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「リク様はダンジョンの中で私の持っていた杖の魔道具にすごく興味を示していましたね。もし魔道具の基本を網羅されているのなら、魔道具の応用編から解説をしてもよいのですがどうしましょうか。基本から伝えた方がいいでしょうか」


「基本からで。オレは完全に素人なんだ。むしろ一般的な常識もない人だと思って、子供でもわかるようにお願い」


「わかりました。時間はたくさんあります。ゆっくりいきましょう」



 アウレリアさんとオレは共有部屋に置いてあるテーブルの席についている。アウレリアさんがオレが座っている隣の椅子に座ってきた。教えるなら対面の席の方がいい気がするんだが。

 改めて近くで見ると本当に容姿が子供っぽくて年齢不詳だ。さすがにアルルよりは背が高いし話し方や態度が大人だから幼女には見えないが、オレからすると妹の感覚に近いかな?この人がかなり年上なんて信じられないな。そして相変わらずの綺麗な金の髪だ。

 そんなアウレリアさんはテーブルの上に教材にすると思われる資料、羊皮紙と書くもの等を並べてゆく。その準備ができたところで口を開いた。



「ではご要望通り魔道具の基礎から始めますね。リク様にお聞きします。全ての魔道具に共通して一番の核となるパーツ、最も大事なもの、そして絶対必要なもの、なんだと思いますか?考えてみてください」


「うん、たぶんわかる。魔道具の中で一番の中心部分ってことだよな。最近知ったばかりだけど『魔道具の魔石』ってやつだと思う」


「その通りです。魔道具の魔石は人間で言うなら脳です。その魔道具がどう動いてどのような効果を生むのかが決まります。魔道具の魔石は研究者や技術者の間では『コア』と呼んでいます。では魔道具の魔石である『コア』の次に大事なもの、必要なものと言われて何か思いつきますか?」


「脳と言えば次は当然心臓を連想する。動力源だな。つまり魔石だ。ああ普通の魔石な」


「・・・どうやら出来の良い生徒のようですね。教師としては楽ですが教えがいがありませんよ。ふふ」


「そんなことないさ。誰でも思いつく」


「そうでしょうか?そもそも『動力源』なんて言葉、技術者や専門家以外が使う言葉とは思えません。それに心臓を動力源に例えるには心臓の働きを理解するための医学的知識も必要です。もしやどこかで研究か、何かを学んでいらっしゃった?」


「待った。いちいちそんなこと話してたら進まないよ。たまたまだよ、偶然知ってただけ」


「・・・本当にあなたは不思議な人。この世の人ではないみたい。私としてはリク様の生い立ちやこれまでの過去には大変興味があるので決して時間の無駄ではないのです。とはいえこの授業はリク様への報酬でもありますので私個人の欲求は捨て置いて進めるべきですね」


「悪いけどそうしてくれ」


「同じような問いです。脳と心臓ときたらさて次はなんでしょう?」


「・・・いきなり難易度が上がった気がする。手足と言いたい所だがそうじゃないな。ちょっと考える時間を」


(いままでオレが見たことある魔道具。ランプ、冷蔵庫もどき、着火、鉄の精錬、金貨と魔石鑑定、身分証関連。共通点はなんだ?

 ・・・うーむむむ、きびしいな、わからん)


「だめ、わからないや」


「少しホッとしました。全部答えられてしまうと授業が終わってしまいますので。わからなくて当然です。それは魔道具独特の考え方であり定義なのですから。

 一般に魔道具の3大構成要素と呼ばれています。3大とはコア、魔石、作用領域になります」


「作用領域、か」


「はい。コアによりその魔道具がどのような動作をするか、どのような効果を生むかが決まり、魔石がそのエネルギー源になります。その決まった効果が発揮される空間を作用領域と呼ぶんです」



 ここで初めて机の上に用意してくれていた資料が使われる。いまアウレリアさんが言った3大が略図付きで説明されている本だ。その略図には3大のそれぞれが三角形の頂点の位置に示してあってお互いがお互いに線で繋がれている。ざっくり言ってしまえば三権分立の説明の絵だな。



「わかるような、わからないような」


「その気持ちわかります。例を挙げると飲み込みやすいです。斡旋所や管理施設にある魔石鑑定の魔道具はご存じですね?」


「ほぼ毎日見てるよ」


「あの魔道具には鑑定したい魔石を入れる空間があります。あれが作用領域なんです。あの空間に入れた物だけが鑑定の対象になるんです」


「なるほどわかりやすい」


「そうですね。自分で説明しておいてなんですが、そこが落とし穴にもなっています。どこの家庭にもある火をつける魔道具ありますよね。あの魔道具の作用領域は?」



 火をつける魔道具とはライターのとても大きいのと思ってもらっていい。あの作用領域か。領域、作用する部分、空間。



「え?え~と、アレ?ない?」


「うふふ、その気持ちもわかります。魔道具職人見習い全員が通る道ですので。あの魔道具の領域は噴出口から握り拳1つ分と定義されているんです。よってそれが作用領域というわけです。次にこの資料を使って他にどんな魔道具が存在しているか説明していきますね」



 そう言ってアウレリアさんは用意してくれた資料を使って様々な魔道具についていくつも説明してくれた。世の中には驚くほどオレの知らない多様な魔道具があるようだ。それらによって生み出される効果、動作、生産物は非常に多岐に渡っている。

 説明の途中で何度も質問をしてしまったけど嫌な顔しないで丁寧に答えてくれた。見かけは子供だが良い先生であるのは間違いないな。



「そっか~。いままできちんと考えたことがなかったけど、世の中にはこんなに魔道具があって、それぞれの機能や構造を考えて設計して、んでそれを製作した技術者や生産者がいるんだな」


「そうですね。効率を良くすること、精度を高めること、早くすることなど多くの課題と向き合って日々研究していますよ」


「あ~楽しそうだなぁ。オレも手が空いたら魔道具の製作に関わってみたいと思ってるんだよね」


「えっ!?ぜひ、ぜひやりましょう?リク様とはお会いしてまだ日が浅いですが、あなたの研究者としての資質の片鱗はすでに感じています。わ、わたくしと一緒に」



 頬を上気させてすんごい喰い付いてきたぞ。その勢いに逆にオレは少し引き気味だ。



「ん?そうだね。他に研究者や技術者のアテがあるわけないし、もしその時が来たらレリアを頼らせてもらおうかな?」


「はい!絶対ですよ?絶対に約束ですよ?他の人の所に行ったら怒りますよ?」


「う、うん、わかったよ約束だ」


「うふふ、やりましたわっ!これでリク様と・・ちなみに今日説明した中のどのような部分を勉強してみたい、または研究してみたいと感じましたか?」


「ふむ・・・コア、かな。コアの設計だろうな。いまある魔道具はどうもしっくりこないのが多い。それなら自分で好みの効果を持つコアを作りたいね」


「・・・・えっ・・」



 アウレリアさんがオレの言葉を聞いて急に立ち上がる。顔には驚愕の表情が浮かんでいた。



「・・・・な、なぜ」


「なぜってなにが?」



 しばらく待っても言葉が返ってこない。なんだ?知らずにまずいこと言ったかな?当然直前に話してたコアの設計に関係するんだろうな。まぁ考えててもしょうがない。



「今日はここまでにしようか。とても勉強になったよありがとう」


「・・・待って、ください」


「うん?」


「すいませんでした。あまりにも驚いてしまって。コアの設計と言いましたね?自分で考えた機能を持つコアを自分で創ると?いま世の中に存在しないコアを自分で創り出すという意味ですか?」


「うん」


「その考え方は極めて異端です。今の世にそういう意味の研究をしている人はいません」


「え、そうなの?」







 それから勉強会はすぐ解散して各自部屋に戻った。アウレリアさんは相当ショックだったらしく、詳しい話もできないままに別れるしかなかった。



「なんだろ~ねぇ、何か禁忌にでも触れたかな」


《答えはシンプルです。コアを設計するという概念が存在しないのです。

 魔道具に関わる過去の全ての経験を思い出してください。入力と出力の説明はできても、内部の効果、動作、作用を説明できる者はいませんでした。この世界の魔道具はブラックボックスなんです》


「たしかにその時そう話してたね。え?まって、コアの設計なんてしないし、しようとも思わないってこと?」


《だって魔道具は『そういうもの』ですから。『そういうもの』だから『正しい』『おかしくない』に決まってますし、それを自分で創るなんてことのほうがおかしいのです》


「・・・もしかしてだけど。ダンジョンでドロップするコアって、XXの魔道具用の魔石って決まったヤツが落ちるのか?」


《おろらくそうでしょう。自分たちで創り出すことをしないなら当然そうなります》


「うっわなんだそれ。どんだけ融通きかないのよ。汎用タイプのコアとかでいいじゃんね。機能をプログラムして組み込めるように」


《推定ですがそれが神の意志なのでは?魔道具の機能と種類を限定し、独自の魔道具を創作する機会を封じる、という》


「新しい魔道具のアイデアを考えさせないように、人類の意識をコントロールしてるって?なんでだ?何が狙いだ?」


《わかりません》


「・・・じゃぁコアを設計しちゃ駄目だしできないよな?あ~あ、めっちゃつまらなくなったな。色々作りたかったのにさ」


《マスター、そうでもないかもしれないですよ》

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