第60話「ゴルフクラブと不穏な知らせ」
ペンシル町の石畳を、堂々たる足取りで歩く私。
スパイア鉱山の空気と、あのゴリラ顔の男・ゴルンとの死闘から一夜。町の空気は穏やかで、まるで何事もなかったように見えるが……通りのあちこちから熱のこもった視線が私へ注がれている。
「おお、あれが鉱山を解放したという…」
「黒いローブを倒したって話、本当だったんだな…」
「見ろよ、あの堂々たる背中…あれが英雄ってやつか」
ふむ、耳がくすぐったい。だが、英雄と呼ばれるのは悪くない。
……もっとも、私は救世主というより、優れた指導者に過ぎないがな。
やがて、鉄鋼組合の重厚な建物が視界に入る。大きな鉄扉には町の紋章が刻まれ、職人たちの誇りと歴史を物語っていた。
私はためらうことなく扉を押し開け、中へ入る。
「スティールはいるか? 私だ」
受付の若い職員が目を丸くして立ち上がる。
「あっ、カード様! お待ちしておりました。スティール様の部屋へどうぞ」
通された部屋には、屈強な腕と白髪混じりの髭をたくわえた男、スティールがいた。
「鉱山を解放したと聞いた。礼を言わせてもらう」
「礼は結構。私はただ、自分の道を進んでいるだけだ。だが——あの鉱山から持ってきた鉄鋼がある。最高のゴルフクラブを作ってもらいたい」
スティールは目を細め、頷いた。
「ほう…ゴルフクラブか。面白い。あの鉱山の鉄なら、きっと驚くほどの性能になるだろう」
私の目の前で、彼は材料を手に取り、重量を確かめる。
「任せろ。明日にはセットで完成させてやる」
翌日。
再び鉄鋼組合を訪れると、スティールの工房からは金属音と火花が立ち昇っていた。
「おお、来たか! さあ、これがあんたのために仕上げたクラブだ」
差し出されたのは、銀色に輝くフルセットのゴルフクラブ。ヘッドの形状は滑らかで、シャフトはしなやかさと剛性を兼ね備えている。
私は一本を手に取り、握った瞬間に感覚でわかった。……これは、歴史を変える一振りだ。
「見事だ、スティール。職人の魂を感じる」
「ふっ、そう言ってもらえるなら作った甲斐がある。さあ、試してみな」
工房裏の空き地で素振りを一度。バランスは完璧だ。
次の瞬間、私はボールをセットし、スイング。
……シュパァン!
弾かれたボールは矢のように飛び、町外れの丘を軽々と越えた。
「ほう、今までとは比べものにならんな。距離も、打感も、すべてが別格だ」
「鉱山の鉄と、俺の技術の合作だ。世界に二つとないぞ」
これで、私の目的は果たされた。
「スティール、世話になった。私は風呂リダへ帰る」
そう言って背を向けかけたその時、スティールの声が私を呼び止めた。
「待て、カード…ひとつ忠告しておく」
彼の表情は真剣そのもので、笑みは消えていた。
「お前さん、今まで黒いフードの男たちを何人も倒してきただろう」
「ふむ、まあ、そうだな。あれらはただの駒だ」
「その駒を動かしていたボスが…ついに動き出している。俺の耳に入った噂じゃ、そいつはとんでもない力を持っていて…あんたを消そうとしてる」
私は眉をひそめる。
「ほう。つまり、奴らの親玉が私に興味を持ったということか。悪くない。名のある敵こそ、勝利の価値を高める」
「軽く考えるな…この町の者じゃ太刀打ちできん相手だ。気を付けろ」
私はしばし無言で彼を見つめた後、ゆっくりと頷いた。
「忠告、感謝する。だが……私は私のやり方でやる。セルフファースト、それが私の信条だ」
ゴルフバッグを背負い、ペンシル町を後にする。
道の先には、夕日に染まる空と、遠くに霞む風呂リダの街並み。
新しいクラブの重量感と、胸の奥に広がる期待感を抱えながら、私は歩き出した。
次なる敵が誰であろうと、このカードが必ず打ち破ってやる。




