第65話「セルフ・ファースト vs イエス・ウィー・キャン」
漆黒の空に稲妻が走り、轟音が大統領公園に響いた。
モニター越しに全米の人々が見守る中、二人の大統領……カードとアバマ……の決闘が始まった。
最初に動いたのはアバマだった。軽快なステップで距離を詰め、正確なジャブを繰り出す。
「ホッ、ハッ、ホッ! 」
拳が空気を切り裂き、連打のリズムがまるで音楽のように響く。
カードはスーツの袖をひるがえし、冷ややかにそれをいなす。
「ずいぶん軽いパンチだな。減税よりも軽いぞ」
アバマは眉をひそめた。
「口が減らんな。だが、この拳には民の希望が宿っている! 」
その言葉とともに、アバマの拳がまばゆい光を放ち、カードの顎をとらえた。
衝撃が走る。
だが、カードはすぐに笑った。
「希望? 私はそんなものよりも、自分を信じる力を信仰している! 」
カードは腰を低く落とし、アバマの胴をがっしりと抱え込む。
「セルフファースト・ボディスラムだッ! 」
渾身の力でアバマを高く持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。地面がひび割れ、衝撃波が走る。
観客の悲鳴と歓声が混じり合う中、カードはさらに跳び上がった。
「仕上げにボディプレスといこうか! 」
空中で両腕を広げ、巨大な影がアバマに落ちる……。
しかしその瞬間、アバマは驚異的な反射神経で跳ね起きた。
「イエス・ウィー・キャン! 」
叫びとともに両腕を振るい、嵐のようなマシンガンパンチを繰り出す。
百を超える拳が連続で炸裂。
「ぐっ……! 」
カードの体が宙に浮き、芝生を転がりながら十数メートルも吹き飛ばされる。
アバマは息を整えながら、ゆっくりと歩み寄った。
「やはり、お前は口だけの男だな。……思い出すよ。前の世界でもそうだった。私が三期目を務められなかったのは、法の制限があったからだ。もし私が出馬していれば……お前など、勝てはしなかった」
その挑発に、カードはうつむきながら笑い声を漏らした。
「ふふっ……ハッハッハ!」
やがて立ち上がり、手を広げて言った。
「面白いことを言うじゃないか、アバマ。つまりこうだな……お前は自分が負けたことを、制度のせいにしているのだ!」
カードはゆっくりとジャケットを脱ぎ捨て、シャツのボタンを外した。
上半身裸になり、鍛え上げられた筋肉が稲妻に照らされる。
「今から本気を出す。セルフファーストの真髄を見せてやろう」
カードが踏み出すたび、地面が鳴動した。
アバマの攻撃をかわし、反撃のエルボー、ラリアット、そしてスープレックスの連打!
「どうした! 演説よりも反応が遅いぞ! 」
次々と繰り出されるプロレス技に、アバマは押され始めた。
「ならば……こうする! 」
アバマは突如、カードに飛びついた。
クリンチだ。
「イエス・ウィー・キャン……! 」
その声とともに、アバマの全身から白い光があふれ、カードの体に吸い込まれていく。
「これは……能力を奪うスキルか! 」
カードの顔が険しくなる。
アバマは笑った。
「そうだ。お前の力を私の民の力に変える。これでこの国は再び輝く! 」
しかし、アバマの表情が次第に苦しげなものに変わった。
「な、何だこれは……!? 」
カードがニヤリと笑う。
「残念だったな、アバマ。私のスキルセルフファーストは、他者に与えられるような生ぬるい力じゃない。完全に私のものだ! 誰にも奪えん! 」
その瞬間、カードは両腕を広げ、アバマの体を抱え上げた。
「セルフ・ファースト・スカイリフト! 」
天高く放り投げられたアバマの体が、雷光の中で小さく見える。
「そしてフィニッシュだ……セルフ・ファースト・パイルドライバーァァッ! 」
カードはジャンプし、逆さまになったアバマの頭を抱え込みながら地面に叩きつけた。
衝撃が爆音とともに広がり、土煙が立ちこめる。
観客は息を呑み、静寂が訪れた。
だが……。
煙の中から、再び立ち上がる影があった。
「ほう……まだ立つか」
カードの目が細められる。
煙の向こうからゆっくりと人影が立ち上がる。
血を流しながらも、アバマはまだ拳を握っていた。
「カード……さすがだ。だが、私はまだ……終わらん」
彼の瞳は炎のように燃えていた。
カードはわずかに笑みを浮かべる。
「いいだろう。ならば続けようじゃないか。真の大統領は、最後に立っていた者だ」
雷鳴が再び轟き、二人の影が交錯する。
大地を震わせる激突は、まだ終わらない……。




