第53話「サル人間の真実」
サル人間から噴き出していた黒いオーラがようやく霧散したとき、そこにいたのは、痩せこけた人間の男だった。身体中に傷を負い、ボロボロのシャツをまとったその男は、呆然とした様子で自分の手のひらを見つめていた。
「……ここは……どこだ? 」
その男は自分が置かれた状況を理解できていないようだった。周囲には、倒れたサルたちや吹き飛んだ木々、そして砂煙を浴びた観客たちが息を呑んで立ち尽くしていた。
カードは静かに男に近づき、上着の裾で額の汗を拭うと、低く問いかけた。
「記憶は戻ったか? あんた、自分が何をしていたか分かるか? 」
男はカードの姿を見るなり、ビクリと身をすくめる。その目に映ったカードの姿は、ただのプロレス技を使うゴルファーではなかった。あまりにも規格外な存在に、男の唇は震えていた。
「わ、私は……ただ、優勝したかった……それだけなんだ……」
男は断片的な記憶をたどりながら語り出した。彼はかつて有望なプロゴルファーだったが、なかなか勝てず、限界を感じていたという。そんなある日、一人の男が現れた。黒いコートをまとい、顔の半分を仮面で隠した男だった。
「その男が……言ったんだ。『協力すれば、お前に勝利を与えてやる』って……」
その申し出を断る理由などなかった。男はその言葉に縋るように頷き、そして奇妙な契約を交わした。目が覚めたときには、自分はすでにサルのような姿になっていた。
「それからの記憶が……曖昧で……勝った記憶はあるんだ。でも……最近のことは、ほとんど覚えていない……」
そう語る彼の顔に、苦痛の色が浮かぶ。そして突然、激しい頭痛に襲われたように、彼はうめき声をあげて頭を抱え、地面に崩れ落ちた。
「ぐっ……あの男……顔が……っ! 」
無理に思い出そうとするたびに、何かが脳内で干渉しているようだった。やがて男は意識を失い、係員たちによってタンカに乗せられ、医療テントへと運ばれていった。
会場のざわめきが次第に収まり、進行係がマイクを握る。
「それでは、ゴルフトーナメント優勝者、カード様の表彰式を行います! 」
拍手と歓声が響く中、カードは堂々と表彰台に上がった。金色に輝く優勝トロフィーが手渡され、記念写真が撮られた。
「このトロフィー、まさに努力と……筋肉の結晶だな」
カードは得意げに胸を張り、表彰式を終えるとその足で再びペンシル町へ戻った。
鉄鋼組合の建物に入り、スティールの部屋を訪れる。
「優勝してきたぞ。約束通り、ゴルフクラブを作ってもらおうじゃないか」
スティールは目を見開き、驚きと歓喜が混じった声をあげた。
「本当に……やったのか! これで町に活気が戻る……! 」
だがその喜びも束の間、スティールは険しい表情になる。
「しかし、困ったことが起きていてな……。ここ数日、鉄鋼を仕入れていた業者からの搬入が途絶えてしまった。何度も連絡を取っているが、応答がない」
「つまり、材料がなければクラブが作れない……ということか」
カードはトロフィーを机の上に置きながら、ふむと顎に手を添えた。
「まるで偶然とは思えないな。誰かがこの町を潰そうとしているようにも見える」
スティールは唇を噛みしめながら頷いた。
「この町の鉄鋼が見直されるのを快く思わない連中がいても不思議じゃない。特に海外の巨大工場連合がな……」
「……なら、対処してやろう。材料がないのなら、直接取りに行ってやるまでだ」
カードは、次なる目的地……鉄鋼の供給元である「スパイア鉱山」へ向かう決意を固めた。町の再建のため、自身のゴルフクラブのため、そして何より……自分がこの世界の王たる資格を証明するために。
風は静かに、次なる闘いの予兆を運んでいた。




