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皆で揃ってダンジョンへ向かう。向かうだけなら遠足気分でいいが今は警護中だ。アイは索敵してくれているし、オレはオレで地形や逃げ道のルート確認などを意識しながら歩いている。
ごめんウソだ。逃げるなんてしない。襲ってきたら全員生け捕りか返り討ちだ。逃げないし逃がさない。たかだか人間の襲撃なんてどうにでもなる。アイに言うと油断するなって怒られるから内緒だけどね。
ただこうして周囲に気を配りながら歩いていると、人の姿が多い場所と人が全然いなくなる場所の差が激しい事に気が付く。いまがまさにそうなんだが、道の両側が大きめの建物の壁が続いていてオレ達以外の人通りが全くない。そして人が潜めそうな狭いスペースが所々にある。なんだこの襲ってくださいと言わんばかりの場所は。
あ、いや、テンプレだからむしろ歓迎なのか。
だが期待に反して何事もなくダンジョンへ到着する。
「こんにちは課長。昨日は大丈夫でしたか」
「こんにちは皆さま。昨日は失礼しました。私は平気です。それよりも!無事!ご契約が成されたとのことで、大変よろしゅうございました。よきご縁があったことに私感動しております」
これにアウレリアさんも続く。
「こんにちは課長さん。まさにその通りです。大変すばらしい方をご紹介していただいて感謝の念に堪えません。領都にもきちんと課長さんの手腕を報告させていただきますのでご安心ください」
「いえいえそんな。私は出来る限りのことをしたまでです。さて皆さんの貴重な時間をこれ以上浪費させるわけにはいきません。さっそく略式の受け付けを。確か事前に魔道具持ち込みの申請を頂いておりましたね」
「はい。申請した通り魔道具を複数、そのままの魔石と成形済の魔石を少々持ち込みます」
「成形してない魔石とは珍しいですね。かしこまりました。そして本日のおおよそのご予定をお聞かせいただけますか」
「今日は1層から視察を始めて出来るところまで順番にです。目標は3層、といった所でしょうか」
「承知しました。くれぐれもお気をつけて。リク様、皆様の無事と安全をどうかよろしくお願いします」
「まかせてください」
《マスター、申し訳ありませんが私はこれからこの3名の観測に注力します。緊急事態以外は反応が遅くなりますのでご注意を。最低限の索敵は行っておきます。それと誘導はミューズに任せます。ミューズの中の旧アイにマップを持たせてますので》
(おう、存分に楽しめよ。オレはオレで色々聞き出してみる。ミューズ、先行して誘導を。あと周りの警戒もね)
「さっそくですが皆さん、ダンジョン内はこの私、ミューズが先行します。ある程度の距離を空けてついてきてください。アウレリアさん、1層からでよろしいですね?索敵して魔獣を探します」
「はい、それで結構です」
「アウレリアさん、オレは基本あなたの傍であなたを守ります。ミューズが先行してますが希望があればどんどん言ってください。危険性がなければ何でもいいですよ。騎士の方々、後方を警戒してもらっていいですか」
「承知」 「承った」
緑の話があってからは本当に騎士たちが従順になったな。もはやオレの部下レベルだ。アウレリアさんは頬を上気させてオレを見つめてる。
「リク様、レリア、です。レリアとお呼びください」
「あ~はい。公の場でなければそうします。あとどうせなら言葉も崩していいですか。敬語が苦手なんですよ」
「もちろんです。むしろうれしいです」
「じゃ、そーいういうことで。レリア、まずはそこの階段見てみる?」
「これが噂に聞いた集中階段なんですね。すごいです。こんなの初めて見ました。ダンジョンに入ってすぐにこんなものが。本当に数分で9層?まで行ってしまうんですね。衝撃です。これでも結構な数のダンジョンは見てきました。間違いなくこんなのなかったです。下の層に移動する時にもっとじっくり見ましょう」
「うんわかった。じゃ、1層を歩きながら魔獣探すね。戦える?」
「はいやれます。こう見えてポルタの木の魔獣も倒せるんですよ?」
おっと、やる気だな。その木の魔獣はしらんけど言い方からして結構な魔獣なんだろう。アイから戦闘データを取りたくてウズウズしてる気配が伝わってくる。わかってるって、まかせとけ。
「有名な魔獣なのかな?ここの層の魔獣はレッサーラビットで、強さはグレイウルフを20とすると2ってところです。あ、グレイウルフの強さがわからないか」
「・・・わかりません。が、20に対して2ということは、他の層の魔獣も数値化してあるってことですよね?すばらしいです。だって普通なら10の1って答えますもの。リク様はもしかして研究家としてむいているかもしれません。もしそうなら私と一緒に・・」
「え?そうですよ他の層のもだいたい数字は出してます。よくわかりましたね」
ミューズが急に引き返してきてオレ達に告げる。
「リク様?先行していて離れていたので詳細はわかりませんが、なにやらこちらで不穏な雰囲気を察知しました。平気ですか」
「ああ平気だ。ミューズ、それより戦闘するので兎見つけて来てくれ」
「・・・わかりました」
しばらく進むとミューズがレッサーラビットL0.2を見つけてきてくれる。子供でも倒せそうだ。アウレリアさんにやってもらおう。一応、念のために騎士の同意も取っておくか。オレは後ろを固めている騎士達に問いかける。
「いいですよね?かなり弱い魔獣ですので」
騎士達はまったく心配してないようだ。あれれ、もしかしてアウレリアさんって強い?ちゃんと魔素視しておくか。
「思ったより兎がかわいくて逆に躊躇してしまいますが、軍属として弱音は吐けませんね」
「レリア、武器は?」
「ん、これですよ。杖型の魔道具です。いきます」
さっそくキター!魔道具か!んーでもこの短杖?どうなってんだ。魔素視で視ると杖はただの木だ。先端の魔石かな?ここに魔素が集中してる。
アウレリアさんは息を整えるように一息ついた。そして杖を両手にもって構える。すると杖の先端から半透明の盾のような形の何かが出現する。無理に例えるなら傘だ。傘を横に寝かせて開いた状態だ。普通の視力でも見える。
杖を構えたままレッサーラビットに向かって走る。遅くはないが早くもないな。傘を開いたそのままで兎にぶつかる。これ攻撃なの?シールドバッシュと言えなくもない?なんとなく気の抜けた攻撃がアウレリアさんらしいので黙って見守る。
「え~~いっ」
だがここで予想外の光景が発生する。攻撃のその勢いとは裏腹に衝突した瞬間、兎が弾け跳ぶ。断言するがそれほどの勢いはなかった。今の勢いならグレイウルフだって1発で霧散するだろう。これは何か仕掛けがあるな?魔素もなかなかすごい勢いだったし、インパクトの瞬間に魔素が爆発したようなエフェクトが出てたよ。
「えへへ。どうでしたか」
「いや驚いた。その魔道具の効果なのかな。見た目の勢いとは違って攻撃が強かった。衝突の瞬間にその盾のような部分が爆発するようなイメージだったよ。それがあの攻撃力を産んでるのかな」
「えぇっ・・なぜ・・いまのたった1回見ただけでそこまで。そ、そうです。魔石の力を集中させて爆発のような衝撃波を生じさせてるんです。これは私のオリジナルの魔道具で一般に広まっていませんし1つしかありません。1回でそこまで見抜ける人なんて今までいなかった。リク様あなたはいったい」
「ハハッ、たまたまだよ。魔石の消費は?すごいんでしょやっぱり」(ミスったな。半透明の盾の部分は誰でも見えるが、あの爆発のエフェクトは魔素視じゃないと見えなかったか。混同してたな)
「え、あ、はい。1回に1個、未成形のG級を食い潰します。成形済の物でも使えますが威力は未成形の方が強いです。毎回取り換えで少し大変です」
そう言ってアウレリアさんは慣れた手つきで魔石の交換を行う。男性騎士がスッと近寄ってきて使用済魔石を回収する。G級って小銀貨1枚だっけか。安いがちともったいないな。まぁオレの金じゃないし大きなお世話だよな。
「そりゃ大変だな~。どうする?もう少しやっておく?」
「この層は全て同じ魔獣ですか?そうですか。では魔獣はもうリク様の方で処理ください。もう少しこの階層を歩き回って様子を観察します。なるべく階段から離れて奥の方向へ」




