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やや行き違いが起こったものの、両者合意してめでたく契約となった。気絶している課長にもかなりの加点になったようだ。もっと出世できるといいね。
お互いの正式な紹介なども当然行う。
女騎士は名をユースティティアというそうだ。何年もアウレリアさんの専属護衛をしているらしい。例の緑の話を聞いたらしく態度が激変して殊勝になっていた。
男性騎士2人はデカい方がマグヌスさん。ミューズと同じくらいの身長だ。この世界の平均身長は割と低いのでかなりの恵体だ。そこそこ強いと思う。残る1人はレウィスさんで一番下っ端だって。素直そうで若い人だ。フットワークが軽くて細々とした用事をビュンビュン片付けていくタイプ。
こちらも紹介を兼ねてある程度の素性を明かしていく。ミューズが放浪者であることを告げてフードを取らせて見せると感嘆の声があがった。尋常ではない美しさに男も女も関係なく魅了される。
難しいのはアルルの説明だ。うまい言葉が出てこなかったので神の関係者だと言って超適当に済ませたんだが、案外うまくいった。アウレリアさん曰く、
「わかります。気配が全く違います。アルル様だけでなくミューズ様からも神気が漂っています。このパーティーの皆さま全員が畏敬すべき特別な方々なのですね」
その後も話はとんとん拍子に進み警護のしやすさから同じ宿を借りることになった。さすがに部屋は違うが同じフロアにするそうだ。それどころかフロア丸ごと占有するらしい。これで常時護衛と勉強と雑談が気軽にできるな。
アウレリアさんは3人の護衛だけでなく女性の文官をさらに2名随行してる。身の回りの世話と事務手続きや各施設との交渉、会計なんかをしてもらってるらしい。もちろんダンジョンにはついてこなくて宿で仕事が基本だ。
宿の状況をまとめるとこうだ。
オレ達3人はもともとの部屋のまま。女性文官2人で一部屋。男性騎士の2人で一部屋。アウレリアさんと女騎士ユースティティアさんで一部屋。オレ達が打ち合わせや雑談、仕事等ができるかなり大きめの共有部屋を一部屋。このフロアの専属スタッフとして例の受け付けの人が待機する一部屋。
以上がオレが泊っているフロアの部屋の割り振りだ。これ以外には空き部屋しかない。やたら大袈裟だが超超超VIP待遇だからこれくらいは当然だそうだ。あと例の受け付けの人はこの宿に寝泊まりして24時間対応するってさ。すごい。
ちなみにダンジョンへ向かうのはオレ達3人とアウレリアさん、女騎士、男性騎士のどちらか1人の合計6人で向かうことになる。男性騎士の残った1人は基本宿で待機だ。
朝は苦手なようで活動開始時間はあまり早くない。だけどVIP待遇なのでどんな時間であっても受け付けの待ち時間なし。わざわざ課長かまたはその代理が対応することもあるらしい。混雑は避けられそうだ。
肝心な契約内容もまとめよう。いたってシンプルだ。
まずは当然ダンジョンの案内と魔獣からの護衛だ。そして街中での行動やダンジョンへの行き返りも護衛して欲しいとのこと。ちょっとキナ臭いな?宿の中で過ごす時も基本的に警護につく。夜だけは宿待機している方の男性騎士が不寝番だ。
期間はひとまず2週間。2週間後に継続するかどうかを協議する。報酬はオレが宣言した通りアウレリアさんによる魔道具全般とダンジョンに関する質疑応答。時間があれば授業もしてくれるらしい。願ったり叶ったりだ。
報酬としての金は要求しない。金が必要なら魔石で稼げばいい。これは文官の2人をかなり喜ばせたようだ。どこの世界も経理は苦労してるってことかな。かわりに宿代が無料に。フロア一括で借り上げだってさ。その方が安くつくらしい。
探索における細かい内容の打ち合わせをした後、明日からさっそく調査を開始する約束をしてその日は各々の部屋へ。
「みんなどうだ~?明日から護衛が始まって、自分達以外の誰かと一緒の初めてのダンジョンになるよ。とは言ってもめちゃ浅い層からだから鼻ホジッてても平気だけどね」
《油断せずに、と言いたいところですがさすがに浅層では何も起きないでしょうね。あえて言うならば他の人間とのトラブルでしょう。暗殺者などが紛れていたら面倒です。
それよりとうとう魔道具について詳しい話ができますね。とても楽しみです。質問リストがどんどん溜まっていってしまって500項目を越えてしまいました》
「相手は人間なんだ。ルル相手のような圧縮して高速問答なんてできないぞ?そんなに聞けないんだからほどほどにな」
《わかっていますとも。質問の内容を調整して少ない質問でなるべく多くを得られるようにします。今日一日だけでも多くの情報を得ました。特にあの神の目、マスターか私でなんとかモノにできないものかと》
「いやさすがに無理だろ」
《それにあの背の低いメスの魔素容量、この世界で出会った人間の中で間違いなく最大値。これからしばらくあの個体を至近距離で観測できると思うと夢のようです。楽しみで夜も眠れません。あ、私眠らないんでした》
アイがチラッチラッってこっちを伺う顔文字を表示してくる。ウザイ・・
「う、うん・・・ミューズとアルルはどうだ?」
「アルルねむいにゃん」
「寝てていいぞ。あ、でもその前にアルルからルルに今日の流れ説明しておいて。しばらく最下層にいけそうにないしね。ミューズは?」
「ミューズはおこっていますぅ~。とてもフキゲンですぅ~。あの女のたいどもいやですしぃ~りくさまのあの女への接し方もいやなんですぅ~」
「・・・そうきたか。でもこれは仕事の内だぜ?目的も明確だしな」
「つ~ん、ですぅ」
「そうやってスネてるのもかわいいな」
「・・・・・」
「オレが魔道具にめちゃ興味持ってるのは知ってるだろ?明日からはアイは観測に掛かりっきりだろうし、オレは魔道具とダンジョンの話に集中したい。だから護衛で頼れるのが実質ミューズしかいないんだ。オレにはおまえだけなんだよ。頼む、オレのためだと思って、な?」
「・・・そ、そこまで言うなら」
「それにさ~、がんばってくれたらさ~、またご褒美あるかもしれないだろ~、ミューズだって欲しいだろ?」
「し、しりませんっ!ミューズはもうねます!」
ふむ。あまりよくない傾向です。マスターの女性心理掌握術のレベルが上がっているようです。ミューズがチョロ過ぎるのもありますが、それでもジゴロの片鱗が見え隠れし始めていますね。止めるべきなのか育てるべきなのか。
魔素的優良個体であるアウレリア・エッフィギエス嬢に関してはマスターの無意識下におけるプレイボーイ手腕が発揮されて確実に心理的優位性を保持できています。このような有益なものばかりであれば問題ないのですが、単なる女性たらしでは近い将来にトラブルが発生するのは目に見えています。
これは非常に悩ましい所です。もう少しだけ様子を見て育成の可否を決めましょうか。
「じゃみんな今日は休もうか。明日の開始は少しゆっくり目の時間だけど、別にいつも通り起きればいい。朝ゴハン食べてゆっくりしようぜ。ちなみに食堂じゃなくてこのフロアで食べるみたいだよ」
翌朝、オレ達はいつも通りの時間に起きて朝ゴハンだ。こんな早い時間なのに例の受け付けの人は準備万端で、食事を摂る部屋にオレ達を案内した後、メニューから注文を取り配膳までしてくれてる。この人なんなの?有能すぎないか。
だいたい皆が食べ終わった頃オレは例の受け付けの人に話しかける。
「アウレリアさんや護衛の人達はまだ寝てますよね?」
「確認はしておりませんがおそらく、はい」
「でも普通の朝の時間帯には起きてくるって言ってました?」
「左様でございます」
「わかりました。彼女たちの食事と準備が終わったら教えてくれませんか」
「かしこまりました。お茶をどうぞ。今季取れたての新芽です」
さりげない。そのさりげなさも含めてなんてスマートなもてなしだ。ぐぅ有能!
その後部屋に戻って休憩して待っているとアウレリアさん達の準備が出来たとの知らせ。ロビーに降りていくと彼女たちが待っていた。
男性騎士はマグヌスさんで大きい方の騎士だ。領軍の平均的な鎧に槍を持っている。騎士っていうから剣盾かと思ったら違った。
アウレリアさんは白のローブではなかった。なんとパンツルックだ。世界の秘境を訪問するテレビ番組の女性レポーターが来てそうな探検服。おもわず笑ってしまいそうになるのを堪える。だけど動きやすそうだし意外と厚手の生地なのでそこそこ防御もあるだろう。探索の心構えはばっちりだ。何やら短杖も持ってるな。
そして満を持して女騎士の登場だ。細身の直剣にカイトシールド。そしてこの世界に来て初めての全身鎧だ。フルプレートとまでは言えないな。下から脛、大腿部、腹部、腕、肩の各部が綺麗な金属で覆われている。逆に覆われてないのは胸部、各関節部、手先、足先、顔だな。頭には細いサークレットをしている。これフルカスタムなんじゃないの。金かけてんなぁ。
そしてデカい。腹部から腰にかけての金属鎧パーツがウエストをギュッと絞って細く見せる効果を持っており、胸部がより強調されて解放されている。うむ、デカい。ただでさえデカいのに更に大きく見える。この鎧をデザインした奴はわかってる。わかりみしかない。
女騎士の惚れ惚れとする大山脈を堪能した後で、何気なくふとアウレリアさんを見るとこじんまりとした平原が微笑ましい。
「リク様?女性は男性が思っているよりも視線に敏感なものですよ」
「え、あ、すいません」
「あら、何か謝らなければいけないような事をお考えになっていらっしゃった?ウフフ」
絶対零度に張りつめた空気の中、冷や汗が止まらない。




