第64話「真の大統領」
黒い空が広がる大統領公園の中央。
ホワイトハウス……いや、漆黒に染まった「ブラックハウス」を背に、カードと黒いフードの男が無言で対峙していた。
あたりに響くのは群衆のざわめき。だがその群衆は、もはや人間ではなかった。ジャック・オー・ランタン、ミイラ男、吸血鬼、魔女……先ほどまで仮装していた者たちが、黒幕のスキルによって本物の怪物へと変貌していたのだ。
「やれやれ、実に見事な演出だな。まるでホラー映画の撮影現場じゃないか」
カードは冷ややかに言い放ち、黒いスーツの襟を正した。
黒いフードの男は笑いもせず、ただ拳を握りしめた。
「この国を救うためだ。お前のような独善者にはわからんだろう」
カーーーーン
ゴング音が鳴る
その瞬間、男は地面を蹴り、一直線にカードへ突進した。
構えは……ボクシング。
左のジャブ、右のストレート、素早いステップイン。
その拳が風を切り、何発もカードの顔面へ襲いかかる。
「フットワークだけは評価してやろう」
カードはそう言うと、体をひねって拳をかわし、カウンターのように右手で相手の腕を掴んだ。
「だがな……私は殴り合いよりも、投げ飛ばす方が得意なんだよ! 」
腰を落とし、背中を反らせる。
次の瞬間、黒いフードの男の体が宙を舞った。
轟音とともに地面に叩きつけられる。
ジャーマン・スープレックス!
その衝撃で男のフードがズレ、素顔が露わになった。
カードの目が大きく見開かれる。
「……な、なんだと!? お前、その顔は……! 」
そこにいたのは、転生前の世界で彼の前任者だった……アバマ大統領。
あの穏やかで理知的な微笑みを浮かべていた男が、今は険しい表情でカードを見上げていた。
「アバマ……お前も転生してきたというのか? 」
「違う」
アバマは静かに立ち上がり、ゆっくりとフードを脱いだ。
「私は転生などしていない。この国を救うため……勇者召喚によって呼ばれたのだ」
「勇者召喚、だと? 」
「そうだ。この世界の危機を前に、神は私にイエス・ウィー・キャンというスキルを授けた。人々に力を与え、希望をもたらす力だ」
アバマの瞳が静かに光る。
「お前が倒してきた黒いフードの者たちは、私が力を授けた者たちだった。だが……お前のように暴力と自己中心でこの国を支配しようとする者を放ってはおけなかった」
「暴力? 支配? 違うな、アバマ。私は導いているのだ。この世界の秩序を、セルフ・ファーストで整えているのだ!」
カードは一歩前へ進み、指を突きつけた。
「それにイエス・ウィー・キャンだと? そんな甘っちょろい言葉で、この混沌とした世界を救えると思っているのか? 」
アバマは表情を変えず、手をかざした。
その瞬間、空中に巨大な光のモニターが浮かび上がる。
米リカ全土の街の映像が次々と映し出され、そこでは無数の怪物たちが暴れ回っていた。
「見ろ、これが現実だ」
アバマの声が響く。
「この国は今、仮装した市民が私のスキルによって暴走している。だが、これはお前を誘い出すための試練でもある」
カードは目を細めた。
「ふむ……つまり、これはショーの開幕というわけだな」
「そうだ、カード。これを止めたければ……」
アバマは両拳を構え、黒いオーラをまとった。
「私と戦え。この国の頂点を決めよう。どちらが真の大統領にふさわしいのか、国民に見せるのだ! 」
モニターの映像が切り替わり、今度は二人の姿を全米リカに映し出す。
大統領公園の中心に立つ二人。
周囲では仮装した怪物たちが動きを止め、固唾を飲んで見守っている。
「国民の前で、大統領と元大統領の決闘……」
カードはニヤリと笑う。
「実にドラマチックだ。いいだろう、アバマ。お前が勇者で今の大統領なら、私は元大統領としてその挑戦、受けて立つ! 」
風が吹き、夜空に雷光が走る。
黒いスーツのカードと、黒いオーラを纏うアバマ。
二人の大統領が、世界の命運を賭けて激突しようとしていた。




