第51話「フェアウェイの決闘」
最終ホール。ここまでのスコアは完全に互角、カードとサル人間の勝敗はこの一打で決まると言っても過言ではなかった。
「さあ、仕上げといこうか」
カードは淡々と構え、クラブを振る。ボールは美しい放物線を描いてフェアウェイのど真ん中へと転がった。絶好の位置だ。
しかし、その瞬間……
「……出たな」
茂みの中から、小ザルが一匹、ぬるりと姿を現す。ボールに向かってチョコチョコと歩いてくる。
「おいコラ、触るんじゃない」
カードはすかさずポケットからゴルフティーを取り出し、地面に叩きつけるように投げる。それが地面に刺さり、小ザルは驚いてヒャッと鳴きながら退散した。
サル人間が少しだけ悔しそうな表情を浮かべる。
「……見えてるんだよ、全部な」
カードは低くつぶやくと、2打目の準備に入る。正確なショットでボールはグリーンに乗り、観客からは小さな歓声が起きた。
続いてサル人間の番。2打目を打つとボールは高く浮き上がるも、制御を失いそのまま池にポチャリと沈んだ。
「ふっ、どうやら天も俺に味方したようだな」
ところが。
「まさか……」
池の中から、びしょ濡れのサルがひょっこり顔を出し、口にくわえたボールをグリーン上へと放り投げた。そのまま悠々と立ち去っていく。
「……やってくれるじゃないか」
カードのこめかみに青筋が浮かぶ。それでも冷静さを失わない。カードは慎重に3打目を構え、見事にカップイン。
「よし、決めたぞ」
これで、サル人間が3打目でカップに入れなければカードの勝ちだ。グリーンの上、カードが堂々と立って見ている。さすがにこの状況では不正は難しい。
サル人間はパターを握りしめ、震えながらカップへと向かって打つ。ボールはまっすぐに転がり、カップの縁まで寄ったが、惜しくも外れた。
「これで勝負ありだな」
だが、サル人間は口笛を吹いた。
「キィィィーーッ! 」
その声に応えるように、茂みの中から大量のサルたちが雪崩のように現れ、グリーンへと突進してきた。狙いはただ一つ、ボールをカップにねじ込むことだった。
「誰が好きにさせるかッ! 」
カードは腰をひねりながらゴルフクラブを回転させ、サルたちを次々に打ち払っていく。一本一本のスイングが正確無比、まるで武器のように冴え渡る。
「トリプルスピン・ショットッ! 」
クラブを高速回転させ、風圧でサルたちをまとめて吹き飛ばす。
やがて、グリーンには一匹のサルもいなくなり、残ったのは息を切らすカードと、荒い息を吐きながら睨むサル人間だった。
「ここまでしても……俺を倒せると思ったか? 」
サル人間の体から黒いオーラが漏れ出し始める。目が赤く光り、筋肉が隆起し、牙がのぞく。
「俺は……いや、私はこのまま負けるわけにはいかないッ!」
「おいおい、言葉がブレてるぞ?」
カードは口角を上げ、グローブをぎゅっと握りしめた。
こうして、ゴルフという平和な競技からは程遠い、異世界ゴルフ場決戦の幕が、静かに、そして激しく、切って落とされたのであった……。




