第55話「地下に潜む黒い意志」
カードは坑道の壁にツルハシを振るいながら、鋭い視線を鉱山内の各所に走らせていた。表面上は他の作業員と同じように汗を流しているが、内心では状況を冷静に分析している。
作業員は老若男女問わず、全員が囚人のような扱いを受けていた。食事も劣悪、睡眠時間も短く、交代の概念すらない。ここは鉱山という名の牢獄だ。
……ゴリラどもに支配されたスパイア鉱山、その背後には何がある?
「作業交代の時間だァ! 」
怒鳴り声とともに坑道に鳴り響く金属音。入り口の方から別のゴリラ監督が現れ、手にした巨大な鞭を壁に叩きつけていた。
「交代要員は奥へ向かえ! 働きが悪かったやつは飯抜き! 」
交代要員の中に紛れたカードは、坑道のさらに奥へと誘導される。先ほどまでいた区画よりも、照明が少なくじめじめとした空間が広がっていた。地下に降りていく階段の先には、強固な鉄扉が待ち構えていた。
「なんだ、この厳重な扉は……? 」
耳を澄ませると、扉の向こうから機械音のような振動と低いうなりがかすかに聞こえた。
「よし、次の班はここに入って作業しろ! 」
ゴリラ監督がカードを含む作業員たちに叫ぶと、錆びたレバーを引いて鉄扉がゆっくりと開いた。
扉の奥は、もはや鉱山ではなかった。
そこは人工的に整備された金属製の空間で、天井にはパイプが走り、壁には赤く点滅するランプ。明らかに何者かが後から作った施設である。中央には巨大な装置のようなものがあり、無数の鉱石がベルトコンベアで搬入されていた。
「……これは……精製施設? 」
カードは仮面のように無表情を装いつつ、注意深く観察を続ける。見たところ、鉱山から採掘された鉱石はここで加工・選別され、さらに奥の部屋に搬出されている。
「おい、あんた、新入りか? 」
隣で作業していた若者が小声で話しかけてきた。ボサボサの髪とやつれた顔。だがその目には、まだ諦めていない意志があった。
「この施設、なんなんだ? 」
「精錬施設……らしい。でも俺たちは何に使われてるか知らされてない。鉱石を積んで、ボタンを押すだけさ。何も教えてくれないし、外にも出られない」
「出ようとすれば? 」
「殴られるか、二度と戻ってこない奴もいる」
カードは腕組みしながら、うなずく。
「ふむ……つまりここは、鉱石精製だけでなく“情報隔離”のための牢獄にもなっているわけだ」
その時、鉄扉の向こうから別の気配を感じた。通路の先から現れたのは、巨大なゴリラではなかった。
それは……黒いローブをまとった人間だった。
「……! 」
男は灰色の仮面をつけ、口元すら見えない。ただ一点、赤く光る単眼だけが見える。
「本日分の精製作業は滞りなく進んでいるようだな。ご苦労」
その男の声には、奇妙な響きがあった。機械音とも違う、異質な圧が混ざっている。現場のゴリラ監督たちは男に一礼するように頭を下げた。
……あいつが黒幕か? いや、少なくともこの施設の主導者か?
男はしばらく視線を巡らせた後、再び通路の奥へと消えていった。
カードは口元をわずかにゆがめる。
「見えてきたな……黒い連中が、ここを支配している構図が」
彼は休憩時間に合わせて一旦施設から外に出されると、鉱山の岩場に腰を下ろした。見上げる空は重苦しく、鉱山の煙が漂っている。
「この鉱山を完全に掌握しているのは、ゴリラどもじゃない。奴らはただの手駒だ」
カードは、ベルトから小さな機械を取り出し、今見たことを記録しはじめた。
「精錬施設、黒衣の男、そして供給停止……すべては誰かが意図して起こしたことだ。次は、奥の部屋……そこに真実がある」
そのとき、ふいに背後から声がした。
「……おい、新入り、今の……記録してたか? 」
振り返ると、そこにいたのは一人の作業員だった。しかしその目は険しく、手には小型のナイフを握っている。
「“目撃者”は、生かしておけないんでな……」
カードは、口元をにやりと歪ませた。
「ふむ、それは私も同感だ。悪党は、誰の許可で私の前に立ったのかね? 」
作業着のまま立ち上がるカード。その瞳には、鋼のような意志と、爆発寸前の怒りが宿っていた。




