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「今のところ上の層と違う点は見つけられていません。通路の見た目だけでなく、通路の幅や高ささえも全く同じです」
アウレリアさんは何かの道具で測定しながら調査している。何らかの変化を期待していたのだろうがうまくいってないようだ。
そりゃ当然だ。同じ規格で作ってるからな。むしろ違いがある方が怖い。たぶんだけど違う規格で作ろうとするとコストがかさむハズだ。
「レリア、それもしかして魔道具?」
「あ、はい。今日は10層の件があったのでほとんど持ってきてません。小さめの魔道具のみですが最低限の測定だけでもとこれを」
「なるほど。今日はしょうがないよね。魔獣を観察して報告することだってダンジョン調査なんだしそっちメインでいこうよ。今日はオレ達がメインで討伐して、装備をちゃんとして明日は騎士さん達に」
「とてもいい考えです。リク様がなさっている魔獣の数値化も大変興味深いです。よければそれも今回の成果に加えさせて頂いても?」
「もちろん。むしろこちらからお願いするよ。それで少しでもダンジョンに人が増えるならなんでもするよ」
11層の魔獣を適度に狩りながら奥へ進んで行く。手加減がなかなか難しい。一撃で倒しちゃうとなんの調査にもならないからね。
こうして11層の比較的奥まで調べて終了。明日は再度11層からだ。
7日目 11層本番
ボア キングラビット グレートボア
11層の魔獣討伐をメインにする。オレは護衛に徹してユースティティアさんとレウィスさんに討伐してもらう。盾役がユースティティアさんで遊撃がレウィスさんだ。
ボアとキングラビットまではなんとか討伐。グレートボア以降は難しいようだ。怪我をする前に選手交代しておいた。以降はオレ達が全て討伐だ。
8日目 調査お休み
第二回 魔道具勉強会
基礎編の続きを勉強。主に作用領域に関する事が多かった。コアの開発や改造については触れない。なんとなく暗黙の了解。
9日目 12層
ツーテールフォックス バトルディア ソードディア
休みを一日間に挟んだこの日からメンバーが再度交代している。レウィスさんが宿待機でマグヌスさんが同行する。
魔獣討伐がメイン。手加減しつつ魔獣の特性を探る。12層で初めて特殊スキル持ちの登場だ。ツーテールフォックスという名の魔獣で幻影系のスキル持ちだ。アイが幻影分身と名付けている。オレは最下層で予習済。
自分の分身をつくる技だが実体ではなくただの幻影だ。ただの幻影だが騙されると本体から手痛い攻撃を受けるので注意が必要だ。オレは魔素視で幻影を見破れるので全く問題ない。
ツーテールフォックスはこの特殊スキルが全てであって他の攻撃や防御面はこのレベルにしてはかなり弱い。
このレベルで特殊スキル持ちはほぼいないらしいので、その分物理的には弱いのだろうな。
幻影さえなんとかすればおいしい相手だ。対策も簡単で2人以上で対処すればいい。このあたりの情報を低レベル者向けにアピールしていきたいところ。アウレリアさんに伝えておく。
10日目 13層
シックステールフォックス クリスタルヒュージボア ベア
シックスは幻影分身の数が増える。それと紫だ。オレ達には懐かしささえある。そしてD級を落とすベア。オレ達には雑魚だが一般からすれば脅威だ。存分にデータを取ってもらう。魔石も結構落としたのでアウレリアさん付きの文官さんが喜ぶだろう。
11日目 13層
シックステールフォックス クリスタルヒュージボア ベア
13層に移動するまでにそこそこ時間がかかるため、1日あたりの調査量が少なくなっている。13層を調査する場合なら11層と12層の行き帰りの時間を考慮する必要が出てくるんだ。同じ13層を2回3回と調べなければならないとアウレリアさんからお願いされる。
宿からダンジョンに向かいながら深い層へ速く到達するいい方法がないか相談しながら歩いている。
「私達研究者にとって『調査地までの到達所要時間』はとても大きな障害なのです。そもそもまずダンジョン内に留まれる時間が限定されているのに移動にその多くを費やしてしまう。大昔からたくさんの研究者を悩ませてきた命題です」
「探索者みたいなダンジョン適性を持った研究者はいないんだろうね」
「少なくとも多くはないでしょう。ずっとダンジョン内にいられるなんて夢のような話です。何か良いアイデアはありませんか?」
「え~わかんないよ。ただ一つ言えるのは、より深い層へいけばよりその傾向は強くなって制限時間は厳しくなるよ。あ、体感的にね」
「ほんとですかっ!く、くわしく!詳しく聞かせてください。なにか手がかりがっ」
「いやだから体感だからさ、あまりアテにされても」《マスター警戒を》
「全員止れっ!警戒態勢。ユースティティアさんマグヌスさん、レリアの前後にくっついて立って。指示があるまで何があっても動かないように。ミューズは前10メートル、アルルは後ろ10メートルだ」
「え?な、なにが。リク様?」
「アウレリア様お静かに。このままお待ちを。リク様に全て任せれば安心です」
ユースティティアさんとマグヌスさんはさすがに冷静だ。すぐに察して警戒態勢を取りアウレリアさんをカバーする。宿からダンジョンまでの道の途中で人通りが絶えるエリア。まわりはグルっと壁だらけだし隠れ潜める場所も多い。ま、予想通りかな。
《意外と少ないですね。前方右手に3、左手に2、後方に3です。VRで場所を表示します》
(余裕だな。全員生け捕りにしよう。ミューズ手加減できるか?無理ならアイの威圧でもいいが)
「確認しますが生け捕りでいいですね?ミューズにおまかせください。これまでにリク様に2度披露しましたアレで地面に叩きつけてやります」
「あ、ああ・・そうねほどほどに」
管理施設のロビーでガラの悪い初見の探索者にやったのと、ユースティティアさんにやったアレか。ユースティティアさんが自分のことだと察したらしく苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「アルル、もし後ろから敵が来たら動けないようにしてくれ。できるな?」
「アルルできるにゃん」
そこまで話したところで敵が我慢できなくなったようだ。前方の3名が姿を路地から現す。お~テンプレだねぇ。全体が黒っぽい装束、目だけ出した覆面と頭に巻いた布。年齢性別が全くわからんな。武器も持っているように見えないし暗殺系か?
《前方3名。レベル10前後です。元は探索者と判断します。全員DEXとAGI特化型。暗器を多数所持。掌と袖口と背中、及び脚ですので注意。足さばきが人間にしてはなかなかのものです。さぞや鍛錬を積んでいるのでしょう。比較的新しい怪我を足にしている者がいますね。向かって左です》
(スキルは?)
《向かって左から投擲、跳躍、加速、投げ、格闘技、身体強化。真ん中は投擲、短剣、精密射撃、短弓。右が投擲、短剣、小剣、棍棒、小盾、身体強化。全員の警戒度は10段階で1です》
「ミューズ全部まかせた。向かって左は足の怪我を狙え。真ん中のは後方で遠隔攻撃してくるぞ」(いまのはただの牽制でハッタリだ。こだわらずにスキにやっていい)
「委細承知。いくぞ不届き者どもっ!」
まるで情報が洩れているような指摘をされた敵は案の定激しく動揺している。
ミューズが風の様に走り出す。まずは左の格闘家っぽいのからやるようだ。接近された格闘家は左足を前に出して半身になって腰を落とす。左手を前に、右手を後ろに引いて攻撃の構えだ。前世の空手みたいだな?
向かい来るミューズの喉に向かって手刀で突きを放つ。ミューズは突き出された手刀を右手に持った魔杖で払い上げる。正確で速い攻撃だ。間違いなく相手には見えてない。
ガヅッ
最低でも骨は粉々だろう。攻撃した手が引き千切れなかっただけ幸運だ。格闘家が苦悶の叫び声をあげる。しかし声を全部吐き出す前にミューズの左手がすでに相手の首元に届いている。そのまま軽く持ち上げてドーン。下は硬い地面だ。気絶で済むといいな?
少し後方に位置していた真ん中の遠隔屋はミューズが格闘家と闘っているスキを狙って何かを撃とうとしていたが、ミューズの位置取りがうまくて全く攻撃できないでいた。
それを見越してミューズが残りの一人に接敵。相手もわかっていたようで短剣を出して迎撃してくる。
そこまで局面が進んだところで前方にいまだ潜んでいる残った2名が動き出したようだ。
2人の内1人が前衛なのかアウレリアさんの方へ走ってくる。残った1名が後衛なのかは定かではないが離れたままでいるようだ。当然オレはその走ってくる経路に立ちふさがって魔杖を構える。
走って来た奴は短剣を抜いてオレに襲い掛かってきた。
《マスター、後方に残ったままの1人のスキルが読み切れてません。胸と肩と喉周りの筋肉が発達しています。スキル不明で警戒度2です》
(わかった)
短剣を抜いてオレに襲い掛かって来た奴を軽くいなして両肩を魔杖で突く。関節が外れないかと狙ったが両方とも骨折しただけのようだ。こいつはもう放っておいて後方に残った上半身ムキムキの奴に集中する。
その1人は分が悪いと見るや懐から短い筒のような物を出すと自分の口にあてる。なんだ?
シュッ
なっ!?吹き矢か?時代劇かよ。マジであるんだな~。でも大丈夫。集中してるオレには見えてるぜ。
アウレリアさん目掛けて飛んできた吹き矢らしきモノを魔杖で止める。カーンと弾いて明後日の方向へ飛んで行った。
だが攻撃はそれで終わっていなかった。その吹き矢は一度の攻撃で二つの矢が時間差で飛び出すように作られていたようだ。
完全に油断していたオレは目の前を通過する第二の矢に気が付いて慌てて止めようとするが間に合ってない。その矢の先端になにやら毒々しい黒い液体が塗られているのをオレの動体視力が見つける。
クソッ!まずい 油断したっ
飛んでいくその先にはアウレリアさんがいる
なにか なにか防ぐ方法は!?
カンッ




