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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第五章

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ビューティフル・バード

少し緊張しているのか、ヒカルコは眉をすくめたまま小さく頷いて不安げにマイに顔を向けるが、マイはそんなヒカルコに緊張感のない緩やかな笑みを見せる。

「じゃあマイ、聞き込みする」

楽しんでいるようなマイの笑みに、すぐにヒカルコの表情が緩んだ。

「聞き込みって誰に?」

「んー、公園にいる動物に縄張りの場所を聞くの」

なるほど、人間に聞くより分かりやすいかも。

「探偵はまず体を動かすこと、だからね」

マイが笑顔でそう言うとヒカルコは少し戸惑ったように微笑みを返した。

楽しんでいるならそれはそれで良いか。

「マイ、すっかりクレイの気分だね」

「うん」

ヒカルコがニヤつきながら口を開くとマイは笑顔で頷く。

クレイ・・・。

「マイも幽霊刑事観てるの?」

こちらに振り向いたマイは笑顔で頷くと、何やら得意げにニヤつき出した。

「マイね、いつもレイティンを支える女探偵のクレイが好きなの」

「そうか」

さっきの台詞はクレイのを引用したって訳か。



「とりあえず動物が居る所って言ったら・・・」

動物園しかない、か。

「ねぇ、どこにあんの?クリスタル」

「そこまでは分かんないけど・・・」

何だろ・・・子供の頃から来てるのに、少し久しぶりだからかな、何か違和感があるような・・・。

「思ったんだけどさ、動物園に巨大な動物が出たなんてニュース、聞いたことなくないか?」

「そうだねぇ、だったら、動物園の手前辺りを調べてみる?」

「えー、私行きたい、動物園。せっかく来たのに」

愛華音がそう言うと、要太はリラックスしたような笑い声を小さく吹き出す。

「そっか、じゃあ行くか、とりあえず」

「うん」

幼い想い出を少し思い出しながらふと人混みを見渡していたとき、すぐにその人混みの中に居る見覚えのある人物の存在に気が付いた。

2人に言おうか、いや、でも無理に気付かせても、あっちはあっちで楽しんでるみたいだしな。

でもこのまま進んだら、愛華音か要太も、あっちもこっちに絶対気付くよな。

ちょっと、どうしよう。

「何見る?最初」

「何見ようかねぇ、やっぱライオンかな」

「え、パンダでしょ・・・あら」

ああ、愛華音ってホントにこういうのすぐに気が付くんだよなぁ。

「結衣歌ちゃんじゃん、あれ、おーい」

そう言って愛華音が手を振ったとき、すぐに要太は何かを訴えるような笑みを見せつけてくる。

まぁいっか。

「何してんの?皆も遊びに来たの?」

「うん」

「そっかぁ、じゃあ・・・」

愛華音と山川結衣歌達が、何となく気まずさを感じるような笑顔を見せ合うと、すぐに愛華音が再び小さく手を振りながら歩き出していく。

要太の後に山川結衣歌達3人を通り過ぎるその瞬間、ふと山川結衣歌と目が合うと、その一瞬にしか見なかったはずのその眼差しが、いつものように何故か脳裏に焼き付いた。

「音也、山川と話したことあるっけ?」

「この前、一言だけ喋ったかな」

そういえばいつも目は合ってるけどな・・・全然話したことないや。

「うーん、で、どうなの?」

「え?」

すると要太はまるでからかうようなニヤつきを見せてくるが、同時にその表情の真意が言葉にせずともすぐに理解出来た。

「結構カワイイじゃん」

「うん・・・」

その時に素早く愛華音がこちらに振り向くと、まるで考えが読めないその無表情さに何故かふと目を捕われる。

「要太、そろそろ探そうよ、クリスタル」

「え、ああそうだな」

山川さんか、話さないのに、そういえば気になると言えば気になるかも。



マイはベンチの周りを歩き回っている鳩から少しだけ離れた場所でうずくまり、静かに鳩を見つめる。

「鳩さん、マイね、鳩さんに聞きたいことがあるの」

マイの方に顔を向けたように見えたが、鳩は依然として休みなく周りを見回しながら、マイの目の前を歩き回っている。

本当に通じてるのかな?

「マイね、すごい大きい動物の巣を探してるの。鳩さん巣の場所知らない?」

鳩は喉を鳴らし始めたが、特にマイを見ることもなく相変わらずマイの目の前を歩き回っている。

「そっかぁ、分かった、ありがとう鳩さん」

・・・通じたのか?

口を動かしたりジェスチャーをするような動きもしなかったのに。

すると立ち上がったマイは遠くを指差しながらこちらに笑顔を向ける。

「あっちに住んでるカラスが知ってるかも知れないんだって」

「そうか」

そして再びマイとヒカルコの話を聞きながら2人の後について歩きしばらくすると、マイは荒らされたごみ箱の近くで跳ね回っているカラスに近づいた。

マイに気づいたカラスはマイを見ながら警戒するように離れると、マイはその場にうずくまるように身を屈める。

「怖がらないでカラスさん、マイね、カラスさんに聞きたいことがあるの」

するとカラスはその場から動かずに真っ直ぐマイを見つめた後に、キョロキョロと首を動かし始めた。

言葉が通じるだけで警戒心は少し和らぐみたいだ。

「マイね、大きい動物の巣を探してるの・・・うん・・・」

マイと話をしているうちに、カラスは少しずつマイに近づいていく。

鳴き声も上げてないのに会話が成り立ってるなんて、ちょっと不思議だ。

「お腹空いてるの?・・・そっかぁ」

さっきの鳩とは違って、カラスはしっかりとマイの顔を伺っている。

「今は食べ物持ってないの・・・組織に帰ればたくさんあるけどね」

するとカラスは胸を張り、何かを訴えかけるような眼差しでマイを見つめると、マイは目線を上げた後に笑顔でカラスを見た。

「マイは良いけど、その前に体を洗わないとね」

このまま話がズレていかなきゃ良いけど。

「・・・ほんと?・・・分かった、じゃあ行こう」

マイが立ち上がると、マイはとてもすっきりしたような表情をこちらに向けてきた。

「案内してくれるって」

「そうか」

カラスに連れられて林に入り、飛んでいったカラスが降り立っていく木の枝の方へと歩いていくと、林の奥に行くにつれて少しずつ空気が変わっていくのを感じ始めた。

やっぱり静かだな。

巣が近いから誰も近づかないってことかな。

そしてまた遠くの木の枝で待っているカラスの下に着いたとき、カラスはその場で動かずにマイを見ていた。

「分かった・・・うん良いよ」

マイが笑顔で頷いてカラスに近づくと、カラスはマイの肩に乗っかった。

「何て言ったの?」

ヒカルコが不安げに口を開くと、カラスを見ていたマイは笑顔で振り返る。

「ここらへんからよく声が聞こえるから、巣があるとしたらここらへんかもだって」

「そっか」

すると林を見渡すヒカルコの表情が、少しずつ緊張するように引き締まっていくのが見てとれた。

「じゃあ僕が前を歩こうか?」

「ううん、マイが行く」

「大丈夫?」

ヒカルコが不安げに聞くと、マイは微笑んではいるが少し不安げな眼差しをヒカルコに向けていた。

「ヒカルコちゃん、準備してくれる?」

「あ、うん」

マイが前に出るとヒカルコは小さな透明の円い鏡を2枚宙に浮かせ、続けて鏡から放たれた光を鏡同士で繋げ、光の柱を作り上げた。

手からじゃなくても光を出せるようになったのか。

その光の柱をマイの前に浮かせながら進んで行くと、間もなくして何かがうごめくように草が揺れる音が聞こえてきた。



「てかさ、考えてみたら手掛かり無くない?」

「だよねぇ、音也知らない?何か」

何かって言われてもな。

「そもそもさ、巨大な動物が居る所に言った方が良いんじゃないの?ニュースでやってた代々木公園とかさ」

「あそこはダメだろ、今頃警察に封鎖されてるし」

「あそっか。じゃあさっき変な感じがしたとことか行ってみる?」



茂みから出て来たトラよりも遥かに大きな三毛猫は、こちらの方を見ながら警戒するように首を下げる。

「ごめんね、勝手に入って来ちゃって。マイね、猫さんとお話がしたいだけなの」

マイが宥めるように話しかけると、大きな三毛猫は首を傾げ、警戒を解くように体勢を戻す。

いくら鉱石で願いが叶うと言っても、何で皆ただ体を巨大化させるだけなのかな?

「うん、猫さん達のこと、みんなが怖がってるの」

翼とか欲しいとか思わないのかな?

すると大きな三毛猫を見ているマイは何やら難しい顔で頷いた。

「そっかぁ、でもむやみに街に出たら、猫さんが襲われちゃうでしょ?」

確かに単体では人間より強くても、警察を呼ばれたら駆除されちゃうしな。

「人を見ても驚かせないでって、巣に居る猫さん達みんなに伝えて欲しいの」

腰を落として座った状態で静かにマイの話を聞き入っているように見えるが、その大きな三毛猫が後ろ脚で頭を掻き始めると、マイは困ったように目尻と口角を小さく下げる。

「そんなぁ、じゃあどうしよう」

何か困ったことでも起きたのかな?

「どうかした?」

「何かね、猫は気まぐれだから、みんな分かってくれないかもって」

「そうか」

小さく唸ったマイが大きな三毛猫に目線を戻すと、何となく気まずさの伝わる沈黙が流れ始める。

まぁ仕方ないと言えば仕方ないか、弱肉強食のルールはいつだってシンプルだしな。

「この猫は分かってくれたの?」

マイはこちらに顔を向けると、すぐに大きな三毛猫に目線を戻す。

「猫さんは分かってくれた?」

マイがそう言うと再びマイと大きな三毛猫との間に沈黙が訪れる。

「・・・うん、ありがとう猫さん」

納得してくれたみたいなら、少なくともこの猫は大丈夫かな。

「・・・そうなの?じゃあマイ、そっちにも伝えに行くね・・・うん」

するとマイが小さく手を振り出し、大きな三毛猫が茂みに入って姿を消すのを見送った後、こちらに体を向けたマイは満足げな笑顔を見せた。



「そういえば変な感じって何だ?」

「何か・・・胸騒ぎっていうか」

ここら辺だな、何だろ、ただの胸騒ぎなのか、ホントに何か感じてるのかは分からないけど。

「それも1つの特徴なの?能力者の」

「多分違うと思うけど」

僕は、そんなこと頼まなかったし。

突如鳥の鳴き声が上空から鳴り響いたとき、何故かその音が、小さな胸騒ぎという名の凪いだ海を徐々に波立たせ始めた。

「ねぇ、そろそろ何か飲まない?暑いし」

「そうだな。音也」

「うん・・・」

ふと視界に入った高枝に止まる鳥を見ていると、何となくその鳥の綺麗な尾が気に掛かった。

「要太何て鳥だっけ」

「え?」

2人が空を見上げると同時に、その鳥がそこから低い枝に飛び移る。

「え・・・」

要太がその鳥の方に近づくが、逆にその表情は曇りの一途を辿っていく。

「え?」

おかしいな、要太、鳥に詳しいのに。

「何だありゃ、え?孔雀か?」

「何言ってんの?居る訳ないじゃん孔雀なんて」

孔雀?・・・でもそんなに尻尾長くないよな。

するとその直後、その鳥の尻尾が孔雀の如く大きく広げられ、何とも美しい羽模様があらわになった。

「やっぱ孔雀じゃん、あれ」

「いや、孔雀はあんな小さくないよ、それにあの尻尾、孔雀は120度くらいまで広がるけど、あれは完全に繋がって円になってる。だからあれは、孔雀じゃない。てか、あんなの見たことない」

存在しない鳥って言ったって、実際にあそこに居るし・・・。

「じゃあ、何?あれ」

「分かんないよ。何だよあれ。外来種ならまだしも、見たこともない種類が何でこんな所に」

巨大な動物とは関係なく、また違う新種がまだ居るってことなのかな。

これも、あの変な組織とは関係ないのかな。

要太を見下ろしながらその鳥がカラスに似たような声を発し、鳥と要太の間に沈黙が流れると、要太は小さく首を傾げながらこちらに目線を戻した。

「なぁ、もうちょっとこいつ見て良いか?」

「うん」

携帯電話を取り出し、レンズをその鳥を向ける要太から愛華音に目線を移すと、退屈そうな表情をしていた愛華音も、要太同様に携帯電話のレンズをその鳥に向けていた。

あそうだ、クリスタル探さないと。

何となく気に掛かる、何故か足が向かう方へと体を動かす。

見知らぬ鳥の止まる木を見上げ、木漏れ日に当てられながら優しくその木に手を触れる。

ガサガサとした手触りを感じた後に優しい風に吹かれ、ふと目に留まった地面を突き破る太い根っこに腰掛ける。

「幽霊刑事」

銃と手錠を持たないのがポリシーだと自称している刑事レイティンと、そんなレイティンを常に影から支える女名探偵クレイのコンビが事件を解決していく刑事ドラマ。現在シーズン9が放送されていて、最高視聴率は常に20%を越えている。存在感を消し、雑念を消し、無垢な目で若干遠くの物影から事件現場を眺めるレイティンを、人は幽霊と呼ぶ。レイティンは事件の核心に迫ると音も立てずに物影から姿を消すが、その様を初めて見た人は皆一様にまるで幽霊を見ていたかのように青ざめるのがテッパンの流れとなっている。

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