↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺が適当に作った秘密結社が、本当に世界を支配し始めていた』  作者: Toi
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/22

1-3 『俺の物語と違う』

第3話 俺の物語と、違う


「場所を変える」


セラが言った。


「今度は命令?」


「提案」


「だいぶ進歩したな」


「断れば拘束する」


「命令じゃねえか」


セラは真顔だった。


レオンはため息をつく。


正直、帰りたかった。


だが、それ以上に知りたい。


ノクス。


七王会。


黒の王。


全部、自分のノートにある。


しかも、自分が生まれるより前から存在していた。


ここまで来て何も聞かずに帰れるほど、神経は太くない。


「わかったよ」


「なら行く」


セラが歩き出す。


レオンも数歩進んでから、ふと止まった。


「その前に」


「何?」


「ノート返して」


セラは手元の《黒王戦記》を見る。


「まだ確認が終わっていない」


「俺のだぞ」


「だから?」


「普通は返すだろ」


セラは数秒黙った。


そして。


意外にも、あっさり差し出してきた。


「……いいの?」


「何が?」


「もっと抵抗すると思った」


「必要になれば回収する」


レオンの手が止まる。


「回収?」


「あなたが協力する限り、持っていて構わない」


「協力しなかったら?」


セラは淡々と答えた。


「奪う」


迷いがない。


レオンはノートを受け取りながら、乾いた笑いを漏らす。


「秘密組織らしくなってきたな」


「ノートだけ奪っても意味がない」


「え?」


「書いた理由。書いた順番。忘れている内容。ノートに残していない設定」


セラはレオンの頭を指差す。


「今は、そっちの方が重要」


レオンは思わず自分の頭を押さえた。


「言い方怖いな」


「情報を隠さなければ問題ない」


「隠したら?」


「さっき言った」


奪う。


それだけでは済まない気がする。


レオンはそれ以上聞かなかった。


⸻


案内されたのは、古い時計塔だった。


街の外れ。


何度も前を通ったことがある。


特に変わった建物ではない。


「こんなところに?」


「静かに」


セラは扉を開け、中へ入る。


埃っぽい。


古びた階段。


止まった時計。


どこから見ても使われなくなった建物だ。


セラは壁際まで歩くと、石壁の一部へ指を当てた。


淡い光。


次の瞬間。


壁が音もなく横へずれた。


地下へ続く階段が現れる。


レオンは目を見開いた。


「……それ」


「何?」


「地下に拠点ある設定だった」


セラの動きが止まった。


「場所も?」


「いや。俺の設定だと王都の地下」


「ここは王都ではない」


「だよな」


違う。


まただ。


似ている。


でも同じじゃない。


階段を降りながら、レオンは昔の設定を思い返す。


ノクスは世界各地に拠点を持つ。


本部は王都の地下。


構成員は全員黒衣。


特殊な技を使う。


そこまでは覚えている。


ただ。


「なあ」


「何?」


「ノクスって、何人くらいいる?」


「それをあなたに教えると思う?」


「ですよね」


やっぱり信用されていない。


当然だ。


むしろ秘密組織としては正しい。


階段を降り切る。


その先には石造りの通路が伸びていた。


壁には一定間隔で魔導灯が並び、奥から人の気配もする。


レオンは小さく息を吐いた。


本当にある。


自分が遊びで考えた秘密組織が。


現実に。


「ここで待って」


セラが一室の扉を開ける。


中には机と椅子が一つずつ。


「待つだけ?」


「上に報告する」


「俺も行っちゃダメ?」


「ダメ」


「なんで?」


「まだ信用していないから」


「一貫してるな」


セラは扉へ手をかけた。


レオンはふと思い出す。


「そうだ」


「何?」


「ノクスの合言葉ってある?」


セラの視線が鋭くなる。


「……なぜ?」


「いや、俺の設定だとあったから」


「何と書いた?」


レオンは少し考えた。


たしか。


「『夜はすべてを隠す』」


セラは無言になった。


「あるの?」


「ない」


「ないのかよ」


少し安心した。


全部一致しているわけじゃない。


やっぱり自分の設定がそのまま現実になっているわけではないらしい。


だが。


セラは続けた。


「ただし、昔使われていた」


「……は?」


「百年以上前まで」


レオンの顔から笑みが消える。


「今は?」


「廃止された」


「なんで」


「敵に知られたから」


そこまで設定してない。


レオンは黙る。


セラも何も言わない。


また一つ。


自分の物語に存在しない歴史が増えた。


「じゃあもう一個」


「まだあるの?」


「ノクスの創設者」


レオンは記憶を辿る。


「俺の設定だと、黒の王が作ったことになってた」


セラの表情が変わった。


「違うのか?」


「……違う」


「誰が作った?」


「それは教えられない」


「そこは秘密なんだ」


「今のあなたには」


レオンは椅子へ座った。


そして鞄から《黒王戦記》を取り出す。


ページをめくる。


ノクス。


七王会。


黒の王。


知っている。


でも知らない。


自分が書いた世界なのに、


現実の方には、自分の知らない過去がある。


「やっぱり変だな」


レオンが呟く。


「何が?」


「もし俺が書いたから生まれたなら、俺より昔の歴史なんてあるはずないだろ」


「そうね」


「でも実際には三百年以上続いてる」


「ええ」


「なのに俺の設定と似てる」


「……ええ」


セラも否定しなくなった。


レオンはページを一枚めくる。


そこで手が止まった。


「ん?」


「どうしたの?」


レオンはノートを顔へ近づけた。


そこには七王会についての設定が並んでいる。


第一王。


第二王。


第三王。


そして。


昔の自分が書いた一文。


《七王会は互いに決して信用しない》


レオンは思い出した。


仲の悪い強者集団の方がカッコいい。


それだけの理由で書いた設定だ。


「セラ」


「何?」


「七王会って、仲悪い?」


「……なぜそれを聞くの?」


答えで十分だった。


レオンはゆっくり顔を上げる。


「これも合ってるのか」


セラがノートを見る。


「何が書いてある?」


レオンは一瞬迷う。


その様子を、セラは見逃さなかった。


「レオン」


声が低くなる。


「情報を隠すなら、そのノートはこちらで預かる」


「脅すの早いな」


「最初に言った」


本気だ。


レオンは諦めてページを見せた。


「七王会は、互いに信用してない」


今度こそ。


セラの顔から完全に表情が消えた。


「それは」


言葉が止まる。


「ノクスでも、ほとんど知られていない情報よ」


レオンはノートへ目を落とした。


適当に決めた。


その方がカッコいいと思って。


ただ、それだけ。


なのに。


現実でも同じ。


自分が書いたから生まれたわけではない。


なら。


「……じゃあ」


ノートを持つ指に、少しだけ力が入る。


「なんで俺が適当に書いた設定まで、現実と同じなんだよ」


その問いに。


セラは何も答えられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。