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その日の探索は終了となり宿に向かって帰り道を歩いている。普段半日弱ぐらいは平気でダンジョンに入っているが今日は早く上がってきた。まだ午後の早めの時間だ。
アルルは今日一日いつもみたいに自由気儘に行動できなかったようで少しご機嫌斜めだ。オレに肩車を要求してずっと乗っている。オレ達以外の人間がいるとちょっとは気を遣うんだと少し驚いている。しょうがないから帰って甘やかしてやろう。
おい、アウレリアさんとミューズ。羨ましそうにアルルを見るな。おまえらは肩車は無理だし駄目だ。
「リク様、今日はありがとうございました。午後は調べ物があるので宿に籠ることになります。本当でしたらさっそく魔道具の授業などして差し上げたかったのですが」
「まだ初日なんだしアセらないよ。それに探索しながら結構教えてもらったし。ちなみに何を調べるの?」
「キールダンジョンの歴史を。ダンジョンの成り立ちの歴史を知ることは研究にはとても重要なのです。実はダンジョン管理施設から宿へ続々と資料を運ばせている最中です。あとは今日調査していて気になった点、若い通路タイプなのに階層が深いことについても何かわかればと」
「なるほどね~わかった。じゃ~オレ達も同じフロアにいるから何かあったら呼んで」
そんな話をしながら宿に帰りついた。自分達の部屋に戻る前に例の受け付けの人においしいお茶をいれてもらって喉を潤す。
「本日はいかがでしたか」
「視察という意味では順調でしたよ。調査という意味では不明点が多くイマイチですね」
「左様でしたか。まだお日にちはあります。終わるころにはきっと多大な成果をあげていらっしゃるでしょう」
「ハハッ、そうありたいですね」
受け付けの人が一瞬オレの目を見る。なんだ?
これはただの噂話なんですか、とわざわざ前フリをして話し始める。
「現在大勢の人間がこの街に流入しているのはよくご存じのことかと思います。中には柄の悪い者や怪しげな格好をした胡乱な輩も混じっているようです。さらには素性が不明な人物も違法に入ってきているとも聞きます。
このフロアにお泊り頂いている皆様は領の行く末を左右するほどの重要な方々。大切なお体に万が一の事がないようくれぐれもお気をつけください」
そう言ってもう一度オレの目をじっと見る。ふ~ん。ただの受け付けとは思ってなかったけど色々知ってそうね。
「・・・もしあなたがオレならどうしますか」
「極力この宿で過ごします。この宿の警備水準はリク様が想像していらっしゃるものより高いので。ダンジョンへの行き来をなるべく減らし、出掛ける時は可能な限り短い時間にします」
「・・・お茶おいしかったです。ありがとう」
オレは敢えて何も返事をせずにその場を去り、部屋へ戻って皆と相談する。
「どう思った?」
《受け止め方は2通りです。一つ目、外での襲撃を暗に忠告してくれた。二つ目、この宿になるべく滞在させてここに襲撃をかけたい》
「あの人がダークサイドとは思えないけど」
《そうですね。いずれにしても問題ありません。私達はやるべき事をやりたいようにやるだけです。いつ、どこで、どんな襲撃が来ようとも所詮は人族》
「ハハッ、確かに!何も考える事なんてなかった。よ~しアルル!今日はおとなしくしてていい子だったな!いまから遊んでやるよ~。だっこでもおんぶでもいいぜ」
「だっこにゃ~、アルルを持って部屋の中をぐるぐるするのです」
「・・・ミューズもだっこして」
「オレよりデカいじゃないか」
「りくさま、ひどい、ひどすぎますぅ~。これでもオトメなのです」
どうやら全員いつもの雰囲気に戻ったようだ。
2日目。昨日に引き続いて4層と5層を調査した。1~3層に比べてダンジョンの構造自体にはあまり変化が無いため、魔獣の討伐が調査の中心となる。騎士さん達が大いにがんばってくれている。
4層ぐらいになるとドロップ率が10%を超えてくるので実際に討伐して検証する事もできるレベルだ。かなりの数をこなしているのでデータを取っているアイは狂喜乱舞している。当然アウレリアさんにも戦闘をうるさく求めてくるよ。やれやれ。
「その魔道具興味あるなぁ~。護衛している身でこんなこと言いにくいけどレリアがそれ使ってるところもっと見たいな。ダメだよね?」
「この魔道具に興味津々なのですね。んふふふ。仕方ありませんねぇ。特別ですよ」
ニッコニコのノリノリでやってくれる。わかりやすい。
3日目も同様だった。6層と7層を調査。ダンジョンウルフL1.4が出てくるのでやや戦闘に真剣さが加わり始める。だがまだ余裕はあるし問題ない。この日も午後は調べもので宿に引きこもり。
4日目。この日はもともと休日と決めてあった。アウレリアさん達は午前中は寝て過ごすそうで宿から出ないとのこと。連日ダンジョンに入ると相当な疲労がたまるものらしく、定期的な休日は必須なんだと。
オレ達はそれを聞いて午前中だけダンジョンに行く許可を事前に取っていた。アウレリアさんはあきれていたが快く許可してくれている。宿にいれば基本安全だし宿待機の男性騎士もいるしね。
ちなみに午後からはいよいよ魔道具の授業をしてもらえることになっている。
久しぶりの朝早くからの入ダン。最下層も久しぶりな感じ。実際はそんなに日が経っていないけどね。
「ルル~ロロ~、いるか~?」
声をかけたらルルがテントから走って出てくる。そのままオレにダイブしてくる。ロロはゆっくり近寄って来てミューズにだっこしてもらってるようだ。
「あ~すごいにゃ~、数日味わってにゃいと効くにゃ~」
「麻薬かなんかみたいじゃねーか。まぁ感覚的には久しぶりだよな。何も変わりないよな?ってちょっとまて魔素取り過ぎだぞルル」
「にゃ~~天然もの果汁100%にゃ」
「ロロはどうだ」
「問題ない。回復法は繰り返し実施していたので貯まっている筈である。いつものようにすると良いだろう」
「お~ありがたいね。助かるよ。後で魔獣変換しよう。あ~ここは落ち着くわー」
さっそくオレはいつもの椅子に横たわり川の流れに目をやる。アルルが早くも川で魚を探している。手には漁網(という名の虫取り網)を持っている。あ、そうだコーラ飲もう。
《ルル、確認です。ドロップ用のG級魔石のストックはどうなっていますか。それとここ数日の人間の入ダン状況は》
「にゃ~?ボクより常駐のアイさんの方がわかるにゃ~、いまはリクを味わうのに忙しいにゃ」
《まったく・・・わかりました。私の方で確認しておきます》
「あ~アイさん、いつものようにカタログみせてくださぃ~」
《こちらもこちらで・・・やれやれ、わかりました》
いつもの景色が戻って来たな。やっぱりココはいい。神の力を稼いでもっと快適にしよっと。
それぞれが自分の思うようにゆっくりと時間を過ごた。リフレッシュできたようだ。最後に魔獣を呼び出し神の力に変換した後、宿へ戻ることに。
「じゃ~また数日後になると思う。ないとは思うが問題が起きたら連絡してくれ。あとちゅるちゅる食べ過ぎるなよ」
「にゃ~」 「約束は致しかねる」
宿に帰りつくと丁度アウレリアさん達がかなり遅めの朝食を摂り終えたところだった。
「あ、リク様おかえりなさい。いかがでしたか?」
「うん、特に変わりないよ。いつも通り」
「今日は魔道具についてお勉強する約束でしたよ。このお部屋でいいですか」
「そうだね。では少し休憩したらここで」
ということになり、休憩後勉強会に参加する人がこの共有部屋に集まった。教師役はもちろんアウレリアさん。生徒である聴講者はオレ。ん?オレだけ?ん~でも当然か。
「リク様・・・2人っきりですね。よろしくお願いします」
「アハハ、みたいですね。よろしく、って近い近い」
「1対1なんですし構いませんよね。近い方が教えやすいですし」
「・・・そうかなぁ」




