2-21 『七王』
第2章 七王
第21話 第三王ではなく
「……黒の王って、結局誰なんだよ」
レオンの呟きに。
誰も答えなかった。
自分が作った黒の王。
ノクスに伝わる黒の王。
七王会に残る黒の王。
全部、少しずつ違う。
そして今。
自分まで黒の王と呼ばれている。
「一回整理したい」
レオンが手を上げた。
「何を?」
セラが聞く。
「全部」
「無理ね」
「即答するなよ」
ヴァルドが笑う。
「いいじゃん。とりあえず飯でも食いながら考えようぜ」
「お前は緊張感がなさすぎる」
ガレスが睨む。
「腹減るだろ」
「今は第三王の処遇が先だ」
その言葉で。
空気が戻った。
全員の視線が。
リゼへ向く。
リゼは気にした様子もなく立っている。
「処遇?」
レオンが眉を寄せた。
「捕まえるの?」
「可能性はある」
ガレスは淡々と答えた。
「え」
レオンがリゼを見る。
本人は驚いていない。
むしろ。
当然だという顔だ。
「七王会を抜けるって言ったんだぞ?」
「だから何だ」
「敵じゃなくなるんじゃないの?」
「七王会を抜けることと、ノクスの敵でなくなることは同義ではない」
「ああ」
レオンは少し考え。
「確かに」
ヴァルドが感心したように頷く。
「納得早いな」
「筋通ってるし」
ガレスが続ける。
「こいつは七王だ」
「元、じゃないの?」
「抜けると宣言しただけだ」
「手続きいるの?」
「そういう話ではない」
セラが小さく笑う。
「七王会、人事部あるのかと思った」
「ないわよ」
リゼが真顔で答えた。
「そこ答えてくれるんだ」
レオンは少し笑った。
だが。
ガレスは笑わない。
「第三王は、我々の拠点、戦力、断章に関する情報を得ている」
「それはそうね」
リゼが答える。
「認めるんだ」
「見たものは見た」
「だから簡単には帰せない」
「構わない」
レオンがリゼを見る。
「いいの?」
「ここで戦って出ることもできる」
周囲の空気が一瞬で変わった。
対王装備へ手が伸びる。
ヴァルドだけは。
少し楽しそうだった。
「やる?」
「やらない」
リゼが即答する。
ヴァルドが露骨に残念そうな顔をした。
「なんだよ」
「今戦う理由がない」
「理由ができたら?」
「その時は相手をする」
「予約な」
「勝手にしろ」
レオンはセラへ小声で聞いた。
「王ってみんなこんな感じ?」
「知らない」
「七人いるんだろ?」
「全員と仲良く話したことあると思う?」
「それもそうか」
ガレスがリゼを見る。
「こちらの監視下に入れ」
「断る」
即答。
「だと思った」
「私はノクスに従うつもりはない」
「ならこちらも自由にさせるつもりはない」
二人の視線がぶつかる。
また始まった。
レオンは少し考えた。
「じゃあ」
二人が見る。
「俺の近くにいれば?」
沈黙。
セラが額を押さえた。
「また簡単にする」
「だってリゼの目的、それだろ?」
「そうだ」
リゼは即答した。
ガレスが顔をしかめる。
「レオン」
「何?」
「お前自身が監視対象だ」
「知ってる」
「そこへ七王を追加する意味が分かっているのか?」
レオンは少し考える。
「監視対象を一か所にまとめられる?」
ヴァルドが吹き出した。
セラも口元を押さえる。
ガレスだけは。
笑わなかった。
「……お前は」
「合理的じゃない?」
「間違ってはいないのが腹立たしい」
「褒められた?」
「違う」
リゼが。
少しだけ笑った。
「私はそれでいい」
「決めるな」
ガレスがすぐ返す。
「なら条件を出せ」
「条件?」
「ああ」
リゼは腕を組む。
「ノクスには入らない」
「当然だ」
「命令も受けない」
「認めん」
「なら帰る」
「帰すと思うか?」
「止められると思うか?」
空気が。
また危険な方向へ向かう。
ヴァルドが少し前に出た。
笑っている。
でも。
さっきまでとは違う。
いつでも戦える距離。
「リゼ」
レオンが呼んだ。
第三王の動きが止まる。
一瞬。
本人すら。
呼ばれたことに慣れていないようだった。
「何だ」
「ノクスの情報、七王会に流す?」
「流さない」
「俺のノートは?」
「奪わない」
「ノクスを襲う?」
「向こうから襲わない限りは」
「ならいいじゃん」
ガレスが即座に言う。
「よくない」
「なんで?」
「口約束だ」
「じゃあ約束破ったらヴァルドに殴ってもらえば?」
ヴァルドが親指を立てる。
「任せろ」
「お前も乗るな」
リゼはヴァルドを見る。
「簡単に言う」
「お前なら逃げられるだろ?」
「当然だ」
「なら条件としては弱いな」
「自分で言うなよ」
レオンが笑う。
そのやり取りを。
セラは少し不思議そうに見ていた。
「レオン」
「ん?」
「怖くないの?」
「誰が?」
「リゼ」
本人を名前で呼ぶ。
それだけで。
リゼの目がわずかに動いた。
「七王なのよ」
「知ってる」
「昨日まで敵側」
「それも知ってる」
「じゃあなんでそんな普通に話せるの?」
レオンは首を傾げる。
「普通に話してくるから?」
セラが止まる。
「それだけ?」
「それ以外いる?」
レオンはリゼを見る。
「七王だからって、話通じないわけじゃないだろ」
第一王はちょっと怪しいけど。
そう付け加える。
リゼが小さく笑った。
「本当に変な男だな」
「よく言われる」
「褒めていない」
「半分?」
「今回は七割」
「高いな」
セラが小さく息を吐く。
だが。
その横で。
ガレスだけはまだ納得していない。
「一つだけ」
低い声。
「第三王」
リゼが見る。
「お前は七王会を抜けると言った」
「ああ」
「なら確認する」
ガレスは。
真正面から聞いた。
「第一王が、お前を連れ戻しに来たらどうする」
リゼは。
一瞬も迷わなかった。
「戦う」
「第六王が来ても?」
「戦う」
「第七王は?」
そこで。
初めて。
リゼの返答が止まった。
レオンが気づく。
「……第七王だけ違う?」
リゼは答えない。
「何かあるの?」
沈黙。
数秒。
やがて。
リゼがゆっくり口を開く。
「第七王には」
言葉を選ぶ。
「借りがある」
レオンの表情が変わった。
第七王。
黒の王を待っていた人物。
そして。
自分のノートには。
《第七王は、黒の王と出会ったその日――裏切る》
と書かれている。
「どんな借り?」
リゼは答えなかった。
その代わり。
左腕の。
焼けた傷へ触れた。
レオンの目が。
そこへ向く。
まさか。
「この傷」
レオンが呟く。
リゼが顔を上げる。
「第七王が関係してるのか?」
長い沈黙。
そして。
リゼは。
静かに答えた。
「私が死なずに済んだのは」
一拍。
「第七王のおかげだ」




