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『俺が適当に作った秘密結社が、本当に世界を支配し始めていた』  作者: Toi
第1章

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1-2 『黒の王』

第2話 黒の王


女の目が細くなった。


「……今、何と言った?」


「七王会って名前。俺が考えた」


レオンは自分で言っておいて、頭がおかしいと思った。


だが事実だ。


少なくとも十三歳の頃の自分は、そう思っていた。


女は笑わない。


「もう一度聞く」


声が低くなる。


「七王会を、どこで知った?」


「だから――」


「答えろ」


腰の短剣に手が添えられる。


さっきまで七王会の男と戦っていた人物だ。


冗談が通じる相手には見えない。


「……俺が昔書いた物語に出てくる」


「物語?」


「ああ」


「誰から聞いた」


「聞いてない」


「では、どこで知った?」


「自分で考えた」


女の眉がわずかに動いた。


明らかに信用していない。


まあ、当然だ。


レオンだって逆の立場なら信じない。


女は周囲を確認した。


「名前は」


「先にそっちが名乗れよ」


「質問しているのは私」


「俺を脅してるのもそっち」


沈黙。


女の視線がさらに冷たくなる。


レオンは思った。


これ、余計なこと言ったかもしれない。


数秒後。


「セラ・ヴァレン」


不機嫌そうに女が答えた。


「レオン・ハルツ」


「職業」


「魔導具職人」


「所属は」


「工房」


「それ以外」


「ない」


「能力は」


「ない」


答えるたびに、セラの顔が険しくなっていく。


「……ふざけている?」


「真面目に答えてる」


「なら、なぜ七王会を知っている」


またそこに戻った。


レオンは頭を掻いた。


「証拠を見せた方が早いな」


鞄へ手を伸ばす。


瞬間。


「動くな」


セラの声が鋭くなった。


レオンの手が止まる。


「鞄だよ」


「ゆっくり開けて」


「警戒しすぎじゃないか?」


「あなたが怪しすぎる」


「それは否定できないな」


言われてみればその通りだった。


レオンは両手を見せてから、ゆっくり鞄を開いた。


中から黒いノートを取り出す。


《黒王戦記》。


「これ。俺が十三歳くらいのときに書いたやつ」


「置いて」


「渡さなくていいのか?」


「そこに置いて」


徹底している。


レオンは言われた通り、地面へノートを置いた。


セラはしばらく様子を見てから近づき、それを拾う。


一ページ。


二ページ。


淡々とめくっていた指が止まった。


《ノクス》


翼を広げた黒い鳥。


さっきセラの外套に描かれていたものと、ほぼ同じ紋章。


セラが顔を上げた。


「……これは?」


「俺が描いた」


「この紋章をどこで見た」


「見てない。俺が考えた」


「あり得ない」


即答だった。


「だから、俺も困ってるんだよ」


セラはノートを見る。


再びページをめくる。


《第五式 夜哭》


指が止まった。


「これも?」


「ああ」


「第六式は?」


レオンは記憶を探る。


「《黒閃(こくせん)》だったかな」


セラの表情が一瞬だけ変わった。


レオンは見逃さなかった。


「……あるんだな?」


答えない。


「黒閃」


「その名を知る者は、ノクスの中でも限られている」


「マジかよ」


レオンはノートを見る。


気味が悪い。


紋章。


組織名。


技。


ここまで一致することなんてあるのか。


ふと、一つの考えが頭をよぎった。


「……まさか」


「何?」


「俺が書いたからか?」


セラが眉を寄せる。


「どういう意味?」


「いや……」


レオン自身、馬鹿げた話だと思う。


だが目の前にあるものを説明するなら、それくらいしか思いつかない。


十三歳の自分が書いた。


だから存在するようになった。


そんなことが、本当にあり得るのか。


「もし俺が書いたものが、そのまま現実になってるなら――」


「違う」


セラが言った。


早かった。


「何が?」


「少なくとも、ノクスはあなたが作ったものではない」


「なんで言い切れる?」


「ノクスの歴史は三百年以上ある」


レオンは黙った。


「……三百?」


「そう」


「俺、二十六なんだけど」


「見ればわかる」


「いや、そこじゃない」


おかしい。


自分が十三歳で書いたから生まれたのなら、ノクスの歴史は十数年しかないはずだ。


だが三百年以上?


「じゃあ……なんで俺が知ってる?」


「それを聞いている」


「こっちが聞きたいよ」


二人とも黙った。


さっきより、わからなくなった。


セラは再びノートへ視線を落とす。


七王会。


七人の王。


ノクス。


技。


そして。


指が止まった。


《黒の王》


七王すら、その名を恐れる。


ノクスが待ち続ける唯一の存在。


「……何だよ」


「この人物は?」


「黒の王?」


「そう」


「俺が考えた中心人物みたいなもんだ」


セラの視線が、ゆっくりレオンへ移る。


「モデルは?」


レオンは少し目を逸らした。


「……俺」


「なぜ?」


「十三歳だったから」


「意味がわからない」


「十三歳の男が秘密組織の最強キャラ作ったら、自分をモデルにするだろ」


「しない」


「するだろ」


「しない」


真顔だった。


妙なところで断言する女だ。


だが次の瞬間、セラの表情からそのわずかな呆れも消えた。


ノートの《黒の王》を見つめている。


「この名前も、本当にあなたが考えた?」


「ああ」


「どこかで聞いた可能性は?」


「ないと思う。そもそも黒の王なんて、カッコいいから付けただけだし」


セラは黙り込んだ。


さっきまでより、明らかに様子がおかしい。


「……何?」


返事はない。


「セラ?」


「今日は、このまま帰すわけにはいかない」


「は?」


レオンは一歩下がった。


セラの警戒は解けていない。


むしろ先ほどより強くなっている。


ただし。


敵を見る目ではなかった。


理解できないものを前にした目だった。


「まだあなたを信用していない」


「それは見ればわかる」


「でも、そのノートを見なかったことにもできない」


「だったら説明してくれ」


セラは迷った。


やがて、慎重に言葉を選ぶ。


「ノクスには、三百年以上前から伝わっている記述がある」


レオンの胸がざわついた。


「そこには、ある人物について書かれている」


セラの視線がノートへ落ちる。


《黒の王》。


「七王の定めを覆す者」


静かな声だった。


「私たちは、その存在を――《黒の王》と呼んでいる」


レオンは言葉を失った。


七王会。


ノクス。


紋章。


夜哭。


最初は思った。


自分が書いたから、現実になったのかもしれない。


だが違う。


ノクスは三百年以上前から存在する。


自分が生まれる遥か前から。


なのに。


《黒の王》まで存在する?


あれは違う。


七王やノクス以上に、適当に考えたものだ。


自分をモデルにして。


自分が一番カッコいいと思う設定を詰め込んだだけ。


レオンは地面に置かれた自分のノートを見つめた。


「……じゃあ」


声が漏れる。


「俺は、何を書いたんだ?」


セラは答えなかった。


答えられるはずもなかった。

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