第54話「ゴリラに支配された鉱山」
スパイア鉱山……鉄鋼の町・ペンシルの心臓とも言うべき場所であるはずのこの鉱山が、現在金属の供給を一切止めている。カードは真相を確かめるべく、山のふもとに設けられた検問所へと向かった。
「止まれ。ここから先は立入禁止区域だ」
検問所には、槍を手にした二人の警備員が立ちはだかっていた。背後には木製のバリケードと、粗雑ながらしっかり組まれた柵。侵入者を拒む構えである。
「私は鉄鋼組合からの依頼で来た者だ。様子を確認するだけの予定だが? 」
私がそう告げると、二人の警備員は顔を見合わせた。そして一人が言い放つ。
「たとえ誰の使いであろうと、今は通せない。上の指示だ。帰ってくれ」
ふむ、想定の範囲内だ。私は肩をすくめて素直に踵を返した……ように見せかけて、検問所からやや離れた場所まで歩いたのち、すぐさま森の中に身を潜めた。裏手の斜面には獣道のような踏み跡が残っている。そこから山を登れば、正面を避けて鉱山に入れると踏んだ。
登山靴でもない靴での急斜面は骨が折れるが、私の肉体は鍛え上げられている。木々の合間を抜け、数時間のうちに鉱山の背後へとたどり着いた。
そこには、信じがたい光景が広がっていた。
「……何だ、これは」
坑道の入り口付近には人間たちがいた。しかし彼らの表情は沈み、額には汗、身体は泥にまみれていた。その中を、鞭を振るう存在が悠々と歩いている。
ゴリラだ。正確には、直立した人間のような姿をしたゴリラ人間が、腰に鞭を下げ、まるで奴隷監督のように威圧的な目で人々を見下ろしている。
「働けぇえええっ! 鉱石が止まったら飯抜きだぞォォ! 」
怒号がこだまする。怯える人間たちは肩をすくめ、再びツルハシを振るう。年老いた者も、まだ少年のような者も混ざっていた。
「……あの光景は……冗談だろう? 」
カードはしばし息を呑んだ。鉱山が止まった理由は供給問題でも事故でもない。人間たちが強制労働を強いられ、鉱石を外に出せずにいたのだ。ゴリラどもが何者かはまだ不明だが、このままではペンシル町が完全に死ぬ。
私はすぐさま、坑道近くの岩陰に潜み、作業員の服を着た一人の男の後を追った。着替えをしていた男に背後から声をかける。
「失礼、あんたの服を借りる」
「へ? ……あ、あんた誰……」
私は男を軽く気絶させ、作業員の服に着替えた。ダストだらけの服、重い鉄靴、そして頭に被る保護帽。これで、私も完全な労働者だ。
鉱山内に入り、他の作業員とともにツルハシを手に取る。辺りには悲鳴や咳、呻き声が響いていた。私は黙々と岩を砕くフリをしながら、周囲の様子をうかがう。
「なあ……あんた、新顔か? 」
隣で汗を拭っていた老人が、小声で話しかけてきた。
「そう見えるか? 」
「見えるさ。あんたみたいな姿勢の良い奴、ここにはいない。……あんた、まさか外から来たのか? 」
私は微笑を浮かべながら頷いた。老人はさらに声を潜めて言う。
「ゴリラどもに従わないと、この鉱山からは出られない。昔は普通の鉱山だった。けど、ある日突然、やつらが現れて……俺たちは皆、連れてこられたんだ。町の者も、旅人もな」
「なるほど。つまり、ここは……奴隷収容鉱山、というわけか」
「おい、あまり声を出すな。聞かれたら……」
その時だった。遠くからまた、怒号と鞭の音が響いてきた。
「手ぇ休めてんじゃねぇぞォ! 誰が指示した!? 」
ゴリラ監督がこちらに向かってくる。私はツルハシを持ち、岩を砕くふりをしながらその様子を見ていた。
この鉱山に何が起きているのか。誰が背後にいるのか。なぜゴリラたちが人間を支配しているのか……その真相を知るために、カードは動き出す
「ふむ……ならば、今こそこの鉱山の闇に、光を照らしてやろうではないか。もちろん、セルフファーストでな」




