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『俺が適当に作った秘密結社が、本当に世界を支配し始めていた』  作者: Toi
第1章

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1-16 『余白』

第16話 余白


「今日はこれで終わりだ」


ガレスが言った。


「え、もう?」


レオンが振り返る。


「不満か」


「いや。実験ってもっと色々やるのかと思ってた」


「最上級の封印魔導具に、正体不明の方法で条件を追加した」


ガレスは淡々と続ける。


「十分だ」


「言われると結構やばいことしたな」


「今気づいたの?」


セラが呆れた顔をする。


「成功した瞬間はちょっと楽しかったから」


「子ども?」


「魔導具職人」


「関係ある?」


「ある。たぶん」


エルドは二人の会話を無視し。


封印魔導具へ顔を近づけていた。


「……やはり分からんな」


「何が?」


レオンも隣へしゃがむ。


「お前が追加した文字だ」


《ただし、レオン・ハルツを除く》


そこだけ。


レオンの普通の筆跡。


術式らしいものは何もない。


「俺の字、汚い?」


「そうではない」


「じゃあよかった」


「よくない」


エルドが顔を上げる。


「魔力がない」


レオンが瞬きをする。


「俺に?」


「文字にだ」


「文字?」


「ああ」


エルドは元から刻まれていた文章を指差す。


《この扉は、内側から開かない》


「こちらは封印術式の一部だ。当然、魔力が組み込まれている」


次に。


レオンの追記。


《ただし、レオン・ハルツを除く》


「だが、こちらには何もない」


「普通のペンで書いたからな」


「だからおかしい」


エルドが眉を寄せる。


「本来なら、ただの落書きだ」


「落書きって言うなよ」


「事実だ」


「最上級の魔導具に落書きしたことになるじゃん」


「そうだな」


「急に罪悪感出てきた」


セラが小さく息を吐いた。


「そこなの?」


だが。


レオンもさすがに分かる。


ただ書いただけ。


術式も。


魔力も。


何もない。


なのに。


封印魔導具はその一文を認識した。


「つまり」


レオンは自分の追記を見る。


「魔導具に何かしたんじゃなくて」


「可能性としてはな」


エルドが答える。


「書かれた条件そのものへ干渉した」


少し。


空気が変わった。


レオンは黙る。


書かれたもの。


条件。


例外。


どこかで。


似たものを見た気がする。


「あ」


鞄を開く。


《黒王戦記》を取り出した。


「また何かあったの?」


セラが聞く。


「たしか」


ページをめくる。


黒の王の能力。


技。


武器。


どうでもいい設定が大量に出てくる。


「《漆黒の外套は全ての攻撃を――》」


レオンは途中で閉じかけた。


「何?」


「何でもない」


「今読んでたでしょ」


「忘れてくれ」


「気になる」


「俺は気にしたくない」


さらにページをめくる。


そして。


指が止まった。


「あった」


「何が」


レオンがページを机へ置く。


そこには。


十三歳の自分が大きく書いた文字。


《余白(よはく)》


セラが読む。


「余白?」


「ああ」


「能力名?」


「たぶん」


「自分で書いたのに、たぶん?」


「十年以上前なんだから許してくれ」


その下。


説明が続いている。


《すでに決められた物語に、新しい一文を加える力》


レオンは少し黙った。


セラも。


エルドも。


ガレスも。


視線が自然に。


封印魔導具へ向く。


元の記述。


《この扉は、内側から開かない》


そして。


追加された一文。


《ただし、レオン・ハルツを除く》


レオンが指で交互に示す。


「……これじゃない?」


誰も答えない。


「いや」


レオンは自分で頷く。


「かなりこれっぽいな」


セラがページを覗く。


「他には?」


「待って」


続きを読む。


《書かれたことを消すことはできない》


「へえ」


レオンの眉が上がる。


「でも、続きを足すことはできる」


さらに。


《決められたルールそのものを壊すのではなく――》


次の行。


《その余白に、例外を書く》


レオンは。


思わず笑った。


「十三歳の俺、ちゃんと説明してるじゃん」


「さっきまで全部忘れてたけどね」


「それは言うな」


セラがページを見る。


「じゃあ、この《余白》を使った?」


「たぶんな」


レオンは自分の手を見る。


不思議な感覚はない。


魔力が増えたわけでもない。


何かが見えるわけでもない。


ただ。


書いただけ。


「能力って、もっとこう」


レオンは手のひらを眺める。


「出た! って感じするものじゃないの?」


「人による」


セラが答える。


「発現に気づかない人もいる」


「二十六年間?」


「それはかなり珍しい」


「だよな」


レオンは苦笑した。


自分はずっと。


能力を持っていないと思っていた。


なのに。


十三歳の自分が適当に考えた能力が。


今。


現実で使えた。


「待てよ」


レオンの顔から少し笑みが消える。


また。


同じ問題だ。


ノクス。


七王会。


黒の王。


全部。


自分が書くより前から存在していた。


なら。


「これも?」


レオンがページを指差す。


「俺が書いたから使えるようになったわけじゃないよな?」


ガレスが答える。


「現時点では分からん」


「だよなあ」


レオンは頭を掻く。


書いたから能力が生まれたのか。


元からあった能力を。


たまたま自分が物語に書いたのか。


それとも。


別の何かなのか。


「……まあ」


レオンはノートを閉じる。


「今考えても分からん」


セラが瞬きをする。


「切り替え早いわね」


「分からないもの考え続けても腹減るだけだろ」


「さっき朝食べたでしょ」


「考えると減る」


「便利ね、その体」


レオンは立ち上がる。


その瞬間。


ふと。


また工房の店主が頭に浮かんだ。


顔。


声。


怒り方。


全部分かる。


でも。


やっぱり名前だけ出てこない。


「……」


少しだけ。


引っかかる。


昨日までは覚えていた。


たぶん。


いや。


絶対に。


でも。


レオンはそれを口には出さなかった。


単なる疲れかもしれない。


一つ名前が出てこないだけで。


何でも能力と結びつける方が変だ。


「レオン?」


「何?」


「ぼーっとしてる」


「ああ」


レオンは笑う。


「腹減ったなって」


「やっぱり?」


セラが呆れる。


その横で。


エルドだけが。


《余白》のページをじっと見ていた。


「レオン」


「ん?」


「この能力」


「何?」


エルドはページの最後を指差した。


そこには。


小さな文字が残っている。


《ただし、大きく物語を変えるほど――》


そこで。


文章は途切れていた。


「続きは?」


エルドが聞く。


レオンは覗き込む。


「……ないな」


「覚えていないか」


「全然」


セラが嫌そうな顔をする。


「また途中?」


「十三歳の俺、最後まで書くの苦手だったみたいだな」


軽く笑う。


だが。


誰も笑わなかった。


レオンは三人を見る。


「何?」


ガレスが低く言った。


「その先が、重要でないことを祈る」


レオンはもう一度。


途切れた文章を見る。


《ただし、大きく物語を変えるほど――》


「……そういう言い方されると」


さっきまで何とも思っていなかった一文が。


急に嫌なものに見えてくる。


レオンはノートを閉じた。


「続き、書いてない俺を初めて褒めたいかも」

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