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「・・・なにかいいアイデアが?」
《いえ、アイデアではありません。アウレリア嬢のあの魔道具です。おそらくコアを改造してますよ》
「アウレリアさんがその禁忌かもしれない研究してるってこと?あの傘型の魔道具で?」
《彼女はあの魔道具のことを自分で『オリジナルの魔道具』『1つしかありません』と言っていました。不自然な表現です》
「おいおいヤバい研究にしては不用心な発言だ。本当に改造してるのかな。別の意味で言っていることはない?」
《例えばの話ですが『魔石エネルギーの伝達方法が世界初』などの意味でオリジナルという言葉を使ったのかもしれません。コアがオリジナルという意味ではなくてですね》
「それは・・・可能性は否定できないけど。今日の勉強会の最後、コアの設計に関わる部分でわざわざ2~3回言い直して確認してきたよな。あれを考えると、やっぱりコアをイジってそうな気がしてこないか?」
《同意します。『コアを自分で創るのか』と2回確認してきました。おそらく秘密裏に世界で誰も行っていない、行うべきではない研究をしていたからこそのあの驚きだったのでは。
もし本当に改造に手を出していないのなら『コアの設計なんてありえませんよ』という方向の反応が出て来て一笑に付される筈です》
「だよな?いや~そっか~。改造自体が不可能な状態ではなさそうだな?おもしろくなりそうだ。ただ残念なのは今はダンジョンに掛かりっきりだから、魔道具に手を出す余裕はないな」
《そうですね。急ぐ必要はないのですからダンジョンを満足いくまで完成させてから楽しみましょう》
「そうだな。それにファストトラベルがあれば今日はダンジョン、明日は領都の研究所、なんてできるかもなっ!ぎゃはああ~たのしみ~」
「ぇ~なんですかぁ~りくさま。おしえてくださぃ~」
「おう!いいぜ。こっちきなっ」
この後みんなで『こんな魔道具があったらおもしろい』とか逆に『こんなのがあったらヤバい』なんて話でかなり盛り上がった。
勉強会があった次の日。調査開始から5日目になり8層と9層の調査だ。ちなみに探索メンバーの内、男性騎士メンバーが交代していてマグヌスさんからレウィスさんになっている。昨日の休日を機に交代したらしい。レウィスさんは小さい方の騎士で一行の中では下っ端だ。なんでもチャキチャキと素早く動く身の軽い人だ。
8層はこの新生ダンジョンにとって一番ホットな層になる。もちろんドロップ率が高いからだ。このダンジョンにやってきた全員が間違いなく注目している。
昨日の勉強会の最後が変な感じで終わったので、アウレリアさんと最初だけギクシャクしたが、ダンジョンを目の前にしたらそれもすぐ消えた。
オレ達は張り切って8層に向かったがとても残念なことになっていた。8層に降りていく階段の途中で薄々感じていたが、8層は人、人、人で壮絶に混んでいた。魔獣なんていやしない。稀に魔獣を見かけるも湧いた瞬間に攻撃されていた。
前世でやっていたオンラインゲームでのモンスターの取り合いを思い出して苦笑いしてしまったよ。懐かしい思い出だ。大抵金策に向いたモンスか、なんらかのコンテンツのキーアイテムを落とすかのどっちかだったな。
アウレリアさんの文官達が仕入れた情報によると、近隣の領軍の軍人が出張してきているらしい。そして地元キール駐留の領軍と縄張り争いみたいになっちゃってモメてるらしい。同じ軍同士で取り合いしてるとかバカげてる。どうせ魔石を収める先は一緒だろ?
アウレリアさんもあきれて見ている事しかできないようだ。
「これは・・・想像以上に混んでますね」
「すごいね。不謹慎だけど笑っちゃうよオレは、ハハッ」
「調査どころではないことはわかりました。仕方ありません9層にしましょう」
「わかった。おーいミューズ、もういくよ。戻っておいで」
目の前にたまたま湧いたウルフを別の人に獲られて怒り心頭に発スルファイアー状態のミューズ。身体強化をかけてゴリゴリの本気モードで『次は絶対に獲る!』と無言の殺気を辺りにまき散らしている。変な所で負けず嫌いでかわいい。本人には悪いがニヤニヤしちゃうね。
「リク様、あと少し、あと少しで次が湧いてとれると思いますのでっ」
「ばーか、だめだよ。オレ達の仕事は依頼主の要望に応える事だ。さ、いくよ」
「ぐぬぅ。お、おのれぇ~。次があれば必ず」
あきらめて9層。対照的にすがすがしいくらいに人がいない。少しホッとする。
「リク様調べでここは確か8%でしたね。ここも本当に不可思議です。1~7層の傾向を見れば順次ドロップ率を上げている事は明白。であるなら普通に考えてこの9層が8層のように作られる筈ですよね?8層と9層は逆ではないのか。なぜ順番を変えたのか」
(当然オレは事情を知っているけど答えにくいな。8層は魔石が目当ての人用で、9層から続いて10層への流れはより強くなって深層へ進む人用だなんてね。
ヒントを与えるのもマズい気がする。そもそも正確に説明するには経験値とドロップ率はトレードオフの関係にあることを理解する必要があるし、つまりそれは説明できないってことだしな)
「さ~てね。ダンジョンの神様の気まぐれなんじゃない?オレ達人間は10層があるからこの9層で一区切りつくって感じてしまうけど、実は8層までで区切ったとかね」
「・・・リク様、あなた様の発想や着眼点には何度も驚かされています。昨日の勉強会でもそうでした。私が教える側の立場であるのにです。いまのお言葉もよくよく検討してみる価値がありそうです」
「いや適当に言っただけだし深く考えすぎだって」
「少しだけ時間をください。この場で、この空気のままで考えたい。皆さん休憩をどうぞ」
「了解。レリアは階段から離れないように。魔獣は階段近くにはこないので。ミューズとアルルは水分補給しておいて、でも警戒は解くなよ。騎士さんは座って休憩を。ただし階段を降りてくる人間がいないかだけ注意しておいてください」
オレはなんとなくの指示を出しておいて自分も水を飲む。アウレリアさんのなるべく近くで、かつ全員が見渡せる位置に立つ。まぁこんなとこで何も起きないけどね。
アウレリアさんはかなり真剣に考えこんでいるようだ。階段に腰かけて9層を眺めつつ両手の上に顎を載せてうんうん唸っている。
しばらく休憩した後、アウレリアさんがおもむろに立ち上がりオレに向かって話しだした。
「リク様のお言葉はまるで魔法のようです。いいえ呪いと言ってもいいかもしれません。8層までで一区切りと仰った以降、もうそれ以外に解はないという気持ちのまま動けないのです。なにを考えてもそこに戻ってしまう。
いつまでも次に進めないのでもういっそのこと8層までで一区切りなんだと仮定します。主な根拠はドロップ率の順次上昇の切れ目であることと8層だけが広大な面積を持っていることです。1~8層は最終的に8層へと導く複数層に渡る長大な仕掛けだったと。
そう仮定した場合、今度は俄然9層以降が気になってきます。1~8層までとは何か違う仕掛けや意味があるのかもしれません。
リク様、本日は9層の詳細調査とし、明日以降は10層、そして11層以降を案内してください。もちろん10層の試練は知っています。私達を突破させてもらえませんか」
「・・・レリア一人を?騎士含めて全員を?」
「もちろん全員です。戦力は少しでも多い方がいいですよね?」
「その戦力は本当に戦力足り得るのかな。層を重ねていくのなら護衛対象が増えることにもなるしね」
その会話を聞いていた女騎士ユースティティアが踵をカツっと鳴らして立ち上がり、こちらを睨む。
「いくら使徒様でも聞き捨てなりませぬ。不肖このユースティティア、長年領軍の騎士としてまた護衛として怠ることなく鍛え上げてきました。貴殿の仰る戦力になるかどうか是非確かめていただきたい」
「待ちなさいユースティティア」
「いやレリア、悪い考えじゃない。この先を進むつもりなら必ず確認が必要になることだよ。オレ達にとってもだけど、そちらの皆にとってもだ」
「ですが・・・」
「じゃこうしようレリア。休憩中に練習として軽く手合わせする、これなら何も問題ないだろう?
オレと騎士ユースティティア、ミューズと騎士レウィスの稽古だ。幸い武器も防具も準備万端。どれだけ暴れても問題ない場所だから都合もいい。さっさと始めよう、こちらへ女騎士殿」
「使徒様、こちらは真剣の武器しか持ち合わせぬが?」
「オレ達もそうですよ。これはただの棒ですが、ただの棒ではないのです。持ってみてください」
そう言ってオレは女騎士に魔杖を片手で手渡す。当然相手も片手で受け取る。
「いいですか?離しますよ?」
「??・・はい。なっ!!」
「これが探索者の力によってあなたに襲い掛かります。いかがですか?これでも真剣ではないと?」
「・・・・・」
「安心してください。こちら側からは軽く撫でるだけです。依頼人に怪我なんてさせられません。レリア、合図をお願い」
「リク様には大きな力があるのはなんとなく察しています。ユースティティアをいとも簡単に制するミューズ様が付き従っているのですもの。それでも万が一ということもあります」
「ではレリア。選ぶんだ。10層以降をあきらめるかオレの力を信じて任せるか」
「・・・その言い方はズルいと思います。仕方ありません。両者少し離れて構えて」
はじめっ!




