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あれ以降ミューズが照れ屋さんモードに入った。何を聞いても単語でしか返答しないし、向き合って話そうとすると頬を染めて斜め下を向いたまま目を合わせないし、挙句の果てにアルルを抱きしめて逃げてしまう。
たまにふと視線を感じて辺りを見渡すと物陰からミューズがオレを見てる。オレが気が付いたことに気が付くと、これまた走って逃げていく。
初心かよ かわいさが天元突破してるぞ
あれほどのクールビューティーでしかもいい大人なんだよ。それがまるで初恋をした田舎の少女のように挙動不審だ。そのギャップ萌えがすごい。えぐぃ。気になってバリアの修行に集中できな・・・いや出来てるな。
あの賭け試合でなんとな~くコツみたいなのを掴めたし、魔素を景気よく使えばかなりの硬さの物が再現できてる。まぁ順調だな。練習を続ければ消費魔素も減ってくと思う。もちろん簡単じゃないね。
ここらで直近の状況をまとめよう。
例の護衛の面談の日までバリアの練習と日々の神の力稼ぎを続けている。かなり貯まってきているが、誘惑に負けてちょいちょい色々な物に交換しちゃってる。もうユルユルだよ。これに関してはアイもあまりうるさくは言わないしね。ただし家は欲しいから今後も貯めないといけないな。
毎日入ダンしてるので魔石だって毎日受け付けに提出して換金しないといけない。なにもなしじゃ怪しいからね。んで毎日D級を金貨50~100枚分出してたら過剰供給になったらしく値段が下がってしまった。やりすぎだったわ。
忘れがちだが組合の狩りもいつも通り。めちゃ安定してきた。組合長に全部投げる日も近い。
最下層をフィールド型にして、なおかつ出入り口も3つ追加したわけだが、未だにどこに繋げるか検討中だ。いざ決めようとすると意外に迷う。
なんでかって言うとオレ達はまだどこにも遠くに行ってないし、行く用事もないからだ。だって近場に出入口を設定したって便利でもなんでもないじゃん。いま思いつける一番遠くが丘の上村なんだぜ?
仕方がないのでもし外界にダンジョンの出入り口を設定した時に、どうやって誤魔化すかを研究している。他人に入ってこられると困る出入口だからね。オレ達だけがわかって使える出入口にしないといけない。
新ダンジョンは相変わらず盛況だ。訪れる人は増すばかりで受け付けの混雑がひどい。フィールド層の出入り口をホテルの部屋に繋げようかと割と真剣に検討するほどだ。繋げないけどね。
専任課長は絶好調。次々と新しい情報を発表している。当然オレ達がどんどん提供しているからだ。魔獣の情報、詳細な魔石ドロップ率、マップ関連情報などなどだ。
こんな所だ。あくせくしないで面談の日を待つかな。
専任課長から護衛を要望されてから1週間。いよいよ面談の日になった。合格しないのが一番面倒がなくていいけど、しなかったらしなかったでなんかモニョる。それなりに準備したりしたしね?予定だって空けてるんだ。
面談場所は専任課長の執務室だ。偉くなって大きな部屋をもらってるらしい。アイは何度も調べてるのでよく知ってるみたい。当然アイ以外のオレ達は初訪問だ。
当日の朝、いつもオレ達が行動開始するよりも随分遅い朝だ。受け付けに到着するとそこで待っていた専任課長に連れられて部屋へ案内される。
「リク様、パーティーの皆さま。今日はよろしくお願いします。まず始めに大事な事を言います。くれぐれも失礼のないように。いくら落選する気マンマンだったとしてもです」
「わかってますよ。でも別に貴族でも何でもないんですよね?」
「貴族をご存じなんですか。帝国の身分制度にお詳しいので?あ、いやそうです。少なくとも貴族ではありません。ただこの国は魔道具の大神を祀る国。魔道具の第一人者には他国で言う王族並みの敬意が払われます。しかも本日お会い頂く方は恩寵様。よくよくご承知おきを」
課長は応えながらオレ達を面談の部屋に案内して行く。いつも必ず会議室だったから新鮮だ。初めて2階に上がったし廊下も壁掛けなんかあったりして綺麗にしてある。なにより全部の部屋に扉がついてるな。1階の事務部屋には会議室以外に扉はなかったけどね。
(アイ、わかるか?恩寵様)
《この国の大神の寵愛を受けている人物です。体に御印または何らかの才能を持つようです。極めて貴重な存在で国の繁栄の鍵を握っているようですね》
(でたね~才能持ちか。副主人公級だな。ってことはだ。悪人じゃないな?その人物についていけばダークサイドには落ちないか)
《すでに美人補正が入っていませんか?実際に会って話してみて情報は精査すべきです。現時点での判断は不可で無効です》
(なことねーよ。そっちこそ美人ってだけで警戒してねぇ?ところで何のスキル持ちかわかるかな。過去の恩寵サマのでもいいけど)
《秘匿レベルが高いようでほぼ何も情報がありません。ただ、この国の大神の恩寵なので関係したスキルになるであろうことは容易に想像できますね》
そうこう言っている内に部屋の前に到着だ。うん?部屋の前で女性が一人立って待ってるな。
「さて着きましたよ。この部屋です。それと今日の面談の立ち合いとして斡旋所からお越しになったリオラ女史です。お知り合いでしたね?」
「リクく~ん、はぁ~い。今日はよろしくね」
部屋の前で待っていたのはリオラさんだった。いつものラフな格好と違って割ときっちりしたスーツっぽいのを着てるので、いつもと少し印象が違う。デキるビジネスウーマン風だ。
「どうしたんですがリオラさん。よろしくってもしかしてこの面談に?」
「そうよ~。完全なオブザーバーだけどね~」
「相手が超超超VIPだからオブザーバーってのはいかにも斡旋所が用意しそうですけど、なんでリオラさんが」
「んふ~、いい女には秘密が多いの。ね?」
ねって言われてもな。ん~思い返してみるとアルルを斡旋所に初めて連れて行った時、上層部の連中が皆揃ってお出迎えしてる中にリオラさんも居たんだよな。あの時も違和感があったけど、どうやらこの人は何かありそうだ。この事は覚えておいたほうがいい気がする。
「リクくん、相手も待ってることだし部屋へ入りましょう。今日の私は本当にオブザーバーだから部屋の中では何も発言できないから覚えててね」
そこまで話した所で課長が再び注意事項を伝えてくる。
「繰り返しますが失礼の無いようにお願いします。入って自己紹介を。恩寵様の名は直接呼ばないように。呼ぶときは恩寵様または御印様と。武器とお荷物はここでお預かりします」
課長が扉をノックして中の反応を待つ。応答があったようで扉が中から開かれていく。
さてどうなりますかね。
部屋の中は想像より豪華だった。個人の執務室としてはかなり大きい。部屋の奥に課長が使うであろう執務用の大きな机。その机の前でほぼ部屋の中央にいわゆる応接セットが設置してある。向かい合った長椅子2脚とその間に背の低い机。どれも高級そうだ。
その長椅子の片方に一人の女性が座っている
まず一番始めに目に付くのは輝くような長い金髪だ。これほどの綺麗な髪はこの世界で見たことないな。ミューズといい勝負するんじゃないか。言っておくけどミューズの髪ってヤバイからね?そもそも陸のPCの画像を元にしてるから理想的な出来上がりだし、不滅だかなんだかで傷まないから。
その異次元の美しさを持つ髪に整った小さめの顔。美人だ。確かに美人だけどかわいい成分が随分と多いな。人によっては美人ってゆうか子供って表現しそうだ。背も低いしね。顔だけ見ると幼く見えるが全体の雰囲気はそこまで子供じゃない。年齢不詳だ。
長くてゆったりとした白を基調としたローブ。短めの杖。ゲームファッション的には聖女と白魔法使いを足して2で割った感じかな。
そして部屋には彼女一人ではない。護衛だろうな。女騎士が1人、男の騎士が2人いる。女騎士は彼女が座る長椅子の背後に控えている。距離が近い。彼女に触れそうなくらい近い場所をキープしている。控えているが我が強くて控えているように見えない。『少しでも不審な行動をしたらたたっ切る!』って看板を背負って今にも飛び出しそうな雰囲気で立っていた。
男の騎士は部屋の隅に控えていて目立ってない。彼女から遠すぎず近すぎずで距離感も抜群だ。取り立てて大きな特徴も無さそうだ。あれ?片方は結構強いかも。
オレは瞬時にそこまで観察したあとで応接セット方向へ数歩進み、ほどほどの距離をあけたまま軽く一礼し挨拶をする。
「はじめまして。リクと言います。護衛の依頼があると聞いてきました」
オレの言葉を聞いて彼女が立ち上がる。むむっ!おかしいぞ、彼女の目に魔素が集中しだしてる!
(全員警戒だっ。彼女の魔素の動きがおかしい。アイ、威圧の準備だっ!まだ撃つなよ!)
長椅子から立ち上がった彼女はフラフラとしてオレに近づいてくる。
「お、おおお・・・この方です。この方なんです」
「えっ?なに?」
依然としてフラフラと近寄って来ている。彼女の魔素は目に集中したままだ。そのままオレの目の前までやってくるとその場で両手を胸の前で組んで跪く。まるで神に祈りを捧げているかのように。
「アウレリア様っ!なにを!?」
女騎士が叫ぶ。
「きさまらぁぁ~!アウレリア様に何をしたああっ!!」
激高した女騎士がオレに突進してくる。
やっぱりね?
才能持ちなんて重要なキャラと初顔合わせなんだもの、絶対イベント起きると思ってたよ。




