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「ミューズ、また見てるのかよ。素材のタコはねーつってんだろ」


「いいんですぅ。たこやき器のうつくしい姿をおがむだけでもご利益はあるんですぅ~」


「おい帰って来いよ。どこの星の宗教だよ」



 ミューズのたこやき器に対する執着心がコワイ。毎日飽きもせず商品ページを見ている。一日一回じゃないんだよ?何回もなんだ。休憩の度にとかね。しかもそのたびにアイにVRをお願いするもんだからアイもあきれ顔だ。顔文字だけどね。


 ダンジョン最下層。昨日話したように今日も当然やる事は同じだ。ひたすら回復して魔獣を倒す繰り返し。少しだけ変わったことがある。リクライニングチェアーだ。


 んふぅ~。よい。とーてーもーよい。


 全回復法も捗りますなぁ。あ、ミューズが恨めし気にこっち見てるな。しょーがないだろー、タコが無いのはオレのせいじゃない。たこやき器があるんだからまだ希望は捨てなくていいだろ?オレのチェアーに罪はないのである!


 そういえばこの世界で海は見たことないな。クレマチス領の東には海があるんだけど、海にたどり着くには巨大で深い森を抜けないといけない。実質到達は無理だろう。

 どこかの時点でタコを手に入れてやりたいと思うけど、海の遠さを考えるとなぁ。クレマチス領の西には別の領があるし、さらにその隣は別の国だ。東以外に海の存在を知らない。世界地図が欲しいな?


 タコって淡水にはいないんだよな~たしか。というかその前にこの世界にタコがいるといいな。いやいっそいなくてもいいか。『タコ無し焼』でいいんじゃね?オレはなくても食えるぜ。ソースとマヨとかつおぶしをぶっかけてな。

 あ~いかん。調味料交換したくなってくる。がまんだ、ここはがまんだ。みんなそれぞれ欲しい物があるんだ。オレはチェアーもらってるし。



《皆さん!表情がやや暗いようですよ。同じ作業が続いて飽きていることは理解できます。そんな時は自分の目標・・・いいえ欲望に忠実になるのです。交換したい商品を思い浮かべるのですよ》


「どんな励ましの言葉だよ。やっぱなんか宗教みたいなのに浸食されてるわ。ミューズだけじゃない」


《いいのです。何か欲しい物がある、これは偉大な原動力なのですよ。とはいえ繰り返し作業が続くのは確かに苦痛。少し目先をかえてみましょうか。新しい魔獣を召喚して討伐します》


「ちょいまち。新たな魔獣の新たな特殊スキルを警戒しましょうってなったよな?」


《はい確かに。その脅威は依然としてあるものの、マスターも日々進化しています。この先ずっと同じ敵ばかりではこちらの技量が上がりません。未知のスキルに対する経験が積めないのは非常に好ましくないです。いまのマスターには魔素視があります。これは初見の敵に対して極めて有効です》


「・・・まぁそうだな。じゃこうしてくれ。オレ以外は全員上の隠し通路へ行って被害を受けないように見学。ミューズは戦場にすぐ飛び込めるように構えていてくれ。アイ、他になにかないか」


《そうですね・・・まずは強すぎる強化に注意です。またダンジョンを破壊しないようにお願いします。それと魔素視は常時行うように。魔素に異常が見えた時は距離を取ってもいいでしょう。

 新しい魔獣は本来レベル40のブラックタイガーですが、レベルを調整できるようになったので調整下限のレベル35を呼び出します。なるべく攻撃をさせてください。そして早めに特殊スキルを引き出しましょう。どんなスキルかさえわかってしまえば対策できる筈です》


「やっぱり持ってるかな?スキル」


《そう考えておくべきです。呼び出すのはL35ブラックタイガーです。いいですね?》


「よーし!みんな配置につけ!いくぜ~」



 事前に決めた位置についたのを確認して魔獣を呼び出す。その名の通り黒い虎だ。ただの黒じゃないな、漆黒って表現が似合う深い黒だ。出現した虎はオレを見ながら機会を伺っているようだ。何気なく数歩進んだあと突然襲い掛かってくる。

 だが魔素視で観ているから仕掛けてくるタイミングは丸わかりだし、スピードもオレに比べて全然遅い。余裕をもって避けられる。ステータスで圧倒してると思う。

 数度にわたって攻撃を避けた後、なかなかスキルっぽいのを出してこないので、避ける瞬間に魔杖でお尻を小突いてやった。案の定興奮してより積極的に攻撃を仕掛けてくる。

 だが特殊なスキルは使ってこない。ふむ?



「アイ、よくわからんがスキル持ってないかもしれん」


《わかりました。あと1分様子見したら討伐してください》



 結局スキルらしいものは何もなく終わった。



「ふつぅ~でしたねぇ、すごく濃い黒色でしたぁ」


「これはゲーム的な考えだけど、一定のレベルがないと持てないスキルとかあるかもしれん。本来のレベル40だったら使えてるスキルが、無理矢理レベルが下がって使えなくなったとかさ。オレがやったゲームにそれに近い設定があったよ。

 同じ敵なのにレベルが上がるほど新しい技を使ってくるんだ。逆に低いレベルの同じ敵は何もつかえない、みたいな」


《可能性はありますね。ですがやることは変わりません。徐々にレベルを上げていくだけです。次は36にしましょう》



 こうして徐々にレベルを上げつつ討伐を進めていく。そしてレベル38になった時ソレは起こった。オレは油断なく魔素視を継続していた。そしていかにも特殊技を使いますよ!的な魔素の高まりを感じる。



「来るぞ!用心しろっ!」



 オレは叫んで皆に注意を促し、自分は魔杖を体の前面に立てて防御の構えだ。黒虎は魔素を高めた後、頭部を上に逸らせて大きく長く吠える。まるで遠吠えだ。



 オオオオオオオーーン



「きゃぁーーーぁふっ」


「どうしたっ!!!ミューズか!?」


「ミューズがたおれたにゃ、息してるしケガもないにゃ、意識もあるにゃ」



 なんとも気の抜けたルルの声が聞こえてくる。なんだ?なんの攻撃だ?



「オレもなんともない。アイ、解析できたか?」


《あと最低数回は必要です。急いで討伐してしまいましょう。あとでもう一回同じレベルを呼び出します》







 隠し通路に行ってミューズの様子を見る。アイがミューズを反響定位でスキャンして異常の有無を調べる。だが結果は何もないようだった。ひとまずミューズの話を聞いてみよう。



「なんかぁ、よくわかりませんでしたぁ。体がこわばってぎゅーってなりました~」


《仕掛けとしては私のジャミングと同じでした。何らかの影響をこちらに与えようとしていましたよ。ただその効果は不明です。

 あと・・・気のせいかもしれませんが、鼓膜を通して行う私の技術に似ていたような》


「ボクは精神攻撃が得意だからなんとなくわかったにゃ。威圧されてたと思うにゃ」


「いあつぅ?」 「威圧だって?」


《なるほど。音で影響を与えて行動不能にするようなスキルですか。ですから私の技術に似ていると感じるわけですね。しかしマスターに効果がなかったのは何故でしょうか》


「ふっ、レジスト判定に成功したんだぜ!きっとな!」


「正解ではにゃいけど、間違ってもいにゃいと思うにゃ。リクの体の周りにある防御魔素はその都度状況に合わせて変化してるにゃ。威圧の魔素に抵抗してたと思うにゃ」


「活性化したオレ様の魔素有能!ルル達にも影響なかったの?」


「物理攻撃ならともかくにゃ、精神への攻撃は意味ないにゃ」


《重要な情報をさらっと出してきますね。後で詳しく聞かせてください。ミューズ、距離を取って離れていなさい。まだまだ続けますので。同じような技術を既に持っている私が必ずこのスキルを会得してみせます》


「うお~~い、ラーニングする気かよ!まじか」


《はい。これはきっと大きなチャンスです。私の直感プログラムが激しく反応しています。おそらくこれを習得すれば、ジャミング技術が飛躍的に向上する予感がします》


「じゃー再開すっか。威圧は最低1回ださせたら倒すでいいな?」


《はい、お願いします。ではルル、レベル38を再度》



 こうして討伐を繰り返し、魔獣のレベルも40まで進めた。38以降の魔獣は例外なく威圧を使ってきた。アイは存分にデータを取得。オレは結局一度も威圧されることはなかった。明日以降でレベル41~45まで試すらしい。らしいっていうかオレがやるんだけどね。

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