クリスタルを求めて
小さくため息をついた後、ミサはゆっくりと小さく頷きながら体を前に向けて目線を落とした。
納得したかな?
1人分スペースを空けてミサの隣に座り、夜空を眺める。
「現実的に必要は無くても、イメージが悪くなるじゃないのよ」
「そしたら、ミサが誰にも言わなければ問題無いでしょ?」
こちらに顔を向けたミサは少し不服そう眉をすくめて小さく唸り出す。
「・・・まぁ良いわ、それより、レンってちょっと謎が多いのよね」
ミサは眉をすくめたままだが、また少し違う不安感を伺わせる表情で目線を天井や床へと変えたりしながらそんな話をし始めた。
「自分の歳も分からないみたいだし、それに全然笑いもしないし、氷牙、何か聞いてない?」
自分の歳が分からないのか・・・。
「・・・僕がレンと会ったのは森の中なんだ。多分、1人になってから、歳も分からなくなるくらい長い間森に住んでたんじゃないかな」
するとミサの眉間のシワが深まり、不安げな表情がより一層深くなる。
「・・・そうなのね、でもそれにしても、何かいつも気を張ってるように見えるのよね」
「んー、森に迷い込んで来た人間に対して、期待感を寄せて近づくけど、レンを見て怖がった人間はみんな殺してきたんだって」
ミサはこちらを見たまま固まったが、小さくため息をついて目線を下に逸らすと、再び不安感を訴えるような眼差しをこちらに向けてきた。
「でも貴方はレンに殺されてないじゃない」
「僕はレンを怖がらなかったからね。多分レンは本当の姿を見せるまでは、心の底から気を許せないんじゃないかな」
「本当の姿って?・・・レン、人間じゃないの?」
「あぁ」
ゆっくりと頷きながら考え込むようにうつむいたミサを見てからふと窓に目を向けたとき、ミサがおもむろに立ち上がったので目で追うと、ミサは暖房のリモコンの前に立った。
「確かに1人じゃ可哀相だけど、でも無理にこの世界に連れて来なくたって良かったんじゃない?」
「最初にレンに会ったとき、友達になってくれるかって聞かれたんだ。きっと心の底じゃ、1人が寂しいんじゃないかな」
「・・・そうなのね」
どことなく納得したような表情で静かに頷くとミサは脱衣所に入って行った。
テレビを点けたがニュースをやっている時間帯ではないみたいなので、何となくそのままテレビを見ていると、ミサが脱衣所から出て来た頃にちょうどニュースが始まった。
テロと芸能ニュースの繰り返しか、あまり情報が無いな。
音楽プレーヤーで音楽を聴きながらミサがストレッチをしているときにテレビを消し、ベッドの上に横たわる。
ストレッチが終わったミサは音楽プレーヤーをしまうと隣のベッドに向かい、静かに布団をめくった。
しかしミサはそのまま布団の中には入らず、おもむろにベッドの上に座りながらこちらに体を向けた。
「貴方自身は汗をかかなくても、服は汚れるわ?」
何だ、まだ納得してなかったのか。
「何ていうか、温度が低いと菌とか死んじゃうし」
「でも、外に出たときに花粉ぐらいは付くわ?」
「外に出る度服を着替えるほど、僕は潔癖症じゃないよ」
目線を落としたミサは小さく首を横に振ると、何やら呆れるようにニヤついてから顔を上げた。
「貴方は1週間以上も洗濯してないのよ?自分で分かってるの?」
・・・確かさっき、シンジと戦ったな。
「・・・洗濯代わりになるようなことは、さっきやったよ」
「え?・・・だって、ずっとホールから出なかったじゃない」
驚くように眉を上げたが、ミサはすぐにまた眉間にシワを寄せ始める
なるべく簡単に説明しないと、またすぐに疑問を投げかけてくるしな。
「・・・氷の鎧は、服の上から纏ってるのは見て分かると思うけど、そのときに服も、服についた花粉や塵とかも、全部凍りつくんだ」
「つまり、鎧を消したときに、汚れも全部リセットされるってことかしら?」
「あぁ」
ミサは物分かりが良いみたいだ。
眉間にシワを寄せたままうつむいたミサは小さくため息をつくと、ゆっくり頷きながら顔を上げた。
「なるほどね、つくづく派遣調査にはうってつけの力って訳ね」
「まあね」
気が緩んだようにあくびをしたミサはゆっくりと枕に頭をつけていった。
今度は納得したみたいだな。
「お兄ちゃん昨日何してたの?」
「別に、サボっただけだよ」
「ふーん」
片手に食パン、片手に携帯電話を持ちながら麻耶が空返事をしていると、食パンにバターを塗っている母さんは、いつものように嫌悪感を見せつけるような眼差しを麻耶に向ける。
「麻耶ぁ?」
「分かってるぅ」
そう応えた麻耶は携帯電話を見ながらゆっくりと食パンにかぶりつき、食パンをお皿に置いてから携帯電話をお皿の隣に置いた。
「お兄ちゃん今日どっか行くの?」
「あぁ、要太達とちょっとね」
「ふーん、じゃあ麻耶もどっか行こうかなぁ」
遠くから階段を下りるような足音が聞こえてくると、いつものようにその足音は洗面所の方へと向かっていった。
「あ、パパ起きてきた」
そうだ、後でリアさんに電話しなきゃ。
玄関で靴を履き始めると同時に、すぐに投げ掛けられる質問の内容を予想させる足音が近づいてくる。
「何時に帰るの?」
「まだ分からないけど、多分そんな遅くならない」
「分かった、行ってらっしゃい」
「うん」
玄関を閉め、灰色に染まった空を見上げたとき、ふとその不透明さが今までの記憶の霞んだ部分と重なって見えた。
やっぱり、能力者になってもこのまま中途半端なのかな?
家族の反応にはそんなに興味ないけど、愛華音達のことを考えたらきっぱりと学校から離れられない。
ホールに入り、運ばれた料理をお皿に取って椅子に戻ったときにヒカルコがミサの隣に座った。
制服を着てないってことは今日は休日か。
だからマイは今日公園に行くって言ってたのか。
トーストの角にジャムを乗せたヒカルコはゆっくりとトーストにかぶりつき、マグカップを口に運んだ後にスクランブルエッグをスプーンで掬い口に入れる。
そういえばヒカルコも一緒に行くんだったな。
「ヒカルコ、いざというときはマイを連れて逃げてよ」
ヒカルコはマグカップを口に運びながら、小さく眉を上げる。
「え?最初からそのつもりだけど。氷牙が囮になるのが当然でしょ?」
「そうか」
「ちょっとヒカルコ」
ミサが戸惑った表情でヒカルコを見るが、ヒカルコは安心したようにミサに微笑んで見せる。
「だって氷牙だよ?大丈夫に決まってるでしょ?」
「・・・そうよね」
ユウジの挨拶が終わって会場の空気が緩み始めた頃に、ヒカルコと共にマイがいるテーブルの椅子に座った。
「マイ、そろそろ、公園行ってみる?」
「あ、うん、じゃあトイレ行ってくるね」
ヒカルコに応えながらマイはゆっくりと席を立っていく。
そういえばホールから直接トイレって行けないのかな?
マイを目で追ってみると、マイは廊下の扉を通り過ぎ、舞台の右脇を進んだ先にある扉に入って行った。
「あそこに扉なんてあったっけ?」
「1週間前にみんなの要望に応えてオーナーさんが作ったの」
すると同じようにマイを目で追っていたヒカルコが、すぐにこちらに顔を向けながらそう応える。
「そうか、そういえばカズマって鉱石使う予定あるの?」
こちらに顔を向けたカズマはすぐに考え込むように目線を下に逸らす。
「どうかな、時々考えるけど、オレはそこまで力とか求めてないしな」
「そうか」
「そういえばカズマ、レベッカは?」
ヒカルコの質問にカズマはすぐに顔を上げると、カズマはふとヒカルコの後ろの方へと目を向けていった。
「最近、朝はユウコかマナミの隣に居ることが多いんだ」
「ふーん」
カズマの目線の先に振り向いたヒカルコはそう声を漏らすと、静かにカズマに目線を戻す。
「もしもし、あの、今日はちょっと用があって、幕張海浜公園に行くの、遅れるっていうか」
「まぁ、それは別に良いけどさ、じゃあ用が済んだらまた電話してよ」
「はい」
・・・ふぅ、さすがに怒られることはないとは思ったけど、緊張した。
「そういえば音也、知ってるの?クリスタルがある場所」
「ううん、でも要太なら知ってるでしょ」
愛華音と共に要太の家の前に立ち、インターホンを鳴らす。
「ねぇ要太、どこ行くの?今から」
「え?」
足を止めた要太が愛華音に顔を向けると、すぐにその要太の表情からある答えを想像させた。
「え、知らない、そういえばどこ行く?」
「何で知らないの?言い出しっぺのくせに。私要太が知ってると思ってた」
まったくしょうがないなぁ、要太は。
でも確か、最初に居た組織の人達がクリスタルについて話してたことがあったな。
「音也なら知ってんじゃないのか?能力者だし」
「まぁ、組織の人達がそんな話してたの、聞いたことあるよ」
「おおマジか。音也、そんなに能力者の知り合いが居るのか、すげぇな」
「そこじゃないでしょ、突っ込むとこ」
要太が拍子抜けしたようなふとした表情を愛華音に向けると、愛華音は何かを心配するような、若干の焦りを感じさせる眼差しを向けてきた。
「何?組織って」
あれ・・・。
「ほらあの、昨日言った、仲間に入ったっていう」
するとうつむきながら頭を軽く掻き始めた要太をよそに、愛華音はその眼差しにいつもの責めるような真剣さを感じさせた。
「ホントのこと言えば?そんなそわそわするくらいだったら」
まぁいっか、ちょっとくらい、あの組織のこと言ったって。
「・・・実はさ、元々、能力者はある組織に集められてたんだ。何かいきなり知らない人が出てきてさ、皆さんは仲間ですって言い出したり、その人に決められてその組織のリーダーになった人が、いきなりトーナメントを始めるって言い出したりしたから、僕はすぐにその組織には行かなくなったんだけど、この前何となくその組織に行ってみたときにさ、聞いたんだ、巨大な動物の巣に、そのクリスタルがあるみたいな話を」
「へー」
凄くすっきりしたような表情で頷いた愛華音は、更に若干の微笑みも浮かべながら要太に顔を向けた。
リアクション、薄すぎ・・・。
「じゃあ、巨大な動物のとこ行けば良いんだな?」
「多分ね」
「シールキーはどうするの?」
「オーナーさんに頼めば大丈夫だよ」
ヒカルコはこちらに振り向いてそう応えながらマイに歩み寄る。
「そうか」
「じゃあ、行こ?」
マイが笑顔で頷いたのを見るとヒカルコが歩き出したので、2人の後ろについて舞台に上がる。
その時にちょうど会議室からアキが出て来て、こちらに顔を向けながら足を止めたアキはゆっくりとヒカルコを見た。
「どうかした?」
「まぁ、オーナーさんに用があるの」
「そっか」
小さく頷いたアキがヒカルコを通り過ぎると、ヒカルコもすぐに動き出し会議室の扉に手をかけた。
会議室に入っておじさんの部屋に行くほんの短い時間の間に、何となく違和感を感じたので部屋を見渡すと、ホールへの扉の向かいの壁に、また1つ見知らぬ扉があるのに気がついた。
また新しい部屋でも作ったのかな。
おじさんの部屋に入るとおじさんはいつものように椅子を回し、体をこちらの方に向けた。
「どうかしました?」
「うん、代々木公園に繋げて貰えない?」
先頭のヒカルコがそう応えると、おじさんはただ小さく片眉を上げた。
「分かりました」
そう一言を告げると、おじさんはすぐに巨大なモニターに体を向け、キーボードを叩き始めた。
帰るための扉がずっとあると誰かが入って来たりしないかな?
「じゃあどうぞ」
ほんの数秒の後におじさんが口を開いて再び体をこちらの方に向けると、応えながらヒカルコが歩き出したのでマイと共に後に続いた。
「マイはよく来るの?」
「んー、たまに友達と一緒に来てたよ。絶対に1人で行っちゃだめって言われてたから」
「そうか」
そんなに危険な場所だったかな。
小さく頷きながら公園を見渡したヒカルコは、困ったような表情を見せながら再びこちらの方に顔を向ける。
「どうやって探すの?」
「前は猫を追っかけてたまたま入った林が偶然大きくなる猫の縄張りだったし、やっぱり林の中じゃないかな?」
音也くん、居たんですね、氷牙の組織に。笑
ありがとうございました。




