第6話(20歳) 魔が迫る
【20歳】
「はぁ……はぁ……」
俺達は走っていた。
あれから2年。俺達は様々な冒険を経て、ついに魔王から王女を助け出した。
旅を始めて王都に行こうとしていた時は、まさか王女が既に魔王にさらわれた後だとは思わなかったし、そこから王女を救い出すのに2年もかかるとは思わなかった。
王女が囚われていたのは魔王城のすぐ近くの塔だった。当然魔王の手下の見張りが多くおり、俺達は今手下から逃げている最中だった。
「ふぅ……そろそろ撒けたか?」
しばらく走った後、俺は言った。
魔王城や塔の周りには森が広がっていた。木々を上手く利用して手下の魔族達を撒こうとしたのが成功したようだ。追ってはいなくなったようだった。
「皆様、助けていただきありがとうございます」
そう言ってぺこりと俺達に頭を下げたのは王女――ヘイリー姫だった。
整った顔立ちに金色の髪。多少顔に疲れは見られるものの、身にまとう雰囲気は気高く美しかった。正直、最初に見た時はあまりに美人で見惚れてしまった。
「姫様が無事で何よりです」
「いえ、私が無事なのも勇者様をはじめとした皆様のおかげですよ」
レッドと姫様が笑い合う。
――そのレッドの腰には相変わらず勇者の剣がさしてあった。
あれから未だに俺は勇者になれないままだった。
俺は旅の途中でも毎日の練習を欠かさなかったし、魔王の手下の魔族達とも積極的に戦った。
だが一度もレッドに勝てたと思ったことはなかった。ありとあらゆる場面でレッドは活躍し、勇者としての立場や人々からの信望は大きくなっていく一方だった。
何度か旅の途中でレッドに勝負を仕掛けたこともある。一度も勝てなかった。
それどころかレッドはどんどんと実力をつけ、俺との差が広がっていくようだった。俺だって努力しているはずなのに。どうして……。
「ところで皆様こそ、お怪我はありませんか? 随分激しく魔族達と戦っていたような」
姫様が心配そうな顔で聞いてきた。
「少し魔力を消費しすぎましたが、休めば回復すると思います」
レッドが答える。
確かに姫様のいた塔は魔族たちによって厳重に守られており、突破するのは大変だった。
特にレッドは最近覚えた光魔法とやらの魔力消費が激しいらしい。今日は特に疲れているように見えた。
「それは大変! ゆっくり休んで下さい。お二人は大丈夫ですか?」
姫様が俺とナタの方を見る。
「そうね。私も少し休むことにするわ」
「……俺はまだ戦えます」
俺は強がった。
「……無理はなさらないで下さいね? 勇者様のように休むのも大事ですよ」
「いえ、本来なら僕も姫様を守るべきなのにお恥ずかしい……」
レッドが苦笑しながら言った。
「そんなことないですよ。勇者様がお使いになる光魔法は魔力の消耗が多い分、魔族にとっては脅威となる魔法。きっと魔王にも有効でしょう。逆に私の方こそ戦闘は皆様にお任せしかできませんので……」
そういうと姫様はレッドに近づいて、その肩に触れた。次の瞬間、レッドが暖かい光に包まれた。
「これは……回復魔法ですか?」
「はい。私が皆様の役に立てるのはこれぐらいです」
「十分ですよ! 助かります!」
姫様とレッドが笑い合う。
さっきから妙にこの二人は仲良さげにしている気がする。その様子が余計に俺を腹立たせた。
勇者勇者と褒め称えられやがって。その程度で休まなくてはならなくなるくせに。
「ところでお姫様は予知もできるって聞いたことがあるのだけど、それは本当なの?」
ナタが聞いた。
「ええ。自分から自在に見ることはできませんが、ふとした瞬間に数年先の未来が見えるのです。……ですが、最近は見れなくなってしまいまして……。最後に見たのは数年前。勇者と魔王が対峙しているところを見ました。それ以降、未来は見えていません」
「ふーん……。気になるわね……」
ナタは何か考え込むように首を傾げた。
この国のお姫様は魔王に対抗できるような、魔法とは違う不思議な力を持つ。確かそんな話を旅立った頃に聞いた。
その不思議な力の内の一つが予知らしい。姫様の言い方からすると、そこまで都合よく見えるわけでもないようだ。
「魔王との戦いの行先は姫様にも分からないんだな……」
俺は呟いた。
「ですが、私は勇者様を始めとした皆様ならきっと魔王を倒せると信じています!」
姫様が真っ直ぐな目をして言った。
「そうですね」「その通りね」
レッドとナタが返事をする。
俺だって魔王が倒せないとは思ってない。きっと俺達なら倒せるだろう。ただ倒すなら、俺が勇者として倒したかった。
とりあえず俺も返事をしようと口を開けた時だった。
突然背中に強い衝撃を感じた。
そして次の瞬間には、自分の身体が宙を浮いたかと思うと、すぐに地面に叩きつけられていた。
「ぐぅ……」体全体に激痛が走る。
体がうまく動かない。が、なんとか顔を上げた。
そこにはこちらに向かって手をかざしている人型の魔族が立っていた。
どうやら間近から何らかの魔法攻撃を受けたようだ。いつの間にか背後まで近づかれていたらしい。全く気づかなかった。
人型の魔族は、顔も含めて全身に黒い鎧を着けており、その上から黒いマントを羽織っている。
禍々しい魔力をまとっており、明らかに今まで相手にしていた魔族と雰囲気が違っていた。
「何者だ!」
レッドがすぐに剣を抜き、臨戦体制を取った。
「邪魔だ」
「……っぐわあ!」
だが魔族がそう呟いた瞬間、レッドもまた勢いよく吹き飛んだ。
「勇者様!」
姫様がレッドに向かって駆け寄る。
「お姫様は前に出ちゃダメよ!」
ナタもレッドと姫様を守るように2人の前に立ち塞がった。
魔族は3人を一瞥すると、どういうわけか俺の方に近づいて来た。
まだ体は動かせない。
魔王は俺の前で立ち止まると、同情するような表情で言った。
「お前の仲間は勇者を優先か。哀れなやつだ。お前の方が重傷だろうに」
魔族が俺に向けて腕を振り下ろした。
そして次の瞬間、辺りが真っ暗になったかと思うと、何もわからなくなった。




