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地上に戻って来て受け付け、からのいつもの会議室。うん、定番になりつつあるね。課長補佐も準備万端。やたら書類を揃えてる。アルルのパーティー加入関係のものも見えるし、魔石の譲渡に関するものも見えるな。もちろん他にもあるだろう。
「課長補佐さん。お互い時間もあまりないですし、余分な駆け引きや探り合いは無し。直球でいきましょう。まずこちらからお渡しする物を全部出しますので、その後でそちらの要望を」
「承知しました」
「一気に行きますよ。よく聞いてください。
まずは8層マップ。完成してますのでどうぞ。次にF級魔石405個を受け付けに渡しています。換金してください。8層の討伐数はぴったり1000体です。これで40%ドロップは証明できました。
アルルはオレ達のパーティーに加入させます。あ、アルルってのは普段呼び愛称です。正式な名前は身分証の通りルルです。パーティー手続きお願いします。
パーティーに入ったので約束通りに金貨100枚相当の魔石を譲渡します。D級65個です。余剰分はいつものように換金してください。
D級は初めてですのでよくチェックしてください。おそらく間違ってないと思いますが。この出処に関して詳細報告は後日で。現物はそのまま上司に見せつけるといいでしょう。
アルルのパーティー加入を以ってメンバー募集を打ち切ります。領軍にも伝えてください。今回は残念でしたと。以後余程の人材でない限りメンバー増加は検討しません。
把握できましたか?さぁオレ達は約束を守りましたよ。これで武器としては十分ですよね?次はそちらの番です」
「・・・言っても詮無いですが、たった一日でこれだけの成果。上にどう信じさせればいいのか。パーティー加入関係は本日報告して8層関連は明日以降にします。特にこのマップの価値は途方もなく大きい。取引材料にして領軍を使えるだけ使い倒します。
書類をご覧いただきサインを。パーティー編成に関する手続きの書類、ルル様のキールダンジョン探索に関する申請書、魔石譲渡に関する書類、8層マップの情報提供に関する覚書、現在申請中の新規専任チーム結成への推薦状、これはリク様とそのパーティー連名でお願いします。このチーム新設を強く推してください。なんだったら半分恐喝でもかまいません」
「だいぶ言うようになりましたね。オレの名で推薦状?意味あります?」
「いまこの街で一番の力と知名度、影響力をお持ちの方が何を仰ってるんですか。それだけでも十分ですが、ルル様の名が連なれば決定といってよいでしょう」
「・・・わかりました」
「まだたった一日しか経過していないのに新ダンジョンの情報が領内を駆け巡っているようです。既に各所にある管理ゲート課から問い合わせの嵐です。また、ダンジョン研究者や歴史家など学者関係からも多数。
情報提供やダンジョン案内の申し込みが通信の魔道具でひっきりなしに届いています。現在この施設はパンク寸前です。
ある程度の反響は予想しておりましたがここまでとは。覚悟が決まりました。リク様、あなた様にはこのクレマチス領の英雄になっていただきます」
「え?なんですか突然」
「あなた様のご提案通り生まれ変わったダンジョンの情報を矢継ぎ早に発信していきます。どう考えても一般探索者の調査速度ではありませんので当然疑念を持たれます。だがそこに英雄の名があれば言い訳が立ちます。
新ダンジョンをいち早く先行して調査している超絶有能な新人探索者として大々的に打ち出していきます。もちろん様々な活躍譚、美談など盛り盛りで広めます」
「却下します。オレは名を売りたい訳じゃないし嘘広めちゃだめでしょう」
「嘘ではありません。実際活躍なされているではありませんか。覚えていますか?リク様が私に言った言葉です『なんだったら追加検証込みの予測数字をさも本物の結果のように表示してしまっていい』。私には嘘でも本当でもないことを上に報告させておいて、ご自分は嫌がるのですか。今後とてつもない活躍をされるのは確定した未来です。その話を少しだけ先行して知らしめるだけです。
あなた様と私は同船共済、一蓮托生なんです。納得していただきますよ」
おいおい一日で切れ者になったな。目が若干怖いんだが。ちとマズイな。オレは本当に名前なんて売りたくないし、目立つのはメチャいやだし。
たしかに課長補佐の言う通り、わかりやすい有名人がいれば少々の不自然さは誤魔化せるしいろいろなハードルが下がる。でもソレがオレなのは駄目だ。クソッどうしようかな。
《マスター、妥協しましょう。名が売れる事は悪い面だけではありませんので。それに今後の活動を長い目で見ていくと否が応でも名が売れる未来しかありません》
(マジかよ~~。有名税みたいのは嫌なんだけどさ~)
《絶対的な物ではありませんが対応案はあります。どうせ売れるなら今売る方が高いですよ》
「・・・はぁわかりましたよ。その辺はまかせます。ただし真っ赤な嘘は絶対に駄目です。そこは徹底してくださいよ」
「もちろんです。あからさまな嘘では私だけでなく管理ゲート課の信用さえも堕ちます。
今後の展開なのですが、先ほど申し上げた問い合わせをしてきた者たちが大挙してこの街を訪れると予想されます。目端の利く者ならばリク様のお名前をこの件に結びつけているでしょう。身の回りに注意したほうがよろしいかと。
例えば今後リク様に個別に連絡を取ろうとする者や面会を求める者が増える可能性があります」
「オレの名ってそんなに広がってます?」
「異常な魔石採取量でもともと知名度はありました。加えてのルル様の案件です。これは効きました。なにせ国のトップからのものですからね」
(うわぁぁああ~~、もう手遅れやったんやぁ)
《先ほどの迷いは無意味でしたね。丁度いいではないですか、踏ん切りがつきましたね》
今後も課長補佐とは頻繁に打ち合わせをする約束をしてホテルに帰って来た。
「リク様、ミューズ様、ルル様、おかえりなさいませ」
「アルルもどったにゃ~」
「どうも、ただいまです。昨日言ってたアルルの身分証です。お願いします。あ、アルルってのは普段呼ぶときの愛称です」
「ありがとうございます。お預かりいたします。私どももアルル様とお呼びした方がよろしいでしょうか」
「あ~そうですね、できればそのほうが」
「承知しました」
「ところで一つお願いが。近くのダンジョンで大きな発見があって、その関係で領の色んなところからダンジョンの関係者とか学者さんとかいっぱい来るみたいなんです。
実はこの発見にはオレが結構関わっているんですよ。それでオレ宛てに訪問とか面会希望とかが、この宿に来るかもしれないので心構えと言うか準備と言うか、お知らせしておいた方がいいな~って」
「・・・お気遣い大変感謝いたします。いま頂いた情報が私どもにとってどれほど価値がある物なのかおわかりでしょうか。まさに値千金、どれほど金貨を積んでも欲しい物でした。これで他の者に先んじて動くことができます」
「宿の受け付けの方にそこまで役に立つものでもなさそうですけど?」
この有能な受け付けの人はオレの言葉には何も答えずニッコリと微笑んでいる。コレあまり触らない方がいいっぽいな、うん。
「まぁとにかくそんな話もあるんだ~って知っておいてください」
「リク様、実は我々のもとにも少しだけ情報が入りつつあります。今後この街は大きく動くことになるでしょう。この流れの先頭に加わることが出来た幸運とあなた様に感謝を」
「いやちょっとまって、絶対の話ではないですよ。たぶんそうなるかな~?っていう」
「ご安心を。当然我々自身でも裏付けを取りますので。が、正直そんな必要もない気がします。あなた様を中心に多くの物事が動いているのはもはや明確な事実。この予想は裏切られないでしょう。
ところで、もしリク様宛に訪問者があった場合はお取次ぎしますか?」
「いえ、なしで。名前と所属と用件と連絡先を聞くのを基本にしてください」
「かしこまりました」
「では今日もお湯をお願いします。みんな待たせてゴメンね、さぁ部屋へ行こう」
部屋に戻って来たオレ達は毎度ながら水運びを待ちながらグダグダしている。毎日毎日がとても濃い日が続いていて精神的疲労が強い。肉体は全然元気だね。もっと魔獣討伐エクササイズしたいもんだ。
そしてアイの機嫌がいい。思うように事が進んでいるからかな?たぶんね。
《今日一日の進捗は目を瞠るものがありましたね。アルルのパーティー関係は終わったと思っていいでしょう。課長補佐関係は調査の開始と情報の公開と発信待ち。おかげでこちらは手が空いたのでやるべき次の事へ進めます》
「次なにやりたいの~?」
《基本的にマスターの意向に従います。逆にお聞きします。何をお望みですか?》
「いろいろありすぎてさ~。わけわからん。おすすめを頂戴よ」
《目的で言うならフィールド型の導入と交換品のお試し。手段で言うなら魔素を生産して魔獣変換の一択です》
「デスヨネー。悩むことも迷うこともなかった。今日片付いた件があった分、明日からは本少し余裕があるかもな」
《その通りです。ですが物語的には今のでフラグが立った筈です。明日も忙しく充実するでしょう。さぁミューズ、お湯が入りましたよ。アルルと一緒に入って洗ってあげなさい》
「は~ぃ。りくさま、いっしょにおねがいします」
「あ、そう?そうだよね。子供がいると一人では大変だものね?しょうがないよね」
《マスター》
あ、はい。




