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『俺が適当に作った秘密結社が、本当に世界を支配し始めていた』  作者: Toi
第1章

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1-4 『知らないはずのこと』

第4話 知らないはずのこと


部屋の扉が開いた。


レオンとセラが同時に振り向く。


入ってきたのは、灰色の髪を短く切った男だった。


年齢は四十前後。


黒い外套は着ているが、セラのものとは少し違う。


装飾が少ない。


その代わり、胸元に銀色の留め具が一つだけある。


男はレオンを見る。


次に、机の上の《黒王戦記》へ視線を落とした。


「それが例のものか」


「はい」


セラが答える。


声が少し硬い。


レオンは男を見る。


「どちら様?」


「ガレスだ」


それだけ。


「名字は?」


「必要ない」


「ノクスって、そういう人多い?」


セラが小さく息を吐く。


ガレスは表情を変えなかった。


「レオン・ハルツ」


「俺の名前は知ってるんだな」


「調べた」


「早くない?」


「必要だった」


会話が短い。


セラが二人に増えたみたいだ。


レオンは少しだけ嫌な予感がした。


ガレスは向かいの椅子へ座る。


「セラから聞いた」


「どこまで?」


「お前が七王会とノクスを知っていたこと。夜哭と黒閃を知っていたこと。そして」


視線がノートへ向く。


「《黒の王》を書いていること」


レオンは頬を掻いた。


「最後のだけ言い方がすごく嫌だな」


「なぜ?」


「十三歳の黒歴史を大人二人に真顔で確認されてるから」


ガレスは無視した。


「そのノートはいつ書いた?」


「十三歳くらいから。何年か書いてた」


「誰かに見せたか?」


「友達に少し」


「何人」


「覚えてない。二、三人?」


「その者たちは今どこにいる」


「知らないよ。十年以上前だぞ」


ガレスがセラを見る。


「確認しろ」


「はい」


レオンは眉を上げた。


「友達まで調べるの?」


「必要なら」


やっぱり秘密組織って怖い。


ガレスは机の上のノートへ手を伸ばした。


レオンも反射的に手を伸ばす。


二人の手が、ほぼ同時に止まった。


「……それ、俺のだからな」


「分かっている」


「返してくれる?」


「お前が協力する限りは」


レオンの眉が上がる。


「しなかったら?」


「回収する」


迷いのない答えだった。


「ずいぶん素直に脅すんだな」


「脅しているつもりはない」


「じゃあ何?」


「方針だ」


ガレスはレオンをまっすぐ見る。


「今のところ、ノートだけを奪う意味は薄い」


「なんで?」


「書いたのはお前だ」


ガレスが指で机を一度叩く。


「その時何を考えていたか。何を先に書いたか。何を消したか。何を書かなかったか」


視線がレオンの頭へ向く。


「情報はそこにもある」


セラと同じことを言っている。

レオンは無意識に自分の頭を押さえた。


「……怖い言い方するなよ」


「だから今は話を聞く」


「今は?」


「隠すなら話は別だ」


セラが横で静かに頷いた。


どうやら冗談ではない。


レオンは椅子にもたれた。


「分かったよ。聞きたいこと聞け」


ガレスは少しも表情を緩めない。


「七王について、どこまで書いた」


「結構」


「名前は」


「全部付けた」


「能力」


「それも」


「弱点は」


「ある奴もいる」


ガレスの目が細くなる。


「一つ話せ」


レオンはノートを開く。


七王会の項目。


第一王。


第二王。


第三王。


昔の自分の字を見るだけで、少し恥ずかしい。


「じゃあ第三王」


ページを指で叩く。


「左腕に古傷がある」


ガレスもセラも動かなかった。


レオンは続ける。


「昔、能力が暴走して自分で焼いた」


沈黙。


「その傷のせいで、左手だけ能力の精度が少し落ちる」


誰も答えない。


レオンは苦笑した。


「……外れ?」


ガレスが口を開く。


「どこで知った」


「だから書いたんだって」


「理由は」


「理由?」


レオンは昔の自分を思い出す。


少し考えて。


「ああ」


思い出した。


「左腕だけ袖が破れてる絵を先に描いちゃったから」


セラが瞬きをする。


「……何?」


「せっかくだから理由付けしようと思って。能力暴走で火傷したことにした」


また沈黙。


今度はガレスまで、ほんの少し顔をしかめた。


「そんな理由で?」


「十三歳だからな」


レオンは笑おうとした。


でも。


笑えなかった。


「当たってるんだろ?」


ガレスは答えない。


それが答えだった。


レオンはノートへ目を落とす。


七王の人数。


互いに信用していないこと。


第三王の傷。


全部。


適当に決めた。


なのに。


現実にある。


「なあ」


レオンはガレスを見る。


「第三王の傷って、いつからある?」


「なぜ聞く」


「俺が書く前からあったのか確認したい」


ガレスは少しだけ間を置いた。


「少なくとも、お前が生まれる前から確認されている」


その言葉で。


レオンの中に残っていた可能性が、また一つ消えた。


自分が書いたから生まれた。


違う。


時系列が合わない。


なら。


自分は未来を当てた?


偶然?


こんな細部まで?


あり得ない。


「……分からんな」


レオンは呟いた。


「何が」


セラが聞く。


「全部」


ノートをめくる。


知っている文字ばかりなのに。


今は、自分の知らないものを読んでいるような気分だった。


ガレスが静かに言う。


「一つ確認したい」


「何?」


「このノートは最後まで書いたのか」


レオンは顔を上げた。


「いや」


「途中?」


「ああ」


レオンはページを閉じる。


「最終章は、書き切ってない」


その瞬間。


初めて。


ガレスの表情がはっきり変わった。


「最終章?」


セラもレオンを見る。


レオンは少し嫌な予感がした。


「……何だよ」


ガレスの声が低くなる。


「そこには、何を書いた」


レオンは答えようとして。


止まった。


なぜだろう。


今までより。


その質問だけは、


簡単に答えない方がいい気がした。

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