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第7話(20歳) 選択

 暗い部屋、冷たい床の上で目が覚めた。

 大きな鉄格子が視界に映る。


「う……」


 少し身体を動かすと、全身に痛みが走った。そして、自分が何故こんな所にいるのか思い出した。そうだ、俺はあの魔族に攻撃されたのだ。


 両手には鎖が繋いである。目の前には頑丈そうな鉄格子。

 牢屋のような所に閉じ込められているようだ。鉄格子に手を伸ばそうとしたが、鎖のせいで届かなかった。


 体をゆっくりと起こす。

 魔法を発動して鎖を壊そうとした。だが鎖に何か細工でもされているのか魔法がうまく使えない。

 どうやら自力で抜け出すのは困難なようだ。


 周りには俺以外の誰もいない。レッド達はどうしたのだろうか。

 攻撃される直前にあの魔族が話していた内容を思い出す。お前の仲間は勇者を優先か。

 ……確かにあの3人は固まっていたから、うまく逃げられたのかもしれない。

 

「やっと目が覚めたようだな」


 突然そんな声が聞こえた。誰かの足音と鎧の擦れる音が近づいてくる。


 現れたのは先程俺を攻撃してきた魔族だった。相変わらず黒い鎧と禍々しい魔力に身を包んでいる。


「お前は誰だ」

 俺は聞いた。


「誰だ、か。笑えるな。貴様らの方から会いにやって来たというのに」


 魔族が答える。何を言っているのかと思ったが、少し考えて相手が誰なのか気づいた。


「お前……まさか魔王か?」


「御名答。会いたかったぞ。勇者一行の剣士、ウィル」


 魔王はクククと笑った。

 魔王であるならばこいつが纏う魔力も雰囲気も納得がいく。だがまだわからないこともあった。


「なぜ俺を殺さない? 他の3人はどうした?」


「さあな。貴様のことなど見捨てて帰ったのかもしれないぞ? 可哀想なやつだ。あまりにも可哀想だから話をしようと思ったのだ」


「話だと……? お前となんか話すことはない!」


 俺は言い放つ。

 とりあえずこの魔王は俺をさらいにあの場に現れただけらしい。

 何の目的でそんなことをしたのかわからない。


「くくく……。時期に話したくなるさ。ウィル。これが何かわかるか?」


 魔王は不敵に笑った後に、俺の前に握り拳ほどの何かを置いた。

 それは先の尖った石のようだった。だがただの石にしては全体が紫色に怪しく光っている。その光は脈打つように明滅を繰り返していた。


「これは……?」


「魔石だ。この石の中に膨大な魔力を含んでいる。人間に打ち込めば魔族の肉体と強力な魔力を得ることができるだろう」


「そんなものを何に使うつもりだ?」


「ウィル、魔族になりたいと思わないか?」

 

 一瞬思考が止まった。こいつは一体何を言っているんだ?

 そんなものになどなりたいわけがない。


「誰がなるか! 魔族になんて」


「それはどうかな? ウィル。お前はあの3人に、特に勇者に不満を持っているはずだ」


「何を言って――」


「勇者に勝ちたいのだろう?」


「!」


 その言葉を聞いて俺は思わず口をつぐんだ。まさか魔王に見透かされているとは。


「だが今の貴様の実力では勇者に勝てることなど一生ない。それはあまりにも可哀想だろう? だから助けてやろうと思ったのだ」


 魔王が口の中で何事かぶつぶつと呟いたかと思うと、急に辺りの空気がどろりと重くなったような感覚に襲われた。

 地面の感覚が消え、上下がわからなくなる。


「何をした……?」


「少し本音で話しやすくなるように細工をしただけだ。ウィル。お前は勇者に勝つためにこれまでずっと努力してきたのに勝てていない。才能の差だ。それは努力程度では覆せない」


「黙……れ……」


 頭がうまく回らない。だが、否定しなくてはという強い思いだけがあった。俺がレッドに勝てないなどとそんなことは……。


「だがお前がこの石を受け入れれば、勇者に勝つことができる」


「……レッドに……勝てる?」 


 その言葉があまりにも魅力的に聞こえた。


 それほどまでに俺はレッドに勝ちたかった。レッドに初めて会ってから、俺は一度もアイツに勝てていない。そろそろアイツに勝てなければ、俺は……。


 ……俺は、レッドに勝って何をしようと、してたんだっけ……?


 頭の中に黒いモヤがかかっている。それ以上考えようとしても、思考が闇の中に消えていく。


「……本当に……俺が魔族になれば……レッドに勝てるのか……?」


 熱に浮かされたように俺が聞く。

 魔王がニヤリと笑って答えた。


「ああ、勝てる。今のお前では成し得なくても魔族の力があればできる」


「……………………」


 レッドに勝てる。その言葉だけが頭の中をぐるぐると回っていた。

 

「さあ、答えを聞かせてもらおうか。ウィル? お前は魔石を受け入れ、魔族になるのか?」


「……俺……は……」


「迷うことなどない。貴様の中ですでに答えは出ているだろう? さあ早く選び取るがいい!」


 魔王が急かすように問い詰めてきた。目の前の魔石が誘うように一際大きく光を放った。


「……俺は……魔族に……なる……」


 気づいた時にはそう答えていた。

 


「フハハハハ! そうか、魔族を選ぶか!」

 魔王が面白くて仕方ないと言わんばかりに笑った。


 魔王は魔石を拾い上げると、小さく何か呪文のようなものを唱えた。

 魔石が魔王の手からふわりとひとりでに浮かび上がると、ゆっくりと俺の方に近づいてきた。


「な、何を……」


 思わず後退りしようとするが、すぐに背中が壁にあたった。


 そのまま魔石は吸い寄せられるように、俺の胸元に突き刺さった。


「ぐ、ぐうう……」


 着ていた鎧を貫通して魔石が俺の肉体に突き刺さっている。

 全身を貫くような痛みに俺は呻き声をあげた。


「痛むだろう? 何せ肉体が人から魔族に変わるのだからな。だが、それを乗り越えた先でお前は力を手にするのだ」


「あ、あああ……」


 俺は思わず身を縮めた。身体が震える。魔石を中心に何か異物が全身にじわじわと広がってくるのを感じる。受け入れてはいけないような邪悪な何かが広がってくる。


「ああああ、あ……?」


 不意にその何かが心地よく感じた。


 全身に黒い何かが広がるたびに、安堵感と高揚感が大きくなっていく。心臓の鼓動に合わせて波打つように広がっていく。


 受け入れてはいけない、そう思う気持ちが溶けるように消えていく。

 俺は抵抗するのをやめた。


「うあ……?」


 突然、頭部から痺れるような感覚があったかと思うと、ずむりと黒い角のようなものが生えてきた。角はしばらく伸び続け、ある程度の長さのところで止まった。


 角に触れると滑らかな感触がした。手で覆ってもはみ出すぐらいの長さまで伸びたようだ。


 いつのまにかもう手足は縛られていなかった。


「終わったようだな。魔族になった気分はどうだ?」

 魔王が聞いてきた。


「…………」


 俺は答えない。乱れた呼吸を整えようと深呼吸をした。

 全身に魔力が満ちるのを感じた。

 

「…………最高だなぁ!」

 やがて俺は答えた。


 全身に凄まじい高揚感が満ちあふれている。膨大な魔力が全身に行き渡り、どんな相手だろうとこの力でねじ伏せられそうだ。早くこの力を使いたくてムズムズしてしまう。


「くくく……、まさか元人間にこんなにも魔族の力がよく馴染むことがあるとはな。どうだ? その力があれば勇者など簡単に倒せるだろう?」


「ああ、この力があれば……アイツに勝てる……」

 笑う俺を見て、魔王が満足そうに頷いた。


「その勇者が丁度来たようだぞ」

 


 バンッ、と扉が開かれる音が聞こえた。


「魔王! ウィルを返せ!」


 レッドが叫んでいる声が聞こえる。


「お呼びのようだ。行こうか」


 魔王はそう言うとくるりと背中を向けて、歩き出した。


 俺を閉じ込めていた鉄格子が勝手に開いた。俺は立ち上がると魔王の後ろに続いた。


 俺がいたのは地下牢だったようで、しばらく歩くと階段が現れた。階段を登ると、広い廊下のような空間と、廊下の先に巨大な扉があるのが見えた。


「あの扉の先に勇者がいる。強くなったお前の姿を見せてやればいい」


「ああ、そうだな。レッド……、今度こそ倒してやるからな……」


 俺は扉の方に歩みを進めた。そして両開きのその扉を思いっきり開いた。



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