表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後のメイドと万年筆  作者: ルト
第1章 
28/37

第27話 マリアの留守番

「それじゃ、打ち合わせに行ってくるよ」

「はい、行ってしゃっらいませ」

「帰りが夕方になるかもしれないから、それまで留守番を頼むよ」

「はい。お任せください」



 そんな会話をご主人様と交わしたのが、1時間ほど前です。

 ご主人様は出版社のアルタイルさんという担当者の方と打ち合わせがあると、9時ごろに出発されました。


 戻ってくるのが遅いので、それまでは私が1人で留守番することになってしまいました。

 電話がかかってきたときは、ご主人様が1日戻らないと相手方に伝えることになっています。



 さて、これからわたしがすることは、掃除です。



 ご主人様が帰ってきたときに、清潔な事務所と自宅になっていて、気持ちよく落ち着けるような環境にしておきたいものです。

 わたしにできることといったら、これくらいしかありませんから。


「さて、ご主人様が帰るまでの間に、片付けちゃいましょう!」


 わたしは箒を手にして、動き出しました。




 わたしは午前中の時間をほとんど使って、ご主人様の仕事場である事務所、居間、キッチン、廊下、トイレ、浴室、使用人部屋を掃除しました。

 綺麗に見えるようなところであっても、思ったよりもホコリやチリがあちこちに落ちていることに驚きます。

 ホコリやチリといったものは、どこからやってくるのでしょうか?


 掃除を終えますと、辺りが光を反射してピカピカしているように見えました。

 確認のために、ご主人様の机を指でそっとなぞってみます。

 そしてわたしは自分の指を見つめました。


 ホコリは全くついていません。


「これでよし……です!」


 ここで、わたしはお昼にします。

 残りの場所の掃除は、お昼を済ませてからでも十分時間はあります。


 きっとご主人様も今頃、何かを召し上がられているに違いありません。


 わたしはお昼の準備のため、キッチンへと向かいました。




 お昼を終えたわたしは、ご主人様の自室でもある書斎へと足を踏み入れました。


「残るは……ここだけですね」


 ご主人様の書斎には、たくさんの本があります。

 ご主人様は仕事で疲れた時や、お休みになられる時には、必ずといっていいほどこの書斎に入ります。

 わたしも時折、ご主人様と一緒に寝るときに入ることがあります。


 まずは窓を開けます。

 そして出入口のドアも開けてから、わたしは箒とはたきを手にしました。


 書斎の床を掃除する前に、はたきを使って本についたホコリを落としていきます。

 本当は本を取り出しての虫干しをしたいのですが、今回は時間がありませんので、省略します。


 それにしても、ご主人様は本当にたくさんの本をお持ちです。

 これほどまでに多くの本を見たのは、図書館以外では初めてです。

 まるで図書館の書棚の1つを、そのまま持ってきてしまったのではないかと思ってしまいます。


 本棚と本からホコリを落とし、床のホコリと共に掃き出します。

 机の上に乗っていたホコリも、雑巾を使って汚れと共に拭き取ります。


「……ふぅ、これでよし、です!」


 書斎の掃除も、やっとおしまいです。

 ホコリっぽさが無くなって、すっきりしました。


 残すところは、ご主人様のベッドだけです。


 本当ならお布団を干したいところですが、シーツの交換だけで済ませます。

 そうしないと、ご主人様が帰ってくるまでの間に、ベッドメイクを終わらせられません。


 わたしは布団をはぎ取り、シーツを剥がそうとしました。

 そのときでした。


「あっ……!」


 わたしの鼻を、いい匂いがくすぐります。

 それは間違いなく、ご主人様の匂いでした。


 ベッドから漂ってきたご主人様の匂いに、わたしは惹き寄せられてしまいます。

 わたしは箒を置き、そのままご主人様のベッドにダイブするように倒れ込みました。


「いい匂い……」


 まるでご主人様に抱きしめられているようです。

 わたしはひと呼吸するたびに、ご主人様の匂いを感じて落ち着けました。


 そうしている間に、午後の穏やかな陽気と合わさって、わたしはお昼寝を始めてしまいました。




「はい、それではこれで今回は行きましょう!」

「よろしくお願いいたします」


 オレは、アルタイルとの打ち合わせを終えた。

 今日の打ち合わせは、昼飯を挟んでの長時間になった。

 どうしてこんなにも長時間になったのかと云うと、アルタイルがオレにかなり長文の原稿の依頼を持って来たためだ。雑誌にちょっとした論文並みのコラムを書くということになり、その原稿全てに目を通してチェックをしての打ち合わせとなると、かなり長くなってしまう。

 オレは仕事のこともあるから、2日に分けてくれとお願いした。しかし、アルタイルはどうしても1日で終わらせたいからと譲ってくれなかった。打ち合わせを2日に分けてしまうと、2日分の喫茶店の代金を支払わないといけない。そうなると経費として申請しにくいのだという。こっちにとっては知ったことじゃないが、経費にできないと自腹を切るしかないらしく、それは嫌なんだとか。


「いやー、長い打ち合わせになってしまいましたねぇ」

「あんたが希望したんだろう?」

「そうでした!」


 オレはポケットから懐中時計を取り出し、時刻を確認する。

 午後2時を過ぎたところだ。そろそろ戻りたい。

 依頼人から連絡が入っていたりしたら、なるべく早くに連絡を取りたいのだ。


「そういえば、最近は押し込み強盗が多いらしいですよ」

「押し込み強盗?」


 オレが訊き返すと、アルタイルは新聞を差し出してきた。

 新聞を受け取ると、そこには押し込み強盗被害の記事が書かれている。記事によると、特に昼下がりの時間に狙われることが多いらしい。昼食後で休憩している人が多いことと、働き手となる男たちが仕事に出ていて家には女子供しか残っていないことがほとんどだからだ。

 そして押し込み強盗たちは、時折目撃した女子供をその手に掛けてしまうこともあるらしい。


「特に若い女性が1人だけでいる時とか、危険みたいですよ。押し込み強盗からすれば、女性1人を黙らせることくらい、朝飯前みたいなので」

「黙らせるって……」

「強盗からしますと、甲高い声で騒がれると厄介ですからね。声を出せないように縛り上げるだけならまだしも、時には殺して文字通り黙らせてしまうこともあるそうです」


 オレはアルタイルの言葉を訊いて、不安になってきた。

 今、事務所兼自宅に居るのは、マリア1人だけだ。


 もし今、マリアが押し込み強盗に襲われていたとしたら……!


「なので、シリウスさんも戸締りには十分にお気をつけてください」

「そ、そうだな……気を付けるよ」


 アルタイルが料金を支払い、オレたちは喫茶店を出た。

 アルタイルと別れたオレは、急いで事務所兼自宅へと走った。




 事務所兼自宅へと戻ってきたオレは、目を見張った。


「マリア……!?」


 事務所に入ったが、マリアは出てこない。

 いつもならすぐにオレを出迎えてくれるはずのマリアは、どこにもいないのだ。


 まさか、押し込み強盗に入られたのか!?


 オレは押し込み強盗に襲われているマリアを想像してしまい、顔を青くする。

 すぐに事務所のあちこちを確認した。机、応接スペース、書棚……。

 しかし、どこも掃除が行き届いていて、荒らされたような形跡はない。


 警察に通報したほうがいいだろうか?

 いや、まだ押し込み強盗だと決まったわけじゃない。それに、マリアを探すのが先だ!


 オレは事務所の奥に入り、居間、キッチンなどを確認する。

 こちらも掃除が行き届いていて、荒らされた跡はどこにもない。


 押し込み強盗の可能性は低くなっていくが、マリアの姿は見えない。


「マリア……どこにいるんだ!?」




 使用人部屋やトイレも確認したが、マリアはどこにもいなかった。

 残すところは、オレの部屋でもある書斎だけだ。


 ここにマリアがいなかったら、警察への通報も考えよう。


 買い物に行っているのならば、施錠をしていったはずだ。

 しかし、事務所のカギは開いていた。

 これはマリアがどこにも出かけてはいない証拠でもある。


 いや、もしかしたら書斎に押し込み強盗がいて、マリアに何かしているかもしれない。


 オレは最悪の事態に備え、懐からコルト・ローマンを取り出した。

 マリアに乱暴をしているのなら、どんな理由があろうと押し込み強盗を生かしては置けない。

 オレがこの手で、地獄へ送ってやる!



 オレはドアのわきに立ち、コルト・ローマンを構えながらそっとドアを開けて中に入った。



「――!?」


 書斎に入ったオレは、目を見張った。


 オレのベッドの上に、マリアはいた。

 マリアはオレのベッドで、すやすやと寝息を立てながら昼寝をしていた。


 穏やかな寝顔を見つめていると、オレの緊張感は消えていった。

 とりあえず、押し込み強盗に襲われたわけではないようだ。


 オレはコルト・ローマンを懐に戻し、マリアに近づいた。


「マリア」

「ん……ご主人様ぁ……?」


 マリアが目を覚ます。

 そしてオレと自分を何度か見てから、マリアは慌ててベッドから降りた。


「マリア、一体何が……?」

「も、申し訳ございませんご主人様!」


 マリアは何があったのかを、その場で話してくれた。


 あちこちの掃除を終え、この書斎を掃除してオレのベッドを掃除しようとした時。

 マリアはベッドから漂ってきたオレの匂いを嗅いでいるうちに、ベッドで眠ってしまったらしい。


「そうか……押し込み強盗に襲われたのかと思ったよ」

「ご主人様、心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」


 マリアは頭を下げて謝罪するが、オレにとってはそんなことはどうでもよかった。

 マリアが無事でいてくれたことに、感謝しかなかった。


「いや、いいんだ。マリアが無事だったんだから」

「……ありがとうございます! すぐに、夕食の準備を始めますね!」


 マリアの言葉に、オレは時計を見る。

 夕食の準備をする時間はあるが、今日は外食をしようかとオレは考えた。


 たまにはいいレストランに行ってちょっとだけ贅沢するのだって、悪くはない。


「マリア、今日は外に食べにいこうか」

「ご主人様……?」

「美味しい店を知っているんだ。マリアは、どうしたい? 食事代はオレが持つ」

「……もちろん、ご主人様がお望みでしたら、それに従います!」


 マリアの言葉に、オレは頷いた。




 夕方になり、オレは事務所を閉めた。

 それから、オレはマリアを連れてレストランへと向かった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

ご意見、評価、誤字脱字指摘等、お待ちしております!

次回更新は、8月30日の21時を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ