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(アイ!オッサンの護衛騎士を全員ジャミングだ。気絶させろ!アルル緊急事態だ、オレについてきながらルルにかわれっ!!)
《マスター!斡旋所までは最高速度でも間に合いません。物理的に不可能です》
(それを何とかするんだよっ!ルルを呼んでな!)
オレは会見していた部屋を走り出ながら、オレのパーティーメンバーとして来ていた女性にこう告げる。
「リオラさん後はよろしく!護衛の騎士は気絶してますっ!」
ダッシュで部屋を出たオレは廊下の先にあるトイレに駆け込む。その時にはアルルが既にルルに入れ替わっていた。
「ルル、緊急だ、最下層へ。終わったらなんでも言うこと聞いてやるから急げっ!アイわかってるな?ダンジョンの出口を」
《了解しました。最下層にあるダンジョン出口を現場へ接続します。常駐アイに操作させます。最適な場所は狩猟組合の道具置き場兼修理部屋です。そこへ繋ぎます。転移したあとの斡旋所内のマップとナビは左上に表示済です》
オレの真剣さにルルも異常事態を悟ったようだ。軽口なしで転移してくれる。最下層についたらダンジョンの出入り口に走る。
「どの出口だっ」
《一番近い真ん中の出口です》
オレは神速で該当の出口に走る。やたら時間が拡大されている感覚だ。いつもなら転移なんてあっという間に終わるんだが、やたらと長くかかってジリジリする。
転移が終わったようで周りの景色が変わる。アイの言った通りの道具置き場だ。ここに来るのは久しぶりかもしれないが今はどうでもいい。
オレは勢いを止めることなく狩猟組合の事務所を走り抜ける。魔石課までの最適順路はアイが示してくれているので素直に従って突き進む。
(アイ、どうだ?魔石と魔道具は見つけたか)
《・・マ・・・ス・・タ・・
ハ・・・ヤ・・s・・ギ・
マド・・・・・グ・・アカ・・・イ・・ロ
・・シ・・ル・・・・シ》
(え、なんだ、ゆっくりすぎてわかりにくいな。あっそうか、マップに魔道具の位置を赤で示してくれたんだな。助かる。そろそろ魔石課の事務所だな)
以前からだけど集中力を高めて速度に特化すると今みたいに自分も周りも遅くなって見える。今回は周りはもうほとんど止まっていると言ってもいい。周りが静止した中をややスローモーションでオレが走っていくイメージだ。
思考と感覚だけは普通なので自分の遅い動きにイライラする。早く現場に行きたいのに!
そのノロノロとした動きに耐えて何とか魔石課の事務所に辿り着いた。アイが用意してくれたマップの赤点と実際の現場を見比べてみて実行犯を特定する。
まさに今、犯行を起こしたところのようだ。
ごく普通の恰好をした男が魔石課の事務所の一般人が入れない部分に無理矢理走り込んでいた。その手の中に何度も見た破壊の魔道具を抱えている。そして男が進む先には扉があって、おそらくその中が魔石の保管庫になっているんだろう。
そこまで見てとってオレはその男までの最短ルートを考えて走る方向を変えた。あいかわらずオレの動きは遅いままだ。それに劣らず犯人と周りの動きも遅いが。やがて犯人が保管庫と思われる部屋の扉に手をかける。ヤバい、間に合え!
ガギッ
オレは犯人に追いつくとその腕を思いっきり握りしめる。腕の骨が逝った音だろう。犯人の手の力が抜けた瞬間に魔道具を奪う。そのまま犯人を蹴り飛ばしておいて魔道具から魔石を最速で取り出した。
「ふぅ~~~~」
一気に時間が流れ出す。オレに蹴られた男は扉にぶつかってノビてるし、オレ達の侵入に気が付いた職員たちが集まってくる。何人もの職員から問い質す声が重なるが、オレはそれを制して懐から出した許可証を周りに示す。
「狩猟組合のリクです。これは特別捜査一時許可証、領都の裁定庁の特等認可です。大至急で警邏課の人を呼んできてください」
少し時間を遡り、リクが会見していた部屋を飛び出したタイミングに戻る。
「リオラさん後はよろしく!護衛の騎士は気絶してますっ!」
「ちょっと!リクくんどこいくのよ・・ってテロを止めに行ったに決まってるわね。
さて、そこのアナタ。ペラペラとよくおしゃべりしてくれてありがとう。こっちは仕事が捗って助かったわ~。口は禍の元とはよく言ったものね。
領都の魔道具研究所所属ゼノ研究員。街の破壊活動、動乱容疑、自殺教唆、殺人未遂、窃盗容疑、偽証罪、証拠偽造、などなど数え上げるのも面倒なほどの罪状。言い訳のしようも無いわね、警邏課へ一緒に来てもらうわ。
あ~それから五級審査官。今日の話し合いは最下級の五級でできる記録内容じゃないわ。わかってやってるなら重大な服務規程違反よ」
突然の展開にゼノ研究員と審査官は戸惑っているようだ。ゼノ研究員は気絶した自分の護衛騎士と目の前の女性、そして時計塔を見る。
「・・・騎士達に何をした?おまえはダレだ。ただの探索者じゃないな」
「騎士さんのことは知らないわ。リクくんがなんかしたんじゃないかな。正直あの子のことはわからない事の方が多いの。わかってるのはいい子だってことくらい。
そしてわたしは領都裁定庁の特等審査官。聞いた事はあるわね?この領に20名しかいない審査官よ。アナタみたいな悪い子を捕まえに来たの」
ゼノ研究員と審査官が衝撃で固まる。何を言っているか急には理解できないだろうし信じられないだろう。だがゆっくりとその言葉の意味が彼らの脳に刻まれていく。
「・・・ハハッ。なにを根拠に?私が何をしたと?証拠でもあるのかね。そもそもおまえが特等審査官だと?信じられるか」
「いままで散々私の前で話してたじゃない。ちゃんと聞いてたわよ?」
この言葉を聞いたゼノ研究員はまたもやニヤニヤし出す。審査官を名乗る女性とアウレリア嬢を交互に見ながら言葉を続ける。
「聞いてた、だと?聞いてただって!?ワハハハ、何を聞いたのかね?アウレリア嬢との口喧嘩?研究に関する方針の食い違いで討論していただけだ。なぁそうでしょう、お嬢さん?」
「いいえはっきり聞きました。この街を破壊してそれを私のせいにすると」
「そんなことは言ってない。魔道具の研究に関する事だけだ。例えばコアの改造とかね」
どうやらゼノ研究員は調子が戻ってきたようだ。完全に開き直る気でいる。同時にコアのことをぶり返して少しでも有利な状況を演出しようとしているようだ。だが捜査官の女性がその勢いを止める。
「ふふっ。おバカさんね。私はこう言ったでしょ『ちゃんと聞いてたわよ』ってね」
「それがどうしたんだっ。馬鹿の一つ覚えかっ」
「特殊記録神官・・・知ってる?わたしなの」
ゼノ研究員の余裕ぶった顔が急変する。猛烈な勢いで冷や汗が至る所から噴出しだした。体全体が細かく震えている。
「まさか・・・まさか、そんなわけはない。ない、ない、ないんだ。わたしが、このわたしが、あ、ありえない」
「リオラさん、ゼノ研究員の様子が変です。気を付けた方が」
「・・・アダブアァアぁぁぁ~~!!!」
何かブツブツ言っていたゼノ研究員が急に奇声をあげて女性審査官に襲い掛かってきた。
「ふん、あまり舐めないでよね。ソイっ!」
女性審査官リオラは掴みかかって来たゼノ研究員を見事な一本背負いで担ぎ上げる。そのまま容赦なく床に叩きつけた。
床には豪華な絨毯が敷かれていたが、叩きつけられた勢いを完全に殺せるわけもなく痛そうな鈍い音がする。ゼノ研究員は背中から落とされて息ができないようだ。リオラはどこかから出した縄でゼノ研究員を捕縛する。
「おんなっ!はなせっ!私を誰だと思っている。私の頭脳と研究はこの国の貴重な財産なんだぞ!それにこのままだと街が大変な事になるぞっ」
「・・・本当におバカさんなのね。語るに落ちてるじゃない。ねぇ気が付いてる? じ・か・ん 見て?自分が指示した時間は何時なの。街はいつもと変わらないわね?」
その頃になってようやく階下で待機していたリオラの部下と思われる人員が部屋に駆け込んできた。捕縛されたゼノ研究員と呆然としていた五級審査官を連行していく。
「アウレリアさん。詳しい説明はしないけど、いまの一幕は一部始終がきちんと記録されて罪の裁定の証拠として使用されるわ。その記録は言葉通りの『一部始終』なの。つまりあなたの様子も研究に関することも全てなのよ」
そう言われたアウレリアは少しだけ驚いた表情を見せたものの、すぐに落ち着きを取り戻して返事を返す。
「構いません。覚悟はあります。リク様を信じて任せた時からどのような事態になってもあきらめないと決めました。
戦います。私は闘います。まだやるべき事がありますし、確認しないといけない事もあります。まだ終わっていません。いいえ、始まったばかりですので」




