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99/111

99

 開始の合図が発せられた。女騎士はすぐ突っ込んでくると思ったが意外にも慎重だ。さっき魔杖を渡したのが効いてるのかもな。随分と警戒しているようだ。

 かと言ってこちらから仕掛けるのも安く見られる。仕方がないので魔杖の切っ先を降ろして打ち込みやすいように間合いを取る。


 ハアアアアッ


 うまく誘いに乗ってくれたようだ。女騎士は気合いと共に盾を前面に出し、剣を自分の後ろに引き構えながら突進してくる。

 うんうん、いい魔素の流れだ。盾を囮にしてすぐ剣を打ち込んでくるつもりだろう。盾による突進攻撃がそのまま成功したならそれはそれでいい心算か。たしかに練習の形跡が感じられるよい攻撃だと思う。

 その盾がオレの体に衝突する寸前、オレは剣のない方向へ半身分だけ体をズラしてすれ違いざまに足をひっかける。女騎士から見たら一瞬でオレが消えたようにも見えただろう。


 ズドガガガッ


 前方に激しく倒れ込む女騎士。でもまだまだ闘志はある。すぐに起き上がって再度の突進だ。直前と全く同じ動きで芸が無いな?ならばともう一度同じ動きで転ばせてやる。


 ドガガッ


 転び方が悪かったようでさっきより鈍い音だ。再度起き上がるもさすがに少し警戒しているようだ。自分が足をひっかけられた事にようやく気が付いたらしい。やたら注意が足に向かっている。ん~それは良くないよね。

 警戒はしつつも作戦は変えてこない。女騎士が再び盾を前面に構えて突進。オレはまた足をひっかけて、と見せかけて突進の勢いを殺さないように肩を押す。足に注意が向かっていた女騎士は予想外の場所から力を加えられバランスを崩した。


 ズザザザザッ


 3度目の転倒。そしてその後何度も何度も挑んではオレにあの手この手で倒されることになる。







 稽古開始から結構な時間が経った。それでも女騎士は諦めない。心が強いわ~。オレだったら2回目ぐらいで諦めてるな。女騎士は大きな怪我こそないが、何度も何度も転んだ影響で息が上がっているし着衣の乱れもひどい。

 このまま女騎士の根性がどこまで続くか見てみたくもあったがさすがに時間は有限だ。すこし挑発して場に変化をもたらそうかな。



「ユースティティアさん。オレ、まだ魔杖使ってませんよ?」



 女騎士の表情が歪む。うわぁああ~~。このまま悪役に徹すれば『くっころ』いけそうやん!だめかな?だめかな?

 だがその挑発が効いたようだ。女騎士は何某かの覚悟を決めた顔だ。立ち上がって息を整え剣と盾を構え直す。おや?構えがおかしいな。何かしてくるぞきっと。


 ハッ


 裂帛の気合いとともになんと盾をオレに向かって投げつけた。と同時にオレに接近し攻撃する心積もりのようだ。なるほどね~最後の賭けだね。どうしようかな。

 オレは硬く、鋭くというイメージの魔素で魔杖を強化して飛んできた盾を一刀両断。上に跳ね上げる。そしてすぐ魔杖を投げすてた。

 女騎士は盾を追いかけるようにオレに迫ってきており、これが最後の攻撃だとばかりに剣を振りかぶる。オレはその剣を持った女騎士の右手首を左手で掴み、オレの右手を彼女の首元へ。さらにオレは自分の右足を振り子のように使って彼女の右足を外側から刈る。いわゆる大外刈りだ。


 ズバーン


 綺麗に決まった。オレは彼女の右手首を持ったまま、仰向けに倒れた彼女の上に半分覆いかぶさっているような姿だ。そのまま彼女の目を見つめる。まだ戦う意志はあるか、と。

 彼女の瞳は意外に落ち着いていた。諦観と達観の色が半々に見える。



「・・・ま、まいりました」



 騎士らしからぬか細い声で言葉を吐き出した。どうやら終わったようだ。オレは彼女の上から身を除けて倒れたままの彼女に手を出す。



「ユースティティアさん、何度も痛い思いをさせてしまってすいません。簡単に決着をつけてしまってはあなたのためにならないと考えてのことです。オレの力を十分にわかってもらった上で今後の護衛を続けさせてください。さ、起きて。手を貸しますよ」



 彼女は少し迷った挙句、そっと手をオレの手に重ねてくる。オレはそのまま彼女を引っ張り上げて立たせてやる。

 いまの稽古で軽く足でも痛めていたのか、勢いよく立ち上がったのはよいがフラついてしまってオレの胸に倒れ込んでくる。思わず彼女を抱きしめるような形になってしまった。



「あっ・・・申し訳ない、騎士ともあろう者が手を借りてばかりで」


「あなたは騎士である前に一人の人間であり、真っ直ぐな心を持った麗しい女性です。いつでも力を貸しますよ。男性の務めです」



 そして彼女の目を見つめながらいつもの微笑みを返す。これはやりすぎかな?あとでアイとミューズになんか言われたらそうなんだろうな。まぁべつにいいや。



「ゴホンゴホンッ・・ん~ゴホン。ユースティティア、いつまで手を握っているのですか。もう一人で立てるでしょう?身を整えなさい」


「は、はいっ。失礼しましたっ」



 アウレリアさんに指摘された彼女は顔を真っ赤にしてオレから離れて手持ちの荷物を漁っている。タオルでも持ってきてるのかな。



「さて、次の稽古はレウィスさんですね。急ぎましょうか」


「待ってください。あの・・盾が」



 レウィスさんが青い顔をして2つになった盾を持ちあげて見せる。



「ミューズさんも同じ武器を使ってますし同じパーティーなのですから相応の実力があるハズですよね?私はこの盾の様になりたくないです。もう皆さんの力は十分すぎるほど伝わったと思いますが、アウレリア様?」


「その通りですね。リク様、誠にお手数をおかけしました。今後の探索において戦闘や護衛、安全確保に関わる指示はリク様に完全に従うことをお約束します」


「わかってくれてよかった。あ、盾は弁償します」



 それを聞いたユースティティアさんが慌てて告げる。



「その必要はありません!その盾は私がリク様との記念に、いえ戒めとして私が所持させていただきます」



 んー、拗らせちゃったかな。まいいや。ユースティティアさんは盾を回収して持ち運べるようにロープのような物で縛っている。それを横目で見ながらアウレリアさんが問いかけてきた。



「リク様、まさかとは思いますがその杖は魔道具なのでしょうか。有り得ない切れ味に見えます。杖に切れ味なんて言葉を使ったのは初めてですが」


「嘘偽りなくただの棒だよ。自分の目でみてみる?」


「そうは思うのですが・・・だとすると何故盾が割れたのかと考えざるをえなくて。なにか特殊な技とか。あっ!ま、まさかリク様も恩寵を!?それが使徒様のお力なのではっ!?」


「そんなわけないでしょ。探索者だったら奥の手の一つや二つ持ってるもんだよ。さぁ時間がおしてるから9層の調査を急ごう」




 9層の探索をほどほどにこなして帰宅。明日は10層をクリアすることにして軽く打ち合わせをした。少しだけ迷ったけど結局全員をクリアさせることにして、そのための準備などを指示したよ。

 その後部屋に戻ると案の定アイとミューズが責めてきた。



《マスター、とてもよくない傾向ですよ。言わなくてももうわかってますね?なぜあんな事をしたのですか》


「ユースティティアさんのことだよね?あんなことって言うけどさ、よろめいた女性が倒れないように支えてあげるのは普通でしょ。逆に聞くけど無視して転ばしておけって言うの?」


《違います。わかった上で言っていますね?支えた時に至近距離で目を見つめて微笑んだことが駄目なんです。普段はあまり感情を見せない冷ややかなその美貌が、突如至近距離に迫って天上の甘い微笑を見せる。その破壊力たるや究極マウントフジ。女ならだれでも籠絡されること間違いありません》


「りくさまには、オンナの子せっきんきんし令がひつようなのではぁ?」


《それぐらいしてもいいですね。世の女性陣をマスターのまき散らす劇毒から守るためには》


「無茶言うなよ」


「アルルちゃん、今日のりくさまを見てどうおもいましたか?手あたりしだいにオンナの子をゆーわくしてましたよねぇ?」


「にゃ?強いオスがたくさんのメスを侍らすのは当然にゃ」


「きゃぁぁ~アルルちゃんわるい子!人はそんなことしちゃダメなのですぅ~」


「アルルはミューズがわからにゃい。そんなに不満ならさっさとリクと交b」



「まったーー!」 「わぁぁあああ」

《お、恐ろしい子・・・》



 無事、話は有耶無耶になりましたとさ。一件落着!


 え、してないって?

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