1-11 『開かない門』
第11話 開かない門
第二拠点の地下。
エルドに案内されて階段を降りる。
一段。
二段。
三段。
想像以上に深い。
「秘密組織って地下好きすぎない?」
レオンが言う。
「隠すなら地下が合理的」
セラが返す。
「夢がないな」
「現実だから」
「俺の設定の方がまだロマンあったぞ」
「だから困ってるんでしょ」
言い返せない。
前を歩くエルドが振り返る。
「静かにしろ」
「はい」
素直に黙る。
しばらくして。
階段が終わった。
その先。
巨大な石造りの空間。
そして。
正面に。
門があった。
高さは五メートルほど。
黒い石。
継ぎ目も。
取っ手も。
鍵穴もない。
ただ。
中央に一つだけ。
見覚えのある紋様が刻まれている。
レオンの足が止まった。
「……うそだろ」
セラが見る。
「知ってるの?」
「いや」
レオンは近づく。
指で紋様をなぞる。
円。
その中に。
一本の縦線。
左右に広がる二つの曲線。
「これ」
鞄からノートを出す。
ページをめくる。
黒の王。
その設定画。
胸元。
そこに。
同じ紋様。
「俺が描いた」
空気が変わった。
エルドがすぐにノートを見る。
「いつ」
「十三歳くらい」
「意味は?」
「ない」
「……ない?」
「黒の王っぽい紋章欲しいなって」
セラが額を押さえる。
「またそれ?」
「今回は本当にそれだけ」
エルドは門を見る。
「この紋様は、少なくとも三百年前からここにある」
「はいはい」
レオンはもう驚かなかった。
いや。
驚いている。
でも。
驚きすぎて慣れてきただけだ。
「で」
門を見る。
「どうやって開けるの?」
「分からん」
「え?」
「誰にも分からん」
「三百年も?」
「ああ」
レオンは門を見る。
押す。
動かない。
引こうとする。
そもそも掴む場所がない。
「能力使ったりは?」
「何度も試した」
「壊すとか」
「それも」
「爆破」
「した」
「掘る」
「した」
「横から入る」
「壁の先も同じ材質だ」
「徹底してるな」
レオンは腕を組む。
三百年間。
ノクスが開けられなかった門。
そして。
断章には。
《黒き王のみ、閉ざされた門を開く》
「……俺が触れば開くとか?」
「試せ」
エルドが言う。
「雑だな」
レオンは門へ手を置いた。
何も起きない。
数秒。
十秒。
「開かないけど」
エルドは黙る。
セラも黙る。
レオンは振り返った。
「ほら。やっぱ俺じゃないんじゃ」
ゴォン。
低い音。
全員が止まった。
門の中央。
紋様が。
淡く光っている。
「……おい」
レオンは手を離す。
光が消える。
もう一度触る。
光る。
離す。
消える。
「反応してる」
セラが呟く。
「開いてないけどな」
エルドの目が鋭くなる。
「今まで一度も反応したことはない」
「でも開かない」
「記述には、開くとある」
「なら条件足りないんじゃない?」
レオンは門を見る。
そこで。
妙な違和感に気づいた。
紋様の下。
細い線。
傷だと思っていた。
違う。
文字だ。
かなり薄い。
「これ」
しゃがみ込む。
埃を払う。
文字が現れる。
古い言葉。
エルドが息を呑む。
「こんなもの……」
「知らなかった?」
「記録にない」
レオンは読む。
《名を持たぬ王よ》
その下。
《汝の言葉を示せ》
「言葉?」
セラが近づく。
「何か言えってこと?」
「合言葉じゃない?」
レオンが笑う。
「まさか『夜はすべてを隠す』とか」
何も起きない。
「違った」
「でしょうね」
「じゃあ何だよ」
レオンは門を見る。
名を持たぬ王。
汝の言葉。
黒の王が言いそうな言葉?
昔の自分なら。
何を書いた?
ノートを開く。
黒の王の台詞集。
「うわ」
「何?」
「死にたい」
「なんで?」
「十三歳の俺、台詞まで大量に書いてる」
セラが覗こうとする。
レオンは隠した。
「見るな」
「今さら?」
「これは別枠」
エルドが冷静に言う。
「読め」
「嫌です」
「必要だ」
「必要でも嫌なものは嫌だ」
ページをめくる。
《俺の前に道はない。道は俺が作る》
「……違うな」
次。
《王とは頂点ではない。誰にも膝をつかぬ者だ》
「これもキツい」
「早くして」
セラが急かす。
「精神削られてるんだぞ」
さらにめくる。
そして。
一文で。
手が止まった。
《決められた結末など、つまらない》
レオンは黙る。
昨日。
似たような言葉を見た。
《黒き王は、書かれた定めに従わない》
まさか。
レオンは門を見る。
「……言ってみるか」
「何を?」
セラが聞く。
レオンは少し恥ずかしくなった。
でも。
もういい。
今日だけで何度黒歴史を晒したか分からない。
門へ手を置く。
紋様が光る。
「決められた結末なんて」
一度。
息を吸う。
「つまらないだろ」
ゴォォォン。
今度は。
さっきとは違った。
地面が震える。
門全体に。
白い線が走る。
セラが一歩下がる。
エルドの顔から。
初めて余裕が消えた。
そして。
三百年以上。
誰にも開けられなかった門が。
ゆっくりと。
左右へ開き始めた。
その奥。
暗闇。
そして。
一枚だけ。
白い紙が浮かんでいた。
レオンは目を細める。
紙には。
たった一行。
文字が書かれていた。
《ようやく、続きを書く者が来た》
レオンの笑みが消えた。




