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『俺が適当に作った秘密結社が、本当に世界を支配し始めていた』  作者: Toi
第1章

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1-10 『黒の王とは』

第10話 黒の王とは


翌朝。


レオンはほとんど眠れなかった。


第二拠点の一室。


固いベッド。


薄い毛布。


それ自体はどうでもいい。


問題は。


頭の中だった。


《黒き王は、書かれた定めに従わない》


古い記述。


《黒の王は、決められた物語を嫌う》


自分のノート。


似ている。


でも。


自分が書いたから生まれたわけではない。


古い記述の方が、ずっと前から存在している。


なら。


自分は何をした?


思いついたのか。


思い出したのか。


それとも。


何かをなぞったのか。


「……分からん」


レオンは天井を見上げた。


分からないことが増え続けている。


しかも。


一番面倒なのは。


自分自身まで、その謎の中に入っていることだった。


扉が叩かれる。


「起きてる?」


セラの声。


「一応」


扉が開く。


セラが入ってくる。


手にはパンと水。


「朝食」


「ありがとう」


受け取る。


「毒とか入ってない?」


「入れる理由がない」


「冗談だよ」


「分かってる」


少し間があった。


レオンが見る。


「今、分かってた?」


「少し」


「成長してるな」


セラは無視した。


だが。


ほんの少しだけ。


口元が動いた気がした。


レオンはパンをかじる。


「ガレスは?」


「上と話してる」


「上?」


「ノクスにはガレスより上もいる」


「いるんだ」


「当然でしょ」


「俺の設定だと、現場指揮官がそのまま最高幹部だった」


「現実は違う」


まただ。


同じ。


でも違う。


レオンは少し笑う。


「だんだん慣れてきた」


「何に?」


「自分の設定が外れること」


「普通は最初から外れるものじゃない?」


「それもそうだな」


パンを食べ終える。


セラは帰ろうとしない。


何かある。


「……何?」


「聞きたいことがある」


「昨日からずっとそれだな」


「黒の王について」


レオンはため息をついた。


「また?」


「重要だから」


セラは椅子へ座る。


「昨日、あなたのノートには《黒の王は七王の力を受けない》と書いてあった」


「ああ」


「本当にそういう設定?」


「たしか」


「たしか?」


「細かい理屈までは覚えてない」


レオンは《黒王戦記》を取り出した。


ページをめくる。


「ほら」


《黒の王は、七王の力を受けない》


その下。


いくつか注釈がある。


「七王より上の存在だから、とか?」


セラが聞く。


「いや」


レオンは文字を読む。


「違うな」


「何て?」


「《黒の王は、七王の物語に含まれないため》」


セラが黙る。


レオンも黙った。


「……十三歳の俺、何言ってるんだ?」


「私に聞かないで」


「書いたの俺だけど」


「そうね」


その下にも文章がある。


《物語に書かれていない者には、物語の決まりは通じない》


レオンは眉を寄せた。


「なんか急にそれっぽいこと書いてるな」


「意味は?」


「たぶん」


昔の感覚を思い出す。


「七王会って、俺の物語の中ではルールそのものみたいな存在だったんだよ」


「ルール?」


「ああ」


第一王はこう。


第二王はこう。


それぞれ能力も役割も決めてある。


でも黒の王だけ。


「黒の王は、途中から出した」


「途中?」


「最初は七王会とノクスだけの話だった」


セラの目が少し見開かれる。


「黒の王は後から作ったの?」


「ああ」


レオンは頷く。


「なんか物足りなくなって」


「それで?」


「もっとめちゃくちゃにできる奴がいた方が面白いなって」


セラが額を押さえる。


「またその理由」


「大事だぞ、面白さ」


レオンはページを見る。


「だから黒の王だけ、最初に決めた世界のルールから外したんだと思う」


セラは黙る。


「……何?」


「古い記述と近い」


レオンの笑みが消える。


また。


それか。


「どの辺が?」


「黒の王は、七王の定めの外にいる」


セラが静かに言う。


「ノクスでは、そう解釈されている」


「でも」


レオンはすぐ返す。


「黒の王のこと自体は書かれてる」


「ええ」


昨日の疑問。


従わないことまで書かれている。


なら。


本当に外にいるのか。


「変だよな」


レオンは呟く。


セラは答えない。


そのとき。


廊下から足音が聞こえた。


扉が開く。


ガレス。


そして。


もう一人。


見知らぬ老人が入ってきた。


長い白髪。


細身。


黒い外套ではない。


濃紺の長衣。


胸元には。


開かれた本のような紋章。


「こいつが?」


老人が聞く。


ガレスが頷く。


「レオン・ハルツです」


老人はレオンを見る。


じっと。


顔。


手。


そしてノート。


「……似ておらんな」


レオンの眉が動く。


「何に?」


老人は答えない。


代わりに。


「ノートを見せろ」


「嫌です」


即答した。


老人の眉が上がる。


セラも少し驚いた顔をする。


「理由は」


「昨日から知らない人に見せすぎた」


「もっともだ」


老人はあっさり頷いた。


「名乗ってなかったな」


椅子へ座る。


「私はエルド」


「エルド?」


「ノクスで古い記録を調べている」


レオンはガレスを見る。


「信用していい?」


「俺よりは古い記述に詳しい」


「信用の答えになってない」


「十分だ」


全然十分じゃない。


だが。


エルドは気にしていない。


「一つだけ聞く」


「何です?」


「お前は、自分を黒の王だと思うか?」


レオンは止まった。


今まで。


周りが勝手に言っていた。


黒の王。


黒の王候補。


伝承の人物。


でも。


自分自身は。


「思わない」


答えは早かった。


エルドの目が細くなる。


「なぜ」


「俺が作った黒の王は、もっと強い」


「……」


「もっと頭いいし」


「……」


「もっとカッコいい」


セラが横を向いた。


笑ったな。


絶対。


「俺、ただの魔導具職人だぞ」


レオンは肩をすくめる。


「能力もない」


エルドはしばらく黙っていた。


やがて。


「ならば、試すか」


「何を?」


老人は懐から紙を取り出した。


古い。


断章だ。


机へ置く。


そこには。


短い一文だけ。


《黒き王のみ、閉ざされた門を開く》


レオンは顔をしかめる。


「また曖昧だな」


「実物がある」


「何の?」


「門だ」


レオンは顔を上げた。


エルドが立つ。


「三百年以上」


静かに言う。


「ノクスの誰にも開けられなかった門がある」


部屋が静かになる。


「七王にも?」


レオンが聞く。


「試した記録はない」


「黒の王なら開く?」


「記述を信じるなら」


老人がレオンを見る。


「開く」


レオンは嫌な予感しかしなかった。


だが。


同時に。


少しだけ。


興味が勝った。


「……どこにある?」


エルドが初めて笑った。


「地下だ」


レオンは眉をひそめた。


「結局、地下じゃん」


セラが小さく吹き出した。

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