第48話「鉄の街でゴルフクラブを」
ペンシル町に到着したのは、午後の太陽がやや西に傾きかけた頃だった。地図では“鉄鋼の街”として知られていたが、実際に降り立ってみると、その名に反して通りは静かで、活気がない。寂れた商店街、錆びついた看板、閉じたままの工房の扉。どこか、過去の栄光を引きずる町の空気が、しんと肌に刺さった。
「……思ってたより寂れてるな」
カードは呟き、空虚な通りを歩きながら、カードはふと、かつての己の栄光と重なるような感傷に襲われる。だが、今のところ何もできない。カードはゴルフクラブを生み出すという、新たな目標に向かっている。
目的地である鍛冶屋を探して通りを歩いた。しばらくして見つけた鍛冶屋には、かろうじて煙突から煙が上がっていた。鉄槌の音は聞こえず、ただ寂しげに開け放たれた扉が風に軋んでいる。
中に入ると、初老の職人が一人、椅子に腰かけてうたた寝していた。俺の足音で目を覚ますと、ゆっくりと顔を上げる。
「……客かい。珍しいな」
「ゴルフクラブを作りたい。お前が作れるなら依頼したい」
職人は眉をひそめた。
「悪いが、もうやってないんだ。材料もないし、技術を活かす場もない。最近じゃ、海外から安い鉄鋼製品が大量に入ってきてな。わしらの出番はもうないのさ」
そう言って職人は肩をすくめる。その言葉に、町全体の空気が重苦しい理由が見えた。職人の誇りと技術が、安物の流入によって価値を失っている。
「鉄鋼組合にでも行けば、何か情報は得られるかもしれん。あそこの組合長、スティールって男が何とかしてくれるかもしれんな」
礼を言って鍛冶屋を出たカードは、町の中心部にあるという鉄鋼組合へ向かった。建物は大きく、かつての繁栄を物語るような立派な造りだったが、周囲は静まり返っていた。
受付で事情を話すと、すぐにスティールという名の組合長と面会することができた。年の頃は五十代半ば、鍛え上げられた腕と鋭い眼光が印象的な男だった。
「ゴルフクラブを作りたい? 珍しい依頼だな」
スティールは椅子にどっかりと腰を下ろしたまま言った。
「腕のいい職人を紹介してほしい。鉄鋼の街だと聞いて来たんだ」
だが、スティールは苦笑いを浮かべて首を横に振った。
「確かに腕のいい職人は揃っていた。だが今はみんな仕事を失い、やる気も失っている。安い海外製品には敵わないって諦めちまったんだ。紹介できるような状態じゃねぇよ」
「……そうか」
俺はそれ以上、食い下がることはせず、スティールに礼を言って鉄鋼組合を出た。空は赤く染まり始めていて、町は一層静かになっていた。人通りもまばらで、すれ違う者は皆、どこか影を背負っているようだった。
「このまま帰るわけにもいかないか……」
とりあえず宿を取ろうと、通り沿いの旅館を見つけてチェックインした。和風の落ち着いた雰囲気の宿で、従業員は親切だった。部屋に荷物を置いてから風呂に向かい、脱衣所で服を脱いでいると、一枚のポスターが目に止まった。
壁に貼られていたのは、ゴルフ大会の告知ポスターだった。色あせていたが、真ん中には金色のカップを掲げる男の写真が大きく写っていた。よく見ると、その男は海外製のゴルフクラブを持ち、「このクラブで優勝した」と書かれている。
「なるほどな……」
カードは湯船に浸かりながら、じっくりと考えた。
この街の職人たちの技術はまだ死んでいない。ただ、光を浴びる場を失っただけだ。ならば……私がその舞台を作ればいい。もし、この町で作ったゴルフクラブを使って大会で優勝できれば、ペンシル町の技術が注目される。再び注文が入り、職人たちの意欲も蘇るかもしれない。「この世界にも、私のゴルフで革命を起こしてやるか」
湯気の向こうで、カードの口元が自然と笑っていた。




