第50話「疑惑のショートホール」
朝日がペンシル町のゴルフ場を照らすなか、カードは冷静にスコアカードを見つめていた。これまでのラウンドで堅実なプレイを重ね、9ホール目に突入した時点でトップを走っていた。観客席からは静かなざわめきが広がり、鉄鋼組合のスティールも遠くからその様子を見守っている。
同組で回るサル人間は、長い腕としなやかな身体で独特なスイングを披露し、観客を沸かせていた。1打目、サル人間の打球は軽快な音を立てて放たれ、低く伸びていく。そのボールは明らかに右側の茂みに飛び込んだように見えた。
「今のは入ったな、ブッシュだ」と中年男性が呟いた。
しかし、カードたちが自分の打球を終えてボールの落下地点に向かうと、不可解なことが起こった。サル人間のボールが、フェアウェイの中央にポツンと転がっていたのだ。
「……妙だな」
カードは小さく呟いた。茂みの方に目をやると、何かがカサカサと動く音がし、茶色い小動物のような影が逃げていくのが見えた。
「証拠がない限り、ただの推測でしかない。だが、目は離せないな」
結局、誰もそれについて追及せずにそのホールを終えた。
クラブハウスに戻った一行は昼食の休憩を取る。カードはローストビーフのサンドイッチを口に運びながら、冷静にスコアを確認していた。トップは……サル人間。
「ふん、インチキにしろ何にしろ、勝てば官軍というのがこの世界だ。しかし私の勝利は正々堂々、誰にも文句を言わせない形で手に入れる」
そう静かに語り、カードは拳を軽く握った。向かいのテーブルでは、サル人間が無心でバナナをむいていた。
午後の部、10ホール目が始まる。観客も徐々に増え始め、コースの雰囲気が高まっていく。サル人間は相変わらず精密なショットを披露するが、カードも負けじと安定したスイングでスコアを伸ばし続ける。
15ホール目、勝負のショートホール。グリーンの手前にはバンカー、奥には傾斜が待ち構える難所だった。
「ここで差をつける……」
カードの放ったショットは完璧な弾道を描き、ピンのすぐ横に着地する。
「お見事! 」と観客から歓声が上がる。
続いてサル人間。こちらも悪くないショットではあったが、やや距離がある場所にボールが止まる。
3人はグリーンへ向かって歩き始めた。その途中で、カードはある異変を目撃する。
「……あれは……? 」
カップのそばで、小さなサル……子ザルがサル人間のボールをこっそりカップに押し込んでいるではないか。
「おい、何をしているんだ! 」中年男性が叫ぶ。
驚いた子ザルは慌ててボールをカップに落とし、森の中へと逃げていった。
「動物の仕業だ、仕方ないだろう? 」と、涼しい顔でサル人間が言った。
カードは眉をひそめた。「なるほど、そういう手で来るか……」
さすがにここまで来て、偶然とは言えない。だが今は冷静さが必要だ。
「ふふ……面白くなってきたじゃないか」
カードの口元に、かすかな笑みが浮かんでいた。
疑惑は確信へと変わった。カードの瞳には、もはや怒りも驚きもない。そこにあるのはただ、静かに燃える勝利への意志だけだった。




