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次の日の朝、起きてすぐアルルに話しかける。
「アルル。最下層の改造が終わってるかわかるか?」
「アルル知ってるにゃん、おわってるにゃ~」
「よーしよしいいぞ。いそいで朝ゴハンだ!みんないくぞ~」
「は~ぃ」
《急ぐのはいいですが、食事はよく噛んでくださいね。アルル、果実ジャムはパン一枚だけにしなさい》
「・・・アルルやだ~。りく~」
「だーめ。アイの言う事はききなさい」
皆で朝ゴハンを済ませ出掛ける準備をする。オレ自身そうだけどどこかウキウキしてるな。浮足立つとまでは言わないけど、何をするにしても興奮気味だ。
普段ダウナーなアルルでさえ朝からご機嫌で肩車のご要望だ。もちろんオレもノッてるので機嫌よく応えてやる。ダンジョンまでの道のりの間中アルルはふにゃふにゃと歌(?)っていた。
見ていたミューズも後で肩車して欲しいと言ってきたけど無理だろう。ミューズの方が背が高いんだぜ。まぁ言ってみただけだろうけどね。
ダンジョンの受け付けに到着。いつものように手続きだ。オレ達はいつも早朝に入ダンするので他の探索者や領軍と会うことはまずないのだが、この日は珍しく他の人間が受け付けに居た。
《マスター、おそらく探索者です。魔素視してください。その後で私の見解と比べてみましょう。みなも注意してください。受け付けで人の目がありますし何も起こらないとは思いますが念のため警戒を》
(おっけー、わかった。ミューズとアルル、いつもより顔を見られないように警戒しろよ。フードを深くだ)
両者が無言でうなずくのを確認して魔素視に注力する。
探索者と思われる人物は全部で4人いた。男3女1の構成。年齢はバラバラだな。女は明らかに若い。う~ん、こりゃたいしたことない奴らだな。魔素量が少ない。この間のパーティー面接を行ったパティオさんに毛がはえた程度だ。
男3人のうち力の強そうなのが1、素早さそうなのが1、残りの1が総合力で一番だ。こいつは身体強化持ってるな。体の周りの魔素が身体強化特有の波を生んでいる。ヴィルさんと同じだ。
ひとりだけいる女はお飾りだろう。パティオさんよりもかなり魔素が少ないし、魔素自体に特徴も無い。総合力で一番の奴にエロい感じでしなだれかかっている。パーティーメンバーっていうより愛人だぜ。
ここまでざっと読み取ってアイと共有し話し合う。
《・・・本当にあきれてしまいます。私の今まで積み上げてきたものが無意味に思えてしまいます。かなり正確に読み取れているでしょう。マスターはパティオを比較に出しましたが、彼はレベル5と判定しています。相対的にこのパーティー人員のレベルをどうみますか》
(力の強いのが6、素早いのが6、総合1位が9、女は低すぎてわからん。3かな?)
《末恐ろしい才能ですね。私の見解は力6、早6、総合9、女4です。また身体強化持ちも一致してます。あとは力と早も複数のスキル持ちと思われます》
(お~オレすげー!アイはスキルもわかるようになったの?)
《戦闘系スキルのみですが、はい。服装、装備、外見、魔素、姿勢、目線、筋肉量とその部位、関節の可動域、音に対する反応、歩き方、その他非常に多岐にわたる項目を観察すれば判定できるようになりました。
武器や防具は強力な判断材料にはなりますが、意外にそれ以外の地味な要素もよき材料になります。たとえば『たこ』や『まめ』等の訓練やクセを指し示す身体的特徴や、ケガや骨折の跡もとても参考になります》
(レントゲンでも撮ってるのかよ。おまえの方がよっぽど末恐ろしいよっ!!)
オレ達はその4人とは違う受け付けの元に向かい手続きをしている。4人はめっちゃこっちを見てるな。特に女がオレの顔を凝視しててキモい。はぁ~なんか起きそうだな。ヤダヤダ。
完全にフラグだった。4人の中の力の強いのが近づいてくる。デカいな~こいつ。
「よぉ~受け付けに聞いたぜぇ。おまえらがここのトップなんだって?ヒョロガキと女子供じゃねーか。どんだけ程度の低いトコなんだここはよぉ」
やっぱりなぁ・・・激しく面倒だ。どうしようかな。ちらっと力担当以外の3人の様子を見る。女は相変わらずオレの顔を凝視している。早いのはニヤニヤしてるだけ。総合は冷静にこっちを観察してるな。こりゃ力担当をかませ犬にしてこっちを探ってる感じか。
「お、近くで見たらこの女すげーいい女じゃねーか。このヒョロいのにはもったいねぇな。おい!こっちに入ってオレの女になれよ」
くっそ安い挑発だな~。力で行くか、クレバーに回避するか。課長補佐を呼んでもらうのが楽か?はたまた思い切ってこっちが下手に出てみるか。
(みんな~。挑発にのるなよ~。アイ、なんかいい回避方法ないk)
「この下郎がああああ~!!!!」
ドガゴオオオオーーーン
「リク様に対する無礼な言葉、万死に値する。いや死さえ手ぬるい。その身に忘れ得ぬ痛みを刻んでやる。それを以って償え」
切れたのはミューズだった。力担当のデカい体をものともせず、喉を片手で握って持ち上げた瞬間そのまま受け付けの机に叩きつけた。そのまま頭を踏んでグリグリしてる。
机は粉々で相手は・・・死んでないよな?よほど運が悪くなければ気絶してるだけと思うが。急いで魔素視してみる。よかった、防御幕が少し残ってるし大丈夫だろう。
それよりも残りの3人の次の出方だ。そっちこそ要警戒だから注意を向ける。
「なにするんだこの野郎!」
早いのがこっちに向かってくる上に、総合も準戦闘態勢に入ったようだ。女は危険を予感して離れている。あぁぁぁぁもういや。めんどくさっ!魔杖はやめておいて素手でいくか。
と、こっちも構えた瞬間。残りの3人ともにいきなり倒れる。両手と両ひざを地面について唸っている。女にいたっては激しくゲロってるな。
(アイ、おまえか?)
《はい。威圧しました。心配ありません、極限まで弱くしておきましたので》
(心配しかねーわ。それとミューズ、あとで説教な)
「しょぼーーん、なのです」
「すいません。課長補佐を呼んでもらえませんか?」
オレはあんぐりと口を開けて見ている受け付けの人にお願いした。
「はははっ!やってしまいましたね!いや~まいった」
「はぁ・・・すいません」
やたらご機嫌な課長補佐が対応してくれて4人は医務室だ。課長補佐がその場にいた全員に事情を聴いてくれて、なおかつその4人に先に難癖つけてきたのは4人側だって認めさせてくれた。
ケンカ両成敗でどっちにも魔石の税ペナルティが課せられる。なんか慣れてたからよく聞いてみたら、探索者同士のいざこざは割と起きるらしい。職員に被害が出ない限りだいたい税ペナルティが課せらて終わりだそうだ。よかったよかった安心したよ。
「ほんとすいません。机とか弁償しますんで」
「いいんです、いいんですよ!むしろ良い!とても良い。机はしばらくこのままにしておきましょう」
「な、なに言ってるんですか。これから訪問者が増えるんでしょう?」
「だからこそです!訪問者が来て『これはどうしたんだ?』って聞くでしょう?そしたら英雄様の武勇伝の始まりですよ。いや~助かるなぁ。この逸話は盛りに盛って拡散しておきます」
「ちょっと・・・」
「言わせませんよ?これに関しては前回ご納得していただいた筈です。
それより!このように少しづつですが他エリアからの新規が流入し始めています。彼ら4人はかなり情報を掴むのが早かったようですね。もうここにいるという事はフットワークも軽い。
ただ、それにしては意識も程度も低い。バックに何か、または誰かいますねこれは」
「そんなのに手を出しちゃったのか。まずかったですよね?」
「いいえ逆です。これでまた早く情報がバラまかれますよ。そのバックの何かによってね。そして更に人が集まるってわけです。こちらの望み通りです」
「・・・随分と人が変わりましたね、課長補佐さん」
「変えたのはあなただという事をお忘れなく」
課長補佐の目が意地悪く光った。




