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課長補佐改め専任課長の発表から1週間ほど。キールのダンジョンは大混雑していた。反響がかなり大きかったらしく探索者だけでなく領軍、領軍の関係者、学者、他の地方のダンジョン管理関係者などがひっきりなしに訪れているようだ。
もともと受け付けがこじんまりしていたため、ロビーは朝から大混雑。受付嬢たちは毎日残業だって話だし、それどころか非番も返上して対応しているらしい。南無。オレ達はといえば早朝の人が少ない時間に入ダンして中でゆったりと過ごし、かなり遅い時間に帰ることを繰り返していた。
入ダン者が増える事はオレ達が狙っていた事であり願ったり叶ったりだ。だが実際そうなってみると不都合な点も出てくる。専任課長が忙し過ぎてオレ達と打ち合わせができないとか、最下層での滞在時間が伸びたことでお腹が減ってしまうこととかね。
え?クソどうでもいい?贅沢いい過ぎ?
そんな事をボーと考えながらオレはチェアーに寝そべりアルルが川で遊んでいるのを見ている。ねずみのおもちゃを追いかける時もそうなんだけど、ちょいちょい見せるアルルの動きが結構ヤバイ。
速いは速いんだけどなんかおかしい。トップスピードからの急停止がゼロタイムだし、逆に停止中からトップスピードまでもゼロタイムなんだ。速さ自体はオレなら追えるレベルだけど、最終的に捕まえられない気がする。慣性とかの物理法則をガン無視してて動きが予想できなさすぎる。これってスキルくさいな?今度聞いてみるか。
「な~アイさんよ。いますげーダンジョン混んでるけどさ。これ調査とか視察が終わったらどんくらい減るかな?今だけじゃなくてずっと通ってくれる人を増やしたいんだけど」
《常駐アイを経由してダンジョン内の人の動きをある程度観察していますが、ほとんどすべてが8層に対するものですね。1~7層と9層以降には興味が向かないようです。そして8層を訪れる人間の4割程度が非戦闘員です。つまり最低4割は減るでしょう。この数字は領軍を除外していますので注意してください》
「なんだかな~。8層に人が集まるのはいい。けど8層に通う人を増やすための1~6層が閑古鳥とはねぇ」
《1~6層を活気付かせる対策が望まれますね。マスターが仰っていた武器防具貸し出し案を動き出しますか?》
「う~~んどうしようかな。1~6層に来て欲しいとオレ達が考えている人は、いまこのダンジョンに押し寄せてる人達とは違う層なんだよなぁ」
悩ましい。一時的であろうこの特殊な状況を見て対策を打っても的外れになる可能性があるし、かえって現場を混乱させるかもしれない。この熱狂が冷めるまで待つのがいいのか?それとも推し進めるべきか?
「だーーーー!!やめたっ、なんもしねーぞっと。状況が変わるまで対策は打たない。討伐して運動しよっと」
いつもの結論に落ち着くとルルを呼んで魔獣を呼び出してもらう。まずは準備運動を兼ねてD級魔石を落とす低レベルの魔獣だ。これは魔石用だな。
《マスター、わかっていると思いますが》
「うんわかってる。弱い魔獣の時は魔素視を使わない、強化を可能な限り抑える、だろ?りょーかい」
その後比較的高いレベルの魔獣でエクササイズだ。こっちは制限がかけられないのでむしろご褒美だ。まぁそれほどいい運動にはならないけどね。そんな感じで神の力を軽く稼ぎ最後に全回復法で締める。
最近は最下層で過ごす時間が長い。まだまだ時間は余っている。さてどうするか。
「ミューズーー、アルルーー、ゲームしない~?」
オレは2人に声をかけてテントの中に入る。そこにはポイント交換したテレビと家庭用ゲーム機が揃っている。1~4人でできる対戦系のヤツだ。異世界まできて何やってんだって思うよね?いいじゃないこんな時間があってもさ。いまは充電期なんだ。たぶんね。
やっば~。アイに怒られるまで3時間もゲームしてしもうた。あとちょっと、あと1戦だけ、ってなるよねぇ。まぁよい。いまはそれぐらいの緩さでいいだろう。
アイさんの説教と激オコの顔文字にしばらく耐えて帰宅する準備を始める。しかしオレ、ミューズ、アルルと3人並んで正座させられていた影響で全員足が痺れている模様。残っていたコーラを飲み干して空き缶をゴミ箱へ。あ~今日も平和だったな~。おっとっと魔石を忘れずにっと。
ミューズとアルルを連れていつものように受け付けに行く。遅い時間なので人は少ないね。さほど待つこともなく手続きも終わる。
「リク様、少しよろしいでしょうか」
「あ~専任課長こんばんは。お忙しそうですね。なんだか久しぶりのような」
「はい。例の発表から時間が全く取れず。急ですいませんが会議室へお越しいただいても?」
「もちろん」
査定と換金も終わっていたので心置きなく課長に付いて行く。いつもの会議室だ。課長にあまり時間がないようで、着席するとすぐに話を切り出してくる。
「領都から重要人物が視察にやってきます。ダンジョンの案内と護衛を要求されています」
「ちょ~~っとまった!ソレだめです。絶対面倒なヤツです。帰ります、おつかれっした」
「残念ですが断ることはできません」
「ルルの強権を発動します。超法規的措置で断ってください」
「無理です。相手も超法規的存在です。むしろ相手の方が高いまであります」
「・・・誰なんですかいったい」
「いまはまだお話できません。日程と概要を説明しますので必ず体を空けておいてください。これは絶対ですよ。
まずは日程です。1週間後の3月20日。護衛を選抜する面接があります。1日に1パーティー、4日間で4パーティーの面接をするそうですよ。リク様は4番目のパーティーです。
もしそこで決まれば約2週間ほどの護衛任務となります。早期打ち切りや逆に期間延長も有り得ます」
「さ、さいあくなんですが・・・ってか面接にどれだけ時間かけるつもりなんでしょう。4パーティーくらい1日で済ませばいいのに。これは気合いを入れて落ちないといけませんね」
「そこはおまかせしますが、あまりヒドイ事をするとルル様の超法規的措置も取り消されるかもしれませんよ?一番上からの指示ですから」
「・・・やっかいな事です。日程はわかりました。任務内容をもう少し教えてもらえませんかね」
「公開されてないんで内緒でお願いしますよ?リク様以外には話していませんので。まずダンジョンの案内は確実に必要です。護衛対象の職業的に間違いありません。ここのダンジョンについてかなり詳しい事を聞かれるかもしれません。それと少しキナ臭い噂があります。領都でゴタゴタが起きててそのとばっちりが飛んでくる可能性が。護衛は形だけの物じゃないかもしれません。ダンジョンの外の話です」
「・・・あちゃ~ガチじゃないですか。考え得る限り最悪です。私は探索者ですよ?対人戦闘とか本格的な護衛とか完全に素人なんですが」
「むしろそこを面接でアピールしてみては?」
「たしかに。そうしましょう。可能な限り落ちるように努力しますよ。何か嫌われそうな情報があったら是非ください」
「わかりました。面接の日、朝イチでここへお願いしますね。また私が対応しますので。話は変わりますがダンジョンについて打ち合わせますか?」
「そう思ってたんですけど今の話で気が変わりました。やめときます。この件について少し考えないと」
どよ~んとして沈んだ重い気持ちでダンジョンを去った。
ホテルに帰って来て急いで食堂に向かう。最近帰りが遅くなったのですぐに食堂に向かわないとラストオーダーに間に合わないことがある。
各自注文した後、さきほどの件について話し合う。ネタが危なくて声に出せないのでミューズとアルルはほぼ聞き役だ。
(どーすんだよ~。めんどくせっ。絶対トラブるやつや~ん。しかも面接でうちが選ばれるぞ?賭けてもいいけど)
《そこまでわかっているなら覚悟しましょう。面接に落ちる工夫ではなく成功させる仕掛けを考えますよ。情報は仕入れてきました。さすが副施設長を兼任しているだけあって専任課長の部屋に重要資料がそこそこありましたよ》
(普段だったら有能って褒めるんだが、今回ばかりは素直になれない。一体どんな奴なの?地位だけの頭の悪いおっさんとかで、威張り散らしてきたらオレぶん殴っちゃうかも)
《安心してください。若い学者でかつ技術者であるようです》
(・・・ほぉ)
《この領で一番のダンジョン研究家であり、魔道具研究の第一人者です》




