
それからズボンを履き、3人で上へと戻った。上は先ほどとなんら変わりないみたいだ。
「さて、ショウマのゾンビ化も止められた事だし、さっさと上の層に行くぞ」
「分かった。じゃあ行こう、エル」
「はい」
病院を出て真っ直ぐ塔のところまでやってきた。塔のデザインはやっぱり1層と同じで真っ白だった。そしてその入り口にはでかい鉄製の扉がある。
開けようとすると意外にも鍵が開いていた。中はいつも通りというか一層と同じ真っ白な部屋にポツンとエレベーターがあった。
その中に入り、ボタンを押す。ガコンと音を立てドアが閉まる。するとエレベーターはゆっくりと上昇していく。
「やっとここまで来たな。上の階層がどうなってるか分かるか?」
「あー…上はな…ただの居住区だと思うぞ」
「そうか。だったらそこまで苦労することはなさそうだな。と言うか一体何の用で上の層に行くんだ?」
「いや……まあ…忘れ物をしただけだ」
「そうか。じゃあ上に着いたらお別れだな」
そんなことを言いながらなぜか1層のエレベーターにはなかった監視カメラを見つけた。どうして監視カメラがあるのかは分からないがまあ……対したことではないだろう。
「まあ、私も上の層を目指してみるぜ。またエルちゃんに会いたいしな」
そう言ってエルを見る。するとエルはいつもは冷たいその目を柔らかくし、微笑む。
「待ってます。20層に行く予定なので絶対来てくださいね」
「まかせろエルちゃん!」
「ゾッコンだな……お前」
「まあな。さてもうすぐ着くぞ」
「ああ」
それからエレベーター特有の浮遊感が消え、いつもの重力が戻ってきた。そして扉がゆっくりと開く。そこにはまたも真っ白な部屋が目に入ってくる。
3人で外に出る。真っ白い部屋から出ると……また監視カメラがあるな。
「……」
「どうした?」
「なんでもない」
「そーかよ」
しかし今回の階層もあんまり植物が無いな…そしてなんだかぎゅうぎゅう詰めだ。建物間が1m開いてるかどうか分からないぐらいの間しか空いていない。
「………さて、じゃあここでお別れだな。また今度会えたら会おうじゃねえか」
「ああ。またな」
それからエルと2人でブレンダを見送った。サブマシンガンを手に持ちこちらへ手を振っている。
それに合わせてこちらも手を振り返した。
「行ってしまいましたね」
「そうだな……もしかして3人の方が楽しかったか?」
「……3人も楽しいですけど…………2人でも寂しくはありませんよ。1人の時と比べたらずっと……」
「そうか」
「そうです。早く行きましょう」
「分かった。行こう」
それから巨大な都市の中に俺たちは脚を踏み入れた。道がとても入り組んでいる。
しかもこの階層の都市はさらに何階層か分かれているみたいだ。と言ってもいつものようにしっかりと分けられているわけではなく、上に行くに連れどんどん狭まっていく感じの、いわばいわばピラピッド型になっていた。
そのてっぺんに次の階層への塔があるみたいだ。
エルのこのピラミッド型都市に脚を踏み入れてから約1時間。道は狭いが順調に進んでいる。しかし……上への行き方がさっぱりだ。おそらく今は中心へと向かっているはずではあるのだが……
「ショウマさん」
「どうした?」
「その……私たちご飯ずっと食べてませんよね?」
「……確かに。通りで足が動きにくいわけだ」
腹の減りはあまり感じないがもう体力も残っていないのか足が自分の意思よりも前に出せていない。まるでさっきまでのゾンビ化寸前の状態みたいだ。
「じゃあ……飯にするか」
「そうしましょう。じゃ無いとゾンビ化しかけたショウマさんの体力が持ちません」
「痛いところをついてくるな」
流石に俺の足元は見ていないだろうと思っていたのだがどうやら千鳥足ぽくなっていたのがバレていたらしい。
「カロリーブロック残ってましたよね?」
「確か。残ってたはず」
背中のリュックを下ろして中を探す。あった。黄色い箱を取り出す。
「よかったな。みんな大好きプレーン味だぞ」
「……無いものは仕方ないです。早く食べましょう」
それから2人でカロリーブロックを分け合って食べた。やっぱり美味しいとは言えない味だ。
うん。噛めば噛むほど甘味があるもののパサパサしているのでどうしても水が欲しくなる。
残りのひとかけらを口に放り込む。それから数度咀嚼し水を流し込んで飲み込む。
「よし…行こう」
「待ってください。私はあんまりお腹空いてないので私の分食べていいですよ」
おずおずと残り一本を差し出して来た。でもエルも昨日の夜から何も食べてないはずなんだが……
「いや、エルが食べてくれ」
「本当にお腹いっぱいなので……お願いします。食べてください」
「分かったよ」
そう言って俺はエルの手に握られているカロリーブロックに噛み付いた。そのまままた、歩き始めた。手で丸ごと一本を口に押し込み水を流し込む。
「はひはほほ」
「飲み込んでから話してください!」
何故か顔を赤くしたエルの態度に首をひねる。一体どうしたと言うんだ……。まあいい、とにかく上へ登る手段を見つけないと何も始まらない。
「そういえば……目。紅くなくなりましたね」
「そうか。それはよかった。それでだ。エル。ここの登り方分かるか?」
「大体は分かります。ついて来てください」
「おっけ」
それからエルについて行くこと約20分。上に登る階段を見つけた。しかし上りきったら次の階段が見当たらなかった。
何故かと聞いたらエル曰く、テロ対策用なので階段は別の場所にあるんだそうだ。
まあこれだけ人口が密集していたのを考えるとテロ対策をするのも仕方ないのでガマンする。
だがしかし、今となっては人っ子1人いやしない都市にテロ対策など無用の長物にしかならないが。
それからまたエルについて行った。結構長い時間歩き続ける。周りの建築物は上に行くほど豪華になり、建物間も広くなって来た。どうやら下から上にかけて裕福の差を示しているようだった。
それからどんどんピラミッド型都市を進む。もうそろそろ日が暮れそうだ。
一定のペースを保っていたエルの足が急にピタリと止まった。何事かと思い口を開こうとした瞬間だった。
「やあ……エル………そして…ショウマくん?」
そこには謎の長身でひょろりとした体格の男が両手を広げて道を塞いでいた。
「……お前は…誰だ…?」




