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『俺が適当に作った秘密結社が、本当に世界を支配し始めていた』  作者: Toi
第1章

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1-7 『言わなかったこと』

第7話 言わなかったこと


第二拠点への移動は、想像していたより静かだった。


ノクスの構成員らしい者たちが数人。


必要最低限の荷物だけを持ち、裏口から順番に出ていく。


誰も騒がない。


誰も理由を聞かない。


慣れている。


レオンはその様子を見ながら、小さく息を吐いた。


本物なんだな。


何度そう思ったか分からない。


自分が十三歳の頃に考えた秘密組織。


黒い外套。


地下拠点。


七王会との争い。


全部、目の前にある。


ただし。


自分の知っているものと、少しずつ違う。


「行くわよ」


セラに呼ばれ、レオンは歩き出した。


夜の街。


先頭をガレス。


少し離れてセラ。


その隣をレオンが歩く。


「第二拠点ってどこ?」


「教えない」


「向かってるのに?」


「道を覚えられるでしょ」


「俺、帰るときどうするの」


「帰れると思ってるの?」


レオンは横を見る。


セラは真顔だった。


「冗談?」


「半分」


「半分なんだ……」


少しずつ分かってきた。


この女、真面目なのにたまに怖い。


いや。


真面目だから怖いのかもしれない。


レオンは鞄へ手を触れた。


中には《黒王戦記》。


そして。


第七王のページ。


《第七王は、黒の王と出会ったその日――》


《裏切る》


言わなかった。


なぜか。


あの場では言わない方がいいと思った。


でも。


本当にそれでよかったのか。


ガレスは言った。


情報を隠すなら、ノートを回収する。


実際、隠した。


完全に。


「……なあ」


レオンが口を開く。


セラが見る。


「何?」


言うか。


一瞬迷う。


「もしさ」


「もし?」


「ノートに変なことが書いてあったら、全部言った方がいいと思う?」


セラの目が細くなる。


「何か見つけたの?」


「質問に質問で返すなよ」


「今の聞き方なら疑うでしょ」


「まあそうか」


セラは少し考えた。


「内容による」


「全部話せって言わないんだな」


「ガレスなら言う」


「だろうな」


「でも」


セラは前を向いたまま続ける。


「私も、あなたのノートを全部信用しているわけじゃない」


レオンが横を見る。


「意外」


「一致している部分は多い。でも違う部分もある」


「地下拠点とか?」


「そう」


「なら、間違ってる可能性もある」


「ある」


その言葉で。


少しだけ肩の力が抜けた。


《裏切る》


それも。


間違いかもしれない。


むしろ、その可能性は十分ある。


「ただ」


セラが続ける。


「危険に関わる内容なら、隠さないで」


レオンの足が一瞬だけ遅れる。


「……なんで?」


「死ぬ人が出るかもしれないから」


単純だった。


組織のため。


黒の王のため。


そんな言葉じゃない。


人が死ぬ。


だから言え。


それだけ。


レオンは小さく息を吐いた。


「真面目だな」


「何が?」


「何でもない」


言おう。


そう思った。


第二拠点に着いたら。


ガレスにも。


セラにも。


《第七王が黒の王を裏切る》


そう書いてあることを。


そのとき。


ガレスが足を止めた。


「止まれ」


全員が止まる。


セラの手がすぐに短剣へ伸びた。


「どうしました?」


ガレスは答えない。


暗い路地。


人気はない。


レオンには何も見えない。


「……何?」


小さく聞く。


セラが口元へ指を当てた。


静かに。


その直後。


声がした。


「随分と大人数だな」


上。


レオンが顔を上げる。


屋根の上に。


一人。


座っている。


月を背にした影。


長い外套。


足をぶらつかせながら。


こちらを見下ろしていた。


ノクスの構成員たちが一斉に武器を抜く。


ガレスだけは動かない。


「名を名乗れ」


「必要ないだろ」


軽い声だった。


男か女か。


遠くて分からない。


「俺が誰かなんて、どうでもいい」


影が屋根から立ち上がる。


「用があるのは、一人だけだ」


レオンの背中を嫌な汗が流れた。


まさか。


影の顔が。


ゆっくりこちらを向く。


「黒の王」


やっぱり。


レオンは思わず一歩下がった。


ノクスの者たちが動く。


だが。


屋根の人物が片手を上げた瞬間。


空気が震えた。


ガンッ!


何かに押し潰されたように。


石畳が沈む。


数人が膝をついた。


「動くな!」


セラが叫ぶ。


影は笑った。


「安心しろ。今日は殺しに来たわけじゃない」


「なら目的は」


ガレスが問う。


「確認だよ」


「何を」


影がレオンを見る。


「本当に、来たのかと思ってな」


レオンの心臓が跳ねる。


「……俺を知ってるのか?」


「知っているとも」


返事が早かった。


「ずっと待っていた」


その言葉。


さっきの伝言と同じ。


《遅かったな》


そして。


レオンの頭に。


あの一文が浮かぶ。


《第七王は、黒の王と出会ったその日――》


《裏切る》


喉が乾く。


まさか。


「お前……」


レオンが声を出す。


「第七王なのか?」


影は答えなかった。


ただ。


楽しそうに笑う。


「なるほど」


何かを確かめるように。


「確かに、お前は黒の王だ」


次の瞬間。


影が消えた。


「っ!」


セラが振り返る。


遅い。


レオンのすぐ後ろ。


耳元で。


声がした。


「ただし」


全身が凍る。


「俺の知っている黒の王とは、少し違う」


振り向くより早く。


気配が消えた。


路地には。


誰もいない。


しばらく。


誰一人、動けなかった。


レオンは鞄を強く握る。


違う。


今。


第七王は言った。


俺の知っている黒の王。


それはつまり。


自分以外にも。


《黒の王》を知っている何かがある。


そして。


レオンの頭にはもう一つ。


さっき隠した一文が残っていた。


《裏切る》


第七王は。


誰を。


何を。


裏切るんだ?

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