第52話「黒き本能との激突」
フェアウェイの静寂が破られたのは、サル人間が地面を蹴って跳躍し、カードへと襲いかかった瞬間だった。ボールもクラブも忘れ、両者は今や己の誇りと信念を賭けた真剣勝負の渦中にあった。
「お前のズルはもう通用しない。私のゴルフは、正義と誇りのゲームだ」
カードは強靭な両腕でサル人間の攻撃を受け止め、組み伏せるようにして投げ飛ばした。グリーンの外に叩きつけられたサル人間は即座に起き上がり、甲高い鳴き声と共に再び飛びかかってくる。その素早さと俊敏な身のこなしは、まさに獣そのものだった。
カードはそれを冷静にかわし、返す刀で回し蹴りを放つ。しかし、サル人間はその一撃を見事に躱し、今度はカードの背後に回り込む。背中を狙っての肘打ち。しかし、それも読んでいたカードは身をかがめてからの足払いで態勢を崩させる。
「なかなかやるな…だが、私は一度たりともフェアプレーを忘れたことはない。だから、絶対に負けない」
そう言って、カードは真正面から体当たりを仕掛けた。ふたりの肉体が激突し、芝の上を転がりながら拮抗する力のぶつかり合いが続く。だが、徐々にサル人間の動きに異変が現れた。
「ククク……ここまで追い詰めるとはな、だがここからが本番だッ!! 」
サル人間の体から黒いオーラが噴き出す。まるで煙のように立ち昇ったオーラは、先程カードによって撃退されたサルたちの姿を引き寄せるようにして吸い込んでいった。
「この姿こそ、私の真の力だ……名付けて“キング・オブ・モンキー”!! 」
筋肉が隆起し、背丈が膨れあがり、目は赤く光り輝く。サル人間は異形と化し、カードを睨みつけた。
「なに……このパワー……! 」
カードは思わず一歩後退する。飛び掛かってきたサル人間の拳は、先ほどとは比べ物にならない重さと速さを持っていた。カードは腕で受け止めたが、その衝撃に膝が地面に沈み込んだ。
「チッ……こうなったら仕方ない」
カードはジャケットを脱ぎ、そしてシャツを豪快に脱いだ。鍛え上げられた肉体が露わになり、観客席にいた人々がどよめく。
「ここからが本気だ、私は元の世界で世界一の男……そしてこの世界でもナンバーワンになる男だッ! 」
再びぶつかり合うふたりの巨体。カードはパワーで劣るものの、経験と技でそれを補う。巧みに間合いを取り、相手のスキを突いてプロレス技を次々と叩き込んでいく。
ボディスラム、スープレックス、バックドロップ……すべての技を正確に、そして的確に決めていくカード。サル人間はそれでも倒れない。むしろ怒りを増幅させ、拳に黒いオーラを宿して渾身の一撃を放ってきた。
「喰らえぇええええええ!!! 」
その拳がカードの顔面へ迫る。だが、その瞬間、カードは逆に身体を沈め、その拳を脇で受け止め、同時に背負い投げで空中に放り投げた。
「終わりだ……! セルフファースト・クラッシュ・ボム!!! 」
ジャンプしたカードは空中でサル人間を背後から掴み、頭上から地面へ向かって一気に急降下する。パワーボムの体勢から、雷鳴のような音を立ててグリーンへと叩きつけた。
地面が揺れ、芝が浮き上がる。サル人間は動かなくなり、黒いオーラがゆらゆらと空に昇っていく。
カードは息を整えながら、仁王立ちした。
「お前はクビだ!私が勝者だ。この世界でも、私こそが唯一無二の王者だ」
ギャラリーは静まり返っていたが、やがてどこかから拍手が起こり、次第に歓声と喝采の嵐となった。カードは勝利の余韻を感じながら、次の一歩を踏み出していく……。




