↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺が適当に作った秘密結社が、本当に世界を支配し始めていた』  作者: Toi
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/22

1-1 『俺が考えた名前』

第1話 俺が考えた名前


「そこ、固定しない方がいいですよ」


レオン・ハルツは、目の前の魔導具を指で軽く叩いた。


机の向こうで、店主が眉をひそめる。


「何を言ってる。ここが動くから壊れるんだろうが」


「だからです」


レオンは小さな留め具を外した。


手のひらほどの魔導具が、かすかに青く光る。


魔力を流すと風を発生させる、ありふれた生活用品だ。


ただ、今回持ち込まれたものは内部の歯車が何度交換しても壊れるらしい。


「動かないように固定するから、力が全部ここにかかるんですよ」


「じゃあどうする」


「動かします」


「……は?」


「壊れる方向に逃がせばいいんです」


店主が露骨に嫌そうな顔をした。


いつもの顔だ。


レオンは歯車と外枠の間に、わずかな隙間を作る。


再び魔力を流す。


ブゥン、と風が吹いた。


歯車は小さく揺れながら回っている。


壊れない。


店主が黙った。


レオンは笑う。


「ほら」


「お前なあ……」


「決められた形で直らないなら、決められた形をやめればいいんですよ」


「それで前も三つ壊しただろ」


「四つ目です」


「増やすな」


工房に怒鳴り声が響いた。


⸻


仕事を終えた頃には、すっかり日が落ちていた。


レオンは油で汚れた手を布で拭きながら、裏の倉庫へ向かった。


「確か、この辺だったよな……」


明日は工房の棚卸し。


店主から、私物を持ち帰れと言われている。


古い工具。


着なくなった上着。


用途不明の石。


そして、一番奥から薄汚れた箱が出てきた。


開ける。


「うわ」


思わず声が出た。


黒い革張りのノート。


表紙には、銀色の塗料で大きく書かれている。


《黒王戦記》


「まだ持ってたのか、俺……」


十三歳頃だっただろうか。


当時のレオンは、とにかく物語を考えるのが好きだった。


特に、表向きの世界とは別に存在する秘密組織。


誰にも知られず世界を操る強者たち。


そういうものが大好物だった。


ぱらりと開く。


《七王会》


世界を影から支配する七人の王。


それぞれが国家すら凌ぐ力を持ち、歴史そのものを裏から操っている。


「……今見ると、結構いいな」


思わず呟いた。


黒歴史ではある。


だが嫌いではない。


むしろ十三歳の自分、なかなか分かっている。


さらにページをめくる。


《ノクス》


七王会に対抗する、世界最古の秘密組織。


表舞台には決して現れず、影から七王の野望を阻止する。


その象徴として描いた紋章は、翼を広げた黒い鳥。


その先には《黒の王》についての設定もある。


レオンはそこまで読みかけて、


「やめよう」


ノートを閉じた。


二十六歳になった自分が読むには、黒歴史すぎる。


箱に戻しかけて、少し考える。


「……まあ、持って帰るか」


捨てるほど嫌いでもない。


レオンはノートを鞄へ突っ込んだ。


⸻


帰り道。


大通りを避け、細い路地へ入った。


近道だった。


そこで、金属がぶつかる音がした。


ガキィン!


「なんだ?」


路地の奥。


二つの影が激しくぶつかっていた。


一人は黒い外套をまとった女。


もう一人は長身の男。


普通の喧嘩ではない。


男が腕を振る。


黒い刃のようなものが空中に現れ、壁を切り裂いた。


「能力者かよ……」


レオンは即座に後ずさった。


能力を持つ者は珍しくない。


だが街中で壁を斬るような能力者には近づかない。


それが正解だ。


帰ろう。


そう思った。


黒衣の女が身を翻した。


その背中が見える。


レオンの足が止まった。


黒い外套。


その中央に描かれているもの。


翼を広げた、一羽の黒い鳥。


「……は?」


見覚えがあった。


いや。


見覚えなんてものじゃない。


さっきまで見ていた。


自分が十三歳の頃、三日かけて考えた紋章。


《ノクス》。


「いやいや」


レオンは小さく笑った。


たまたまだ。


鳥の紋章なんて珍しくもない。


そう思った直後。


女が地面を蹴った。


「第五式」


レオンの笑みが消えた。


「《夜哭(ヤコク)》」


黒い閃光が走る。


男が大きく吹き飛ばされた。


レオンは口を開けたまま動けなくなった。


《夜哭》。


知っている。


知っているどころではない。


技名を考えたのは、


自分だ。


「……そんな偶然ある?」


男が立ち上がる。


口元から血を流しながら、それでも笑っていた。


「相変わらず面倒な連中だ」


女は答えない。


「だが、この断章は渡さん」


男が懐へ手を伸ばす。


次の瞬間、遠くから笛の音が響いた。


男が舌打ちする。


「時間切れか」


「逃がすと思う?」


「追ってこいよ」


男は後ろへ跳んだ。


そして闇の中へ消える。


黒衣の女が追おうとして、足を止めた。


「……七王会」


レオンの身体が固まった。


今度は聞き間違いではない。


女が振り返る。


その視線がレオンを捉えた。


「あなた、いつからそこに?」


レオンは答えなかった。


「今……なんて言った?」


「何?」


「七王会って言ったよな」


女の表情が変わる。


「知っているの?」


「知ってる」


レオンは答えた。


そして数秒考えてから、


自分でも意味の分からない事実を口にした。


「俺が考えた名前だから」


女の目が見開かれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。